2025年5月28日
「なるほど! 学校教育のヒント、現場から見えてきた著作権事情」
弁護士 出井甫 (骨董通り法律事務所 for the Arts)
ここ数年、全国の中学校、高校、教育委員会に訪問し、又はオンラインを通じて、教職員向けに著作権セミナーをしています。その都度、先生方からは、直近の課題や質問が寄せられます。
そこで今回は、直接のやりとりをして見えてきた、学校教育現場の抱える著作権事情を、ご報告したいと思います。
1 取り組みの経緯
まず、経緯を簡単にご説明しますと、筆者が教育現場と接する主なきっかけは、CRICが開催する「学ぼう!使おう!学校での著作権活用セミナー」です。CRICから講師の配点を受けると、教育機関と事前に打ち合わせし、当日の準備をします。セミナーの所要時間は、研修会として長めにとれることもあれば、先生方の勤務の合間を狙って35分などとすることもあります。
実際、先生方はとても忙しいそうです・・。政府が紹介している1日のスケジュールを見ても、平日は12時間以上勤務、休日は部活動指導などがあります(政府広報参照)。そのため、著作権についてインプットしたくても、十分な時間を確保しづらいのが実情です。セミナーでは、事前に質問を募って、ピンポイントにお答えできるよう心がけています。
2 印象深かった3つのトピック
以下では、いただいた質問のうち、印象深かった3つのトピックについてご紹介します。
(1) キャラクターイラスト
今のところ、キャラクターイラストの利用に関する質問は、毎回登場しています。ここでは、少し抽象化した実例を取り上げてみます。
①美術の授業で生徒が既存のキャラクターを描いて提出してきたが問題ないか。
②文化祭用にキャラクターイラスト付きのTシャツを制作してよいか。
③宿題を返却する際、キャラクターイラスト付きのスタンプを押してよいか。

いずれも著作権法35条に関する利用です。35条では、教育機関において、教育担当者と授業を受ける者が、授業の過程での利用に供する目的のために、必要と認められる限度で、公表された著作物を複製、公衆送信、公衆伝達することが許容されています。但し、権利者の利益を不当に害する場合を除きます。
① 美術の授業における生徒の提出物
前記の通り、著作権法35条による利用主体には「生徒(授業を受ける者)」も含まれます。また、生徒にとって、キャラクターの絵を描くことは、絵画の技能向上を図ることが期待できそうです。そうすると、この作業は「授業の過程での利用に供する目的」にも該当するものとして、著作権の問題はなさそうです。
一方、そこに附随して先生からは、「その作品を教室内に飾ってよいか?」という質問を受けました。美術の授業の一環といえるならば格別、そうでない場合は「授業」が終わっているため、著作権法35条が使えません。また、35条によって複製されたものを、教育目的以外の目的で「公衆に提示する」ことは、許容されていません(49条1項)。
ただ、今回の教室においては、生徒が30名程度、座席は決まっており、クラスメイトと先生以外の出入りは基本的に予定されてないようでした。そのため、この状況が維持されている限り、「公衆」(不特定又は多数)には該当せず*、教室内の展示は可能という整理をしています。
*著作物を展示する権利(展示権)は、「原作品」を「公衆」に展示する際に機能します(著作権法26条)。この権利に関しては、生徒の作品がキャラクターイラストの「原作品」にも該当しないという整理ができそうです。
② 文化祭用のTシャツ制作
著作権法35条の「授業」には、学校行事も含まれると考えられています。
関連文献においても、例えば、運動会等のプラカードにキャラクターイラストを描くことが許容され得る旨の説明があります(大和淳著「ケーススタディー著作権1 学校教育と著作権」(16頁)CRIC(2024/12))。
ただ、キャラクターイラスト付きのTシャツの場合は、注意が必要です。もし文化祭が終わった後も普段着として使用すると、教育目的として「必要と認められる限度」を超えるように思います。なお、35条によって複製されたものを、教育目的以外の目的で譲渡することも許容されていません(47条の7但書)。また、これが量産されると、権利者の市場と衝突し、売上に影響が生じることが懸念されます。更に、Tシャツへのプリントを業者に依頼すると、「教育の担当者」や「授業を受ける者」以外の者が著作物を利用していると評価され得ます。
総じて、Tシャツの制作には相応の条件が伴う旨、お伝えしています。
③ 宿題返却時のスタンプ
この件については、結局、正規のライセンス品であるスタンプの販売サイトに、「先生のごほうびスタンプ」などと記載されており、そもそも権利者が許容しているだろうという結論でした。
ただ、仮にそのような記載がない場合でも、35条によって、スタンプを押すことは許容されるでしょうか? 小さな話のように思えますが、先生は真剣です。
ここで問題となるのは、「授業の内容に直接関係がなくとも、生徒の注意を引いたり、やる気を出させるために著作物を利用することが、「授業の過程での利用に供する目的」といえるのか?」という論点です。
改めて考えるに、著作権法35条が著作物の利用を許容しているのは、それが教育効果を高める上で必要だからです。その上で、生徒の関心を呼び起こすことは、教育効果を高めることにつながります。たしかに、③のような利用は、娯楽的・鑑賞的要素を伴いますが、それは前記①や②にもいえることです。むしろ、そうした要素が加わることで、生徒の勉強意欲が高まるとも考えられます(かくいう筆者も、小学生の時にスタンプを楽しみに宿題をしていたことがあります)。
そうすると、授業の内容と直接関係がないような著作物の利用であったとしても、それによる教育効果の向上を説明できるならば、「授業の過程での利用に供する目的」の該当性は認めつつ、あとは他の要件(「必要と認められる限度」や但書)で、権利者との利益調整を図るという考え方も、あり得るのではないかと考えています(上野達弘編「教育現場と研究者のための著作権ガイド」(60頁)有斐閣 (2021/3/24)も参照)。
(2) インターネット
2つ目は、インターネットを活用した著作物の利用です。今ではほとんどの学校が、HP、SNS、クラウドを使用していることもあり、質問もたくさん寄せられます。ここでは、近日、受けた3つの例を取り上げます。
①校内の様子を撮影した写真や動画を、HPやSNSに掲載してよいか。
②他人のウェブサイトで見つけたフリー素材を、教材等に掲載してよいか。
③クラウドで著作物を生徒に配布すると、補償金を支払う必要があるのか。

① 校内の様子を撮影した写真や動画の掲載
対外的にネットで紹介する行為は、「授業」の範囲を超えますので、著作権法35条が使えません。もっとも、例えば、写真や動画の撮影に附随して入り込んだ著作物(体育祭で流れたBGMや、参加者の衣服・持ち物に描かれたイラストなど)は、写り込み規定によって許容され得ると考えられます(30条の2)。
これを聞いた先生からは、「生徒が本棚の書籍を整理した様子を紹介するため、本の背表紙を掲載してよいか?」という質問がありました・・ユニークです(笑)
通常、背表紙には、書籍のタイトル、著者、出版社名程度が記載され、紙面はかなり限られています。そのため、背表紙に著作物が入り込む可能性は高くはないとも思えました。
ただ、漫画「ドラゴンボール」のように、巻をそろえると立派なデザインになるシリーズもあります。生徒がやる気を持って整理するとしたらこういうものでしょう。
そこで、背表紙のデザインによっては、写り込み規定が適用されるよう、例えば、アップでなく、生徒がきれいにした本棚全体を撮影して掲載する方が、安全である旨お伝えしています。
② フリー素材の利用
フリー素材に関しては、昨今、教職員がそれと誤認して他人の著作物を無断利用したことにより、賠償金が支払われるという事件が相次いでいます(参考記事)。そのため、教育委員会は、再発防止のために力を入れて各学校に注意喚起をしているそうです。
一方、素材に関する利用規約が複雑であることや、提供元の素性が分からないといった理由で、利用を控えている先生方もいらっしゃいました。
そこで、クリエイティブ・コモンズ(CC)ライセンスなどのオープンソースライセンスが使用されているコンテンツの利用を提案しています(CCライセンスについては、橋本弁護士のコラムも参照ください。)。一例として、国立国会図書館が運用している「ジャパンサーチ」では、「教育・商用利用可能」という検索項目を設けていますので、そこから好みの素材を選ぶことなどを紹介しています。
ジャパンサーチ「教育・商用利用可能検索」画面

③ 補償金支払いの要否
前提として、生徒にクラウドを通じて資料を共有(公衆送信)することも、著作権法35条によって許容され得ます。
その際、授業形態に応じて、教育機関等の設置者からSARTRAS(授業目的公衆送信補償金等管理協会)に対する補償金の支払いが必要となります(35条2項)。
実際に補償金を支払うのは、教師ではなく教育機関の設置担当者ですが、その前提となる著作物の利用は、教師によって行われます。そのため、教師もいかなる場合に補償金の支払いが必要となるかを把握しておくことが求められます。
ただ、該当する条文を見ても、その区別がしづらい・・という声を聞きます。
そこで、筆者の場合は、「先生の授業を学校内*で受けている生徒がいるか」という基準をお伝えしています(下図)。「学校内」としているのは、同一構内におけるオンライン配信は、「公衆送信」に該当せず、許諾が不要となるためです。
授業形態と補償金支払いの要否

上図の通り、対面授業、遠隔合同授業の場合は、学校内で生徒が授業を受けていますので、補償金は不要となります。他方、スタジオ型リアル配信(校外の生徒のみに対するリアル配信)、オンデマンド配信、(授業前後の)予習復習資料の配信は、そうした生徒がいませんので、補償金が必要であることを表現しています。
もっと見やすくできそうですので、現場のフィードバックをいただきながらアップデートしていく予定です。
(3) 生徒による著作権侵害
本項目は、特に検討の必要性が高いトピックではないかと思っています。具体的には、以下のような質問を受けています。
生徒が著作権侵害を起こした場合、学校側が法的責任を負うことにならないか。
例) 校内の作品や学校で扱った資料を、無断でSNS等に投稿した場合
生成AIで他人の著作物を無断生成したものを、学校で配布している場合

〇SNS・生成AI利用率の増加
質問が寄せられた背景として、生徒によるSNS・生成AIの利用率増加が挙げられます。
近年の調査によると、2024年時、小学4年生から小学6年生の63%が、中学生の92%が、高校生の98.8%が、SNSを利用しています(小学生・中学生について、NTTドコモ モバイル社会研究所の調査)、高校生について、国立青少年教育振興機構の調査)。
また、2025年3月時で、都内公立高校生の約3割が、生成AIを使用したことがあると回答しているようです(東京都教育委員会「報道発表資料」2025年3月24日)。
こうした状況を踏まえ、学校では、生徒の著作物利用への不安が高まっています。
〇考えられる理論構成
では、どのような理論に基づき、学校側は、生徒の著作権侵害に関して法的責任を負い得るでしょうか。
公立の場合、教師は国家賠償法上の「公務員」に、教育活動は「公権力の行使」に該当します。そして、教師の職務上の故意又は過失に基づく違法な行為があると、「国又は公共団体」が責任を負うことになります(1条)。この場合、教師個人は責任を負いません(最判昭和30年4月19日・昭和28年(オ)62号)。
一方、私立の場合、生徒が責任無能力者(一般的には12歳前後まで)ですと、教師は、親の「代理監督者」として責任を負う可能性があります(民法714条2項)。但し、監督を怠っておらず、又は怠らなくとも損害が発生している場合を除きます。仮に、教師が責任を負う場合、学校は、教師を使用していることから、使用者責任として連帯責任を負う可能性があります(民法715条1項)。
他方、生徒が責任能力者の場合、教師は「代理監督者」には該当しませんが、生徒による権利侵害について、故意又は過失があれば、直接、責任を問われるリスクはあります。
上記の通り、公立と私立では、責任の生じる理論構成に違いがあります。ただ、いずれにおいても「過失」や「監督の懈怠」という要件があることから、結局、吟味される論点は、「生徒による著作権侵害が生じることについて、教職員に故意又は過失に基づく監督不行き届きがあったか否か」に集約されるように思います。
その上で、いかなる場合に、監督不行き届きがあったといえるかはケースバイケースですが、例えば、校内で、生徒が無断で著作物をSNS等に投稿している状況や、生成AIで生成した著作物を無断で配布している状況を、知りながら放置している場合には、責任を問われる可能性があると考えます。
一方、先生からは、「授業の際に参考資料として配布した著作物を、生徒が持ち帰って無断投稿した場合は?」と問われました。基本的に、学校外の生徒の監督責任者は、教師ではなく、保護者になります。そのため、投稿を促すような言動をしなければ、持ち帰った後の追跡までは不要でしょう。
〇予防のための普及啓発
とはいえ、学校側に法的責任がなかったとしても、生徒が不祥事を起こせば、学校名が公表され、批判の対象になることが懸念されます。
そこで、先生方には、未然防止策として、例えば、以下のような教材を紹介することがあります。生徒のやる気が出そうなデザインです。
➢ 文化庁「著作権に関する教材・講習会」・・「はじめて学ぶ著作権」
➢ CRIC「著作権教育のご案内」・・「みんなのための著作権教室」(左図)
➢ 法務省「大人の道しるべ」(「12話 その動画、アップして大丈夫?」ほか)(右図)
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生成AIに関する生徒用の教材はまだ見受けられませんが、教育機関用のガイドラインや、授業に生成AIを導入し始めた東京都教育委員会の資料は、参考になると思います。
➢ 文化庁「生成AIの利用について」・・「初等中等教育段階における生成 AI の利活用に関するガイドライン」
➢ 東京都教育委員会「全都立学校で生成AIを活用した学習が始まります!」・・「生成AIについて 学ぼう!」
3 おわりに
以上、現場の著作権事情を見てきました。3つのトピックだけでも、先生方が様々な場面で悩みつつ、乗り越えようとしている姿が伺えます。
その際に寄せられる本音は、今後の教育を考える重要なヒントです。
子どもの学びを支える環境づくりのために、何ができるでしょうか。
次の学校へ向かう準備をしながら、引き続き考えていきたいと思います。
以上
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橋本阿友子(骨董通り法律事務所 for the Arts)
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