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コラム column

2022年9月29日

著作権肖像権・パブリシティ権IT・インターネットアート

「正しく活用したい、写真・イラスト素材の注意点」

弁護士  原口恵 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

1.はじめに

写真・イラスト素材は、いまや私たちの生活に不可欠なものといえるほど、様々な場面で使われています。ブログやSNSの投稿はもちろん、会議やセミナーの資料、パワポのスライド等、ビジネスの場面でもよく使われています。文字だけだと味気なかったものが、写真・イラスト素材を使うことで視覚に訴えかけ、分かりやすくなり、見る者の目を引くことも可能となります。しかし、ネット上にはたくさんの写真・イラストがアップされており、コピペするだけで簡単に使えてしまいます。資料やウェブサイト中に「Sample」等の透かしが入ったサンプル用の素材が無断使用された、といったニュースを見たこともあるのではないでしょうか。

蟹料理の写真素材(透かし入り)

今回は、便利な写真・イラスト素材を使うにあたって、権利侵害とならないよう、留意すべき点を(自戒も込めて)考えてみました。

2. 写真・イラスト素材に含まれる権利

まずは、写真・イラスト素材に含まれる権利はどのようなものがあるのでしょうか。

〇写真自体の権利
人物や静物、風景等の写真は多くの場合、創作性が認められ(=撮影者の何らかの個性が発揮されている)、写真の著作物に該当し、著作権が発生します。

〇イラスト自体の権利
イラストも多くの場合は、美術の著作物に該当し、著作権が発生します。

〇被写体の権利
写真やイラストに写ったり、描きこまれたりしているものやひとの権利にも、注意が必要です。
絵画や彫刻等の美術の著作物について、その創作的な表現部分が識別可能な状態で写っている場合、写真とは別個の著作物として保護されることになり、写真には美術の著作物の著作権も含まれることになります。
ひとが特定可能な状態で写っている場合は、同人の肖像権が問題となり得ます。肖像権については、日本では法律による明文規定はありませんが、判例(最判平成17年11月10日民集59巻9号2428頁「法廷内撮影事件」)で認められた権利です。人格権の一つであり、みだりに自己の容ぼうや姿態を無断で撮影され、公表されない権利と解されています(肖像権の考え方の詳細については、福井弁護士のコラムをご参照ください)。さらに、著名人の場合はパブリシティ権(氏名、肖像のもつ顧客吸引力・経済的利益を排他的に利用する権利)が人格権に基づき、一定の要件のもと保護されると判例(最判平成24年2月2日民集66巻2号89頁「ピンク・レディー事件」。同判例の詳細については、鈴木弁護士のコラムをご参照ください。)で認められています。

〇著作者人格権
著作者は、著作権とは別に、人格的利益を保護する著作者人格権を有します。著作者人格権は、公表権、氏名表示権、同一性保持権の3つの権利から構成されます。また、著作者の名誉又は声望を害する方法による利用も著作者人格権の侵害として取り扱われます。

写真・イラスト素材には、上記の各種権利が含まれるところ、例えば、権利者の許諾を得ずに写真・イラスト素材をホームページに掲載したような場合、著作権(複製権及び公衆送信権)侵害となります。意外と(?)やってしまいがちなのは、権利者に無断で写真・イラスト素材をトリミングしたり、手を加えたりすることではないでしょうか。これらの行為は無断改変として、同一性保持権侵害に問われる可能性があります。

3.素材提供サイト

写真・イラスト素材を提供しているサイトは、数多くあります。例えば、Adobe Stocks、アマナイメージズ、Getty Images、共同通信イメージズ、PIXTA等が挙げられます。
いざ利用する際は、必ずライセンスに関する利用規約を確認し、いかなる利用が許容されているのか(利用範囲、期間、態様等)を把握しましょう。

・そもそも商用利用ができるのか。
・加工が許容されているか。
・禁止されている利用態様(ロゴ・商標としての利用、公序良俗に反する利用等)等

また、提供サイト側でどこまで権利処理がなされているかも合わせて確認しておくと、権利者から権利主張されるリスクの把握にも繋がります。
人物写真については上記のとおり、肖像権が問題となり得ますが、モデルリリース(肖像権使用同意書)を取得している提供サイトも多く、その場合は同意された用途での利用が可能となります。ただし、あらゆる利用が許容される訳ではなく、一般的に被写体の名誉毀損・誹謗中傷等に該当する使用、特定の宗教・政治との関連での被写体の使用、公序良俗に反する使用等は禁止されています。

4.フリー素材

さらに気軽に使うことができるのが、いわゆるフリー素材です。代表的なものとしてはいらすとやや写真ACが挙げられます。フリー素材とは、基本的に「無料」という意味で、「フリー」と言えますが、著作権の取り扱いはどのようになっているのでしょうか。
一般的には、著作権は放棄されていないことが多いようです。したがって、著作者、あるいは著作者から許諾を受けている提供者(素材提供サイト運営者等)の提示する条件に沿った利用をしなければ、原則通り、著作権侵害を問われる可能性があります。利用する際は、やはりライセンスに関する利用規約を確認する必要があります。
例えば、いらすとやの利用規約を見てみると、以下のような定めがあります。商用を含めて比較的広い範囲でのライセンスがされていますが、無制限に利用が許容されてはいません。

・著作権は放棄されていない。
・素材を21点以上使った商用デザインや高解像度データの作成は有償となる。
・公序良俗に反する目的での利用、素材のイメージを損なうような攻撃的・差別的・性的・過激な利用、反社会的勢力や違法行為に関わる利用、素材自体をコンテンツ・商品として再配布・販売(LINEクリエイターズスタンプ等も含む)、その他著作者が不適切と判断した場合の利用は禁止されている。
・素材は規約の範囲内であれば、自由に編集や加工をすることができる。

「フリー素材」といった形でネット検索をすると、数多くのサイトが出てきますが、注意したいのは、サイトによっては何ら権利処理がされていない写真・イラスト素材が提供されている場合がある点です。この場合、素材の利用者は、サイト運営者に対して責任追及をすることも考えられますが、運営者がわからない等、その手続きは煩雑になることも十分予想されます。写真・イラスト素材を利用するにあたっては、信頼できるサイトから取得するとともに、ライセンスに関する利用規約や権利処理についての説明ページ等をしっかり確認する必要があります。

また、検索エンジンに適宜のワードを入れて、検索結果で出てきたものを利用自由であるかのように誤解して利用するケースもあるようですが、当該写真・イラスト素材がフリー素材である保証は何もなく、権利者から権利侵害の責任を問われる可能性がありますので、ご注意ください。

〇著作権フリー

上記に関連して、著作権「フリー」といえるのは、どのような場合でしょうか。
これに該当するのは、パブリックドメインとなっている作品です。パブリックドメインとは、著作権が発生していない状態又は消滅した状態をいい、誰でも自由に利用できます。
1つは、著作権の保護期間経過により、著作権が消滅している場合です。著作物の保護期間は、著作者の生前全期間及び死後70年間(著作権法51条2項)となっています(著作権の保護期間については、福井弁護士のコラムもご参照ください)。
また、著作者が自ら著作権を放棄した場合も広い意味でのパブリックドメインといえます。

〇CC0

著作権放棄は、著作者による明示的な意思表示によるところ、その意思表示にはどのような方法があるのでしょうか。1つの方法が、「CC0」の表示です。そもそも、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)とは、著作者が自己の作品について、一定の利用条件を設定し、同条件を守れば自由に使ってよいという意思表示のツールです。弊所のコラムも、「CC BY-NC-ND 4.0」ライセンス(表示-非営利-改変禁止)で提供されています(冒頭右上参照)。この「CC0」とは、「いかなる権利も保有しない」という意思表示のマークであり、著作権の放棄を示すことができます。

5.「知らなかった」は通用しない

最後に、写真・イラスト素材の利用にまつわる判例をご紹介します。
弁護士法人が自ら運営するウェブサイトに、株式会社アマナイメージズが販売する複数の写真素材を無断掲載したことについて、株式会社アマナイメージズ及び写真家らの著作権、独占的利用権、著作者人格権を侵害したとして、損害賠償請求が認められた事案がありました(東京地判平成27年4月15日平成26(ワ)24391号)。
この判例では、たとえ写真素材がフリーサイト(フリー素材を扱うウェブサイト)から入手されたものであっても、識別情報や権利関係の不明な著作物の利用を控えるべきことは、著作権等を侵害する可能性がある以上当然であると示されています。問題となったウェブサイトの作成を担った法律事務所の従業員が、ホームページ作成業務の経験を有していたという経歴・立場といった事情はありましたが、写真・イラスト素材を使う際には権利関係の確認を怠ってはならないと読み取れます。
せっかく便利な写真・イラスト素材を使うのに煩雑だと思わずに、きっちり確認すべきことを確認して利用していきましょう(素材を作成・提供してくださる方々への感謝の気持ちも忘れずに)。

以上

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