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コラム column

2020年11月27日

著作権商標アートエンタメ映画アニメゲーム出版・漫画

「これってOK!? コンテンツにおける建築物の画像利用」

弁護士  岡本健太郎 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

 写真、映画、TV、漫画・アニメ、ゲーム、VR/AR、グッズなどなど。建築物は、風景の一部ということもあって、実に多くのコンテンツで利用されています。一方、建築物は、著作権だけでなく、商標権、意匠権などでも保護される可能性があります。
 京都の平等院は、鳳凰堂の写真のジグソーパズルを販売していた玩具会社に対して、販売停止等を求めて訴訟提起していましたが、先月(2020年10月)和解が成立したようです。コンテンツにおいて建築物の画像を利用する際に、不用意に権利侵害等とならないよう、本コラムでは、コンテンツにおける建築物の画像利用について考えてみます。

◆平等院の事件

 昨年(2019年)の報道によると、玩具会社は、プロ写真家から提供を受けた写真を利用して、ジグソーパズルを制作及び販売していたようです。これに対して、平等院は、パンフレットに「撮影した写真の営利目的使用の禁止」を明記しておりジグソーパズルはこれに反する、平等院の社会的評価も毀損されるなどと主張して、玩具会社に、ジグソーパズルの販売中止、在庫廃棄及び20万円の損害賠償を求めていたようです。
 一方、本年(2020年)10月の報道によると、玩具会社が、平等院の費用負担でジグソーパズルの在庫を廃棄するとともに、今後、同意なしに平等院の写真を使った製品を販売しないこと等を内容とする和解が成立したようです。なお、玩具会社からは、「裁判所が、平等院の主張を否定して『玩具会社に違法行為がない』ことを文書で認めたことから和解に応じた」旨のコメントも出されています。

◆建築物に関連する主な権利

 建築物は、著作権のほか、様々な権利で保護される可能性があります。建築物を写真、映画、TV、ゲームなどのコンテンツ上で利用する際には、例えば、以下に配慮しておくとよいでしょう。

(1) 著作権

 ある程度の創作性がある建築物は著作物となり、建築家等に著作権が発生します(著作権法10条1項5号)。「建築の著作物」には、住宅、ビル、教会、神社仏閣、橋梁、記念碑、墳墓などが含まれます。建築物の全体だけでなく、その一部である階段、応接室なども、建築の著作物として保護され得ます【注1】
 また、特に創作性の高い建築物は、アート作品などと同様に、美術の著作物(同4号)にもなり得ます。代表例として、(筆者と1文字違いの)岡本太郎氏の「太陽の塔」などが挙げられます。

 建築の著作物については、例えば、同じような建築物を建築する行為は制限されますが(同法46条2号)、撮影やその商用利用も広く認められます。つまりは、建築の著作物については、著作権法的には、著作権者の承諾がなくても、写真、映画、TV、ゲームなどのほか、グッズでの利用も可能なのです。なお、建築の著作物には、美術の著作物と異なり「屋外に設置」という限定がありません。このため、理論的には、「建築の著作物」の一部であれば、階段や応接室なども、上記のような自由利用の対象に含まれるのかもしれません。

 一方、創作性が高く、美術の著作物にも該当するような建築物については、自由利用の範囲は制限されます。私的目的や非販売目的(例:無料配布)での写真撮影のほか、販売目的であっても背景の一部として写す程度は可能です。ただ、建築物に焦点を当てた画像データ、絵葉書、ポスターなど、こうした範囲を超えた、販売目的での写真撮影その他の複製や販売を行うには、著作権者の承諾が必要となるのです(同法46条4号)。加えて、「彫刻」に該当する場合には、さらなる制限があり、販売目的の有無に拘わらず、ミニチュアを制作するにも著作権者の承諾が必要となり得ます(同法46条1号)。

 では、そもそも、どういった建築物が著作物になるのでしょうか。裁判上、著作物性が認められた主な建築物に以下がありますが、それ程多くはありません。

ノグチ・ルーム ステラマッカートニー青山旗艦店【注2】
(出所:慶應義塾大学アート・センター) (出所:ファッションプレス)

新梅田シティ【注3】
(出所:新梅田シティ)

 なお、神社仏閣、城郭等の建造物も著作物となり得ますが、保護期間が満了済みのものも多いようにも思われます(同法51条)。
 一方、著作者人格権は、保護期間の満了後も存続する可能性があります。著作者が生きていたとすれば、著作者人格権の侵害となるような行為は禁止され(同法60条)、また、著作者の名誉や声望を害するような著作物の利用は、著作者人格権侵害とみなされます(同法113条7項)。
 例えば、東京タワーが、モスラ、キングギドラ、ガメラ、ガラモン、ゴジラなどに繰返し破壊されたように、映画やゲームの表現上、建築物の破壊行為は少なくありません。ただ、そもそも建築物が著作物になることが前提となりますが、建築物を破壊するような表現は、その態様等によっては、理論上は、著作者人格権侵害に該当する可能性もあるのです。

(2) 商標権

 東京タワースカイツリーなどは、名称だけでなく、建物のシルエット等を商標登録しています。また、店舗等の外観については、識別力(≒自社の商品・サービスを、他社の商品・サービスと区別する力)があれば、立体商標としても登録可能です。
 東京タワースカイツリーなどのランドマーク的な建築物の立体商標については、識別力があることなどから、形状ほぼそのものが立体商標として登録されています。しかし、店舗外観の立体商標については、ファミリーマートコメダ珈琲カルチュア・コンビニエンス・クラブなど、ロゴ等の標章が付されているものが多くなっています。

 商標権者は、無断使用者に対して、差止請求や損害賠償請求も可能です(商標法36条、38条)。ただ、商標のあらゆる使用を制限できるわけではありません。商標権は、そのデザインではなく、商標に含まれる「営業上の信用」を保護する制度です。このため、商標権の対象は、営業上の信用のフリーライドなど、自他識別力を有するような使用(「商標的使用」といわれます)に限られます(同法26条1項6号)。

 商標登録されている建築物をグッズなどに使用する際は、要注意です。特許庁関連のウェブサイトを利用して、指定商品・役務(≒商標の使用対象として指定された商品・サービス)をチェックした方がよいでしょう。一方、商標登録されている建築物を、コンテンツ上、単なる表現の一環として登場させることは、商標的使用に当たらず、商標権侵害にならないこともあるのです。
 補足すると、特に、パッケージに写真を表示するような場合には、ジグソーパズルの題材として商標登録された建築物を使用することは微妙かもしれません。一方、映画、TV、ゲーム等のコンテンツ上の表現の一環として商標登録された建築物を表示したとしても、ポスター、トレイラー、パッケージなどでその場面を特に強調していなければ、商標権侵害とならない可能性もあるのです。

 なお、本コラムでは深く取り上げませんが、建築物は、不正競争防止法(誤認混同、形態模倣等)によっても保護され得ます。ただ、商標権と同様に、単なる表現の一部としての使用は、不正競争とされない可能性があります。

(3) 意匠権

 以前コラムでご紹介したように、2020年4月から、建築物も意匠登録の対象となり、「ユニクロPARK 横浜ベイサイド店」や「上野駅公園口駅舎」などの登録事例も出ています。ただ、1年間の猶予期間がありますが(新規性の喪失。意匠法4条各項)、意匠登録の対象は、新規のデザインです。このため、コンテンツ上で、2020年4月以前に存在していた建築物を使用したとしても、意匠権侵害となる可能性は低そうです。

 また、そもそも、意匠権者が独占権を有する「実施」とは、建築物については、建築、使用、譲渡・貸渡し等とされています(意匠法2条2項2号)。「使用」とは、意匠に係る物品を、その用途や機能に従った使い方で用いることなどと解されており、建築物については、(「意匠に係る物品」欄に記載されるような)三次元の建築物として用いることと思えます。このような解釈に基づけば、映画、TV、ゲームなどのコンテンツにおいて、その表現の一環として意匠登録された建築物を登場させたとしても、意匠権侵害にはなり難いように思われます。

(4) パブリシティ権/宗教的人格権

 人物については、パブリシティ権が発生する可能性はありますが、パブリシティ権の対象は「人」であり、「モノ」は対象外とされています(ギャロップレーサー事件)。このため、仮に著名な建築物であっても、その使用は、パブリシティ権よっては制限され難いでしょう。
 また、神社仏閣のような宗教的な建築物については、宗教法人等には、宗教的人格権(≒静謐な宗教的環境の中で信仰生活を送る権利)が発生し得ます。ジグソーパズルは、その画像をバラバラにすることから、「神社仏閣のジグソーパズルが宗教的人格権を侵害する」といった主張も一応分かります。その他、映画やゲームの演出上、神社仏閣を破壊するような場合には、宗教的人格権の侵害ともなり得ます。壊し過ぎにはご注意を。

(5) 施設管理権/利用規約

 建物や施設の所有者や管理者には、所有権に基づく「施設管理権」があるとされます。施設内の迷惑行為については、この施設管理権に基づく制限があり得ます。ただ、写真撮影の可否が施設によって異なるように、施設管理権に基づくルールの内容も様々です。このため、施設管理権者は、施設利用者にルールの遵守を求めるのであれば、入口に「施設利用上の注意」を掲示するなど、入場に際して、施設利用者に遵守事項を認識させるような工夫も必要でしょう。
 冒頭の事例に関連して、平等院でも、パンフレットに「撮影禁止」の文言を掲載していたようです。ただ、パンフレットに掲載しただけでは、「撮影禁止」のルールを知らない入場者もいそうです。また、施設管理権は、施設内での行為を制限する権限です。このため、写真撮影のルールを定めていた場合に、このルールが、施設内の映像を利用する第三者にまで及ぶか否かは、事案毎の判断となりそうです。

◆おわりに

 上記のように、建築物には、様々な権利が発生する可能性があります。また、著作権法的には、「建築の著作物」や「美術の著作物」の該当性によって、利用可能な範囲も異なります。少し寒くなってきましたが、街歩きやジョギングをしながら、「建築の著作物」や「美術の著作物」になりそうな建築物を探してみるのもお勧めです。

【注1】中山信弘「著作権法〔第3版〕」105頁
【注2】知財高判2017年10月13日及びその原審の東京地判2017年4月27日では、原告及び被告が当該建築物の著作物性を前提としており、裁判所が正面から著作物性を認定したわけではありません。
【注3】大阪地決2013年9月6日では、新梅田シティの緑地、散策路、園風景などで構成された庭園、噴水、水路などの庭園関連施設の著作物性を肯定しましたが、「建築の著作物」とはしていません。

以上

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