2025年7月28日
「使用料請求は突然に」への備えを!
~初動対応を誤らないために~
弁護士 北澤尚登 (骨董通り法律事務所 for the Arts)
ご自身のウェブサイトやSNSに用いている写真(画像)やフォントなどの素材について、「使用料」の支払を請求する文書やメールが突然送られてきたら…そのとき、あなたはどうしますか?
このようなケースで、慌てて請求に沿った対応(いきなり満額を払う、求められるままに利用状況を開示するなど)をするのは最善策とは言い難いでしょう。法的な支払義務があるか否かはケースバイケースであり、権利の有無について請求者の理解が常に正しいとは限りませんし、写真をフォトストックから購入した場合のように権利処理済みのケースであっても、自動検知システム等を用いて別途の請求が来る場合があり得ます。それにもかかわらず、支払義務をいったん認めてしまうと、その後に争うことが難しくなるおそれもあります。
かといって、一切反応しなければ、(フィッシングなどでなく)真剣な請求の場合には訴訟に発展するリスクも否定できません。
そこで、まずは利用に至る権利処理などの事実経緯を確認した上で、法的な支払義務の有無や根拠を慎重に検討しつつ対応することが望まれます。そのための検討の基本的なプロセスの一例を、「法的分析」「経緯確認」「相手方への対応」の3ステップでご紹介します。
1. まず「法的分析」としては、主に以下の点をチェックすることが有用です。
・権利の有無(権利処理の要否)
…例えば文字のフォント(ここでは書体・タイプフェース)であれば、裁判例は著作物性がない(著作権が発生しない)と判断する傾向がみられるので、著作権侵害を根拠とする請求に対しては争う姿勢で臨むべき場合もあるでしょう。ただし、タイプフェースを組み込んだソフトウェア(プログラム)には著作権が発生し得るので、前提として「利用対象が何なのか」を確認しておく必要があります。
・請求者が権利者か否か
…正当な権利者からの請求かどうか疑問がある場合は、(第一次的にはウェブサイトやSNS、データベースなどで)請求者の身元や権利者名を調査することが考えられます。例えば写真では、©表示やクレジット表記も手掛かりとなり得るでしょう。権利者を代理するエージェント等からの連絡であれば、そのエージェントの請求に関するネット上の評判なども見ておくとよいでしょう。
2. 次に、その素材をどのように入手したか、権利処理はどうしたか、などの「経緯確認」も必要となり得ます。入手元や入手経路(フォントであればワープロソフトや外部サイト、写真であればフォトストックやクリエイティブコモンズなど)のほか、権利処理済みの場合はその証拠(許諾文書や支払帳票など)、権利処理が不要と判断していた場合はその根拠、を確認すべきこととなりましょう。
これらの確認が必要となるケースに備えて、入手や権利処理をめぐる経緯を、あらかじめ記録に残しておくことが望まれます。
また、例えば外部サイトから素材を入手する場合は、規約等に記載されている利用条件(支払の要否や利用範囲、クリエイティブコモンズの場合は改変禁止・クレジット表記など)を事前に確認しておくことも重要です。
3. その上で、「相手方(請求者)への対応」を検討すべきことになります。多くのケースでは、例えば以下のような対応策が考えられます。
・まず、請求に対する諾否の回答をする前に、不明点があれば相手方に問い質すことも検討すべきでしょう。その場合、上記1「法的分析」の結果をふまえて、例えば「請求の根拠となる権利は何か」「権利者であることのエビデンスを示してほしい」といった問いかけをすることが考えられます(真偽がはっきりしない段階では特に、丁寧な問合せが望まれます)。
・それへの回答をふまえて、権利処理が不要(あるいは必要性に疑問がある)と考えられる場合にはその旨を指摘する、権利処理済みの場合は証拠を示す、という対応がオーソドックスといえます。
・他方で、相手方の請求に法的根拠がある(という判断に至った)場合は、その段階で、利用状況等の情報開示や金額交渉に移行することもあり得るでしょう。
なお、交渉の結果として「法的な支払義務は認めないが、解決金として一定の金額を支払う」という形での解決もあり得ますが、その場合を含めて、「他に一切の支払義務がないこと」(いわゆる清算条項)を和解条件などで明確にしておくことが重要です。
以上
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