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コラム column

2022年7月28日

著作権メディア

「~外注しているから大丈夫?~
   おさえておきたい企業の広告と著作権の関係」

弁護士  寺内康介 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

 広告には、写真、イラスト、キャッチコピー、人の肖像といった様々な「素材」が使われ、これらには著作権、商標、不正競争防止法、パブリシティ権、肖像権などが関係します*。
 今回は、このうち特に広告にかかわる著作権、侵害時の責任などを確認し、各関係者が著作権侵害とならないようしておくべき対応を考えてみたいと思います。果たして広告主は、広告制作を代理店や制作会社に外注していれば安心といえるでしょうか。

*その他規制法として、景品表示法、個人情報保護法なども関わり、消費者庁が検討を始めたというステルスマーケティングへの対応も注目されます。

■ 広告に含まれる「素材」の著作権

 広告には、写真、イラスト、キャッチコピー等の「素材」の著作権と、広告自体の著作権が別途発生している場合があります。まずは「素材」の著作権をみていきます。

(1) 写真、イラスト
 広告に含まれる写真やイラストは、多くの場合それ自体が著作物です。著作権は、原則として著作物を創作した者(著作者)に発生しますから、広告制作会社がフリーのカメラマン、イラストレーターなどに「素材」の制作を委託した場合、カメラマン、イラストレーターに写真やイラストの著作権が発生します。

(2) キャッチコピー
 文章は「言語の著作物」となり得ますが、短いキャッチコピーは著作物性が否定される場合があります。ありふれた表現(表現選択の幅が狭いもの)は著作物として保護されないためです。
 例えば、「ある日突然、英語が口から飛び出した!」といった商品販売のキャッチコピーはありふれているとして、著作物性を否定した裁判例があります(東京地判平成27年3月20日)。
 他方、「ボク安心 ママの膝より チャイルドシート」との交通安全標語につき、五七五調であることなどを考慮して著作物性を認めた裁判例があります(東京地判平成13年5月30日。ただし、これと「ママの胸よりチャイルドシート」とのスローガンは類似性がないとして著作権侵害は否定されています)。

 このように、短いキャッチコピーは著作物に当たらない場合もありますが一概にはいえません。
 また、キャッチコピーが商標登録されている場合もあるため商標権侵害には注意が必要ですし、商標登録がなくとも周知なキャッチコピーの模倣などは不正競争防止法違反となり得ます。

■ 広告自体の著作権

 ここでは雑誌広告、チラシ、ポスターその他の静止画(グラフィック)広告と、動画広告に分けてみていきます。

(1) 静止画広告
 静止画広告は美術の著作物となり得ますが、実用目的であること等を理由に著作物でないとした裁判例もあります。

 著作物性肯定例(大阪地判昭和60年3月29日)
 裁判所は、以下の広告について、表現しようとする内容は企業の提供するサービス及び商品を示したにとどまるが、その表現は、全体として一つのまとまりのあるグラフイツク(絵画的)な表現物で見る者の美感に呼びかけるとして、美術の著作物であると認めました。


(判決第一目録より)

 著作物性否定例①(東京地判平成20年12月26日)
 裁判所は、以下のパッケージデザイン(サントリー黒ウーロン茶)について、広告は応用美術であるところ、応用美術*は鑑賞の対象として絵画、彫刻等の純粋美術と同視し得る場合を除いて美術の著作物には含まないとして、著作物性を否定しました(別途、商標権侵害に基づく請求は認められています。)。

* ただし、応用美術(美術を実用品に応用したもの)の著作物性をどうみるかの基準は統一されておらず、「実用的部分と分離して、美的鑑賞の対象たりうる美的特性を備えるか」といった基準を用いる裁判例もあります。本裁判例はこれに比べて狭い基準を用いているといえます。


(判決別紙より)

 著作物性否定例②(大阪地判平成31年1月24日)
 コンタクトレンズ販売事業者のチラシ(左が原告のチラシ、右が被告のチラシ)について、裁判所は、①「検査なしでスグ買える!!」とのキャッチコピー、②買い方比較をマトリックスで表にすることはいずれもありふれており、③商品の説明文も、ビジネスモデルの客観的な背景や方針をそのまま文章で記載したものにすぎない、①~③等の組み合わせも特徴的な手法ではないなどとして、原告のチラシを著作物と認めませんでした(なお、原告は視力検査をする男の子のイラスト自体の著作物性は主張していなかったようです)。


(判決別紙1より)

 このように静止画広告の著作物性をやや狭く解する裁判例もみられます。

 静止画広告が著作物である場合、著作権は広告を創作した者に発生します。そのため、例えば広告主が制作会社に制作を委託している場合、基本的には制作会社に著作権が発生すると考えられます(実際に広告を制作するのは制作会社の従業員であっても、従業員が職務上作成したものは、通常は「職務著作」となり、制作会社が著作権者になると考えられるためです)。

(2) 動画広告
 著作権法上、動画は「映画の著作物」に当たります。この著作権がだれに発生するかはやや複雑です。映画(動画)の著作権は、映画を創作(映画著作物の全体的形成に創作的に寄与)した者ではなく「映画製作者」(映画の製作に発意と責任を有する者)に発生し(著作権法29条1項、同法2条1項10号)、この「映画製作者」がだれかの判断が難しいためです。
 この点、裁判例には、テレビCM制作における「映画製作者」(すなわち著作権者)は、広告主、広告代理店、広告制作会社のうち、広告主であるとしたものがあります(知財高判平成24年10月25日)。この裁判例から,動画広告の著作権は広告主に発生するとの考え(実務の運用)もあり得ますが、あらゆる動画広告の著作権が広告主に発生すると言えるかは、なお検討の余地がありそうです*。

*橋谷俊「判批」著作権法判例百選(第6版)p63、骨董通り法律事務所編「エンタテインメント実務」p81参照

 以上、静止画広告、動画広告の著作物性や著作権の帰属を見てきましたが、いずれも判断の難しい問題を含みます。ただし、現実的な対応としては、広告制作委託の際に、著作権(がもし発生する場合)の帰属や利用許諾の範囲を定めておくことで、関係者間での認識の齟齬は防ぐことができそうです。

■ 広告利用における契約の重要性

 広告にはその「素材」にも著作権をはじめとする権利が発生し、完成した広告自体にも著作権が発生する場合がありました。
 それでは、広告主は、このような広告を自由に使えるでしょうか。逆に、自分が提供した「素材」の利用態様・範囲を限定したいと思うカメラマン、イラストレーターはどうすればよいでしょうか。

 ここで登場するのが契約です。
 発注側の広告主は、より自由に使えるよう著作権譲渡を受けるか(通常その分対価が上がります)、または著作権譲渡まで受けずに利用許諾を得るか、その際の利用範囲をどうするか、カメラマン、イラストレーターの氏名表示(クレジット)をどうするかなどを検討することになります。

 受注側のカメラマン、イラストレーターも、著作権を譲渡してもよいか、トリミングや色合いの変更を許容できるか、氏名表示をどうするか等を検討することになります。

 当然、お互いに自己に有利な条件を強硬的に主張すればよいわけではなく、契約がまとまらないリスクや今後の契約への影響も考慮する必要があるでしょう。また、間に入る広告代理店などは、その下請先となる広告制作会社やフリーランスに対して、下請法が禁止する「買いたたき」とならないよう留意する必要があります * 。

*公正取引委員会・中小企業庁「下請取引適正化推進講習会テキスト」(令和3年11月)p11、p71⑭
例えば、著作権譲渡の対価について十分な協議を行わず、通常の対価を大幅に下回る下請代金額を定めた場合などが買いたたきの例に挙げられています。

■ 著作権の帰属や利用許諾範囲を契約で定めていない場合

 広告主からすると、著作権の帰属や利用許諾範囲を曖昧なままにしておくと、その後の広告利用に制約が生じます。例えば、広告のために提供を受けた写真やイラストを、別の機会の広告・PRに使うことができるでしょうか。

 実際に、住宅メーカーが、ある広告誌(住宅メーカーの関連会社が発行する広告誌)に利用するとして提供を受けた写真を、新聞の宣伝広告に利用したところ、その写真を撮影したカメラマンから「新聞の宣伝広告への利用は許諾していない」などとして損害賠償請求をされた事例があります(大阪地判平成17年1月17日)。
 裁判所は、「著作権者が、その著作物を、ある特定の媒体に使用する前提で使用を許諾した場合に、これと同様の目的であり、また類似の媒体であるからといって、別個の媒体に使用することまで許諾したものと直ちにいうことができないのは当然」(下線部筆者)と述べた上、当該事案の事情からしても、新聞広告への利用許諾があったとは認められないとしました(本事例の損害賠償請求の帰結は後述します)。

 このように、著作権譲渡を受けるのであればその旨を、利用許諾を受けるのであればその範囲を明確に定めておくことが重要といえます。

■ 広告が第三者の著作権を侵害していたら?(広告主、代理店、制作会社の責任)

 企業が自社で制作(内製)した広告が第三者の著作権を侵害していた場合、当該企業が権利者から差止めや損害賠償請求を受けることはわかりやすいと思います。
 それでは、広告制作会社に外部委託をして制作された広告が第三者の著作権を侵害していた場合はどうでしょうか。

(1) 差止請求
 権利者は、著作権侵害をした者に過失があろうとなかろうと、差止め(広告の取りやめ)を求めることができます(侵害主体の範囲の議論はここでは省きます)。
 そのため、広告主が「広告制作会社が作ったものであり侵害していると思わなかった」のだとしても、広告主に対して広告の取りやめを求めることができます。

(2) 損害賠償
 損害賠償はどうでしょうか。
 著作権侵害に基づく損害賠償請求をするには相手方に著作権侵害について故意過失が必要です。それでは、広告制作を外部委託したところ侵害物が納品された場合、委託者に故意過失はあるでしょうか。

広告代理店が広告制作会社やフリーランスに委託した場合(または広告制作会社がフリーランスに委託した場合)

 事案によりますが、広告代理店、広告制作会社は、業務として他人の著作物を取り扱っている以上、委託先からの納品物の権利侵害の有無についても調査、確認をすべきとして、過失が認められやすい傾向にあるといえます。
 なお、広告ではありませんが、出版社やレコード会社も、それぞれ業務として扱う出版物、レコードの著作権侵害の有無について、調査、確認義務違反が認められやすい傾向にあります。これらの会社は恒常的に著作物を扱うことで利益を得ているため、その責任も重くなるとの発想といえます。

広告主

 他方、広告主はこれに比べると過失が認められる場合は限定的な傾向にありますが、責任が肯定された裁判例もあります。

 (責任を否定した例)
 広告主の過失を否定した例として、上記で紹介した大阪地判平成17年1月17日(住宅メーカーが広告制作会社から提供を受けた写真を他の媒体に使用した例)があります。
 裁判所は、広告主は自ら広告を制作することを業とする会社ではないこと、広告制作会社から提供を受けた写真の利用について、別途の許諾が必要であれば広告制作会社から指摘がされると信頼するであろうことから、広告制作会社に確認をとらずに別媒体に使用した行為に過失はないと判断しました。なお、これに対して広告制作会社は、他者の写真等を取り扱って利益を得ているのであるから著作権について十分な注意をすべきであったとして、過失が認められました(カメラマンから広告制作会社への損害賠償請求を認容)。

 (責任を肯定した例)
 他方、お菓子などを販売する会社Aが商品パッケージのデザインを外部委託したところ、そこに描かれたパンダのイラストが第三者(イラストレーター)の著作権を侵害していた事案で、販売者(広告主)の過失が認められた裁判例があります。
 このパッケージデザインは、A社商品の製造委託先から依頼を受けたデザイン会社が提案したものでしたが、裁判所(東京地判平成31年3月13日)は、A社は業として商品を販売していた以上、その製造を第三者に委託していたとしても、デザイン会社等にイラスト作成経過を確認するなどして、他人のイラストに依拠していないかを確認すべきであったとしてA社の過失を認めました(また、イラストの同一性の程度が高いため、作成経過を確認すれば著作権侵害を回避できたとされています)。

 このように、広告主が広告制作会社を信頼することは無理もないとして過失を否定した例もあれば、デザイン会社にイラスト作成経過を確認すべきであったとして過失を肯定した例もあり、広告主であるからといって一概に責任が否定されるわけではないといえます*。  

* なお、広告主が第三者から責任追及を受けることと、広告主、代理店、制作会社の間で著作権侵害の最終的な責任(金銭負担)をどこが負うかは別の問題です。

■ 著作権侵害とならないようどうすべきか?

 ここまで見てきた事例には、①制作段階では適法に作られたものの、著作権譲渡の有無や利用許諾の範囲が明確でなく、その後の利用に問題が生じる例(上記住宅メーカーが写真を別媒体で使用した例)と、②制作段階で第三者の作品が無断利用され、それを知らずに使ってしまう例(上記パンダイラストが第三者の著作権を侵害していた例)がありました。

 このうち、①不適切な事後利用を防ぐには、広告主、代理店、制作会社それぞれが、どの場面でどのような著作権が生じるかを把握し、著作権譲渡または利用許諾範囲の取り決め(契約)を明確にすること、広告主がその範囲を超えずに利用することが重要といえます。

 それでは、②制作段階で第三者の作品が無断利用され、それを知らずに使ってしまうことを防ぐにはどうすればよいでしょうか。
 まずは、広告制作者に対し、制作物が著作権侵害でないとの表明補償をしてもらうとの契約上の手当てが考えられます。ただし、これ自体は必要な手立てである一方、これだけでは著作権侵害物が納品されたり、広告主において知らずに利用することまで十分に防げない可能性があります。

 例えば裁判例では、広告代理店や広告制作会社は、委託先からの納品物について確認、調査義務があるとされていたところでした。
 そこで、社内の制作担当者や外部委託先のイラストレーター等に、第三者の素材(レンタルイラスト・フォト、フリー素材を含む)を利用していないか確認することが考えられます。さらに疑義がある場合などは、Google画像検索等を利用して納品物と類似するものがないか確認することも考えられそうです。広告代理店、広告制作会社だけでなく、広告主においても同様の確認措置が考えられます(ただし、これらはここまでやらなければ著作権侵害について過失ありと評価されるかとは別問題です)。

 ここで、レンタルイラスト・フォトやフリー素材について少し触れておきます。
 レンタルイラスト・フォトは利用期間、範囲によって利用料金が決められていることが多く、レンタルイラスト・フォトを利用したことが広告主に伝わっていないと、広告主が知らずに利用期間、範囲を超えて利用してしまうトラブルがあります。
 また、いわゆる「フリー素材」は著作権放棄までしていることは通常なく、あくまで利用条件に従う限りで利用許諾していることが多いです。そのため、商用利用の可否やクレジットの要否といった利用条件の確認が必要です。
 なお、例えば著作権保護期間の切れた素材(パブリックドメイン)であればより使いやすく、最近ではNDLイメージバンクが話題です。保護期間が切れたイラスト、版画、写真、デザイン等が集められ、大いに活用が期待されます。
 また、創作者が作品利用のルールを公開するものとして、世界的に普及するクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC)があります。こちらもぜひ使いこなしたいところです(詳細は橋本弁護士のコラムをご参照。)

■ 終わりに

 以上、広告に関わる著作権を見てきました。SNSを利用した発信、ライブ配信での商品説明や新製品発表、PRイベントの配信、メタバース上での広告など、広告・PRの方法が多様化する中で、著作権のほか、今回取り上げられなかった肖像権*、パブリシティ権**、商標権、不正競争防止法のほか、景品表示法、個人情報保護法などの規制法をおさえておく重要性は増しています。

* 例えば販促イベントの様子を配信する際にお客さんの顔が写り込む場合は肖像権が問題となります。また、社員の肖像であっても自由に公開してよいわけでない点にも留意が必要です(特に退職後に問題となることもあります)。
**タレントなど著名人が、その氏名・肖像の持つ顧客吸引力(顧客を商品・サービスに引きつける力)を独占する権利が「パブリシティ権」です。例えば、企業の公式ツイッターで、無断で「(著名人の)〇〇さんおすすめ!!」などと商品紹介をすれば、宣伝広告のために氏名を利用しているとしてパブリシティ権侵害となる可能性があります。

 これら広範な分野の法知識を詳細におさえることは難しくとも、最低限の知識を持ち、「危ない」と思えるアンテナをはっておくことが大事に思われます。ぜひ一度、広告の権利関係をおさらいしてみることをおすすめします。

以上

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