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コラム column

2022年6月29日

著作権商標IT・インターネットエンタメゲーム

「メタバースによる「現実の再現」とその権利関係」

弁護士  岡本健太郎 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

 昨今、メタバースが注目を集めています。メタバースとは、インターネット上に作成された三次元の仮想空間です。オフィスワーク、ショッピングなどのほか、エンタテインメントの分野でも、ゲーム、イベント、ファッションなどに用途が広がりつつあります。メタバースの主な構成要素として、背景(建築物)、アイテム、アバターなどが挙げられますが、メタバースは、都市再現型に限らず、多少なりとも、実在する建築物、商品、人物などをモチーフにすることがあります。今回は、実在する建築物、商品、人物などの再現に伴う権利関係について、著作権、商標権、意匠権などを中心に、そのポイントを整理します。

◆メタバースとは

 メタバースは、「meta」(超越、高次の)と「universe」(宇宙、世界)をつなぎ合わせた造語です。メタバースの特徴として、①アバターが登場することのほか、例えば、②リアルタイム性(他者とリアルタイムで同一の体験を共有できること)、③同時参加性(複数人が同時に参加できること)、④経済性(アイテム等を売買できること)等が挙げられます。

 メタバースと似たものに、3Dゲームがあります。「Dragon Quest」、「Final Fantasy」などのオンラインRPGでも、アバターを通じて、リアルタイムで複数人とコミュニケーションでき、土地の購入、釣り、結婚式なども可能なようです。ただ、オンライン3Dゲーム一般は、メタバースとは考えられていません。メタバースは、UGC(User Generated Contents)の創作が可能な場合も含め、各参加者によって空間や事象を作り上げていくイメージがある一方、オンラインゲームは、ゲーム制作会社の意向に沿ってゲームが展開されやすいからかもしれません。
 メタバースと似たその他のものに、VR(仮想現実:Virtual Reality)、AR(拡張現実:Augmented Reality)、MR(複合現実:Mixed Reality)、これらの総称であるXR(Cross Reality)、ミラーワールド等があります。ARは、「仮想世界が現実世界に来る」という現実世界の拡張(例:アイドルが自宅に来てバーチャルライブを行う)であるのに対して、VRは、「現実世界から仮想世界に行く」といった現実の作り変え(例:自宅からアイドルのバーチャルライブに参加する)です。メタバースは、ARよりもVRの要素が強いようにも思えますが、シンプルに、メタバースをこれらのリブランディングと捉える見解もあります。

 メタバースの概要はこれくらいにして、早速、権利関係について見てみましょう。なお、仮想空間上に存在するメタバースは、利用規約のほか、運営者、利用者などによって準拠法が異なる可能性もあります。以下では日本法を前提としていますが、準拠法によっては、著作権を含め、以下と異なる解釈もあり得ます。特に、商標権、意匠権など、登録国毎に発生する権利については、日本の保護法域でないなどと判断された場合には、その保護が及ばなくなる可能性もあります。
 また、分かりやすさを重視して、一部、要件やその検討を省略していることがあります。

 

◆建築物

 メタバースでは、ユーザーに没入感を与えるため、メタバース空間全体や、メタバース空間に存在する建築物などがリアルに描かれることがあります。実際の都市を再現したメタバースの代表例として、渋谷区公認の配信プラットフォーム「バーチャル渋谷」が挙げられます。

 

バーチャル渋谷

 

(1) 著作権
 現実世界の建築物をメタバース上に表現する場合には、現実世界の建築物との関係が問題となります。建築物も、著作物となり得ますが(著作権法10条1項5号)、絵画、写真などに比べると、実用的な要素が強い類型です。このため、著作物として保護されるためには、絵画、写真などは「ある程度の創作性」で足りますが、建築物はそれでは足りず、「ある程度の芸術性」などが必要と考えられています。判例で著作物とされた建築物については、過去のコラムに記載がありますが、そのほか、巷で著作物と考えられている建築物として、例えば、東京都庁、国会議事堂、国立新美術館などがあります。
 一方、仮に、建築物が著作物とされても、例外規定(同法46条2号)により、「現実世界における建築物としての複製」といった限定的な場合でなければ、著作権は及びません。現実世界の建築物をメタバース上に再現しても、基本的には著作権侵害にはならず、著作権者の承諾は不要なのです。

  ここで注意点を3つほど。まず、この例外規定(同法46条2号)は、建築物(建築の著作物)が対象です。岡本太郎氏の「太陽の塔」のように、「建築物 兼 美術作品」(厳密には、原作品が屋外に恒常的に設置されたもの)といえる著作物は、少し違った取扱いとなり得ます。具体的には、ポストカード、カレンダーなどのように、「専ら美術の著作物を販売目的で複製する場合」には、著作権者の承諾が必要となり得ます(同条4号)。すなわち、「建築物 兼 美術作品」も、「建築物」と同様に、メタバース上で背景として利用する限りでは、著作権侵害にはなりにくい一方、メタバース上の土地、アイテムなど、販売目的で利用した場合には、著作権者の承諾が必要となるかもしれません。

 また、この例外規定では、建築物をほぼそのまま再現することが想定されています。ゲームや映像などでは、街を破壊する、建築物に装飾を施すといった演出がありますが、メタバース上で、現実世界の著作物を改変する場合には、著作者の同一性保持権(≒著作物の同一性を保持する権利)などが問題となり得ます。
  さらには、この例外規定は、建築物自体が対象です。建築物に掲示、装飾等された広告、イラスト、動画などには及びません。このため、広告、イラスト、動画等が著作物に該当すれば、仮にこれらが建築物上に表示されていても、その利用に際して、著作権者の承諾が必要となり得ます。
 とはいえ、風景をCG化して再現した際に写り込んだ(あるいは写り込ませた)広告やイラストの利用が、メタバースとの関係で軽微かつ付随的といえるような場合には、別の例外規定(写り込み:同法30条の2第1項)によって、著作権者の承諾は不要となり得ます。ただ、メタバース上では、仮想空間内を歩き回ることにより、広告やイラストを大きく表示することも可能であり、広告やイラストの利用が軽微、付随的などといえるか気になります【1】。これについては、例えば、メタバース上で通常表示される「引き」の画面を基準に、背景の一部として広告、イラスト等が写り込んでいる程度であれば、軽微、付随的などとしてしまう考え方もあるように思えます。
 上記は広告やイラストを再現(複製)する想定ですが、アレンジを加えるなど、翻案といえる程度になると、写り込みの対象外となり得ます。あるいは、権利侵害が不安であれば、いっそのこと、広告やイラストなどは、権利処理済みの別のものに差替えてしまうことも一案です。

 
 

【1】 DVD/Blu-rayプレイヤー、PCなどにも、映像の拡大機能もありますが、通常の視聴の際には使用しない機能に思えます。一方、メタバース上での拡大表示は、プレイヤーの通常の操作に伴って生じることから、こうした点は、メタバース上の著作物の利用(写り込み)について、軽微性や付随性を否定する方向に作用する可能性があります。


(2) 商標
 建築物の中には、その形態、立体的形状などが商標登録されているものもあります。ただ、建築物が立体商標として登録されるには、①他と区別される外観上の特徴(≒「識別力」などといわれます)があり、かつ、②機能的に不可欠でないデザイン等が必要です(商標法3条1項3号・2項、4条1項18号)。
 商標登録された建築物には、東京タワー、東京スカイツリーのようなランドマーク的な建築物のほか、店舗などもあります。ただ、商標登録された店舗(立体商標)の多くは、識別力を獲得するため、企業のロゴマークなどを含んでいます。

 
東京タワー(第5302381号 東京スカイツリー(第5476769号

Family Mart(第4195115号 蔦屋書店(第5916693号

 このように、建築物の一部も商標登録されていますが、メタバースの背景(デザイン)として商標登録された建築物を表示しても、多くの場合には、商標権侵害にはならないと考えられます。他人の登録商標を使用しても、出所を明示し、また、他の商品・役務と区別するような態様(≒「商標的使用」といわれます)でなければ、商標権侵害にはならないためです(商標法26条1項6号参照)。ただ、メタバース上では、商標登録された建築物を店舗として利用して、そこでアイテムを販売する場合もあり得ます。このように、出所を表示し、また、他の商品・役務と区別するために登録商標を使用しているような場合には、単なる背景(デザイン)ではなく、商標的使用と判断され得るように思われます。
 第三者による登録商標の無断使用が商標権侵害となるには、上記のような①商標的使用であることのほか、②指定商品・役務が同一又は類似であること等が必要となります。①商標的使用に関する他のポイントや、②指定商品・役務の点は、下記「アイテム」(2)をご参照ください。

 

(3) 意匠

 意匠権とは、デザインを保護する権利です。2020年4月から、建築物や内装も意匠登録の対象に加わりました(意匠法改正についてはこちら)。現時点において、例えば、以下のような建築物や内装が意匠登録されています。
  【建築物】

ユニクロ PARK 横浜ベイサイド店
第1671773号
TOTO(第1684617号

 【内装】

くら寿司(第1671153号 NTTドコモ(第1689935号

 意匠権の効力は、登録意匠と同一又は類似の意匠に及び(意匠法23条)、意匠の「使用」(同法2条2項1号)とは、意匠に係る物品をその用途や機能に従った使い方で用いることをいいます。現実世界の建築物や内装は、我々の生活空間です。一方、メタバース上の建築物や内装は、アバターにとっての生活空間かもしれませんが、実際の寝食まではできません。現実世界の建築物や内装(意匠登録されたもの)を表示しても、現実世界における建築物や内装の用途や機能と異なるなどとして、意匠権侵害になり難いように思われます。
 現に、メタバースのような仮想空間にも意匠登録されたものがありますが、操作画像や表示画像としての登録意匠であり、建築物や内装としての登録意匠ではありません。

意匠登録第1691956号 意匠登録第1692265号

◆アイテム(商品など)

(1) 著作権
 メタバースでは、アバターが着用する衣服や靴のほか、グッズ、家具、乗り物などのアイテムが提供されることがあります。現実世界では、服、グッズ、家具などの実用品は「応用美術」などと呼ばれ、著作物として保護されにくいのが実情です。実用品が著作物として保護されるには、例えば、実用目的の達成に必要な機能と分離して、美的鑑賞の対象となり得る美的特性(創作的表現)を備えている部分が必要などと解されています(知財高判令和3年(2021年)12月8日)。
 ある実用品をメタバース上のアイテムとして再現しても、その実用品が著作物でなければ、著作権侵害にはなりません。実用品に関する著作権の保護は、そもそもその実用品が著作物となるか否かが関門となります。

(2) 商標
 メタバース上では、店舗のほか、アイテムなどに企業や商品のロゴマークが表示されることがあります。現実空間で、他人の登録商標を無断で使用した場合には、商標権侵害となり得ます。しかし、デジタル空間上のアイテムに他人の登録商標を付したとしても、以下のような理由から、商標権侵害とならない可能性があります。

 まず、1つ目が「指定商品・役務」の問題です。商標権は、登録した商品・役務と同一又は類似の範囲に及ぶことから(25条)、出願の際に、対象となる商品やサービスを指定します。これが指定商品・役務です。例えば、“Okamoto”という服のブランドを立ち上げ、「被服」(25類)を対象に商標登録した場合には、その商標権は、コート、セーター、ワイシャツなどには及びますが、通常は、文房具(16類)、デジタルファイル(9類)などのほか、同じ25類であっても「靴」には及びません。別の人が、Okamotoの名称で文房具、デジタルファイル、靴などを販売しても、必ずしも商標権侵害にはならないのです。これと同様に、現実世界の「被服」とデジタル空間における「衣服」(デジタル画像)は異なるなど、現実世界を想定した指定商品・役務では、デジタル空間での使用に商標権の効力が及ばない可能性があるのです。
 特に今後は、自己及び第三者によるメタバースでの使用を考慮に入れつつ、商標を整備しておくことも有益かもしれません【2】

 

【2】 アパレルメーカーなどを中心に、メタバース上の利用を踏まえたような商標出願も行われています(NIKEの例:商願2021-132597、商願2021-132593及び商願2021-132596)。


 次が、先ほど触れた「商標的使用」です。電子出版物、プログラム等のデジタルコンテンツをネット上で提供する行為は、商標的使用にあたると考えられています。一方で、仮想空間上のアイテムは、売買が仮想空間内で完結するものもあり、中には、購入後もダウンロードはできず、仮想空間へのログイン中のみ利用可能なものもあり得ます。こうした点に着目し、仮想空間で取引されるデジタルアイテムに登録商標を付す行為は、商標的使用に該当せず、他人の登録商標を使用したとしても商標権侵害とならないという見解もあります。


実用品×NFT(コラム in コラム)


 少し話がそれてNFTの話題ですが、2021年には、あるアーティストが、エルメスのバーキン風のバッグをNFT化し、Meta Birkinsとして販売しました。また、スニーカーのマーケットプレイス Stock Xは、実際に存在するNIKEのスニーカーに紐付いたNFTを発行及び販売しました。こうしたNFTの無断発行に対して、Hermes及びNIKEは、米国において、商標権侵害等を理由に差止、損害賠償請求等を行っています。

MetaBirkins   Stock X
  

 NFTは、技術的には対象コンテンツのダウンロードも可能であるなど、電子出版物、プログラム等のネット上での提供との共通部分も多いように思われます。その意味で、他人の商標を使用してNFTを発行、販売等した場合には、商標的使用になり得るように思えます。ただ、Meta Birkinsは、(Birkinsという名称の使用はさておき)Hermesのバーキン(Birkin)のデザイン的な利用かもしれませんし、「Not Your Mother’s Birkin」など、Birkinとの関係性を否定するためのキャッチフレーズも表示しています。また、Stock XのNFTも、NFTの購入者は、NFTとスニーカーとを交換でき、交換後、NFTが消滅するといった特徴があります。日本と米国とで商標権侵害の考え方が異なる可能性もありますが、こうした点も踏まえ、これらの判決がどうなるか、注目したいと思います。

(3) 不正競争防止法
 まだまだ続きます。次は不正競争防止法ですが、長くなるので極力概略に留めます。
 メタバース上で、他人の「周知」又は「著名」な「商品等表示」を使用した場合には、一定の要件のもと、不正競争(混同惹起:同法2条1項1号、著名表示冒用:同2号)になり得ます。「商品等表示」とは、業務に係る氏名、商号、商標、標章や商品の容器・包装その他の商品又は営業を表示するものを意味します(同法2条1項1号)。例えば、商標登録していないロゴのほか、特徴的な商品の形態【3】なども、「商品等表示」に含まれる可能性があります。 
 また、模倣品の販売等は、別の不正競争(形態模倣:同3号)になり得ます。

 

【3】 商品の形態は、通常は「商品等表示」には含まれませんが、概要、①他の商品と識別し得る独自の特徴を有し、かつ、②強力な広告宣伝、長期間に渡る独占的使用などにより、自他商品識別機能(≒他者の商品と区別する機能)や出所表示機能(≒商品の提供者等を示す機能)を有するに至り、需要者に広く認識されたような場合には、「商品等表示」に含まれます。


(a) 混同惹起
 広く知られた他人の商品等表示を無断で使用し、需要者を混同させるおそれを生じさせた場合には、不正競争になり得ます。
 「混同」とは、「出所が同一である」との誤認(狭義の混同)のほか、「グループ会社関係、ライセンス関係等がある」との誤認(広義の混同)を含みます。例えば、①事業の形態が似ている場合、②無断使用された商品等表示の独自性や周知性が高い場合、③商品等表示を無断使用された企業が多角経営しているような場合には、混同が生じやすいと考えられています。
 「商品等表示」を無断使用された企業や商品がメタバースに進出済みであれば、メタバース内における第三者による無断使用に伴う「混同のおそれ」が認められやすいかもしれません(上記①)。ただ、その他の事情により、「混同のおそれ」が認められる可能性もあることから、メタバースに進出済みであることは、「混同のおそれ」を認めるための必須条件ではないように思われます。
そのほか、商標的使用と同様に、メタバースでの表示が商品等表示の「使用」といえるか否かといった問題も生じ得ます。

(b) 著名表示冒用
 著名な商品等表示については、これを無断で使用した場合には、混同のおそれがなくても、不正競争になり得ます。ただ、「著名」といえるには、全国的な認知度など、かなり広く知られている必要がありますし、混同惹起と同様に、「使用」の点は問題となり得ます。

(c) 形態模倣
 上記のとおり、「形態模倣」も不正競争の1つです。ただ、「模倣」とは、他人の商品の形態に依拠して、実質的に同一の形態の商品を作り出すこととされ(同条2条5項)、デッドコピーなどが想定されています。また、「商品の形態」とは、商品の外部及び内部の形状をいい、形状との結合があれば、模様、色彩、光沢なども含まれます(同法2条4項)。
 メタバースという仮想空間での表現は、具体的な形状はなく、「形態」とはいい難いように思えます。このため、メタバースにおける商品画像の表示については、「形態模倣」は成立し難いように思っています。
なお、形態模倣については、無権限者に対して主張を行う際も、「販売開始から3年」といった期限付きです(同法19条1項5号イ)。

(4) 意匠
 メタバース上で使用されるアイテムは、現実世界では、意匠登録されている可能性があります。ただ、上記のとおり、意匠権の効力は、意匠に係る物品をその用途、機能に従った使い方で用いることに及ぶため、物品について登録した意匠権は、デジタル空間上での意匠(デザイン)の利用に及ばない可能性があります。

 2020年4月から、画像意匠の登録範囲が拡大しましたが、操作画像(機器の操作の用に供される画像)又は表示画像(機器がその機能を発揮した結果として表示される画像)に限定されています(同法2条2項3号。過去のコラムはこちら)。上記に該当しない、単なるアイテムの画像は、意匠登録できないのです。何より、意匠登録を行うためには、そのデザインが新規である必要があります(同法3条1項各号)。例外的に、公表等から1年間であれば遡って出願はできますが(同法4条1項)、意匠権は、既存の商品デザインの保護には適さないように思われます。

◆アバター

(1) 著作権 / 肖像権 / パブリシティ権
 メタバース上では、ユーザーの分身としてアバターが利用されます。自分に似せたアバターもあれば、動物など、自分とは異なるアバターもあり得ます。
 ただ、現実世界の人物には、肖像権があり、タレントなどの著名人には、パブリシティ権(≒肖像を商業利用する権利)もあります。アバターに、他人の肖像を利用した場合には、肖像権やパブリシティ権の侵害となり得ます。また、アニメのキャラクターなど、アバターに他人のキャラクターを利用した場合には、著作権侵害となり得ます。

 オリジナルで作成したアバターは著作物になり得ます。完全にオリジナルのアバターであれば、制作者に著作権が帰属し得る一方、アバターは、メタバースの運営者が用意した顔のパーツ、髪型、服装などの組合せで作成されることもあります。アバターの制作を制作会社に外注することもあるようですが、場合によっては、制作者に著作権が発生し、発注者が自由に利用できないといった場合もあり得ます。こうした権利問題により、技術面だけでなく権利面からも、メタバースを跨いだアバターの利用が制限される可能性もありますので、アバター制作に関わる契約関係も要確認です。

(2) アバターによる実演

 メタバース上では、アバターを介して歌唱等ができるほか、ダンスイベントなども開催されています。こうした著作物等の伝達行為は、著作隣接権として保護される可能性があります。著作権法上、「実演」は、著作物を、演劇、舞踏、演奏、歌唱、口演、朗詠その他の方法で演ずることのほか、著作物を演じない芸能的な性質を有する行為(例:奇術、曲芸、腹話術、物真似)を含みます(同法2条1項3号)。

 アニメやゲームでは、声優の音声が登場することがありますが、声優による実演は、実演家の権利(著作隣接権)の対象となり得ます。これと同様に、例えば、アバターを介した歌唱やシナリオの朗読など、音声による伝達行為は「実演」に該当し、実演家の権利(著作隣接権)が認められる場合もあり得ます。
 一方、ダンスなどの身体的な伝達行為はどうでしょうか。現状では、多くのメタバースでのダンスは、プログラムとして組み込まれた動きなど、ある程度限定されており、「演じる」といえるほどの個性はないように思えます。また、「実演」とは、本来的には、人間が身体を駆使して著作物を表現する行為が想定されています。ただ、今後、技術の発展ととともに、モーションキャプチャーの動きがほぼダイレクトにメタバース上に反映される場合など、一定の場合には、アバターを介した実演も、著作権法上の「実演」と認めてよいようにも思っています。

◆終わりに

 メタバースは、NFTとして購入したアイテム等の利用場面としても注目されていました。しかし、NFTは、メタバースに必須の技術ではなく、NFTを利用しないメタバースも存在します。
 本年(2022年)6月半ばころから、仮想通貨の相場が急落し、それに伴い、NFTも取引が停滞気味のようです。メタバースへの注目度への影響も気になりますが、メタバースには、冒頭のような様々な用途がある上、今後、より多くの事柄がメタバース上で行われるという方向性は不変と思われます。
 メタバースには、本コラムで触れたコンテンツにまつわる諸権利のほかにも、メタバースの内容次第で、個人情報保護法、消費者保護法、金融法、国際私法など、様々な法分野が関連します。メタバースの発展や普及に伴い、法的事項の整理も進むことを願っています。

 

以上

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