2021年4月28日
「話題のNFT。権利関係を見てみよう」
弁護士 岡本健太郎 (骨董通り法律事務所 for the Arts)
最近何かと話題のNFT。アート、音楽、ゲームなど、様々なコンテンツを対象としてNFTが発行されています。コンテンツや参加者の広がりに加えて、Twitterの創始者Jack Dorsey氏の初ツイート(約3.1億円)、Beeple氏のデジタル作品(約75億円)など、高額で取引されたNFTも存在します。一方、無権限者がNFTを発行する事例もあるようです。現状はNFTに過熱感も感じるものの、今後も様々な利用が予想されます。本コラムでは、対象コンテンツや権利関係を中心に、NFTを考えます。
◆NFTの概要
NFT(Non-Fungible Token)は、代替不能なトークンなどと訳され、ブロックチェーン技術を利用して、デジタルデータを、代替性のない固有の価値を有するものとして流通させるものです。
デジタルコンテンツは、コピーが簡単です。また、コピーされたデジタルコンテンツは、区別がつき難いことから、希少な「一点物」としての価値付けが困難でした。一方、ブロックチェーン技術により、こうしたデジタルコンテンツに個性を与えることが可能となりました。NFTは、デジタルデータに「オリジナル」、「一点物」といった証明を行うことにより、それに伴う価値付けをしていくものです。
絵画などのアート作品には、かなり高額なものも存在します。もちろん、作品としての素晴らしさやアーティストの評価が大きな要素ですが、そのほかに、作品の有限性・希少性も高額な理由として挙げられます。NFTにより、デジタルコンテンツにも有限性・希少性を付加することができ、従来のアート作品とデジタルコンテンツの垣根が低くなっていくように思われます。
アート作品は、原作品だけでなく、少数のリトグラフ、大量生産されるポスター、絵葉書など様々な形や場面で利用されることがあります。NFTの利用により、デジタルコンテンツの価値が高まれば、アート作品と同様に利用の幅が広がるのかもしれません。
NFTは、ブロックチェーンの1つである、イーサリアムのERC-721という規格で発行されることが多いようです。
◆NFTの保有
NFTの購入者は、多くの場合、①対象コンテンツのファイル(例:画像ファイル)と②①の権利関係を示したトークン(NFT)を取得します。NFTを購入した状態につき、「所有」、「保有」など、様々な言い方がなされます。NFTの「保有」とは、どういった意味でしょうか。
「所有権」とは、ある特定の物を全面的に支配する権利などとされており、「物」とは、動産、不動産などの有体物をいいます(民法85条)。一方、NFTの対象は、コンテンツなどの「情報」(無体物)ですので、所有権の対象ではありません。
また、所有権の概念を一部利用したものに、著作権があります。しかし、所有権は、物が滅失しない限り存続し得るのに対して、著作権には「著作者の死後70年」などの保護期間があります(著作権法51条以下)。その他にも、所有権と著作権は、権利の発生原因、人格権の有無等の点で異なります。絵画を購入した場合には、絵画の「物」としての権利(所有権)は購入者に移転しますが、「情報」についての権利(著作権)は著作権者に残ることが通例です。所有権と著作権は別個に存続し得るのです。
NFTは、著作物以外も対象にできますし、上記①及び②からすると、対象コンテンツに紐づくものの、対象コンテンツ自体の権利とは異なります。NFTの「保有」とは、契約関係に基づく法的地位のようなものだと考えています。NFTに関する権利関係は、NFTサービスを提供する事業者の利用規約等に規定されています。その検討の視点として、例えば以下が挙げられます。
◆NFTの利用
NFTを購入する動機は、NFTを保有すること自体の満足感のほか、価格上昇への期待、転売等、様々だと思われます。中には、限定のレコードアルバム、ピザの一生無料券などの特典付きのNFTもあり、こうした特典が目的の場合もあるかもしれません。その他に、NFTの購入者は、対象コンテンツを観るだけでなく、複製、配信、商品化等の様々な利用を期待している可能性があります。しかし、こうした利用の可否は、利用規約等に基づく各NFTの条件次第です。
著作物の利用方法は様々です。「読む」、「観る」、「聴く」といった行為には著作権者の許諾は不要ですが、「複製」、「展示」、「上映」、「公衆送信」(≒インターネット配信)、「翻案」(≒新たな著作物の創作)などの一定の行為については、原則として、著作権者の承諾が必要です。対象コンテンツの著作権が原著作者に残されたまま発行されるNFTも少なくありません。このため、NFTの購入者は、対象コンテンツを利用する際にも、NFTサービスの利用規約等を事前に確認しておくとよいでしょう。
なお、著作権者は、「美術の著作物」及び未発行の「写真の著作物」について、「原作品」により公に展示する権利を保有する一方(著作権法25条)、「美術の著作物」及び「写真の著作物」の「原作品」の所有者又はその同意取得者は、著作権者の承諾がなくても、「原作品」を公に展示できます(同法45条1項)。
「原作品」には、一品制作品だけでなく、版画、彫刻などの複数のオリジナル・コピーがある場合には、こうしたオリジナル・コピーも含まれると解されています。ただ、作家のサインやシリアルナンバー付のリトグラフなどもあり、どこまでが「原作品」に含まれるか、明確な線引きはありません。数量限定で発行されるNFTも、特に、その対象コンテンツがNFT用の描き下ろし作品であれば、言葉の響きからは「原作品」と言えるようにも思われます。
しかし、「原作品」とは、有体物を想定したものですので、NFTは「原作品」とはいい難いように思われます。また、作品のインターネット配信は、公衆送信権(23条)の問題となり、映写は、上映権(22条の2)の問題となるなど、「展示」とは異なります。NFTサービスの利用規約によっては、NFTの購入者であっても、対象コンテンツをインターネット配信、映写等するには、著作権者の承諾が必要となり得るでしょう。
◆対象コンテンツの著作権
NFTは、アート、音楽、ゲーム、デザインなど、様々なコンテンツを対象としています。家屋のデザインも、NFTで取引されているようです。
話題となったNFTの1つに、Beeple氏のデジタルアート「Everydays: The First 5000 Days」があります。老舗オークションハウスであるクリスティーズでの取引であること、落札額が約75億円と高額であり、現存アーティストのオークション記録第3位あったことも話題となった要因です。そのほか、Damien Hirst氏などの著名アーティストも、NFTの利用を表明しており、取りやめとなりましたが、村上隆氏も、NFTの発行を検討していたようです。
世界最大のNFTプラットフォームといわれるOpen Seaを覗いてみましたが、NFTが取引されているデジタル作品の中には、比較的シンプルなイラストやドット画もありました。
その他にも、NFTの対象作品には、Pak氏による灰色1×1ドットのデジタルアート「The Pixel」もあります(オークションでの落札価格は、なんと約1.5億円です!)。Jack Dorsey氏による最初のツイート「just setting up my twttr」も、5語の短く、ありふれた表現です。これらのNFTは、高額で取引されているため、経済的価値はあるのでしょう。ただ、その対象は、ありふれた又は創作性の乏しい作品であり、著作物性は否定されるように思われます。
The Pixel by Pak | Jack Dorsey氏のツイート
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なお、トレーディングカードもNFTの対象とされています。NBA Top Shotは動画のようですが、静止画のカードも存在します。ゲーム内で利用されるカードもあるでしょう。こうしたカードの著作物性も問題となり得ますが、ゲームで利用される「プロ野球選手のカード」等について著作物性を前提に判断した判例(知財高判平成27年(2015年)6月24日)もありますし、人物が被写体であれば、人物や写真の内容次第では、肖像権、パブリシティ権等も発生し得ます。 そのほか、会社のロゴマークなど、商標権が付されたコンテンツもあるでしょう。
◆対象コンテンツの不正利用
NFTの対象コンテンツには、購入者以外がダウンロード可能なものもあります。例えば、上記のBeeple氏の作品も、ファイルがIPFS(InterPlanetary File System)に記録されており、ダウンロード可能です。
これは、NFTが、ハッシュタグ上の情報として、対象コンテンツ自体は保有しておらず、その保存先(URL等)を保有しているための代替的措置のようです。また、アーティストは、第三者によるNFTの購入後も、URL等に保存された作品の変更、削除等が可能です。一方、その結果、NFTの購入者は、作品にアクセスできなくなる等の不具合が生じます。こうした不具合の対策として、作品のデータを保持するために、データの改ざん等が制限されるIFPSが利用されているのです。
IPFSからダウンロードした作品データは、技術的には、誰でも複製(保存)、公衆送信、翻案等が可能です。また、NFTとして出品された作品のデータも、ウェブサイト上にあれば、NFTの購入者以外も複製(保存)、公衆送信、翻案等が可能です。このように、NFTの発行に伴い、対象コンテンツが流通し、無権限での複製、配信、商品化などの不正利用が増える懸念もあります。場合によっては、無権限者がNFTを発行することもあるでしょう。
(1) 対象コンテンツの不正利用
NFTの対象コンテンツに著作権がある場合には、著作権者は、無権限者の不正利用(複製、配信、商品化等)に対して、著作権侵害を理由とする損害賠償、差止等の請求があり得ます。しかし、対象コンテンツに著作権がない場合には、著作権侵害を理由とする請求は困難です。肖像権、パブリシティ権、商標権等についても同様です。
また、対象コンテンツに著作権が発生する場合でも、権利主張の主体が問題となり得ます。NFTの購入者も、購入に際して、対象コンテンツについて著作権の譲渡を受けていなければ、無権限者の不正利用に対する著作権侵害を理由とする請求は容易でないかもしれません。NFTの保有関係がライセンスか否かはさておき、著作権法上は、独占的ライセンシーであっても、著作権者の差止請求権等を代位行使することは明示的には肯定されておらず、契約上の手当が必要と解されています。[1]
(2) NFTの無権限発行
一般的に、ある著作物のURLを記載してリンクを貼る行為は、その著作物の所在を示しているに過ぎず、著作権侵害にはならないと考えられています。このため、NFTの発行に際して、対象コンテンツの保存先URLをハッシュタグに記載すること自体は、著作権侵害にはなり難いようにも思われます。
一方、違法コンテンツにリンクを設定する行為は著作権侵害の幇助となり得る上(大阪地判平成25年(2013年)6月20日、札幌地判平成30年(2018年)6月15日)、そのコンテンツの表示によっては、著作者人格権侵害となる可能性もあります(最判令和2年(2020年)7月21日)。また、NFTの発行に際して、対象コンテンツの複製、公衆送信等の著作権侵害行為が介在している可能性もあります。
無権限者によるNFTの発行を制限する考え方について、実際の発行態様や先行する類似判例も踏まえつつ、整備が必要と思われます。
上記のような不正利用、無権限発行等への対策の観点から、NFTの対象コンテンツ、利用規約等の検討の視点として、例えば以下が挙げられます。
◆おわりに
今回は触れませんでしたが、NFTについては、上記のほかにも、例えば以下のような法的論点があります。現状、多くのNFTは、以下に該当しない前提で発行されるものが多いようにも思われますが、個別の事案においては、具体的な検討が必要です。
また、最近では、RFT(Re-Fungible Token) という、複数人でNFTを保有するスキームもあり、製作委員会的との評価もあるようです。製作委員会方式での資金調達については、金融商品取引法の適用が問題となり得ることもあり、金融庁が考え方を示しています。このように、新たなスキームを利用する場合には、特に様々な法的論点の検討が必要となります。
筆者は、コンテンツ企業が参加するJapan Contents Blockchain Initiativeというコンソーシアムにおいて、著作権流通部会 部会長を拝命し、参加企業の方々とブロックチェーン技術を利用した著作権流通のあり方を検討しています。技術や仕組みと法律の両輪で、NFTも(適正に)盛り上げていきたいと思っています。
以上
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