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コラム column

2020年4月30日

著作権改正

「権利者不明の場合の切り札となるか?
   ~オーファン作品は、侵害しながら使う? 使わない? それとも...。~」

弁護士  鈴木里佳 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

新型コロナウィルスの感染防止のため、各種ライブイベントが次々と中止・延期となり、再開の見通しが立たない状況がつづいている。ライブイベントのみならず、新規の映像制作すらままならない今、過去の舞台作品の映像を配信したい、かつての人気放送番組を再編集して再放送したい等、古い作品の新しい利用に注目が集まっている。

歴代の名作品たちを前に、企画が盛り上がったのち、ふと気になるのが権利関係の問題だ。とくに、映像については、権利処理が必要な関係者が多く、その一部と連絡がとれないというケースも少なくない。古い作品の場合、権利者の死亡や倒産により、現在誰が権利をもっているか不明であったり、そうでなくとも、関係者の連絡先が分からないなど、新たな利用に権利処理の壁が立ちはだかる。

このような権利者不明の作品(いわゆるオーファン作品)を利用したい場合の選択肢として、①利用をあきらめる、②権利者の許諾はないが、えいっと使ってしまうという方法に加え、第3の方法として、③文化庁長官の裁定制度があり、以前、こちらのコラムで紹介した。その後、複数回にわたりアップデートのあった裁定制度について、その(潜在的)必要性の高まりを受け、改めて、今回のコラムで紹介したいと思う。

1 どのような制度か

まず、この裁定制度は、著作権者や実演家を含む著作隣接権者(以下「権利者」)が不明の場合の著作物や実演等の利用のために、著作権法上定められたものである(著作権法67条1項・103条)。具体的には、権利者と連絡するための「相当な努力」をした上で文化庁長官に対して申請を行い、その裁定を受けた場合には、通常の使用料相当と文化庁長官が定める補償金を供託し、権利者不明の著作物等を利用することが認められている。つまり、権利者や連絡先を探すための「相当な努力」を行った上で、文化庁の裁定を受けた場合、本来必要とされる権利者本人の許諾がなくても、著作物等を適法に利用することができることになる。無許諾の利用という法的リスクをおかすことなく、かつ、「引用」や「写り込み」など、各種権利制限規定による場合のように、利用方法を大きく制約されることもない。あまりメジャーではないものの、過去の作品を死蔵させずに、新たな陽の目を当てることのできる、非常に合理的かつ有益な制度と思える。

(1)対象

① 権利者の了解のもと、過去に公表が行われた著作物、実演、レコード、放送、有線放送(以下「作品」)

② 権利者の了解を得ているかが不明であっても、相当期間にわたり世間に提供されている実績のある作品

が、この裁定制度の対象となる。
完成後、一度も公表されないままお蔵入りしていた作品などは、対象とならないため、注意が必要である。

(2)裁定申請を行うための前提条件:“相当な努力”

裁定申請の条件として、権利者と連絡をとるための「相当な努力」を払ったにもかかわらず、連絡することができないことが必要である。「権利者が不明」の作品のための制度であるため、「権利処理に時間がかかりそう・・」といった理由で利用することはできない。「権利者が不明である」ことを裏付けるための「相当な努力」を事前に行うことが求められるのである。
この「相当な努力」の具体的な内容として、

① 権利者の連絡先の情報を取得するために、以下のAからCまでの全ての措置をとること、

② それにより取得した全ての情報に基づき、権利者と連絡するための措置をとること

が必要となる(著作権法67条1項、施行令7条の5第1項、平成21年文化庁告示第26号1条から3条)。

①における必要な措置は、裁定が行われるのが初めての作品と、過去に裁定が行われたことのある作品とで異なる。

  初めて裁定が行われる作品 過去に裁定が行われた
ことのある作品
A.権利者情報を掲載する資料の閲覧 i) 作品の種類に応じて作成された名簿・名鑑類の閲覧
又は
ii) インターネット検索
vii) 文化庁のウェブサイトに掲載されたデータベースでの検索
B.広く権利者情報を保有していると認められる者への照会 iii) 著作権等管理事業者等への照会
及び
iv) 関連する著作者団体などへの照会
同上
C.公衆に対する権利者情報の提供の呼びかけ

v) 日刊新聞紙への広告掲載
又は
vi) 著作権情報センター(CRIC)ホームページでの広告掲載

同左

この「相当な努力」の具体的内容については、文化庁が公表する「裁定の手引き」において、具体的な説明がされており、参考になる。その内容を、以下にて少しご紹介したい。

i) 名簿・名鑑類の閲覧
 ・ 以前は、原則として2種類以上閲覧するよう示唆されていたが、1冊以上と要件が緩和された。
 ・ 具体例としては、一般的なものとして、著作権台帳などが挙げられているほか、美術の著作物については、美術年鑑や美術家名鑑、音楽の著作物については、音楽年鑑や音楽人名辞典、実演については日本タレント名鑑や出演者名簿が該当する。

ii) インターネット検索
 ・作品のタイトルや、権利者の名前、作品の内容をキーワードとして、GoogleやYahoo!JAPANなど、1種類以上のインターネット上の検索サービスを用いた検索をするよう示唆されている。

iii) 著作権等管理事業者等への照会
・ 具体例としては、音楽の著作物については、JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)や㈱NexTone、言語の著作物については、日本文藝家協会など、実演については、aRma(一般社団法人映像コンテンツ権利処理機構)及びCPRA(公益社団法人日本芸能実演家団体協議会)が挙げられている。
・ 複数の管理事業者がある場合は、全ての事業者に照会するよう示唆されている。

iv) 関連する著作者団体などへの照会
・ 著作者団体の他、当該作品分野を研究する学会や、権利者の所属していた大学や企業などの組織なども、照会先に含まれる。

vi) CRICホームページでの広告掲載
・ 以前は30日以上の継続掲載が必要であったが、7日以上の継続掲載に短縮された。

vii) 文化庁のウェブサイトに掲載されたデータベースでの検索
・ 過去に裁定が行われたことのある作品の場合、文化庁のウェブサイト上のデータベースで検索し、過去の裁定が行われた実績を確認できれば、上記AとBの要件を満たす。あとは、C.公衆に対する権利者情報の提供の呼びかけのいずれかの措置をとれば、「相当な努力」が完了することになる。

2 全体的な手続の流れ

上記①「相当な努力」をした後の大まかな手続の流れは、以下のとおりとなる。
② 申請書及び添付書類の提出
③ 文化庁長官による裁定の可否及び補償金額の決定・通知
④ 補償金の供託
⑤ 著作物の利用開始
裁定の手引きによれば、②申請から③補償金額の決定までの標準処理期間は約2カ月とされている。

もっとも、近時の多くの申請では、申請中利用制度(著作権法67条の2・103条)が用いられ、理論上は申請後2-3週間で利用開始できるとされている。申請中利用制度を利用する場合、申請後、文化庁長官の定める担保金を供託すれば、裁定の決定前であっても、著作物の利用を開始することが認められるためだ。ただし、当該作品の権利者が利用を廃絶しようとしていることが明らかであるケースでは、申請中利用制度による利用は認められない。また、申請中利用制度により作品利用を開始後、「裁定をしない処分」を受けた場合には、その時点で作品利用を中止しなければならない点には注意が必要だ。

もっとも、「相当な努力」のうちCの措置として、経費的に現実的なvi) CRICホームページでの広告掲載を選択する場合、裁定の手引きによれば、CRICへの依頼から掲載までに7-10日程度必要とある。その後、7日以上の継続掲載が必要となることから、申請までに最短でも2-3週間の程度の準備期間が必要となろう。以前と比べると、権利者を探すための「相当な努力」の内容はかなり簡略化されたものの、利用開始までに1ヶ月以上の期間がかかる。権利者不明の作品の利用をお考えのみなさんは、「よし!この裁定制度を使ってみよう!」と思えただろうか。

3 裁定制度の利用状況、そしてさらなる課題

前回のコラムにならい、近時の利用状況を紹介したい。

文化庁のホームページで公表されている過去の裁定実績によれば、ここ十数年間の利用状況は下記グラフのとおりである。

(グラフを拡大する場合、クリックしてください)

グラフを見ると、ここ数年で、裁定件数が伸びている。また、上記は裁定件数のグラフであるところ、1件の裁定で複数の作品が対象とされることも多い。平成28年度を例にとると、70件の裁定により、48,000点の作品の利用が可能となった。また、内訳をみても、依然として言語の著作物が大半を占めるものの、実演や音楽などの利用も進んでいることがわかる。

これは、上述の「相当な努力」の要件緩和や、制度運用の改善によるものと考えられる。たとえば、裁定の手引きでは、第三者に対して著作物を利用させるために裁定を受けることも可能であることが明記された。放送番組の二次利用については、原作、脚本、実演等について、ライセンサー側が権利処理を行った上で番組のライセンスを行う方法が一般的である。このような元栓処理において、ライセンサーである放送事業者がライセンシーによる利用のために裁定の申請を行うことが可能であると明確化されたため、権利処理実務に整合した検討が進みやすくなったと考えられる。

もっとも、裁定実績データベースで詳細を見ると、国立国会図書館などによるデジタルアーカイブ事業や大学試験問題の出版、NHKのドラマのDVD化などの二次利用などの件数が多く、点数も一部の大規模申請にかなり集中している。利用対象、方法ともに依然として偏りがある。

このような偏りは、前回のコラムでも指摘したように、申請書の「補償金の額の算定の基礎となるべき事項」の記載の困難さも一因と考えられる。たとえば、裁定の手引きでは、実演家の不明な放送番組をインターネット配信する場合の「実演の利用方法」の記載例として、「当社のウェブサイトにおいて、平成○○年○月○日~○月○日の期間、有料(1 視聴 500 円)で、ストリーミング形式のインターネット配信をする」などと想定する。上記のような1視聴いくらというアラカルト方式であれば、補償金(=使用料相当額)の算定は比較的シンプルだろう。しかし、近時の配信サービスでは、映像でも音楽でも、サブスクリプション方式や、(基本的機能のみであれば無料の)フリーミアムモデルが主流であり、これらの場合の補償金の算定は、より複雑・困難と予想される。また、裁定の手引きでは、同様の利用形態についての一般的な使用料の相場が分かる資料(著作権等管理事業者の使用料規程、業界の標準料金、使用料に関する業界の統計資料等)を記載の上、関係資料を添付するよう示唆されている。しかし、使用料規程や標準料金の存在しない種類の作品については、(そもそもまだ存在すらしないかもしれない)「相場」を説明するための労力は多大となると予想されるが、どれだけの利用希望者が、そこまでのコストを負担できるだろうか。

4 おわりに

著作権保護期間が、著作者の死後70年まで延長され、今後ますます多くの作品について、権利者不明の状態が訪れると想像される。そのような状況も見据え、裁定制度に期待される役割はますます大きくなるのではないか。文化庁では、2016年より、権利者団体を中心に構成された「オーファンワークス実証事業実行委員会」が、権利者不明の作品の利用希望者に代わり、裁定申請を行う実証事業が行われている。そのような集中処理の導入を含め、過去の名作に新たな光が届くよう、期待したい。

(まぁ、そうといいつつ、なかなか骨折りの作業が必要となる裁定制度。権利者不明の問題により作品の利用が阻まれないよう、作品制作時の権利処理(こそ)が、やはり重要だよなぁと思いながらの、コラム執筆となった。)

以上

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