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コラム column

2024年3月27日

契約メディアIT・インターネットエンタメ映画アニメ

「DAOってなんだお。
 ファン・コミュニティや資金調達の新たな仕組み」

弁護士  岡本健太郎 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

突然ですが、DAOをご存じですか? Decentralized Autonomous Organizationの略で、「分散型自律組織」を意味します。意思決定がメンバーに分散され、メンバーによって自律的に運営される組織です。株式会社などの従来型組織では、経営陣などがいわば中央集権的に意思決定を行うことが通常ですが、DAOは、それとは対極的な運営形態です。
ブロックチェーンを利用したWeb 3の世界では、いくつかの組織がDAOとして運営されています。また、DAOについては、法改正が進行中です。今回のテーマ選定は、タイトルの駄洒落が頭から離れなかったのが主な理由ですが、本コラムでは、熱を帯びつつあるDAOについて、ファン・コミュニティや資金調達の視点も交えながら検討します。

本コラムの目次

1. DAOについて
(1) DAOとは
(2) DAOあれこれ
(3) DAOとトークン
(4) DAOと組織形態

2. 映像制作における資金調達
(1) 一社調達
(2) 製作委員会
(3) クラウドファンディング
(4) ふるさと納税 / 企業版ふるさと納税

3. 各資金調達手段×DAO
(1) 製作委員会
(2) クラウドファンディング
(3) ふるさと納税 / 企業版ふるさと納税

1. DAOについて

(1) DAOとは
DAOについての明確な定義はありませんが、概ね以下の特徴を有する組織と考えられます。

① 中央集権的な管理機構がないこと
② コミュニティのメンバーによって、自律的に組織運営がなされること
③ 組織運営において、ブロックチェーンが利用されること

DAOでは、組織運営に必要な事項について、メンバーが意思決定を行います。イーサリアム財団は、DAOを、「共通の目的のために集団が共同で所有し、ブロックチェーンで運営・管理された組織」と説明しています。経営陣などによる中央集権的な組織運営はなされず、メンバーが直接的に組織運営に参加するのです。メンバーが多数の場合には、こうした直接的な組織運営は大変でしたが、ブロックチェーン技術により容易になりました。
DAOは、顔の知れない不特定多数者による運用に馴染みます。DAOでは、メンバーを信用する必要はなく、透明かつ誰でも検証可能なコードだけを信用すれば大丈夫といわれています(イーサリアム財団)。とはいえ、DAOは、顔の知れた比較的少数の関係者による組成や運用も可能です。

(2) DAOあれこれ
DAOには様々な種類があります。DAO Landscapeは、こんなカオスマップを提供しています(2021年時点のもの)。

DAOは、慈善事業、共同所有、金融などにも利用されています。ただ、以下のように、エンターテインメント分野のほか、地域創生、空き家対策などの社会課題への取組みにも利用されています。

① あるコンテンツのファン(NFTの保有者など)に、コンテンツの利活用、コミュニティ運営等に関する提案や投票を認め、投票結果に応じてコンテンツの利活用等を図る(例:BAYC)。

② メタバース上の土地を販売し、その土地の保有者に対して、メタバースの開発方針、アイテムの種類などに関する提案や投票を認める(例:Decentraland)。

③ ゲームのプレイヤーにトークンを発行し、トークンの保有者に、ゲームのエコシステムに関する提案や投票を認める(例:Axie DAO)。

④ メンバーが共同購入するアート作品を決定し、共同でアート作品を購入及び保有する(例:PleasrDAO)。

⑤ トークン(NFT)の保有者をデジタル村民と捉え、村の運営についての提案や投票を認める(山古志DAO)。

⑥ トークンの保有者に神楽坂などにあるシェアハウスの利用を認め、運営予算の使い道等について、投票で決定する(RooptDAO

メンバーは、自身の関心分野における意思決定に参加できるほか、コミュニティが活性化し、コンテンツの価値が向上すれば、参加権(トークン)の売却、利益の分配などによる収益獲得も期待できます。従来からファン・コミュニティはありますが、DAOによって意思決定や収益分配に関与しやすくなり、その結果として、コミュニティへの帰属意識が高まる効果も期待されます。

(3) DAOとトークン

DAOの運営には、ブロックチェーン上のトークンの一種である、ガバナンストークン等が利用されます。「トークン」とは、ブロックチェーン上で発行されたデジタル資産、権利証などを意味します。また、「ガバナンストークン」とは、投票権として機能するトークンで、プロジェクトの運営事項の決定に利用されます。サービスなどに利用されるトークンは「ユーティリティトークン」などといわれ、ガバナンストークンは、ユーティリティトークンの一種でもあります。

ガバナンストークンは、多くの場合、スマートコントラクトによって管理されます。「スマートコントラクト」とは、予め設定されたルールに従って、ブロックチェーン上又はブロックチェーン外の取引や情報を契機に自動的に実行されるブロックチェーン上のプログラムです。DAOにおいては、トークンの保有者から十分な賛成票が集まった場合に提案が可決され、予め設定されたプログラムに沿って、その提案が実行されるイメージです。

とはいえ、DAO内で投票し、決定する議題は、比較的シンプルなものもあれば、複雑なものもあります。また、DAOの組成時点で予測可能な議題もあれば、運営の過程で生じる議題もあります。このため、少なくとも現状では、議題の全てを予めスマートコントラクトに盛り込まず、その都度、ブロックチェーン外(≒オフチェーン)で議題を定めることを想定しつつ、投票の仕組みとその後の実行のみをスマートコントラクトに組み込む運用もよくあるようです。
例えば、Discordというサービスは、DAO内での議論などにも利用されますし、Snapshotというサービスは、DAOでの議論や投票に利用されます。

なお、トークンには、上記のような投票機能のほかに、利益の分配、代金の支払(決済)等の様々な機能を持たせることも可能です。ただ、例えば、利益分配機能を持たせる場合には、みなし有価証券(「電子記録移転有価証券表示権利等」やその一種である「電子記録移転権利」)として金融商品取引法の規制対象となる可能性があり、代金支払機能を持たせる場合には、暗号資産として資金決済法の規制対象にもなり得ます。投票機能を超えて、こうした機能を持たせる場合には、金融規制等への対応も必要となり得ますので要注意です。

ちなみに、詳細は割愛しますが、NFT(Non-Fungible Token)は、不特定者に対する代価の弁済等に使用されなければ暗号資産にはあたらず、暗号資産に関する資金決済法の規制もかかりません。例えば、①利用規約又はシステム上、決済手段としての使用を禁止している、②対価が1000円以上又は発行数量が100万個以下といった実態があれば、暗号資産と解釈されにくくなります(「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)」(16 暗号資産交換業者関係)、パブリックコメントの結果)。

(4) DAOの組織形態
DAOは、分散型自律組織ですが、「組織」といっても、いわば組織運営ツールであり、様々な組織形態に応用可能です。

日本では、組織形態として、例えば、①株式会社、②合同会社、③一般社団法人、④一般財団法人、⑤特定非営利活動法人(NPO法人)などの法人のほか、⑥民法上の組合、⑦有限責任事業組合、⑧権利能力なき社団などの法人以外の形態もあります。これらの組織は、(a)法人格の有無(法律上の権利義務の主体となり得るか否か)、(b)出資者の責任の範囲(有限責任/無限責任。出資額以上に責任を負うか否か)、(c)組織運営に認められる自由度、(d)メンバーの変動の容易性など、様々な点で異なります。

例えば、製作委員会などに利用される「民法上の組合」(民法667条1項)は、組織運営の自由度は高い一方、メンバーが無限責任を負い、法人格はありません。その結果として、厳密には、製作委員会名義での資産の保有はできません。一方、エンタメ分野での資金調達手段としても稀に利用される「合同会社」(日本版LLC。会社法575条以下)は、組織運営の自由度は比較的高い一方、メンバーは有限責任であって出資額以上の責任を負わず、法人格も認められますので、合同会社名義での資産の保有も可能です。

金融庁は、トークン化された合同会社の社員権について、一定の場合に、通常の合同会社等の社員権と同等の規制とするため法改正を進めています(パブリックコメント)。トークンを利用して合同会社を設立する場合にも、従来の合同会社と同様の仕組みとするようです。

2. 映像制作に関する資金調達方法

DAOについてざっと纏めたところで、エンターテインメント分野、特に映像制作に関する資金調達方法に話を移します。ここでは資金調達手段として、以下を検討します。

① 自己資金、借入れなどによる1社での調達
② 製作委員会による複数社からの調達
③ クラウドファンディング
④ ふるさと納税/企業版ふるさと納税

「ゴジラ」などは、製作会社が単独で資金を拠出していますし、最近では、アニメ「チェンソーマン」の制作費を、制作会社のみが負担したことが話題になりました。ただ、資金調達の手段としては、依然として製作委員会方式が多い印象です。
また、映画などでは資金調達の手段として、クラウドファンディングや企業版ふるさと納税が利用されることもあります。これらは、製作委員会方式とは異なり、基本的には、不特定多数者から比較的少額の資金調達を図る手段です。とはいえ、アニメ映画「この世界の片隅に」では、クラウドファンディングで合計約7200万円を集めたようです。
また、ふるさと納税は、個人が寄付者となる制度のほかに、企業が寄付者となる企業版ふるさと納税もあります。個人版ふるさと納税は、「ローカル線ガールズ」、「葬式の名人」、企業版ふるさと納税は、「ゾッキ」、「今はちょっと、ついてないだけ」、「カーリングの神様」などの様々な映画にも利用され、ロケ地の獲得や町おこしの効果も期待されます。

(1) 1社調達
映画、アニメなどのコンテンツの制作資金を、制作会社1社が負担します。自己資金を充てる場合もあれば、借入等を行う場合もあるでしょう。
一社調達であっても、例えば原作の映画化、アニメ化等の際には、原作者に対して内容面で配慮し、収益分配が必要となるなど、出資者が全て自由に作品を制作できるわけではありません。ただ、一社調達の場合には、作品の制作、広告宣伝などに際して、複数社が出資する場合と比較して、出資者の意向が反映されやすく、その収益も出資者が獲得します。ただその反面、損失も出資者1社が負担することとなり、リスク分散は限られます。

(2) 製作委員会
複数社で行う資金調達の方式の1つです。民法上の組合が主たる組織形態ですが、合同会社などの組織形態が採られることもあります。民法上の組合は、合同会社などとは異なり、契約書1通で組成が可能であって、登記を含め、法人の設立は不要です。
複数社が出資するため、収益も各社に分配(分散)されますが、リスクの分散も図られます。出版社、テレビ局、広告会社、玩具会社などの様々な業種の企業が出資及び参加することにより、広告宣伝、商品化等の作品の利活用が効率的に行われるといったメリットもあります。

(3) クラウドファンディング
インターネットを介して不特定多数者から資金を調達する手段で、以下に大別されます。

① 「寄付型」 資金提供者が無償で寄付を行う方式

② 「購入型」 資金提供者が製品やサービスを購入する方式

③ 「投資型」 資金提供者が、株式、融資、ファンドなどの形式で投資する方式

映画、アニメなどの資金調達に利用されるクラウドファンディングは、①寄付型や②購入型が多いように思われます。①寄付型については、原則としてリターンはなく、リターンがあっても、エンドロールなどへのクレジット表記といった、非金銭的なものに留まります。このため、集まった資金の多くをプロジェクトに充てられるといったメリットがあります。
また、②購入型については、リターンとして、チケット、グッズなどを提供することがあり得ます。リターンがある点で、寄付型よりも資金が集まりやすい一方、集まった資金をプロジェクトだけでなくリターンにも充てる必要があります。また、金融商品取引法との関係で、リターンは、出資額以下に抑える必要もあります(同法2条2項5号ロ参照)。

(4) ふるさと納税 / 企業版ふるさと納税
「ふるさと納税」(正式名:ふるさと寄附金制度)は、都道府県や市区町村に寄付を行った場合に、一定の限度額まで、2000円超の部分について税金が控除される制度です。返礼品があるものが多く、寄付金に対する返礼品の上限額は寄付金の3割(事務費等を合わせて5割)などと定められています。都道府県や市区町村によるクラウドファンディングへの寄付がふるさと納税となる仕組みや、少し視点を変えたNPO支援の形(例:映画「花筐/HANAGATAMI」)もあります。
「企業版ふるさと納税」(正式名:地方創生応援税制)は、企業が、国が認定した地方公共団体の地方創生事業に対して寄付を行った場合に、最大で寄付額の9割が軽減される仕組みです。全ての映画やアニメの資金調達手段となるわけではなく、地方創生事業である必要がありますし、個人版のふるさと納税と異なり、返礼品などのリターンの提供も禁止されています。また、現状では、2024年度(2025年3月末まで)の制度です。

(5) まとめ
各資金調達手段の特徴を、収益や損失の観点から纏めると、以下のとおりです。ちなみに、「この世界の片隅に」などのように、製作委員会方式とクラウドファンディングなどの複数の手段を併用することもあります。

単独出資 製作委員会
(民法上の組合)
クラウドファンディング(寄付型/購入型) ふるさと納税(個人版・企業版)
出資者 1名 特定少数 不特定多数 不特定多数
出資者の運営への関与 あり あり なし なし
収益分配 制限なし 制限なし 出資額が上限 なし(租税負担の軽減)
損失負担 制限なし 制限なし 出資額が上限 寄付額が上限

3. 各資金調達手段×DAO

さて、本コラムの本題であるDAOに戻ります。複数者による資金調達に際してDAOを利用する場合の留意点です。

(1) 製作委員会
製作委員会方式は、「民法上の組合」などの出資の一形態ですので、「有価証券」とみなされ、金融商品取引法の規制対象となり得ます。ただ、以下の要件を満たす場合には、有価証券とはみなされず金融商品取引法が適用除外とされています(金融商品取引法2条2項5号イ、金融庁:コンテンツ事業に関するQ&A)。

① 出資者の全てが、コンテンツ事業の全部又は一部に従事すること

② 出資者の全てが、当該コンテンツ事業に係る収益の配当又は財産の分配を受けることができる権利のほか、当該事業に従事した対価の支払いを受ける権利又は当該事業に係るコンテンツの利用に際し、自社の名称を表示し若しくは自社の事業の広告・宣伝をすることができる権利を有すること

③ 上記契約に基づく権利について、他の出資者に譲渡する場合及び他の出資者の全ての同意を得て出資者以外の者に譲渡する場合以外の譲渡が禁止されること

「コンテンツ事業」とは、映画、音楽、演劇、アニメーション等のコンテンツについて、以下のいずれかの行為を業として行うこととされています(コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律2条2項各号参照)。

・ コンテンツの制作

・ コンテンツの複製、上映、公演、公衆送信その他の利用(コンテンツの複製物の譲渡、貸与及び展示を含む)

・ コンテンツに係る知的財産権の管理

参加者が比較的少数の場合には、製作委員会契約やその運営の一部をDAOで代替することもあり得そうです。ただ、参加者が多数の場合には、色々は配慮も必要です。
DAOの参加者が、作品に関する収益分配を受け、また、業務の対価が支払われる、作品を利用する際に、自己の名称を表示可能である等の実態があれば、上記②を満たすようにも思えます。一方、DAOのコミュニティ内で、コンテンツの利活用について提案し、その議決に参加するだけでは、「コンテンツ事業の全部又は一部に従事する」(上記①)とはいえない可能性もあります。DAOのメンバーから出資を受けつつ、金融商品取引法の適用除外を目指すのであれば、メンバーが従事する業務内容等につき、検討が必要と思われます。
なお、製作委員会とクラウドファンディングを併用するのと同様に、製作委員会方式によって、コアメンバーで資金調達を行いつつ、ファン・コミュニティなどの運営を目的として、DAOでの参加を募るという構成もあり得るようには思われます。「NFT+投票権」など、金融規制のかかりにくい形のDAOもあり得ます。

(2) クラウドファンディング
出資者に対して、DAOのトークンを配布し、運営への参加を認める仕組みがあり得ます。クラウドファンディングは、ファンなどが応援の気持ちで出資します。DAOにより、運営に参加する仕組みは、クラウドファンディングとも相性がよいように思います。
なお、特に購入型のクラウドファンディングにつき、金融商品取引法の適用除外とするには、出資者にリターンを提供する場合であっても、そのリターンを出資額以下の範囲に抑える必要があります(同法2条2項5号ロ)。

(3) ふるさと納税 / 企業版ふるさと納税
個人版ふるさと納税については、返礼品の提供も可能です。ただ、DAOのトークンを返礼品とするには、その金額を寄付金額の3割以下(事務費等を合わせて5割以下)とする必要がありますし、場合によっては、これまで触れたような金融規制への配慮も必要となり得ます。
また、企業版ふるさと納税については、寄付者に対して経済的利益の提供は禁止されていますが、氏名などの表記や、社会通念上許容される範囲内での記念品の贈答は可能とされています(内閣府地方創生推進事務局「『寄附を行うことの代償として経済的な利益を供与すること』についての解説」問2、Q&A)。
寄付者にDAOのトークンを提供すると、経済的利益の提供となる可能性があります。ただ、収益等の分配がなく、単に投票権のみであれば、経済的な価値は限定的と思われますし、トークンの中には、SBT(Soul Bound Token)などの転売不可のものもあります。投票権のみの転売不可のDAOのトークンを提供したとしても、経済的利益の提供とはされ難いようにも思えます。

4. おわりに

上記のように、特に金融規制との関係で、DAOを資金調達に利用する際には、様々な留意点があります。また、製作委員会方式には、持ち分の分散、利活用の停滞等も生じやすく(福井弁護士のコラムなど)、DAOを通じて多数のメンバーが持分を保有した場合には、こうした問題が顕在化しやすいようにも思えます。
とはいえ、資金調達やコミュニティ運営の選択肢が増えるのは良いことです。DAOの特性を活かした、心躍るコンテンツやそのファン・コミュニティが誕生することを願っています。

以上

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