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コラム column

2023年3月30日

著作権契約メディアIT・インターネットエンタメスポーツダンス

「実演×デジタル=?」

弁護士  岡本健太郎 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

本年3月10日、不正競争防止法等の改正案が閣議決定されました。改正案の1つは、概要、他人の商品形態を模倣した商品を提供することを、当該他人の商品の販売後3年間、現実世界だけでなく、デジタル空間における提供行為も不正競争行為とするものです。このように、現実世界とデジタル空間での行為の法的取扱いは、その違いが薄まりつつあります。
エンターテイメント分野に視点を移し、ライブやイベントはどうでしょうか。オンラインライブやメタバース上でのライブなど、デジタル空間上のイベントは、現実空間でのイベントと比較して、時間や空間の共有といった共通点はありますが、法的取扱いは異なります。今回は、そんなデジタル空間上での実演を考えます。

■実演

まずは「実演」のおさらいです。「実演」とは、著作物を、演劇、舞踊、演奏、歌唱、口演、朗詠その他の方法で演じることをいい、演じる対象は著作物に限りません。演じる対象が著作物以外であっても、芸能的な性質があれば「実演」に含まれます(著作権法2条1項3号)。著作物以外のものを演じる「実演」には、例えば、手品、曲芸、腹話術、物まね、猿回し、アクロバット、アイス・ショーなどがあり、新体操、フィギュア・スケートなどの芸術的なスポーツ(アーティスティック・スポーツ)を含む考え方もあります。
2024年のパリ・オリンピック競技大会から、ブレイクダンスが競技種目に加わります(!)。オリンピック競技としてのブレイクダンスであっても、(技の要素がより多いと想像してますが)著作物や実演としての要素があるように想像します。

また、「実演家」とは、俳優、舞踊家、演奏家、歌手などのほか、指揮者、演出家などの、実演を指揮又は演出する者も含まれます(同4号)。著作権法上の「実演」や「実演家」は、ある意味では、辞書的な「実演」や「実演家」よりも広いのです。

■実演に関する権利(著作隣接権)

実演家は、「その実演」、すなわち自己の実演に関して権利を有します(91条1項など)。いわゆる著作隣接権です。実演家の権利を保護する主な理由の1つとして、実演は、創作活動に準じた側面があるため、保護を認め、その準創作的な活動を奨励することにあるとされています。

ただ、実演家は、実演の全ての利用について権利を主張できるわけではありません。実演家が有する権利は、①録音・録画権(91条1項)、②放送・有線放送権(92条1項)、③送信可能化権(92条の2第1項)、④譲渡権(95条の2第1項)などに限られます。換言すると、実演家は、第三者が自己の実演について、①録音・録画、②放送・有線放送、③送信可能化(≒アップロード)、④録音物・録画物の譲渡などを行う場合に限り、こうした行為の差止や損害賠償請求が可能なのです。

なお、実演家は、自分の実演が録音された商業用CDやレコードを第三者が貸与(レンタル)、放送等する場合にも、権利を主張できます(95条、95条の3)。ただ、先に触れた実演の録音・録画などに関する権利は、第三者の行為を禁止する「禁止権」である一方、商業用CDやレコードの貸与、放送などに関する実演家の権利は、第三者に対して報酬や二次使用料を請求できる「報酬請求権」です(厳密には、貸与権はCDやレコードの販売後1年間に限り禁止権です(95条の3第1項、2項))。
平たくいうと、実演家は、自身のCDやレコードを第三者が貸与又は放送することは禁止できず、使用料を請求できるに留まります。

また、実演家は、自己が出演した映画(≒映画の著作物において録音・録画された実演)の利用について、自身の権利(著作隣接権)が大幅に制限されます。サントラ版などの録音物に録音する場合には権利が及びますが、それ以外には権利は及ばず、報酬請求権もありません(91条2項)。実演家の権利は、基本的に、自身が出演した映画のDVD化、テレビ放送、ネット配信等には及ばないのです。なお、「映画」は、劇場用映画に限らず、記録媒体(物)に記録されていれば、YouTube動画、CG映像、ゲーム映像なども含む可能性があります。
実演家の権利は、自己が出演した録音・録画物が放送又は有線放送される場合も及びません(92条2項2号イ)。例えば、正規版のCDやDVDを放送するには、(上記の二次使用料の支払いは必要であるものの)実演家の承諾は不要なのです。
このように、実演家の権利は、利用方法等によって範囲が異なります。

その背後にある考え方が、「ワンチャンス主義」です。少し独特な呼び方ですが、端的には、実演の最初の利用許諾の際に、以降の利用から生じる利益の分配も一括で処理させる考え方です。複数の関係者の著作隣接権が存在する場合には、特定の管理者に権利の管理を集中させ、その他の関係者は管理者との契約を通じて利益を確保するような制度でもあります。
例えば、映画一つとっても、様々な俳優が出演し、各々が実演家としての権利を有します。映画の利用に際して、各俳優との権利処理を必要とした場合には、権利処理がとても大変になり、映画が利用されない帰結にもなり得ます。ワンチャンス主義は、実演家の権利を制限する側面はあるものの、一面では、著作物や実演の利用促進を図る制度です。

実演家には、そのほか、氏名表示権(90条の2)及び同一性保持権(90条の3)といった人格権があります。ただ、著作物と異なり、公表権はありません。

■実演の分類

前置きが少し長くなりましたが、実演をいくつかの切り口で分類してみます。

(1) 音声/動き
実演は、大きく「音声」と「動き」に分けられます。「音声」には、俳優の演技(音声部分)、声優のアテレコやアフレコ、歌唱、楽器演奏などのほか、ラジオ出演、落語、漫才、漫談、物まねなどがあります。一方、「動き」には、ダンス、手品、曲芸、アーティスティックスポーツなどがあります。

冒頭のとおり、著作権法上、「実演」は、演劇、舞踊、演奏、歌唱、口演、朗詠その他の方法で演じることなどと定義されています。音声が主体の「演奏」、「歌唱」、「口演」、「朗詠」と、動きが主体の「舞踊」が特に区別なく列挙されているなど、実演の定義上、音声と動きによる区別は特になさそうです。

(2) 道具の有無
実演には、道具を使うものと道具を使わないものがあります。道具を使うものには、演劇、楽器演奏などがあります。 一方、道具を使わないものには、歌唱、漫才、漫談、ダンスなどがあります。ただ、歌唱、漫才、漫談等でも、多くの場合にはマイクが使用されます。また、ダンスについても、通常、靴、衣装などが着用されるなど、道具の使用は程度問題です。白塗り(例:山海塾)、電飾(例:WRECKING CREW ORCHESTRA)、着ぐるみ(例:戦隊もの)などを用いる例もあります。
別の視点では、音声にエフェクトが加わり、加工処理される場合のほか、電飾、着ぐるみなどで演者の身体が直接見えない場合も、「実演」とされています。

繰り返しとなりますが、著作権法上、「実演」は、演劇、舞踊、演奏、歌唱、口演、朗詠その他の方法で演じることなどと定義されています。通常は道具を使う「演劇」や「演奏」と、道具が必須でない「歌唱」、「口演」、「朗詠」が特に区別なく列挙されているなど、実演の定義上、道具の有無による区別は特にありません。

(3) プログラムの有無
実演の多くは、その場で行われる、ある意味では即興的なものです。一方、電子楽器や音楽制作ソフトなどは、制作済みの音源を観客の面前で再生するといったパフォーマンスも可能です。ボーカロイドソフトがあれば、ストリングス、ドラムといった楽器風の音に加えて、人が歌唱しているような音も出ます。

シンセサイザー・プログラマーやボーカロイド・プロデューサーなどが、音色、技法などを選択して音楽や音源を制作するような場面を「実演」と捉える考え方もあります。この考え方からすると、電子楽器や音楽制作ソフトによる音源の制作も「実演」となり得ます。ただ一方、予めプログラムされたとおりに、シンセサイザーやボーカロイドが音源を再生する場面を「実演」と捉えるのには、違和感もあります。どの時点をもって実演や録音/録画と捉えるかについては、議論があり得るように思えます。

■実演×デジタル

さて、デジタル技術を用いた実演に話を移します。ここでは「デジタル実演」と呼んでおきます。「実演」として保護されるか否かはさておき、デジタル実演には、例えば以下がありそうです。

① オンラインライブ(人物の映像によるもの)
② メタバース上のライブ(アバターの映像によるもの)
③ ゲームその他

(1) オンラインライブ(人物の映像)
歌手、タレントなどがライブを行い、そのライブをオンライン配信する場合が典型です。歌手やタレントによる歌唱、ダンスなどが「実演」に該当することに、特に異論はないでしょう。

(2) メタバース上のライブ(アバターの映像)
メタバース上で、アバターがライブを行う場合が典型です。音声と動きについて、取扱いが異なるように思えます。

(a) 音声
アバターを介していても、人による歌唱は「実演」となります。掛け声やトークも、芸能的であれば「実演」となるかもしれません。また、上記の考え方からすると、電子楽器、音楽制作ソフトなどで楽器や歌声などの音源を制作することも「実演」となり得ます。

(b) 動き
アバターの動きは、キーボード、コントローラなどで操作するほか、モーションキャプチャーで人の動きを取り込み、そのモーションデータを利用することがあります。余談ですが、モーションキャプチャーには、センサーやマーカーを使用する下記①及び②のほか、これらを使用しない下記③もあり、AIを用いた技術[1][2]もあるようです。

① 慣性式(人の体に付けたセンサーの情報を骨格モデルに当てはめる方式)
② 光学式(人の体に付けたマーカーの位置を、カメラを使ってトラッキングする方式)
③ 画像式(カメラを使って人の動きをトラッキングする方式)

キーボードやコントローラを使ってアバターを操作する場合は、人間の動きは手先が中心です。ただ、上記のとおり、道具を使った「実演」もある上、例えば楽器の演奏も、(体全体の表現ではあるものの)手指の動きが中心です。このため、キーボードやコントローラで操作又は設定したアバターのパフォーマンスも、「実演」となり得るように思えます。

モーションキャプチャーを使う場合には、人間(中の人)は、アバター等を介したパフォーマンスを目的に身体を動かします。現状では、モーションキャプチャーで取込んだ身体の動き(モーションデータ)を利用して、映像編集者等が映像を別途制作する場合も多い一方、先のようなAI技術の進展もあり、現実の動きが、デジタル空間にほぼ直接的に反映される場合もあります。細かい議論は省略しますが、アバターを、表現上の道具、いわばデジタル空間上の「着ぐるみ」のように捉えれば、アバターを介した動きも「実演」となり得るようにも思えます。
ただ、モーションキャプチャー等で取得された人間(中の人)による身体の動きが「実演」に該当すれば、その人間(中の人)は、その実演について録音・録画、公衆送信等の権利を有します。人間(中の人)による身体の動きに実演的要素がある場合には、これを「実演」と捉えつつ、モーションデータの配信、アバター映像の録画等に際して、その人間(中の人)の承諾を要するとするのが今後の方向性のようです(メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議「メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題等に関する論点の整理(素案)」(45頁)。

(3) ゲーム
ゲームは、制作過程でモーションキャプチャーが用いられることもありますが、ユーザーは、キーボードやコントローラなどでキャラクターを操作するのが通常です。この点は、アバターをキーボードやコントローラで操作する場合と同様です。主な違いは、アバターによるイベントには視聴者がいるのに対して、ゲームのプレイは、必ずしも視聴者がいないことかもしれません。

ただ、近年、盛り上がりを見せるeSportsは、視聴者が、プレイヤーによるゲームプレイを視聴して楽しむという側面があります。また、マルチプレイのオンラインゲームなどでは、あるプレイヤーによるプレイを、複数のプレイヤーが視聴しています。さらには、eSportやオンラインゲームに限らず、上級者や友人のプレイは見ていて楽しく、ゲームセンターや家庭でも、つい見入ってしまうことがあります。とすると、ゲームのプレイも、「実演」とされる可能性はあるように思えます。

■実務対応

メタバース上のライブには、リアルタイムのほか、制作済みの映像を流すといった非リアルタイムのものがあります。アバターの操作あるいはアバターによる歌唱や動作が「実演」となれば、その実演を配信、録音又は録画するには、アバターの背後で歌唱、操作、動作等を行った「実演家」の承諾が必要となります。ゲームのプレイが「実演」になる場合も同様です。
一方、先に述べたワンチャンス主義により、予め実演家の承諾を得て録音及び録画した「映画の著作物」については、他の媒体への複製、そのネット配信などの際に、実演家の承諾は不要となります(91条2項、92条の2第2項1号)。

また、仮に、一般論として、デジタル空間上のパフォーマンスが「実演」となり得るとしても、「実演」としての保護の有無や範囲はパフォーマンス毎に異なります。「実演」の定義上、演じる対象が著作物であるか、あるいは芸能的な性質が必要となります。ファッションショーにおけるモデルのポーズについて、「実演」にあたらないとした裁判例もあります(知財高判平成26年(2014年)8月28日)。
デジタル実演は、これからさらに広がる可能性がある一方、不明又は未確定なことが目白押しです。このコラムを書いていて、「底なし沼」に入っていく恐怖を感じました。トラブルの未然防止の観点からは、差し当たりは、関係する契約書や利用規約などにおいて、デジタル実演が「実演」に当たることも想定しつつ、実演に関する①権利の帰属先、②可能な利用方法、③利用に伴う対価の有無等を定めておくとよいのかもしれません。

以上

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