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コラム column

2025年6月25日

著作権改正IT・インターネット

「著作物利用の選択肢が広がる!「未管理著作物裁定制度」を読み解く」

弁護士  原口恵 (骨董通り法律事務所 for the Arts)


1. はじめに

2026年4月1日からスタートする著作権法上の新制度、「未管理著作物裁定制度」ってご存知でしょうか?(略すと「みちょさい」とか…?本コラムでは、ひとまず「新裁定制度」といいます。)
この新裁定制度は、著作権法2023年改正の3本柱の1つである、許諾の取れない著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設によって導入されたものです。現行の著作権法にも裁定制度はあり、67条では著作権者不明等の場合における裁定制度が規定されています(新裁定制度と区別するために「現行裁定制度」といいます)。ここに新裁定制度が新たに追加される形となり、オプションが増えるイメージです。新制度では著作物等の公正な利用をさらに促しつつ、著作権者への利益還元も確保することが狙いとなっています。
現行の裁定制度については鈴木弁護士のコラムに詳細にまとめられていますので、そちらをご参照いただき、本コラムでは新裁定制度のあらましをご紹介します。

2.そもそも裁定制度とは?~eigoMANGAの裁定に関するリリース~

裁定制度とは何かということで、最近、所管の文化庁も少々戸惑ったと思われる、現行裁定制度にかかわる事案を1つ見てみます。
2025年5月20日、漫画、ゲーム、デジタルメディアを扱う米国法人eigoMANGAは、格闘ゲーム『ヴァンガードプリンセス 先陣の姫君』に関して、自社HP等で次のリリース(抜粋)を出しました。

- 「eigoMANGA (略) is proud to officially confirm that it holds the exclusive trademark and copyright rights to the video game Vanguard Princess in the United States and recognized ownership rights in Japan」、
- 「The company’s ownership is further recognized in Japan through registrations and rulings by the Japanese Agency for Cultural Affairs, establishing eigoMANGA as the legitimate copyright holder.」

要するに、同ゲームの日本(と米国)の著作権はeigoMANGAが保有し、日本の文化庁による登録と裁定によって正当な著作権者であると日本の著作権法上、認められたのだというものです。このゲームの開発者はスゲノトモアキ氏であるため、著作権譲渡等がされていない限り、同氏が著作権者です。したがって、当該ゲームを利用するにはスゲノ氏の許諾が必要となりますが、2011年頃から連絡が取れない状態が続いているようです。そんな中、eigoMANGAは上記ゲームの複製・販売をするために、裁定制度を利用したようです(権利者の捜索が2024年5月に行われ、2025年3月18日に裁定を受けています)。
しかし、裁定制度は申請者に著作権が移転したり、申請者を著作権者と認定したりする制度ではありません。現行裁定制度は、他人の著作物を利用したいけれども、その著作権者が不明で相当な努力をしても連絡ができない場合等に、一定の要件を満たせば、文化庁長官の裁定を受けて、通常の使用料相当額を供託すれば利用できるというものです。あくまでも申請者が希望する著作物の利用に対する著作権者の許諾の代替手段のようなものです。
なお、上記リリースは5月27日にしれっと削除されたとのことで、eigoMANGAの勘違いだったのか、あるいは何らかの意図があったのか、謎は残ります…。
※本件の詳細については、Game*Sparkのケシノ著、Akira Horie編「原作者不在のまま…『ヴァンガードプリンセス』の正当な著作権者をeigoMANGAが自称―日本の裁定制度を根拠に?文化庁も困惑の色「著作権を申請者に移転させる制度ではない」」もご覧ください。

3.新裁定制度の概要

さて、新裁定制度とは、著作物の利用の可否や条件に関する著作権者の意思が確認できない著作物について、文化庁長官の裁定を受け、補償金を支払うことを条件に、3年を限度として時限的な利用を可能とする制度です。
具体的な利用場面としては、例えば、過去の雑誌をデジタル復刻したい場合や過去の映像作品を利用したい場合です。著作権者の連絡先が分からない、あるいは連絡をしても返答がなかったりして、利用を諦めざるを得ないこともよくあるようです。そういった場合も新裁定制度によって、著作物の利用が可能になります。後述のとおり、新裁定制度は著作権者のライセンス機会を確保するための措置も含まれており、著作物の利用促進と著作権者の権利保護のバランスが取られた仕組みとなっています。
なお、著作権者等が不明であることを前提とする現行裁定制度も引き続き利用できます。そのため、場合によっては現行裁定制度と新裁定制度いずれも利用が可能で、申請前に利用希望者で取るべき措置(現行裁定制度の方がやや負担は大きい)や利用期間(新裁定制度は更新できるものの、1度の申請で最大3年)といった相違点をふまえて、利用する制度を選択することになると考えられます。

(1) 対象となる著作物

新裁定制度の対象となるのは、「未管理公表著作物等」とされています(2026年4月1日施行の著作権法(以下「新法」といいます)67条の3第2項)。言い換えると、次の著作物が対象となっています。

- 公表された著作物又は相当期間にわたり公衆に提供等されている事実が明らかである著作物であって(新法67条1項)、
- 著作権等管理事業者による管理が行われておらず(新法67条の3第2項1号)、かつ、文化庁長官が定める方法によって、当該著作物の利用の可否に係る著作権者の意思を円滑に確認するために必要な情報であって文化庁長官が定めるものが公表されていない(新法同項2号)

要するに、利用についての著作権者の意思を確認したけれど、確認ができなかった著作物です。
著作物が著作権等管理事業者によって集中管理されていれば、当該著作権の管理を委託するという著作権者の意思が示されている(加えて、管理事業者を通じて著作物を利用できる)ということで、対象外となります。
また、利用の可否や利用に関する問合せ先が、著作権者のHPや著作物の周辺(例:CDのパッケージ、書籍の奥付、動画の概要欄)などに記載されていれば、著作権者の意思を確認できるため、新裁定制度の対象外となります。

(2) 要件

新裁定制度上、未管理公表著作物等の利用が認められるためには、次の2つの要件を充足する必要があります。
① 文化庁長官が定める、利用可否に係る著作権者の意思を確認するための措置をとったにもかかわらず、その意思の確認ができなかったこと(新法同条1項1号)
② 著作権者が出版その他の利用を廃絶しようとしていることが明らかでないこと(新法同項2号)

具体的に対象となるものは、以下の通りです。
- 著作物の利用に関するルールや問合せ先の記載がなく、連絡先も明示されていない
- 著作物の利用に関するルールや問合せ先の記載はないが、連絡先が記載されていて、実際に利用に関する問合せをしたが14日間返答がなかった

(3) 利用期間

新裁定制度は、現行裁定制度と異なり、あくまでも著作権者の意思が確認できない間の時限的な利用のみを認めています。
そのため、新裁定制度による裁定で定める利用期間には、3年の上限が設けられています(新法67条の3第5項)。これは裁定後に、著作権等管理事業者に対する当該著作物の管理委託が開始されたり、著作権者の連絡が公表されたりといった事態があり得ることをふまえて、著作権者の意思を確認する機会を確保するための措置です。仮に裁定後に上記事態が生じた場合、利用希望者は直接著作権者と協議をして利用許諾を得ることができるので、文化庁長官は、当該著作権等の求めにより、裁定の取消ができます(同条7項)。3年を超える利用を希望する際は、再度申請をして要件を満たせば、新裁定制度による裁定を受けて、著作物の利用が可能です。

(4) 補償金

新裁定制度においても、通常の使用料相当額を考慮して定められた補償金の支払いが必要とされています(新法同条1項)。
補償金について、金額は文化庁長官が決定する、その額の決定にあたって文化審議会への諮問が必要である、供託する、といった点は現行裁定制度と同様ですが、新裁定制度では手続きが簡素化されます。すなわち、下記(5)の登録確認機関があらかじめ定め、文化庁長官が文化審議会の諮問を経て認可した使用料相当額の算出基準に基づいて、各申請の使用料相当額を算出し、文化庁長官が当該算出結果を考慮して補償金額の決定をすれば、個々の決定についての文化審議会への諮問は不要とされました。現行の裁定制度ではこの補償金の決定手続きに時間がかかると指摘されているため、スピードアップが図られます。

仮に裁定による利用期間中に裁定が取り消された場合、著作権者は、裁定された日から取消日の前日までの期間に相当する金額を、供託された補償金から受け取ることができます(新法同条9項)。著作権者の視点から見ると、自分の知らないところで著作物が利用されたとしても、通常の使用料相当額を事後的に得られるというメリットがあるといえます。

また、必ずしも裁定で利用された著作物の著作権者が明らかになる訳ではないため、供託されたものの、著作権者には支払われない補償金があります。このプールされていく補償金の一部を著作権者全体へ還元すべく、著作権等の保護に関する事業、著作物等の利用円滑化・創作振興に資する事業(著作物等保護利用円滑化事業)に支出することが、下記(5)の指定補償金管理機関に義務付けられました(新法104条の12)。

(5) 窓口組織の活用

新裁定制度では手続きの簡素化を目指すべく、文化庁長官の指定・登録を受けた窓口組織を活用します。具体的な業務内容等は下表のとおりで、窓口組織の指定・登録は今後なされる予定です。

指定補償金管理機関 登録確認機関
業務内容 - 補償金等の受領・管理
- 補償金等の著作権者等への支払い
- 著作物等保護利用円滑化事業に関する業務
- 申請の受付
- 要件該当性確認
- 通常の使用料相当額の算出に関する業務
適用される裁定制度 新裁定制度及び現行裁定制度 新裁定制度のみ

(6) 手続きの流れ

新裁定制度における手続きの流れは、おおよそ次のとおりとなります。

① 著作物の利用希望者が、利用に関するルールや連絡先等を確認し、連絡先が見つかれば連絡をする。
② (利用に関するルールや連絡先等がいずれも不明、あるいは連絡をしたが著作権者から14日間応答がない場合、)利用希望者は、登録確認機関に申請手続きを行う。
③ 登録確認機関において、要件該当性の確認や使用料相当額の算出をする。
④ 文化庁長官が登録確認機関の算出結果をふまえて、補償金額及び裁定による利用を決定する。
⑤ 利用希望者は、補償金を支払って、定められた方法・期間で当該著作物の利用を行う。
⑥ 文化庁長官は、裁定をしたこと、裁定に係る著作物を特定するために必要な情報、利用方法、利用期間等を公表する。
※ (著作権者からの請求があれば、)文化庁長官は裁定を取消し、裁定がなされた日から取消日の前日までの補償金が著作権者に支払われる。
※ (裁定取消後、引き続き当該著作物の利用を希望する場合、)利用希望者と著作権者との間でライセンス交渉等を行う。

上記⑥にあるとおり、新裁定制度では、裁定がなされた場合に必要な情報を公表することで、裁定がなされた後も著作権者による許諾の機会を確保しています。
なお、上記②の「著作権者から14日間応答がない場合」について、著作権者は14日以内に利用可否や条件までを含めた返事をしなければならないという訳ではなく、何らかのリアクションをすれば足りるとされています。著作権者からは「検討します」と返事をすれば、新裁定制度の対象外となります。

4.おわりに

新裁定制度の手数料を含む、著作権法施行令の一部を改正する政令案に関するパブリックコメントが6月19日に終了するなど、施行に向けた準備が着々と進んでいます。新裁定制度については、「著作物が勝手に使われるのでは?」といった誤解も一部で見受けられますが、裁定期間中については補償金が事後的に支払われるという形で、裁定取消をした後もライセンス交渉の機会があるという形で、著作権者の権利保護にも十分配慮されているといえます。これは、著作権法第1条に定められた目的に沿ったもので、急激に加速するデジタル時代にふさわしい制度だと、個人的には考えています。新裁定制度、施行されましたら是非活用してみてください。

以上

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