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コラム column

2021年10月29日

著作権メディアIT・インターネットアートエンタメ

「コンテンツNFT ~権利と収益還元の視点から~」

弁護士  岡本健太郎 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

 昨今、NFTへの注目が高まっています。アート、ゲーム、ファッション、音楽、スポーツなど、様々なコンテンツ分野に利用が広がっているほか、大手企業、有名タレントなどもNFTの取組みを始めています。売買や収集だけでなく、メタバースなどの仮想空間上のアイテム、コンサートのチケットなど、その用途に広がりも見られます。今回は、今後の用途の広がりも見据えつつ、特に、コンテンツ分野で利用されるNFTの権利と収益還元について考えます。

◆NFTとは

 NFT(Non-Fungible Token)は、本年(2021年)4月のコラムでも取り上げましたが、依然として確立した定義はありません。ただ、一般的には、NFTは、「ブロックチェーン上で発行される代替可能性のないトークン」などと言われます。従来のデジタルコンテンツ(例:デジタル写真)は、原本と複製の区別がつけ難く、基本的には、同一コンテンツの複製データに個性はありません。一方、NFTは、トークンに属性情報等を書き込むことにより、デジタルコンテンツに個性や希少性を与えることが可能となります。
 版画その他のエディション作品のように、1つの作品について、複数のNFTを発行することも可能です。

 NFTの代表的なブロックチェーン技術(規格)として、イーサリアムのERC721やERC1155が挙げられます。NFTの基本データとして、①トークンID(各NFTのID)、②保有者アドレス(保有者を示すもの)、③トークンURI(メタデータなどの参照先を示すもの)等があり、対象コンテンツのメタデータ(属性情報)として、(a)コンテンツの名称、(b)コンテンツの説明、(c)対象コンテンツ又はその保存先URL等があります。
NFTの基本データは、ブロックチェーン上に記録されます。一方、メタデータや対象コンテンツのデータについては、①ブロックチェーンに記録する方式(フル・オンチェーン型)もありますが、現状では、下図のような、②ブロックチェーン以外に記録する方式(サーバー保管型)が多いようです。

©Kreation

 ブロックチェーンは、複数のノード(≒ネットワークを構成するコンピュータその他の電子端末)によってデータが保存及び管理されるため、データの改ざんが困難であり、システムの安定性も高いといった特性があります。ただ、基本データなどの軽いデータの取扱いが得意であり、大容量データの記録には不向きです。アート作品などのコンテンツは、大容量のデジタルデータも少なくないこともあり、現状、多くの事例では、上図のように、コンテンツのデジタルデータ自体はブロックチェーンには記録せず、そのデータの保存先URL等の「紐づけ」情報を記録するに留まっています。
 こうしたサーバー保管型においては、アート作品のデジタルデータ等は、AWS等のクラウドサーバーや、IPFS(ブロックチェーンと同様の分散型ストレージ)などに記録されます。なお、特にクラウドサーバーなどでは、運営者や第三者によるデジタルデータの消去、差替え等により、NFTの保有者であっても、元のデジタルデータにアクセス不能となる事態も生じているようです。

◆権利

 NFTを購入しても、対象コンテンツの「所有権」は取得せず、また、多くの場合、「著作権」の譲渡も受けません。対象コンテンツによっては、著作権が発生しないものもあります。

(1) 所有権?

 デジタルコンテンツは、所有権の対象ではありません。所有権とは、所有物の使用、収益及び処分を行う権利ですが(民法206条)、対象は、固体、液体など、形のある有体物です(同法85条)。絵画、彫刻、DVD、書籍などは有体物であり、所有権の対象です。しかし、そのデジタルコンテンツは、形のない無体物ですので、所有権の対象外です。

(2) 著作物/著作権?

 対象コンテンツが著作物となるには、思想又は感情の創作的な表現である必要があります(著作権法第2条1項1号)。ただ、単なるドットや、数語のありふれたツイートなど、創作性の乏しい表現については、著作物性は否定されるでしょう(詳しくは、過去のコラムをご参照)。
 なお、著作物性の有無によって場合分けをすると、議論が複雑化します。このため、以下では、便宜上、対象コンテンツが著作物となる前提とします。

(3) 著作権の帰属

 著作権の譲渡は可能ですが(著作権法61条1項)、「NFTの販売」=「著作権の譲渡」ではありません。対象コンテンツの著作権は、アーティストに残るNFTが多いでしょう。この場合、著作権者は、ある作品のNFTを発行した以降も、例えば、その作品のプリント版の作成及び販売も可能です。一方、NFTの販売に際して、アーティストが、NFTの購入者に対して、対象コンテンツの著作権を譲渡することも可能です。
 また、著作権はアーティスト側に残しつつ、NFTの購入者に対して、対象コンテンツの利用許諾を行うことも可能です。利用許諾の対象も、①プロフィール画像、デジタル空間上での表示や展示に限る、②その他の非商用利用も認める、③一定範囲(例:プリント作品数点の制作及び販売)に限った商用利用を認める、④広範囲の商用利用を認めるなど様々です。NFTの購入者に対して、対象コンテンツの利用をどこまで認めるか。想定するNFTサービスによって、必要な利用許諾の範囲は異なるでしょう。
 

◆権利関係の課題

 NFTの発行や取引に関する権利関係の課題として、例えば、以下が挙げられます。これらの権利関係の課題は、NFTの取引や市場を不安定にし、NFTの価格などにマイナスの影響を与える可能性があります。

(1) NFTサービス(プラットフォーム)間の連携

 利用許諾の条件は、NFTには記録されず、各プラットフォームの利用規約等に基づくことが多いのが実情です。このため、購入したNFTを別のプラットフォームを介して転売する場合や、プラットフォームを介さず、当事者間において相対で転売する場合などには、当初設定した利用許諾の条件が、NFTの転売以降、購入者に引継がれない可能性があります。

(2) 対象コンテンツの著作権の譲渡

 NFTの発行及び購入後に、対象コンテンツの著作権が譲渡され、著作権者が変更することもあり得ます。このような場合であっても、もともと利用許諾(例:コンテンツの二次利用の許諾)を得ていたNFTの保有者は、新たな著作権者に対しても、当初の利用許諾の条件を主張し得ます(著作権法63条の2)。一方、著作権者の変更後にNFTが転売された場合には、これを購入したNFTの保有者は、変更後の著作権者に対して、当初の利用許諾の条件を当然に主張できるわけではありません。

(3) 無権限者によるNFTの発行

 技術的には、著作権者以外もNFTを発行可能です。他人の著作物を無断でコピーする、インターネット上にアップロードするといった場合には、著作権法上、複製権、公衆送信権等の侵害となります。上記のように、NFT上に、対象コンテンツ自体ではなく、その参照情報が記録される「サーバー保管型」が多いこともあり、NFTの発行に際して、対象コンテンツのコピーやアップロードは必須ではありません。このため、発行態様次第では、NFTの発行自体は著作権侵害にはならない可能性もあるのです。
 ただ、実際には、NFTの発行に際して、対象コンテンツのコピーやアップロードの作業が必要なプラットフォームも多い上、NFTの販売に際して、何らかの形で対象コンテンツの表示も必要でしょう。無許諾でのNFTの発行を助長しないよう、敢えてここまでに留めますが、無許諾でのNFTの発行は、著作権等の侵害になる場合が多いように思っています。

(4) 想定数を超えるNFTの発行

 理論的には、アーティストが、ある作品のNFTを発行した後、(別のプラットフォームなどにおいて)同一作品のNFTを発行することも可能です。もともと複数エディションのNFTが発行予定の場合もありますが、事後的に、当初の枠数を超えてNFTが発行される事態もあり得ます。発行数の情報は、必ずしもNFTに記録されませんが、事後的に、想定枠数を超えるNFTが発行されることにより、NFTの希少性が揺らぐことになり得ます。
 アーティストは、「NFTの発行枠」が契約条件の1つであった場合には、発行枠を超えてNFTを発行することは、購入者との契約違反になるでしょう。プラットフォームの利用規約に「発行枠を超えたNFTの発行」を禁止する規定があれば、利用規約違反にもなり得ます。
 ただ、希少性が揺らぎ、NFTの価格が低下したとしても、価格低下には、他の様々な要因があり得ます。NFTの購入者は、アーティストに対する損害賠償請求が容易でない場合もあるように思えます。

 こうした権利関係の課題については、NFTサービスの利用規約等での手当が考えられます。例えば、上記(2)から(4)については、①著作権の譲渡を禁止する規定、②無権限でのNFTや想定枠を超えるNFTの発行を禁止する規定、③NFTの発行者による表明保証条項(例:「正当な権利者であること」、「第三者の権利を侵害しないこと」)等があり得ます。上記は比較的一般的な規定ですので、具体的な規定は、サービスの内容、想定されるリスク等に応じて、サービス毎に作り込むとよいでしょう。ただ、それでも、実際には、利用規約に違反するNFTも存在し得ますし、上記のとおり、被害を受けたNFTの購入者も完全には補償され難いなど、取引の安全性の確保には不十分かもしれません。
 また、サービスの構築に関わりますが、サービス事業者自身がコンテンツを収集する、参加するアーティスト等を審査制にするといった対応や運用もあり得ます。
 そのほか、ブロックチェーンの技術を利用した手当もあります。一例ですが、NFT等に許諾条件や発行枠数を記録できれば、これらが契約条件等として明確になり得る上、プラットフォームを跨いだ転売の際にも承継されやすくなり得ます。加えて、現在では、NFTの信頼性向上を目的とした、第三者機関による認定制度 も始まっています。[1]

◆収益の還元

 一部のプラットフォームでは、NFTの販売や転売の際に、NFTの発行者に対して、販売価格の一部を還元する仕組みが採用されています。これもNFTの魅力の1つです。こうした収益還元は、NFT自体ではなく、スマートコントラクトなどのプラットフォームの仕様に基づきます。このため、プラットフォームがサービスを停止した場合のほか、NFTが別のプラットフォーム上で転売された場合には、NFTの発行者への還元が行われない可能性もあります。プラットフォーム間において、還元の仕組みを連携しておく必要があるのです。

 アーティストへの利益還元の制度として、EUなどでは「追及権」(resale right、droit de duiteなど)があります。追及権により、作品が第三者に転売される際に、著作者が取引額の一部の還元を受けられます。EUでは、詳細は国毎(例:イギリスフランス)に異なるものの、追及権の基本設計は欧州指令に規定されています。 概要は、以前のコラムに記載しましたが、追及権が及ぶ範囲について、①作品、②作家、③取引、④金額等の観点から整理してみました。

(1)作品

 追及権は、美術品の原作品及び数量限定の複製品が対象です。ポスター、絵葉書等の大量生産品は対象外です。
 多くのデジタルコンテンツは大量に存在し得るため、追及権の対象外と予想されますが、概念上、数量限定のNFTは追及権の対象とも思えます。例えば、イギリスでは「グラフィックアート又は造形美術」を、フランスでは12コピーを上限として「映像又はデジタルメディア」をそれぞれ追及権の対象としており、数量限定のデジタルコンテンツを排除していないように読めます。

(2)作家

 欧州市民のアーティストが対象です。そのほか、同様の法制度を有する国のアーティストも対象となり得ます。また、フランスでは、市民権がないアーティストでも、5年間、フランスにアーティストとして生活していた場合には、対象となり得ます。
 存命中又は死後70年といった、存続期間の要件もあります。

(3)地域

 欧州域内におけるプロによる二次流通が対象です。プロには、オークションハウス、競売人、ギャラリー、古物商、オンライン・ディーラー等が含まれます。
上記のとおり、二次流通が対象ですので、アーティストからディーラー等への初回取引は対象外です。そのほか、プロであっても、アーティストからの直接の購入者が、購入後3年以内に10,000ユーロ以下で行った取引も対象外です。
 なお、イギリスの追及権は、Brexit以降も欧州域内に及びます。

(4) 取引金額

 一定額(イギリス:1000ユーロ、フランス:750ユーロ)以上の取引が対象です。日本円換算では、10万円近くなると、追及権の対象となり得る感覚です。

 追及権には、その他にも、放棄できない、料率が法定されているといった特徴があります。また、追及権料は売主負担が原則ですが、フランスでは、買主負担も可能なようです。さらには、イギリスでは、追及権料は、DACSACSといった管理団体による徴収に限られますが、フランスでは、Agagpが主たる管理団体であるものの、著作権者自身や他の団体(例:LA SAIFSCAM)による徴収も可能なようです。
 追及権を、NFTのロイヤルティと比較してみました。 

追及権(欧州指令) NFTのロイヤルティ
適用 強制(放棄不可) 任意
料率 法定(販売金額に応じて0.25~4%。但し上限は12,500ユーロ) 任意(10%等の上限付もある)
対象作品 追求権導入国で取引された美術品等 限定なし(音楽、テキスト等にも適用可能)(10%等の上限付もある)
市場 プロによる二次市場 一次市場及び二次市場
作家 欧州など 限定なし
期間 作家の存命中+死後70年 限定なし
還元方法 管理団体を介した還元 スマートコントラクトによる直接還元
継続性 法制度に依存 プラットフォームに依存(?)

 日本に追及権を導入する議論もありますが、アーティストやアート市場にとって強制徴収(追及権)と任意徴収(NFTのロイヤルティ)のどちらが有益かなど、今後の検討課題もあるように思われます。また、NFTの取引に追求権が及ぶか否かについても、さらなる検討を要します。ただ、仮に、NFTの取引に追及権が及ぶとすれば、NFTのロイヤルティに加えて、追及権への配慮も必要となり得ます。両者は異なる制度であるため、そもそもNFTのロイヤルティが追及権料に代替可能かも要検討ですし、仮に代替可能だとしても、NFTのロイヤルティを追及権料よりも低い料率とした場合には、追加で追及権料が発生する事態にもなり得ます。
 日本の作家の作品を取扱う限りでは、追及権への配慮は不要と思われますが、追及権が及び得る取引については、追及権への配慮も必要となるでしょう。

 

◆おわりに

 アートは、必ずしも生活必需品ではありませんが、一般的に、ノートやボールペンなどの実用品よりも高価格です。アートには、日常の有用性である「使用価値」が低いがゆえに、「交換価値」である価格が上がるというパラドックスがあります。「無価値であること」が価値の源泉ともいわれます 。ゲーム、ファッションなど、それ以外のコンテンツはどうでしょうか。[2]

 NFTには、グッズやイベントへの参加権といった特典付もあります。NFTは、ファンとのコミュニケーションなどの実用目的で利用されることにより、「使用価値」が上がる反面、「交換価値」である価格が下がるかもしれません。一見、アーティストにマイナスに思えますが、NFTの投機的要素が抑えられ、価格が安定する可能性もあります。高価格のアートがあるように、高価格のNFTがあることもNFTの魅力の1つです。ただ、NFTの技術や用途の広がりとともに、無償配布されるNFTをはじめ、低価格のNFTも増えるように思われます。
 

 筆者は、昨今のNFTの動向を、西暦2000年前後のインターネットと重ねて見ています。GoogleやAmazonが日本語サービスを始めたのが、2000年です。当時は、海外事業者を含め、インターネット・サービスの開始自体も話題となりました。NFTも同様に、今はその取組み自体が話題となりますが、いずれは当たり前の技術となり、NFTの取組みだけでは話題にはならないでしょう。NFTを使って何を実現し、また、NFTの購入者に何を提供するか。コンテンツ領域においてNFTを実装する目的、NFTサービスの内容等が、より問われる時代になるように思っています。

 

以上

 

[1]コンテンツ企業のブロックチェーンコンソーシアムであるJCBI(Japan Contents Blockchain Initiative)は、コンテンツ企業のウォレットアドレスとコントラクトアドレスの認定事業を開始しました(https://www.japan-contents-blockchain-initiative.org/information/nft_certification)。
 
[2]山本 豊津「アートは資本主義の行方を予言する 画商が語る戦後七〇年の美術潮流」(loc. 123)

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