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コラム column

2019年3月28日

著作権契約アーカイブ

「デジタルアーカイブの権利処理
     ~ジャパンサーチにみるCreative Commonsのススメと課題」

弁護士  橋本阿友子 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

2019年1月1日、アーカイブの利活用促進に関する改正を含む、改正著作権法が施行されました(平成30年改正)。そして2月27日、“国の分野横断統合ポータル”である「ジャパンサーチ」の試験版が公開されました。ジャパンサーチは、デジタルアーカイブとの連携により、日本が保有する多分野のコンテンツの所在情報を提供し、オープンに利用可能なデジタルコンテンツを検索できるサービスです。

ジャパンサーチウェブサイトより

ジャパンサーチをはじめ、我々は今、多くの情報に簡単にアクセスできる恵まれた環境にあります。しかし、他人の著作物を無断で利用すると、著作権侵害となりかねません。この点、「クリエイティブ・コモンズ(Creative Commons)ライセンス(CCライセンス)」の下で公開された著作物であれば、誰でも条件に従った利用が可能です。ジャパンサーチでは、CCライセンスをはじめとする権利表記を付し、広く人々が利用できる形でデジタルコンテンツが公開されています。
そこで本コラムでは、ジャパンサーチの今後に期待しつつ、前提知識として特に平成30年改正を踏まえたデジタルアーカイブにかかる権利処理と、CCライセンスその他の権利表記の概要を紹介し、今後の課題と展望を考えたいと思います(CCライセンスについては、永井弁護士によるコラム「骨董通り散歩で学ぶ、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス入門」もご参照ください)。

◇ デジタルアーカイブで求められる権利処理

●デジタルアーカイブで問題となる著作権と権利処理

デジタルアーカイブの対象情報の多くは著作物なので(もっとも、事実やデータのみから成るものは著作物ではありません)、保存・公開・利用の各場面において他人の著作権を侵害しないかが問題となります。デジタルアーカイブに関連する著作権は、例えば以下のものがあります(注1)。


複製権(21) コピーする権利。著作物のデジタル化(保存)の際に問題になる権利です。
上映権(22の2) 画面などに映し出す権利。例えば、美術館(同一構内)で著作物の映像をタブレットに映し出す行為は、この上映権の行使です。
公衆送信権(23Ⅰ) 放送、有線放送、メール、インターネットでの配信、アップロードする権利など。ジャパンサーチではデジタルコンテンツをインターネットで配信し公開しています。

これらの権利を行使(=複製権なら複製)できるのは著作権者だけなので、例えば他人が無断で著作物を複製すれば、原則として著作権者の複製権を侵害します。そのため、他人がある著作物を適法に利用したい場合、通常は著作権者の許諾を得る必要があります(許諾を得る手続を権利処理といいます)。

●権利処理が不要な場合

保護期間満了著作物 著作権は創作時から発生し、原則として著作者の死後70年を経過すれば消滅します(発生から消滅までの期間を「保護期間」といいます)。保護期間が満了した著作物は誰でも自由に利用できますので、デジタルアーカイブに関しても基本的に権利処理は不要です(もっとも、前提として問題となる保護期間の算定は非常に煩雑である点に注意が必要です(注2))。
権利制限規定 著作権法で、著作権者の許諾なく著作物が利用できる場合の定め(権利制限規定)があり、定めに従った利用であれば、権利処理は不要です。平成30年改正により、アーカイブに関連する権利制限規定が拡充されました。


図書館等における複製等(31) 図書館、博物館、美術館等は、所蔵する稀覯本や絶版資料等の損傷・紛失を予防するために完全な複製(コピー)ができます。
国立国会図書館による国内外の図書館への絶版等資料の送信(31Ⅲ) 国立国会図書館は、同館やその他の図書館等がデジタル化した絶版資料等を、自らの行う図書館送信サービスにより他の図書館等に送信することができます。平成30年改正により送信先に外国の図書館が追加されました。
作品の解説・紹介のための利用 (47Ⅰ・Ⅱ) 美術の著作物又は写真の著作物の原作品を適法に展示する者は、観覧者のためにこれらの展示する著作物の解説又は紹介を目的とする場合に、必要と認められる限度において、小冊子への掲載ができます。平成30年改正により、電子機器への複製・上映・公衆送信も可能となりました。
展示作品の情報をインターネット上で提供するための利用(47Ⅲ) 平成30年改正により、美術又は写真の著作物の原作品を適法に展示する者等は、これらの著作物に係る情報を提供することを目的とする場合には、必要と認められる限度において、当該著作物等の複製又は公衆送信が可能になりました。
所在検索サービス(47の5Ⅰ①) 平成30年改正により、Google Booksのような書籍の全文検索サービス、街中の風景映像等を検索するサービス等が可能になりました。

◇ 著作権以外で問題となる権利

そのほか、実演については著作隣接権が、人の容ぼうが写っている画像等は肖像権が問題になり得ます。その日その場所にいたという情報など、プライバシー権を考慮すべきケースもあるでしょう。

◇  CCライセンスとは

以上のとおり、デジタルアーカイブ化には、原則として権利者の許諾や同意が必要となります。しかし、ネットで誰もが簡単にアクセスできる形で情報を提供できるこの時代、これまで以上に利用の需要があるでしょうし、利用されることを望む権利者もいるはずです。しかし、利用者がネット上の各コンテンツにつき真の権利者を探索し、利用許諾を得るのは困難です。
そこで、CCライセンスです。CCライセンスは「インターネット時代のための新しい著作権ルールで、作品を公開する作者が『この条件を守れば私の作品を自由に使って構いません。』という意思表示をするためのツール」として提供されています。自分の作品を利用してもらいたい場合は、希望の条件に沿うCCライセンスを付すことで利用を促すことができます。メタデータで埋め込むことも容易なので、世界中から検索もされやすく、CCライセンスをみれば利用条件が簡単にわかるため、利用者にとっても利用しやすいシステムです。しかも、運営者のクリエイティブ・コモンズはアメリカを本拠地とし、50を超える世界や地域と連携しており、世界中でコンテンツの利用を可能とする仕組みとなっています。
現在、以下の組み合わせにより、6種類のCCライセンスが提供されています(表示—継承/表示—改変禁止/表示—非営利/表示—非営利—継承/表示—非営利—改変禁止。注3)。

-表示(CC-BY):原作者(著作者。注4)のクレジット(氏名、作品タイトルなど)を表示することを条件とする。
-継承(CC-SA):改変した場合には元の作品と同じCCライセンスで公開することを条件とする。
-改変禁止(CC-ND):元の作品を改変しないことを条件とする。
-非営利(CC-NC):非営利目的であることを条件とする。
このほか、自由利用ができる著作物であることを示す表記として、以下のものが使われています。
-CC0:著作権を放棄しパブリックドメインで提供することを示すマーク。
-PDM:(自作以外の)作品がパブリックドメインであることを示すマーク。

◇ CCライセンス利用例とその他の権利表記

実は弊所のコラムもCCライセンスで提供しています。また、ジャパンサーチのほか、小説を中心とした文芸作品の掲載・閲覧サービスである「星空文庫」やバークリー音楽院によるレッスン動画(注5)などにおいて、CCライセンスが使われています。
CCライセンス類似の表示に、Rights Statementsがあります。Rights Statementsはやはり第三者に広く情報の利用条件を示すものですが、作者以外の者(所有者など)が付すことが予定されている点でCCライセンスと異なります。教育目的の利用を許す表示や、著作権があることを示す表示などが整備され、種類が多いのも特徴です。ジャパンサーチではRights Statementsもあわせて使用されています。 
知財本部の実務者検討委員会は、「デジタルアーカイブ社会の実現のため・・・デジタルコンテンツがどのような条件下で利用できるのかについて、分かりやすく表示することが求められている」とし、国際的に普及しているパブリック・ドメイン・ツール及び CC ライセンス、特に、CC0、CCBY を強く推奨しており、Rights Statementsのマークや日本独自の表示(文化庁長官裁定制度を利用した著作物であることがわかるマーク)の利用も提案しています(注6)。

◇ CCライセンスの課題

このように、知財本部からも推奨され、ジャパンサーチで実際に利用されているCCライセンスですが、課題もあります。
法的効力はあるか? クリエイティブ・コモンズ・ジャパンのFAQには、「利用許諾書は、原則として法的効力があ」ると明記されています(注7)。利用者は、口頭でも署名捺印によっても、これらに同意する旨の意思表示を積極的に行っているわけではありません。しかし、利用者がもしもCCライセンスの条件に同意せず逸脱して使ったなら、他人の著作物を許諾なく利用したことになり、その他人の著作権を侵害することになります(後述)。CCライセンスはその限度において法的効力はあるとは考えられます。
正しく利用されているか? CCライセンスは、著作権者自らが付すことが予定されていますが、権利者でない者がCCライセンスを付しているケースも見受けられます(注8)。このようにCCライセンスが予定されていない方法で利用された場合、利用者は意図せず誰かの著作権を侵害している可能性が生じます。
利用者が著作権侵害で訴えられるリスクは? 利用者が、権利者でない者によりCCライセンスが付された著作物を利用した結果、真の権利者から著作権侵害の主張をなされるリスクはあります。クリエイティブ・コモンズ及びクリエイティブ・コモンズ・ジャパンは、CCライセンスが真の権利者によって付されているかにつき何ら保証をしていません(注9)。過失が認められず利用者が責任を負わない可能性もありますが、権利者が付したことが明らかな場合以外でCCライセンスに従い著作物を利用する場合には特に、このようなリスクがあることを考慮に入れ、信頼できる団体が付したものかを確認するなど、注意を払いましょう。
表記は著作権だけ? デジタルアーカイブにおいては隣接権や肖像権等にも配慮すべき場合があります。しかし、CCライセンスは著作権の表記についてのルールですので、肖像権等について権利処理ができているかはCCライセンスをみてもわかりません。そのため、権利処理が完了している(被写体の同意がある等)場合には、CCライセンスに加えその旨も表示することが望ましいです。他方、利用者は、コンテンツによっては、CCライセンス付であっても、利用の是非、利用方法につき慎重に検討された方が安全といえます。
非営利ってどんな場合? CCライセンスはシンプルで利用者にとってわかりやすいのが特徴ですが、シンプルゆえにわからないという矛盾を孕んでいます。例えば、非営利(CC‐NC)とは一体どのような場合をいうのでしょうか。FAQでは、「何が「営利」で何が「非営利」かは、最終的には裁判所の解釈によって定まりますので、残念ながらクリエイティブ・コモンズ・ジャパンではお答えすることができません。」と説明されています。筆者などは、何を非営利と定義するかをクリエイティブ・コモンズで出来るだけ定義すればよいのではないかと考えますが、世界中で使われるルールだけに定義づけが難しいのだろうとも想像しています。
ライセンス料が欲しいときは? CCライセンスは無償で提供されています。利用者にとっては有難いですが、無償だからという理由で敬遠している権利者がいるかもしれません。現時点では、有償でライセンスを付与する仕組みは構築されていないようですので、有償なら利用してもらいたいと思う権利者、有償でもいいから利用したいと考える利用者のニーズは課題です。

◇ CCライセンスその他の利用条件の今後の展望

以上の課題はあるものの、CCライセンスは国が使用を推奨していますし、それがコンテンツの利活用を促進させるのは事実で、今後も広まっていくのが望ましいと筆者は考えています。ジャパンサーチのように、CCライセンス以外の権利表記も発展することが期待されますし、著作権以外の権利表記のルールや課金システムが構築されれば、デジタルアーカイブの未来は更に明るいものとなりそうです。もっとも、新しいルールには新しい問題がつきものですので、今後も慎重な議論が求められるでしょう。


注1:以下、特に記載がない括弧内の数字は、著作権法の条文番号を示します。
注2:デジタルアーカイブ・ベーシックス1 権利処理と法の実務』で解説しています。
注3:クリエイティブ・コモンズ・ジャパン公式ウェブサイトより一部を引用しています。
注4:クリエイティブ・コモンズ・ジャパンの公式ウェブサイトでは「原作者」と表記されていますが、著作者を意味するものと考えられます。
注5:もっとも、これは著作隣接権の概念がないアメリカの使用例であり、日本では著作隣接権の権利処理が必要なケースがあり得ます。
注6:知的財産戦略本部による実務者検討委員会(第7回)資料4-1「デジタルアーカイブにおける望ましい二次利用条件表示の在り方について」(2019年版)(案)における提案です。
注7: FAQでは「しかし、著作権法の解釈の中には、法律や判例を参照しても明らかになっていない部分があり、その部分をクリエイティブ・コモンズやクリエイティブ・コモンズ・ジャパンが決めることはできません。利用許諾条項をよく読んでお使いください。」との記載が続きます。
注8:2017年7月、大阪市立図書館において、デジタルアーカイブのオープンデータ利活用事例を紹介するページが開設されたとのニュースがありました。しかし、著作権が消滅しパブリックドメインとなった著作物にCC-BYのライセンスが付された例が見受けられました。そもそもCCライセンスは著作権者が付すもので、既にパブリックドメインになった作品について付されることは予定されていません。正しくは、PDMと表記すべき例だったように思われます。
注9: FAQでは「CCライセンスの表示を信じて利用してしまった場合、著作権侵害の責任を負わなければならない場合があります。」(「CCライセンスの付いた作品を利用したいと考えている方へ」5)、「クリエイティブ・コモンズ及びクリエイティブ・コモンズ・ジャパンは、ライセンスの当事者ではなく、また、ライセンスの下で提供される情報及び作品に関しいかなる保証も行っていません」(「CCライセンス利用上の注意点」7」)と説明されています。


以上

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