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コラム column

2021年5月28日

著作権契約メディアIT・インターネットライブ映画音楽

「コンテンツ配信サービスで痛い目に遭わないために確認したい、あんなことこんなこと」

弁護士  鈴木里佳 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

新型コロナウィルス対応に明け暮れたここ1年あまり、皆さんはどのように余暇を過ごされましたか? 長く続くコロナ禍によるステイホーム需要を受け、さらに躍進した分野のひとつが、NetflixやAmazon Primeに代表される動画配信サービスです。
国内サービス勢も負けてはおらず、SHOWROOMの手がける、スマホでの視聴に特化したバーティカルシアターアプリsmash.や世界の隠れた名作をラインナップに揃えるJAIHOなど、独自の視点による個性的サービスも注目を集めています。

また、リモートワークの広がりを受け、自宅で仕事をしながら利用できるPodcastやradikoなどの音声配信サービスの人気も高まっている他、投げ銭やギフト機能を通じて、より身近に配信者を応援しながら楽しめるライブ配信もますます過熱しています。
このように群雄割拠の様相を呈するコンテンツ配信サービス界に、これから乗り込もうとするとき、はたまた、既に提供中の配信サービスを見直そうとするときに思い出して頂きたい、いくつかの法的留意点/tipsを、つれづれなるままに紹介したいと思います。

●“プラットフォーム”か、“メディア”か

プラットフォームビジネスの急成長を受けてか、コンテンツ配信サービスは、「配信プラットフォーム」と総称されることがあります。もっとも、いわゆる「配信プラットフォーム」と称されるサービスには、本来的な意味での「プラットフォーム」と、実態としては「メディア」の場合が含まれます。

「プラットフォーム」と「メディア」。両者は法律などによって明確な区別はされていませんが、その運営する「まとめサイト」での画像の無断転載などが社会問題となったDeNAの “キュレーションサイト”問題に関する第三者委員会の調査報告書では、その区別が論じられていて、参考となります(DeNA報告書の詳細については、こちらのコラムをご参照)。
具体的には、DeNA報告書では、「プラットフォーム」という用語を「一般ユーザーが記事を投稿する場」という意味で用いる一方、「メディア」という用語を「自らが情報発信者となること」、又は「情報発信者となる事業」の意味で用いています。
ざっくりしたイメージとしては、「プラットフォーム」型の典型例といえばYouTube、「メディア」型の代表例といえばNetflixでしょうか。
なぜ、両者の区別が重要なのかというと、同報告書でも指摘されているように、「プラットフォーム」の場合、サービス事業者は、掲載されている記事について、プロバイダ責任制限法(正式名称略。以下「プロ責法」)による免責が認められる一方、「メディア」にあたる場合、同法による免責は認められないと対比されるからです。
簡単に説明すると、プロ責法により、インターネット上で他人の通信を媒介するにすぎない「プロバイダ等」は、その提供するサービス上に投稿される違法コンテンツに関する責任を負う場合が限定され、それ以外の場合は免責されます。具体的には、「プロバイダ等」は、①違法コンテンツが投稿され、他人の権利が侵害されていることを知っていた、あるいは②違法コンテンツの存在を知っていて他人の権利が侵害されていることを知るに足りる相当の理由がある場合のみ、損害賠償責任を負い、それ以外の場合には,著作権者等に対して損害賠償責任を負いません(同法3条1項)。

※ただし、動画投稿サイトの運営者の責任が問われた過去の裁判例には、コンテンツを流通過程に置いたのが、サービスの利用者であったとしても、一般利用者による著作権侵害を誘引、招来、拡大させ、かつこれにより利益を得る場合には、サービス事業者は「発信者」に該当し、プロ責法上の免責を受けられないと(規範的に)判断された事案もあります(知財高判平成22年9月8日判時2115号103頁(TVブレイク事件))。同事案には、問題のサービス上で視聴可能な動画の半数以上が著作権侵害であったなどの特殊性がありました。とはいえ、サービス設計時に、事業者自身がプロ責法による免責を受けられるか、つまり、「プラットフォーム」と「メディア」のどちらなのかを検討する必要があることを思い知らされます。

皆さんもご存じの通り、「YouTube上で見られないコンテンツはあるのか?」と思えるほど、同サイトには多種多様な動画があふれています。中には、地上波のテレビ番組を始め、著作権者の許諾を得ていないであろう動画も散見されます。ただ、YouTubeに投稿される違法動画の全てについてGoogleが法的責任を負うわけではありません。Googleは、YouTubeに投稿された不適切な動画について、利用者からの報告を広く受け付け、その内容を自ら確認し、ときには裁判を通じて、その違法性を検討し、削除するか否かの判断を日々行っています。言い換えると、基本的に、各投稿動画の権利処理にGoogleは直接関与せず、その結果、一定数の違法コンテンツがアップされる状態となっても事なきを得ているのは、YouTubeがプラットフォーム型だからともいえます。

なお、あるサービスが、プラットフォーム型かメディア型か、完全に区別することができないケースもあるでしょう。上述のDeNA報告書でも、問題のキュレーションサイトは、プラットフォームとしてプロ責法による免責を受けられる部分と、メディアとしてその免責が受けられない部分があると指摘されていました。
実際に、サービス事業者がコンテンツを準備するメディア型であっても、利用者のコメント欄はプラットフォームに当たる、あるいは、利用者による投稿がメインのプラットフォームであっても、サービス事業者が別途掲載するコラムページはメディアにあたるなどのハイブリット型も少なくないでしょう。このように、1つのサービス内でも、どの部分がプラットフォームで、どの部分がメディアか、一度整理されるとよいでしょう。

では、それぞれの類型における具体的な法的留意点/tipsを見ていきましょう。

●プラットフォーム型の法的留意点/tips

まず、検討しているコンテンツ配信サービスが、YouTubeのような「プラットフォーム」型の場合、プロ責法の免責要件やそのガイドライン等を参考にしつつ、違法コンテンツへの対応ルールをどう構築するかが、重要な課題となるでしょう。
また、順番が逆となりましたが、その前提として、各配信者との間で、「他人の著作権などの権利を侵害する違法コンテンツの配信を禁止すること」を含む契約を、配信前に締結しておくことも重要です。
多数の配信者の参加が想定されるサービスの場合、配信者それぞれとの間で契約交渉を行うのでははく、サービス事業者が配信規約を準備し、各配信者によるコンテンツ投稿に先立ち、規約への同意を求める方法が一般的です。
そして、配信規約には、以上のような違法コンテンツの禁止に加え、「配信コンテンツに起因して事業者に損害が発生した場合には配信者に請求しうること」や、「違法コンテンツである、又はその疑いがあると事業者が判断した場合には、事業者の判断により削除できること」などを規定する例が多くみられます。このように、いざというときを想定した配信規約を準備することは、サービスの構築段階において重要である一方、十分といえるかというと、そうともいえません。というのも、配信者は、未成年であったり、資力がなかったり、いざというときに、事業者が負った損害を配信者に求償できない、あるいはしないケースも往々にしてあります。そこで、単に、「他人の権利を侵害するコンテンツの禁止」を約束させるのではなく、どのような場合に配信者による権利処理が必要となるか、具体的な例を示したガイドラインなどを配信者に示すことも、検討したいところでしょう。
例えば、前掲SHOWROOMでは、配信規約とは別に、このようなガイダンスを公表しており、参考になります。

●メディア型の法的留意点/tips

対する「メディア」型のサービスの場合、配信コンテンツに対する法的責任は、よりシンプルといえます。
メディア型の場合、プロ責法上の「発信者」にあたるため、同法による免責は受けられません。そのため、配信コンテンツが、例えば第三者の著作権を侵害する場合、著作権侵害に基づく損害賠償責任を負い、また差止請求を受けるリスクを負います。
このように、メディア型のサービスの場合、配信コンテンツに関する責任をサービス事業者が全面的に負うことを前提に、配信コンテンツの手配を進める必要があります。

では、何をどう進めたらいいのでしょうか。
配信コンテンツは、大まかには、①既存コンテンツと、②オリジナルコンテンツの2つに分かれます。
まず、①既存コンテンツについては、既存のコンテンツの権利者から、対象サービスでの配信についてライセンスを受けることになります。ライセンス契約の留意点は、これだけで1つのコラムが書けてしまいそうなので、詳細には入りませんが、とくに元の映像が放送局(自身)による制作番組の場合など、ライセンスを受けようとする利用方法について権利処理済みであるかを丁寧に確認することが重要です(放送コンテンツについてはこちらのコラムも参考になります)。
次に、②オリジナルコンテンツについては、事業者自身がコンテンツ制作スタッフを擁するかにもよりますが、企画書やプロトタイプに基づく制作を、外部の制作会社に委託するケースが少なくないように思います。
そこで重要となるのが、コンテンツの制作委託契約です。同契約を検討する上での最重要ポイントの一つは、「予定しているサービスで問題なく利用できるよう、必要な権利処理を行うことを委託範囲に含めること」です。
ひとことで「必要な権利処理」と言いましたが、その内容は多岐にわたります。とくに、映像コンテンツの場合、その制作には、脚本家、出演者、音楽・音源、美術、アニメーション制作、その他の制作スタッフ、原作がある場合には、その原作者など、多くのスタッフの参加が必要です。このように多種多様な参加者との間で、サービスに必要な権利処理を行うことを、制作会社の業務として委託することになりますが、果たして、どこまで制作会社の裁量に委ねるか、という問題があります。
1つの考え方としては、「制作会社の責任で、権利処理を行うことに加え、権利処理に起因して委託者サイドに損失が生じた場合に、制作会社に補償を求めることができること」を制作委託契約に規定すれば足りると考え、権利処理は制作会社に委ねるというものです。
制作委託契約に、以上の手当て(業務範囲及び補償責任の明記)をする以上、各スタッフとの契約などは、制作会社に任せるというのは、合理的な発想ともいえます。
もう1つの考え方は、制作委託契約に、同様の規定を入れた上で、①各スタッフとの契約は委託者が指定する書式によること、及び②各スタッフと契約締結前に、その条件について委託者の承諾を得ることを求めるものです。
つまり、権利処理を、制作会社に委託し、その責任を負わせつつも、制作会社による権利処理の内容について、実際には委託者サイドでコントロールする方法です。これは、結構、いや相当の労力を必要とする方針です。
制作委託契約とは別に、以上に挙げた、出演者契約や、脚本委託契約など、多種のスタッフとの契約について、予め委託者が準備した書式を指定し、かつ実際に締結する内容についても、チェックするという膨大ともいえる負担が生じます。
オリジナルコンテンツの権利処理に、ここまでの手間暇をかける必要があるのか?と思われてもおかしくありませんが、実際に、大手動画プラットフォームでは、このような方法をとられているケースがあります。なぜ、ここまでの労力をかけるのか?というと、権利処理を、制作会社任せにした結果、それが不十分だった場合、その一次的な責任を負うのはメディアであるため、そうした事態を防ぎたいからです。権利処理に不備があった場合、問われる可能性があるのは、①損害賠償と②差止めです。①損害賠償については、制作会社に求償することも考えられますが、②差止めについては、問題の箇所について編集作業が発生し、あるいは編集では足りず、最悪シリーズ全体がお蔵入りになる可能性もあります。
そのサービスにおけるオリジナルコンテンツの重要性も踏まえつつ、どこまでの権利処理について、主体的に関わるかという点は、サービス準備段階での大きな検討ポイントといえるでしょう。
配信コンテンツの準備というと、クリエイティブ面や予算面に焦点があたりがちですが、このように、権利面も、絶対に落とせない重要な検討ポイントになります。

●JASRAC・NexToneとの包括契約の締結

メディア型の場合はもちろんのこと、プラットフォーム型の場合も、コンテンツ内で使用される音楽について、サービス事業者が、JASRACやNexToneとの間で包括的なライセンス契約を結ぶのが通常です。JASRACは、包括契約を結んでいるユーザー生成コンテンツ(UGC)の提供サービスを公開しており、多くの動画投稿サイトが対応済みであることがわかります。
JASRACやNexToneとの包括契約の締結すること自体、さほど難しくないのですが、なぜここで紹介するかというと、その使用料がなかなか(いや、かなり)安くはないのです。
使用料は、サービス内容や配信コンテンツの内容により異なりますが、ここでは、(音楽がメインではない)映像・動画のサブスクリプション配信サービスを例に、使用料をみていきます。

まず、JASRACについては、ストリーミング配信する映画の挿入曲などを想定した場合、「月間の情報料および広告料等収入の2.0%」をJASRACに対して楽曲使用料として支払う必要があります。
現在は、「当面の措置」により、「2.0%」ではなく「1.5%」の料率が適用されていますが、将来にわたり現在の料率が維持されることは保証されていないため、注意が必要です。

(次に、NexToneについては、同じくストリーミング形式で配信する映画の挿入曲の場合で、使用実績の報告をしない場合、「月間の情報料および広告料等収入の 1.5%」を、NexToneに対して楽曲使用料として支払う必要があります。
JASRACとNexToneで合わせて、月間収入の3パーセント・・・。これは、サービスの収益率を検討するにあたり見逃せない数字ではないでしょうか。
ただ、以上の料率は、JASRACとの協議ないしNexToneへの使用実績の報告を行わない場合の料率であり、以下詳述するとおり、より実態に応じた金額にまで下がるよう、それぞれの管理楽曲の使用状況の報告を行うことも重要です。

※まず、NexToneについては、対象となるサービスにおけるNexTone管理楽曲の使用実績を報告する場合は、「月間の情報料および広告料等収入の 1.5%」に、「著作物利用比率」を乗じた金額となります。
ここで、「著作物利用比率」について、NexToneの使用料規程では、「NexTone が管理する著作物のリクエスト回数を、NexTone が管理する以外の著作物を含む全著作物のリクエスト回数で除して得られる割合」とあり、つまり全配信コンテンツのリクエスト回数の合計のうち、NexToneの管理楽曲を含むコンテンツのリクエスト回数が占める割合と読めます。さらに、実際には、1つのコンテンツにNexToneの管理楽曲以外の楽曲が使用される場合には、NexToneの管理楽曲が(そのコンテンツで使用される)楽曲全体で占める割合を踏まえた、2段階目の按分も行われており、NexToneの管理楽曲の貢献度に応じたフェアな使用料の算出が行われているといえそうです。
これに対し、JASRACは、「月間の情報料」の評価方法につき、使用料規程上の明記はなく、原則としては、「配信サイトにおける全収入を対象とする想定する一方、『管理楽曲の使用状況(管理楽曲が使用される作品の割合など)によっては、一定程度の按分の余地はある」という立場を事実上とっています。つまり、JASRACの管理楽曲を使用するコンテンツの割合がごく少ない場合には、「月間の情報料および広告料等収入」のうち一定割合の金額を「月額の情報料」と評価するようJASRACと協議する余地があるということです。
もっとも、JASRACの管理楽曲の使用コンテンツの割合がいくら少なくても、月間の情報料収入の50%を下回ることはないようであり、この点は、NexToneの方が、実態に応じた使用料を算出することが可能といえそうです。

いずれにしても、メディア型の場合、配信予定のコンテンツにおいて、JASRACなりNexToneなりの管理楽曲が使用される割合を大まかに把握し、その数字をもとに、早い段階で各管理団体との協議を進めることが必要でしょう。他方、プラットフォーム型の場合、フィンガープリント技術により、JASRACやNexToneの管理楽曲の使用実態を把握することができるのかが課題となり、把握が困難な場合には、実際の使用情報にかかわらず、規程通りの支払が必要となるという心づもりも必要になるでしょう。

●おわりに

以上のように、コンテンツ配信サービス(メディア型/プラットフォーム型)を検討される際に思い出して頂きたい、いくつかの法的留意点/tipsを、思うままに紹介してきましたが、そろそろ(筆者の)時間切れです。当初は、利用規約や投げ銭サービスについても書けたらと思っていましたが、これらは、いつか後編でご紹介できたらと思います。

(たぶん)後編に続く。

以上

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