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コラム column

2020年4月30日

著作権肖像権・パブリシティ権IT・インターネットライブ

「リモート社会とオンライン配信の著作権・肖像権ガイド(拡張版)」   

弁護士  福井健策 (骨董通り法律事務所 for the Arts)


「小説や絵本など既存の作品を、YouTubeなどで朗読・読み聞かせしたい、という相談が増えている。公衆送信にあたるので、原則は著作権者の許可を貰ってになるが、著作権の切れたパブリックドメイン(PD)の作品はほぼ自由に使える。例えば、乱歩・谷崎・太宰・賢治・吉川英治・山本周五郎など、1967年以前に死亡した日本作家の作品だ。」

――ということをつぶやいたら反響が大きく、「青空文庫の作品は全部大丈夫ですね」「翻訳ものは?」「保護期間は死後70年に延びたのでは」など、様々な質問があった。
その後もオンライン配信やオンライン講義を巡る質問は多いので、コロナ禍で爆発的に加速化したリモート・配信社会のために、オンライン配信の著作権のガイドを整理しておこう(肖像権も少し)。以下、目次となる。


0.まずは基本(許可がいる。)
1.パブリックドメイン(PD)の作品は自由に使える
2.引用の例外にあたれば、使える
3.教育利用/非営利のオンライン講義は自由化が進む
4.一部のデジタル・アーカイブ活動は可能
5.その他にも配信で使える著作権法の規定はある(映り込み、建築物、パブリックアート)
6.音楽はかなり幅広く使えるが、音源(原盤権)が課題
7.クリエイティブ・コモンズ(CC)などの表示に従えば使える
8.権利者が見つからなくても「利用裁定」で使える
9.人の肖像が写っている時!
補足)コロナ禍を乗り越えるライブ・アーカイブ配信や新たな配信プラットフォームの模索


0.まずは基本

特定少数の人にだけ届ける場合を除いて、配信は公衆送信なので、対象に音楽などの著作物や人の実演・音源が含まれる場合には、配信の許可を取る必要がある。
配信する人自身が権利者の場合は問題は少ないと思うが、例えば既存の戯曲、音楽(作詞・作曲)、映像、音源などを用いる場合には個別の了承を取ることになろう。なお、配信するイベントや講義そのものは非営利・無料などで許可が必要なかった場合でも(こちらのQA9参照)、公衆送信には「非営利の例外」はないため許可が必要になる点、注意が必要だ。

基本は以上の通りで、まずはこの点は頭に入れておきたい。だが、同時に著作権法や業界ルールによって、許可なしに自由に使える場面もかなり多い。これらを知っているかどうかで出来ることは決定的に違うので、以下ではごく簡略に紹介して行こう。

1.パブリックドメイン(PD)の作品は自由に使える

作品のPD判断は、専門家でも実に厄介な領域だ。例えば外国作品の翻訳の場合、「オリジナルの外国作品」と「翻訳」のそれぞれについて保護期間を考えて、どちらも終了していないと自由に使えない。外国作品の方は、「戦時加算」や「相互主義」といった例外を考える必要がある。保護期間は確かに2018年に死後70年に延長されたが、その時点で既に著作権が消滅していた作品は復活しないので、前述の 1967年以前に死亡した日本作家の作品は復活しない・・・などなど。
ちゃんと書き始めると本当に本一冊になりかねないが、ここでは思いきり単純化して、YouTubeなど配信に作品を使う際にPDか否かを判断するための、6項目にまとめてみた。無論、このほかにも様々な例外や注意点があるのだが、これだけでかなり正しく判断できる。慣れない方は、相互主義のことはいったん忘れ、また戦時加算は国によらず最大10年5ヶ月程度と考えておくのでも良いだろう。


保護期間のできるだけ簡単なまとめ(2020年現在。他にも例外などあり)


①まず著作者の死亡の翌年(匿名・変名・団体名義と映画は公表の翌年)から50年で計算。

②映画は2003年末に存続していたらさらに20年延長。かつ、旧著作権法により監督の死後38年間などの期間は消滅せず。

③映画以外の作品は2018年12月29日に存続していたらさらに20年延長。

④ただし写真は、1956年以前に発行された作品は名義を問わず原則消滅。

⑤以上のすべてについて、本国での保護期間が日本より短い外国作品は、「相互主義」により本国での保護終了と共に日本での保護も終了(米国は除く)。

⑥さらに以上のすべてについて、戦前・戦中の連合国の作品は戦争期間の分(戦前作品なら10年5ヶ月など)、「戦時加算」で日本での保護が延びる。

上で質問のあった、電子図書館「青空文庫」は、所蔵作品の98%が著作権切れの作品だ。青空文庫にも朗読についての問い合わせは急増している由で、朗読配信のガイダンスが出ている。とても丁寧なので、読んでご活用を。

2.引用の例外にあたれば、使える

パブリックドメインでなくても、著作権法には「引用規定」があるので(32条)、人の作品を自分の配信の中で紹介することは許可がなくてもできる。もちろん許されるための条件があって、最近は「引用が可能かは諸事情の総合考慮による。以上。」とする、『総合考慮説』というものが主流になりつつある。
うん。考え方としては極めて正しいのだが、現場や一般ユーザーは諸事情を総合考慮して判断せよ!と言われても、戸惑ってしまうケースも多いだろう。

そこで、少なくとも論評・研究・報道などの典型的な引用の場合は、尋ねられると従来の最高裁判例なども参考に、次のような注意点を伝えるようにしている。
①公表作品であること(スナップ写真など未公表作品は引用できない)
②明瞭区別(引用する人の作品がカッコなどで区別されている)
③主従関係(引用はあくまで説明の補足程度の利用規模にとどめるべし、などと説明されることもある。例えば引用文や引用図版が、独立で楽しめてしまうような分量・画質だと危ない)
④関連性(この注意点の位置づけは議論があるが、現場では引用すべき必然性や有益性のあるレベルの利用にとどめるのが安全だろう)
⑤改変禁止(詳細は省くが、要約などの内容改変には当然、要注意だ)
⑥出典明記(重要な条件で、作者名・作品名と所蔵場所・出版社などを、特に引用箇所のそばに表示することを勧める)
引用の注意点については、ネット上ではさしあたりこれこれなど参照。

3.教育利用/非営利のオンライン講義は自由化が進む

最近の大きな話題はこれで、4月28日以降、非営利教育機関での授業に必要な場合、既存の著作物のネット配信は可能になった(35条)。
もっとも本来は、(教室でのリアルの講義との同時配信の場合を除いた)オンデマンド講義、完全スタジオ講義、予復習用の資料送付などは、許可は不要だが権利者への補償金の支払いが必要である。だが、今年度に限っては、権利者をはじめ関係者の努力によって補償金は無償化されている。これによって、閉鎖中の学校でのオンライン講義が一気に進むことが期待される。
ただし、あくまで小中高大学・専門学校などの非営利常設の教育機関での講義が対象なので、予備校や企業セミナーなどは原則通り許可を取っての配信となる。また、テキストを丸ごと送信するなど、権利者の利益を不当に害する場合は認められないので注意を。
制度の概要や最近の情報はこれこちらなど。

4.一部のデジタル・アーカイブ活動は可能

これも、最近の法改正で対応が急ピッチで進む分野だ。まず本命と言えるのは、「所在検索サービス・情報解析サービスに伴う配信とデータベース化」を許す規定だろう(47条の5)。
「所在検索サービス」とは例えば、過去の書籍を大量にデジタル化してデータベースにし、利用者が特定の言葉でオンライン検索するとその言葉が本文に登場する全ての書籍について、「それがどの出版社のもので、現在どの図書館・資料館にあるか」といった所在情報をはじき出し、検索ワードの登場箇所の前後2、3行と共に表示してあげるサービスが典型だ。かつて発売されるなど、公衆に提供されたことのある情報であれば、広くこの対象となる。
制度解説は、このp19以下など。

また、美術館・博物館なども展示する所蔵作品の所在を人々に知らせる目的で、そのサムネール画像などを配信することができる(47条3項)。

最後に、公立・大学図書館や博物館・美術館では、絶版などで入手困難な書籍その他の資料について、許可なくデジタル化でき、また国会図書館はこうした絶版などの資料を全国の図書館等に配信して来館者に検索・閲覧させることが可能である(31条)。もっとも、現在は人々がその図書館等を訪れられないのが課題で、そういう場合に限って家庭や研究者のPCからアクセスできるといった規定は、存在しない。

5.その他にも使える著作権法の例外はある(映り込み、建築物、パブリックアート)

その他の例外では、まず「映り込み規定」がある。これは例えばスナップ写真の背景にポスターのような人の著作物が映り込んでも、それが軽微・分離困難な場合には撮影・録音やその配信を許す規定だ(30条の2)。イラストなどで描き込むことは許されないので要注意。また行為にスクリーンショット(スクショ)も含める法改正は、現在国会審議中だ。
これはどんな著作物にもあてはまる例外だが、建築物や屋外の公開の場所に恒常設置された美術品(いわゆるパブリックアート)は、更に幅広くほぼ自由に利用できる(46条)。 以上、詳細はこちらなど。

6.音楽はかなり幅広く使えるが、音源(原盤権)が課題

「歌ってみた」「演奏してみた」などで音楽を使う場合はどうだろうか。上であげた原則は一緒だが、JASRACやNexToneはYouTubeなど幅広い動画投稿サイトと包括契約をしているので、管理曲は一定の条件で投稿配信が自由。JASRACの場合、対象サイトと投稿配信可能かのフローチャートはこれだ。
JASRACが包括契約を結ぶ、投稿可能なサイトはニコ動・SHOWROOM・LINE LIVE・Tik Tokなど広範だが、他のサイトでも著作権の切れた曲は当然自由に使える。外国曲などPD判断が面倒な場合に便利なのは、JASRACのデータベース「J-WID」だ。曲名検索して「PD」マークで確認できる(動作しないブラウザあり)。

なお、以上はアカペラで歌うとか、自ら演奏する、ボカロに歌って貰うなどの場合であり、CDのような既存の音源を使う場合は、レコード会社などの著作隣接権が別途関わるので注意を。音源利用については、上の5までの原則に戻る。
特にレーベルは、この機会に既に十分遅れている原盤権の許諾容易化を進めたり、「恋ダンス」のような時限的なガイドラインを発表してはどうか。現在の窓口は各社個別対応が基本で、オンライン申請もできないところが多いが、これを機に「使わせて稼ぐモデル」へともう一歩あゆみを進めたいところだ。

7.クリエイティブ・コモンズ(CC)などの表示に従えば使える

その他、音楽に限らず、クリエイティブ・コモンズ(CC)など、権利者が自由利用できる範囲をあらかじめ表示している作品は、その範囲内で改めて許可を取らずに利用することができる。CCライセンスの解説はこちらなど。

8.権利者が見つからなくても「利用裁定」があれば使える

実は、JASRACのように集中管理が進んだ分野を除いて、多くの過去の作品の著者、あるいは(TV番組の配信などで許可が必要になる)実演家は、探しても見つからないケースも多い。
この場合、許可の取りようがなくなるが、探す努力を尽くしたことを示して文化庁の著作権課に申請すると、「利用裁定」というものを出してくれる。
従来はかなり使いにくい制度だったが、近年はルールや運用の改善も進みつつある。とはいえ、いまだに準備期間も含めると利用開始まで2ヶ月程度は要するだろうか。また、利用の際には(99%は出て来ない権利者が将来現れた場合に備えて)「補償金の事前供託」というものが必要になるが、この確定がひと手間(いやもっと?)である。
権利者団体の実証実験などもあったが、まだまだ一般人が気安く使える制度とは言いかねる。ある程度、組織的にしっかり取り組みたい配信プロジェクトなどで、重要な要素の権利者が不明の場合には、検討されると良いだろう。
制度の詳細は、この鈴木弁護士の解説こちらなどを参照。

9.人の肖像が写っている時!

「肖像権」の問題も頻出だ。これは無断で写真を撮られたりそれを公表されない、という人格的な権利で、判例上認められて来た。厄介なのは「肖像権法」という法律はないことで、そのため、どの程度人の肖像が写り込んでいると肖像権の侵害になるのかわかりにくい。
よくある誤解だが、裁判所は「少しでも人が写ったらアウト」とは言っていない。これまた「諸要素の総合考慮で撮影(や公表)が一般的な受忍限度を超えると侵害」という、『総合考慮説』だ。これも、現場や一般ユーザーがそんな総合考慮をするのは至難の業なので、なんでもマスキングをかけるような無用の萎縮を招いたり、逆に独自の解釈で何でも公開したりといった混乱も見らえる。
そこで、筆者も加わるデジタル・アーカイブ学会では、多くのステークホルダーとの議論を通じて、「肖像権ガイドライン」の提案を試みている。現在アップデート作業中だが、考え方の参考になれば。

また、芸能人やプロスポーツ選手といった著名人の場合は、肖像権から派生したパブリシティ権というものがあるが、最高裁はやや限定的な権利と解釈している。こちらなど参照。

※補足)コロナ禍を乗り越えるライブ・アーカイブ配信や新たな配信プラットフォームの模索

なお、この間、ライブ・コンサートの道を閉ざされたメトロポリタン・オペラや英国ナショナルシアター、ベルリンフィルなどの多くの団体が、無観客でのライブ配信や、充実した過去の映像・音源アーカイブを利用した無償公開を次々打ち出して街へ出られない人々を支え、同時に民間の支援・寄付を募っている。

METオペラ: https://www.metopera.org/nightly-opera-stream/
ナショナルシアター: https://www.nationaltheatre.org.uk/nt-at-home
ベルリンフィル: https://www.digitalconcerthall.com/ja/live

日本では、歌舞伎や2.5次元などの例外を除いて、ライブイベント界での過去映像のデジタル・アーカイブは決して充実しては来なかった。そのため、権利問題などもあり、配信できる映像資源がそもそも不足しているのが課題だ。
プラットフォームの育成や権利の壁の解消など、アーカイブ支援策が望まれる。また、こうした中、舞台プロデューサーの松田誠氏が呼びかけになった舞台専門配信プラットフォーム「シアターコンプレックス」の構想など、注目の取り組みも少なくない。(草の根の先行例である、「観劇三昧」の支援呼びかけはこちら)。


以上、時間の関係で駆け足でまとめた。今後また加筆して行くが、まずは一気に加速するリモート・配信社会の中、皆さんの発信のお役に立てば!

以上

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