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コラム column

2019年7月26日

競争法国際IT・インターネット

「インフルエンサー・マーケティングの法規制」

弁護士  二関辰郎 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

1 はじめに

 人は、自分が好意を持っている人が好きな事物や行動を自分も好きになる傾向を有している。昔々、司法試験には教養選択科目という科目があり、心理学を選ぶことができた。その際に学んだ社会心理学に「ハイダーのバランス・セオリー」という理論があって、そういった社会的関係における心の働きを説明していた。しかし、理論的な説明が無くても、そのような心理が働くことは感覚的にわかる。
 こういった心理を利用したマーケティング手法の一つがインフルエンサー・マーケティングだ。Instagram、YouTube、TwitterなどのSNSで多くのフォロワーを持ち情報発信力のあるインフルエンサーに、自社商品やサービスを好意的に紹介してもらう。そうすればフォロワーに響くので、一般的な広告より効果的だ。
 そのようなことからインフルエンサー・マーケティングが広がっている。しかし、やり方を間違えると問題だ。スポンサー企業とインフルエンサーとの関係性を隠したために、いわゆるステルス・マーケティングと非難を浴びたり、場合によっては違法になりかねない。
 ここでは、インフルエンサー・マーケティングの法規制がどうなっているか、米国連邦取引委員会(FTC)の例をみたうえで、日本でのルールに触れる。

2 FTCガイドライン

 FTCは、 2009年に「広告における推奨及び推薦の利用に関するガイド」(Guides Concerning the Use of Endorsements and Testimonials in Advertising)を公表した(このURLで見られるのは改訂後のもの)。
 このガイドライン(FTCガイドライン)は、インフルエンサーに的を絞ったものではないが、インフルエンサー・マーケティングにも適用がある。
FTCガイドラインは、「広告主は、推奨(endorsements)によってなされた誤った宣伝文句あるいは根拠のない宣伝文句に責任を負う。あるいは、広告主と推奨者との重要な結びつき(material connections)を開示しない場合にも責任を負う」と規定する(FTCガイドライン§255.1(d))(若干意訳のところあり。以下同じ)。
 同ガイドラインにおいて「推奨(endorsements)」とは、「消費者が、スポンサーである広告主以外の者の意見、信念、発見または経験を反映していると信じそうな広告上のメッセージ(口頭の言葉、何かの表示、個人の氏名、署名、肖像その他個人の特性を示すものの描写、組織の名称またはマークの描写を含む)...を意味する」(§255.0(b))。
 そして、「重要な結びつきの開示」について、FTCガイドラインは、「推奨の重要性あるいは信用性に実質的に影響しうる結びつきが、推奨者と宣伝商品の販売主との間にある場合(視聴者がそういった結びつきがある合理的に理解できない場合)、そのような結びつきは完全に開示されなければならない。たとえば、テレビコマーシャルに登場する推奨者が、広告の中で専門家だと示されておらず、あるいは視聴者の多くに知られた人物でない場合、広告主は、推奨に先立って、あるいは推奨と引き換えに、その推奨者と支払や対価の約束があることを明確かつ目立つ方法で開示しなければならない。あるいは、宣伝商品の推奨をすればテレビに出られる等のメリットを推奨者が知っていたか、あるいは知りうる立場にあったかを明確かつ目立つ方法で開示しなければならない」と規定する(§255.5)。
 FTCガイドラインはその名のとおりガイドラインにすぎない。しかし、その根拠法として連邦取引委員会法5条がある。同条(a)(1)後段は、不公正・欺瞞的な行為又は慣行(Unfair or Deceptive Acts or Practices)を禁止しており、違反に対してはFTCによる民事訴追(差止請求)や行政的排除措置などの措置がとられる可能性がある。FTCガイドライン違反は、結果的にこの法律違反になりうる。

3 FTCガイドラインのQ&A

 FTCはFTCガイドラインに関するQ&Aを公表している。実務的にも有用な内容を含んでいる。たとえばこんな具合だ。

Q)ある有名なセレブには、ツイッターで何百万人ものフォロワーがいます。彼女のツイートが宣伝商品に言及すると、彼女が広告主から対価をもらえることは多くの人が知っています。彼女は、商品についてツイートしたときに対価を得ていることを開示しなければなりませんか?
A)商品に関する彼女のツイートが、支払を受けた推奨であると彼女のフォロワーが理解できるか否かによります。もし、フォロワーの多くがそのことを知らないのであれば、開示が必要です。この判断は微妙なので、開示することをお勧めします。

Q)Instagramの投稿での開示はどのように表示したら良いのですか?
A)多くのスマートフォンでInstagramを見る場合、長い説明(現状では2行以上)は切り取られて最初の行だけが表示されます。残りを見るためには、“more”をクリックしなければなりません。もし、Instagramの投稿が推奨に該当するのであれば、必要な開示は、“more”をクリックしなくても表示されるようになっていなければいけません。

Q)自分のホームページのどこか1か所に、「このサイトで私がとりあげる製品の多くは、メーカーから無料で私に提供されたものです」とまとめて開示するのでも足りますか?
A)あなたのサイトを訪れる人は、個々のレビューやビデオを見るだけで、ホームページの開示に関する部分を見ないかもしれません。ですので、1か所の開示では足りません。

Q)ツイッターのようなプラットフォームはどうでしょうか?メッセージが140字に限定されている場合、どのように開示をしたら良いでしょうか?
A)FTCは開示の具体的表現まで指定するわけではありません。しかしながら、宣伝媒体が何であれ、他と同様の一般的な原則――スポンサー付きの言葉を人々が評価するために必要な情報を人々が得られえるようになっているか――が適用されます。「スポンサーが付いている」(Sponsored)とか「プロモーション」(Promotion)という言葉であれば9文字(訳注:英語の場合)しか使いません。「有料広告」(Paid Ad)であれば7文字(同)です。
ツイートを「宣伝:」(Ad:)や「#宣伝」(#ad)という表現で始めれば、3文字しか使いません。それらでも効果はあるでしょう。

4 FTCの実際の運用例

 InstagramについてのFTCによる実際の運用例を、断片的ながら簡単にネットで見ることができる。余談だが、これはアメリカ情報自由法(FOIA)が、同一の対象文書に対する情報公開請求が3回以上ある場合や、文書の性質上同様の請求が多くあると思われる場合には、電子的に公開することを行政機関に義務づけているおかげである。日本の情報公開法もかくありたい。
 たとえば、以下の写真とメッセージは、スーパーモデルのナオミ・キャンベルのInstagramへの投稿である(上記URLのPDF15頁)。3つのスーツケースが写っており、#onthemove@globe_trotter1897 #wheretonext?? #omitravelsthewoorldというメッセージが書かれている。


 これについてFTCはナオミ・キャンベルに書状を送り、このInstagramの投稿ではスーツケース・メーカーとの実質的な結びつきがあるのか否かが開示されていないと指摘し、書面で回答するよう求めている(上記URLのPDFの14頁)。

 次の写真は、フォロワー数1100万人とも言われるフィットネスモデルでアメリカのインターネット・セレブの一人ジェン・セルタ―のInstagramへの投稿である(FTCの別の文書の3頁目)。


 メッセージとしては、”Jersey style, ya feel me? Have a great weekend everyone!”と書かれている(「Tシャツ姿だけど私を感じる? みんな、良い週末を!」)。

 写真に写っている着衣のTシャツに大きくブランドロゴと名称があることから、FTCは北米アディダス社に書状を送り、もし、会社がビジネス上の関係を有しているのであれば、その関係は明確かつ目立つ方法で開示しなければならないと伝えている。

 これらは、FTCの運用例のごく一部だが、みなさんはどのような感想をお持ちだろうか。
これらが、もしメーカーの依頼を受けて掲載した写真だとすると、そのことを明示しないのは問題だという反応もあるだろう。あるいは、ごく普通とも言えるシーンを撮影した投稿に、FTCが介入していることに驚く向きもあるかもしれない。ちなみに筆者は、その両方の感想を抱いた。

 後者のような反応を意識してのことだろうか。FTCは、先に紹介したQ&Aの別の箇所に「FTCはブロガーをモニタリングしているのですか?」という質問を載せ、「一般的にはそうではありませんが、FTC法違反の可能性があるとわれわれが懸念すれば、事案によってはそういうことになる」などと回答している。

5 日本でのルール

 日本では、消費者庁が 「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」(2011年10月28日、2012年5月9日一部改定)という文書を公表している。これはインフルエンサー・マーケティングに直接焦点を当てたものではないが、口コミサイトに関する問題として、以下のような記述を含んでいる。

 口コミサイトに掲載される情報は、一般的には、口コミの対象となる商品・サービスを現に購入したり利用したりしている消費者や、当該商品・サービスの購入・利用を検討している消費者によって書き込まれていると考えられる。これを前提とすれば、消費者は口コミ情報の対象となる商品・サービスを自ら供給する者ではないので、消費者による口コミ情報は景品表示法で定義される「表示」には該当せず、したがって、景品表示法上の問題が生じることはない。

 ただし、商品・サービスを提供する事業者が、顧客を誘引する手段として、口コミサイトに口コミ情報を自ら掲載し、又は第三者に依頼して掲載させ、当該「口コミ」情報が、当該事業者の商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるものである場合には、景品表示法上の不当表示として問題となる。

景品表示法上の留意事項
 商品・サービスを供給する事業者が、口コミサイトに口コミ情報を自ら掲載し、又は第三者に依頼して掲載させる場合には、当該事業者は、当該口コミ情報の対象となった商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は当該商品・サービスを供給する事業者の競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されることのないようにする必要がある。

 このような記述の根拠となる法律は、景品表示法(景表法)5条である。同条は次のように規定する。


(不当な表示の禁止)

第5条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。


1 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの


2 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

 商品又は役務の品質、規格その他の内容が、実際のものや同業他社の商品又は役務よりも「著しく優良」であること(1号)、あるいは取引条件が、「著しく有利」(2号)であることが求められている。それゆえ、FTCガイドラインと異なり、広告主と推奨者との関係性が開示されていないというだけでは、日本法上は直ちには違法とはならないと考えられる。
上記消費者庁の文書でも、「問題となる事例」としてあげられている例は、次のようなものである。

○ 広告主が、(ブログ事業者を通じて)ブロガーに広告主が供給する商品
  ・サービスを宣伝するブログ記事を執筆するように依頼し、依頼を受け
  たブロガーをして、十分な根拠がないにもかかわらず、「△□、ついに
  ゲットしました~。しみ、そばかすを予防して、ぷるぷるお肌になっち
  ゃいます!気になる方はコチラ」と表示させること。

 この例からわかるように、「問題となる事例」では、その商品によって好ましい効果が得られたこと(品質の優良性)まで記載されている。おそらく、あるブロガーが、単にある商品のことをとりあげている(にもかかわらず、その商品のメーカーとの関係性が不明)というだけでは優良誤認表示にはならないという趣旨であろう。

 しかし、人には本コラムの冒頭に書いたような心理が働く傾向がある。そのような無意識の心の働きを利用しようとする商業行為は、可視化することが公正な取引の確保のためには重要ではないだろうか。いわゆるステルス・マーケティングが非難されるのも、その点に関する人々の違和感を反映しているように思える。景表法上の条文に「著しく優良」といった要件があることから、それを踏まえたガイドラインには限界があるかもしれない。しかしながら、あるべきルールとしてさらに踏み込むことができないものかという気がする。

6 おわりに

 これまで見てきたように、インフルエンサー・マーケティングに関する現状の法規制は、日本では米国ほどは厳しくなさそうだ。ただし、冒頭でも少し触れたとおり、違法か否かという問題と、社会的非難を受けるか否かは別問題である。後者まで念頭においた場合、米国FTCガイドラインが示している基準を参考にすることは望ましい方策と言えるであろう。
 最後に、これまた少々余談かもしれないが、宣伝文句がミスリーディングであったり、あるいは関係性が明示されていなかったりするインフルエンサー・マーケティングは、広告主が企業の場合だけでなく、政党などの場合もありえる。景表法は基本的に事業者の経済活動を対象にしているので、そのような場合が同法により違法等の問題を生じることはないであろう。少なくとも現行法の下では、そのような問題はメディア等が指摘すること、注意喚起することを通じて、社会的な議論によって解決していくのが基本になりそうだ。

以上

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