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コラム column

2019年7月 9日

その他の実体法IT法

「転売社会の法的問題
     ~転売、転売目的の購入はどこまで自由なのか~」

弁護士 福井健策(骨董通り法律事務所 for the Arts)

一体、どこで道を間違ったのか。

いや最初は、確かにエンタテインメント法だった。チケットの高額転売問題だ。社会問題になった一昨年ごろから問い合わせが増え始め、チケット不正転売規制法の成立・施行オリンピック抽選と、ずいぶん取材も頂いたし解説もした。
更に、限定グッズのフィギュアや人気デザイナーとのコラボTシャツで次々と買占め・転売が騒動になっても、十分アニメ・ファッション法の範疇だし、消尽論など著作権の議論も関わる。取材を受けても、まだ違和感はなかった。
だが、先週からはついにどら焼きの高額転売である。
どら焼きを買い占めて転売する輩にも驚いたし、7倍の値で買う人にもどれだけどら焼き好きなんだと驚いたが、何より驚いたのは「どら焼きの転売に詳しいヒト」として画面に映っている自分に対してである。
どら焼き転売弁護士――。
なぜ、いつ、こうなってしまったのか。人生のどの分かれ道で間違ってしまったのか。

背景:転売社会の到来

が、考え始めるとこれは情報社会のかなり根幹に触れる問題だ。人々の関心も高いし、今後の物流のありようにも直結するだろう。
なぜここまで転売が社会問題化するのか。言うまでもなく、背景には「シェアリング/CtoC」をめぐる流通の変革が横たわる。今やメルカリに代表されるフリマアプリ、オークションサイト等のユーザー同士のデジタルマーケットの爆発的広がりで、誰もが簡単・安全にどんな商品でも出品でき、購入できる。それは素晴らしいことなのだが、同時にこのメルカリ経済圏は今のところ影の部分をも生み落としている。買占めと高額転売だ。
ICT技術で買占めや転売の手間を節約できることもそうだが、「誰でも容易に最高値の転売先とつながれること」の影響は大きい。つまり、かつてはどら焼きの転売は恐らくたいした商売にはならなかった。150円のどら焼きに800円出そうという買い手は容易に見つからないし、そうこうしている間に商品が傷んでしまうからだ。しかし今やアプリで800円と書いて出品し、例えば遠隔地にひとりでも800円出しても良いと思う人があれば良い。検索とリコメンドによってこの売り手と買い手はただちにつながり、安全に決済して商品を引き渡せる。身元すら知られない。だから誰でも転売で利益を出せるし、それを見越して買占めに走る人も増えた。無論、無数の「素人転売ヤー」達に混ざって、反社会勢力の進出も垣間見える。
今後も、特に人気商品やイベント、限定グッズなど供給が限定された商品では、この流れは当面止まらず、買占め・高額転売をめぐる混乱は繰り返されそうだ。社会は、この新たに出現した問題との対処を考えないといけない。
ところが、驚くほど文献が少ない。
もうここまで来ればしょうがないので、取材で答えた内容を中心に「転売社会の法律問題」をまとめてみた。ジャンルを横断して俯瞰するよう努めたが、どうやらなかなか一筋縄ではいかない。不足や誤りなど指摘頂きたいし、今後も随時拡充して行きたい。

法律:転売は原則自由、一部商品では規制あり

まず、許可のない転売を一般的に禁止する法律はない。「買ったものを売る」のは市場経済の根幹だからだ。ちなみに、書籍やCDのような著作物でも「ファーストセイル」といって、この原則は貫かれている(海賊版は別)。

ただし、ジャンルによって、買占めの弊害や転売の危険が大きい分野には特別な法律で規制がある。チケットは不正転売禁止法が施行されたし、オリンピックもあり社会の関心は非常に高い(解説はこちらこちら)。人気の日本酒「獺祭」が、「定価で買って欲しい」旨を新聞の全面広告で呼びかけて反響があった酒類や、医薬品など販売に免許が必要な商品もある。許認可が必要な商品の情報は、見た中ではこちらが充実しているが、多くの商品は原則転売は自由だ。
食品販売もジャンルによっては食品衛生法で免許が必要だが、どら焼きなど菓子類の販売は東京都では対象外だ。よってどら焼きには製造はともかく販売免許は必要ない。ただし、消費期限切れなど不衛生な食品を販売すれば食費衛生法上、最高懲役3年などの刑事罰があるので注意が必要(6条・71条1項1号)。不正確な消費期限などの表示をおこなって販売した場合にも、規制・罰則がある(食品表示法5条・6条ほか)。

この関連で、古物営業法の規制は重要だ。衣類・宝飾品・書籍・金券その他幅広い物品の「古物」、つまり一度使用されたか、新品でも使用のために譲渡されたものは反復継続的に売買するなら古物免許が必要だし、さまざまな規制もある。チケット転売でも、この免許を所持せずに「嵐」コンサートなど約1000万円分を売買したとされる女性が北海道警に逮捕された例がある。メルカリなどで日常的に売買している方は、免許取得を考えた方が良い(対象商品と解説はこちら)。
もっとも、従来の通説は、使うために譲渡されたのでないもの、つまり最初から転売目的で新品を購入したような場合は古物ではないので、転売営業に免許はいらないというもの。これだと、多くの転売ヤーは免許不要となりそうで、論点である。

転売目的での購入が問題になるケース

これで話は終わりではない。商品の種別を問わず、転売目的での購入(やその後の転売)が法的に問題になるケースはあるのだ。

第一に、転売目的を隠して購入したことによる詐欺等の可能性だ。転売禁止の規約がある場合はもちろん、店頭で「転売目的はお断り」とはっきり表示されているのに、転売目的を隠して購入する行為を考えてみよう。あるいは「ひとり1点まで」と限定がついているのに、バイトを雇って多数の商品を購入するケースでも良い。この場合、実は転売目的だとか、本当は同一人が10点購入するとわかっていればお店は売らないだろうから、これはいわばお店をだまして商品を得ていることになる。つまり、詐欺罪の可能性があるのだ。
なに、代金は払ってる? 実は通常の詐欺罪(一項詐欺という)の場合、対価を払っていても、だまして物を入手すれば成立するという見解が有力だ。実際、兵庫県警は今年1月までの時点で、「転売目的を隠したチケット購入」でサカナクション、嵐、東方神起などのべ9件の逮捕摘発をおこなっており、有罪判決も既に出ている。更に6月にも吉田拓郎のコンサートチケットを、転売目的を隠して購入した容疑で男性が同県警に逮捕されるなど、チケットのケース中心だが転売ヤーの詐欺での逮捕や有罪事例は少なくない。(同じ理屈で業務妨害など他の犯罪の可能性もあるが、ここでは省略。)

第二に、契約違反の可能性だ。例えば、ユニクロのコラボTシャツの買占め転売が問題になったことがあるが、ユニクロのオンラインの利用規約では、「転売目的の購入は禁止」と明記がある。購入する人は誰しも規約に同意クリックしてアカウントを作るだろう。規約は、不当に一方的な条文でない限りは有効だろうから、購入者はユニクロと転売しません、という約束、契約を交わしていることになる。つまり契約違反。チケットなどはこの規約違反で無効化されたり、入場を拒否されたりすることは日常茶飯事だ。

そもそも転売は悪いのか?

しかし、ここで原点に戻ってちょっと気になって来る。転売って、そんなに悪いことなのか?購入した物に高値がつく、それを転売する。そんなことは自由な経済活動だろうという疑問だ。
一体、販売元や多くの消費者はなぜ高額転売に怒っているのか。それが多くの場合、数が限定された商品の買占めと結びついているからだ。供給が社会の需要とマッチしていれば、欲しい人はみな定価で手に入れられるはずであり、それに高値なんてつけたって売れるはずがない。
しかし、人気コンサートのチケットのように定員が限定されていたり、人気店の商品・限定グッズのように供給が限られている商品は違う。それが買い占められたら、欲しいのに手に入らない人々は高い値で買うしかない。だから限定された商品を買い占めて高額の値をつければ儲かるのだ。しかも買い手の懐を痛めたその上乗せ分は、買占めをした輩の不労所得になるだけで、作り手には全く回らない。

高値で売り出せばいいじゃないか?

ここで更に意見が出る。ならば最初から高い値を付けて売り出せば良い。価格が上がれば需要は落ち、やがて供給量とバランスするのだからそこで売り出せば転売なんて出来ないだろうという意見だ。
筆者もそう思う。がんばって人気が出たのだから、高く売れば良い。でも、そうしないで安値を維持しようとする売り手が愚かだとは思わない。
そうだろう。どこの世界に安値を維持しようとする作り手を批判する社会があるのか。かつて前述の「獺祭」の社長と某所で共演したことがある。年に一度しか飲めない高級酒ではなく、今晩の晩酌の楽しみに食卓に並ぶお酒でいたい、と彼は言った。だからリーズナブルな価格を維持し、高額転売する業者には売りたくない。
少なくとも、それはひとつの酒蔵の方針として尊重されるべきだ。
チケットだってそうだろう。ジャニーズやプロスポーツがなぜ実勢価格を下回る価格のチケットにこだわるかと言えば、その価格でなければ買いにくいファン達の顔が見えているからだ。ライブや試合の盛り上がりにとって、彼らの存在は決定的だとわかっているからだろう。立派な企業戦略だと、筆者は思う。ただ、IT技術の急速な発達の中、買占めと転売を防止できなくなっただけだ。

プラットフォームの責任、購入者の責任

ここで、議論は転売に場を提供するプラットフォームに向かう。フリマアプリやオークションサイトなど、多くの転売プラットフォームは、盗品が出品されることには神経を尖らせる。実際、盗品の出品による刑事事件も多いのだから、これは社会常識としても当然だ。
だがそれだけではない、盗品と知りつつ売買を仲介したり、盗品と知りつつ購入するのは犯罪なのだ。刑法251条、「盗品等関与罪」という。その法定刑は実に最高懲役10年。窃盗や詐欺じたいと同じ重さだ。それも無理はない。歴史的に盗品や詐欺で入手した品は、これを買い取って換金してくれる故買屋という商売なしには成立しなかった。窃盗犯・詐欺師の陰には常にその「買い手」がいるのだ。だから、知りながら買い受けたり、売買を斡旋する者は現在でも厳しく処罰される。転売プラットフォームが神経をとがらす所以である。

そして、そうなのだ。この犯罪の対象には、「詐欺によって取得された物」も含まれる。よって、前述のように転売が禁止されている商品を転売目的を隠して購入したのが明らかな場合などは、盗品と同様にそれを買い受けた方や売買を斡旋したプラットフォームにも、(理論上は)処罰の可能性があることになる。
少なくとも、盗品の売買防止と同じ程度には、プラットフォームも転売ヤーによる高額転売品には注意を払う必要が出て来るのだろう。購入者も、明らかな買占め・転売商品を購入することには注意したい。

以上、とりあえず高額転売をめぐる法的問題を概観してみた。売り手としては、まずは(買占め・転売が困る商品であるならば)「転売目的は禁止」という目立つ表示や、規約の整備といった自衛策がスタートになろうか。ここでも、情報社会は利便性と弊害の防止という、最適のバランスを問われている。

以上

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