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コラム column

2020年5月 8日

著作権商標改正IT・インターネットアート

「デザイン業界がざわめいた!? 130年ぶりの意匠法大改正」

弁護士  岡本健太郎 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

 コロナの感染拡大やその影響が心配される毎日ですが、そんな中、2020年4月1日に(ひっそりと)改正意匠法が施行されました。デザインの保護強化を図るもので、130年ぶりの大改正とも言われています。例えば、画像の意匠登録の範囲が広がったほか、建築物や内装も意匠登録の対象とされました。
 本コラムでは、意匠法改正の概要をぐっと凝縮してお伝えいたします。withコロナ、afterコロナの時代を見据え、デザインの保護について考えてみませんか。

1. 意匠権及び本改正の超概要

 意匠権とは、デザインの保護を図る法制度です。著作権、商標権、特許権などに比べると、なじみがやや薄いですが、電化製品、家具、パッケージなどをはじめ、実に様々なデザインが意匠登録の対象です。意匠権を獲得するには、特許権や商標権と同様に、特許庁への出願及び登録が必要です。参考までに、他の主な知的財産権の保護の対象は、以下のとおりです。

特許権    発明
意匠権    デザイン
商標権    商品やサービスの名称、ロゴ等
著作権    美術、音楽、文芸などの芸術的・文化的な表現

 あるデザインが意匠権として登録されるには、①工業上の利用可能性、②新規性、③創作非容易性等の要件を満たす必要があります。
 ①「工業上の利用可能性」とは、工業的技術を利用して同一物を反復して多量に生産可能であることをいいます。(a)石や動植物などの自然物、(b)絵画や彫刻などの一品製作物は、工業上の利用可能性を欠き、意匠登録できません。
 ②「新規性」とは、新しいデザインであることをいいます。例えば、日本又は外国で広く知られたデザイン、刊行物に掲載されたデザイン、インターネット上に公開されたデザインなどは新規性がなく、意匠登録できません。
 ③「創作非容易性」とは、当業者(≒その分野の通常の知識を有する者)が容易に創作できないことをいいます。例えば、当業者にとってありふれた方法で、公知デザインの置き換え、寄せ集め、配置変更、構成比率の変更等を行っただけのデザインは、意匠登録できません。

 意匠法の今回の改正項目は多岐に渡りますが、主要項目を3つ挙げるとすれば、①保護対象の拡充、②関連意匠制度の拡充、③存続期間の変更でしょう。①保護対象の拡充は、本コラムで掘り下げますが、②関連意匠制度の拡充とは、自動車のモデルチェンジのようにデザインを少しずつ変えていく場合、各デザインを「群のデザイン」として保護するものです。また、③存続期間は、これまでは「登録日から20年」でしたが、「出願日から25年」に延長されました。

2. 保護対象の拡充(1):画像

(1) 概要

 今回の改正前から、画像のうち、①物品の機能発揮に必要な「表示画像」(例:デジタル時計の時刻表示)と②物品の操作に必要な「操作画像」(例:プリンターの操作画面)は、意匠登録の対象でした。ただ、物品(≒動産)への記録・表示など、物品との関連性が前提であり、物品から離れて存在する画面デザインは保護の対象外でした。
 しかし、今回の改正により、「表示画像」(機器の機能発揮の結果として表示される画像)及び「操作画像」(機器の操作に供される画像)については、物品との関連性が不要とされ、画像のみでも意匠登録の対象となりました。例えば、(a)ネットワークを通じて提供されるソフトウェアやウェブサイトの画面、(b)アイコン、(c)壁や床、人体等に投影される画像、(d)VR・ARの画像なども意匠登録の対象となり得ます。
 なお、画像全てが登録対象となったのではなく、依然として、表示画像や操作画像が登録対象です。これらに該当しないゲームの画像、映画やテレビの画像、壁紙画像、写真などのコンテンツは、意匠登録の対象外です。

(2) 著作権等との比較

 ネットワークを介したソフトウェアやウェブサイトの画面(上記(a))に関連して、従来は、こうした画面の保護を図るには、著作権が有力な手段の1つでした。ただ、ソフトウェア等の画面には実用的な側面があり、操作性などの制約もあるため、著作物性が認められ難い傾向があります(東京地判2002年9月5日東京地判2003年1月28日など)。今回の改正後は、ネットワークを介したソフトウェアやウェブサイトの画面(操作画像/表示画像)についても、意匠権が有力な保護手段となりそうです。また、IoTやVR/ARなどの新しい分野の画像においても、意匠権の活用が期待されます。

 また、アイコン(上記(b))に関連して、ピクトグラムのような比較的シンプルなデザインであっても、著作物性が肯定される場合もありますし(大阪地判2015年9月24日)、商品やサービスのマークは、商標登録の対象です。今回の改正により、アイコンの保護手段として、著作権、商標権のほかに意匠権も加わりましたので、アイコンの権利保護を図りたい場合には、各権利の特性を踏まえ、1つ又は複数の保護手段を活用していくことも考えられます。
 参考までに、各権利の特性として、例えば、(i)著作権は出願・登録が不要である一方、権利の有無が不明確な場合がある、(ii)商標権は登録後、半永久的に更新可能である、(iii)意匠権は、原則として公開後は登録できない、などが挙げられます。

3. 保護対象の拡充(2):建築物

(1) 概要

 意匠法では、これまでは物品(≒動産)のデザインが登録対象であり、不動産である建築物は登録の対象外でした。しかし、今回の改正により、物品に加えて、不動産も登録の対象とされました。意匠審査基準上、「建築物」とは、土地に定着した人工構造物とされ、土木構造物も含まれます。例として、オフィスビル、住宅、商業施設などのほか、橋梁、競技場、電波塔などが挙げられます。「学校の校舎と体育館」、「老人ホームと病院」、「複数の棟からなる商業用建築物」のように、複数の建築物を1つの意匠とすることも可能です。
 また、建築物に付随及び固定され、位置が変更しないものであれば、ウッドデッキ、ペデストリアンデッキ等のほか、グリーンウォールやプランター内の植物等の自然物も、建築物の意匠の一部となり得ます。そのほか、一定の場合、建築物に固定された画像表示器や照明器具によって建築物の壁面に映し出される画像や模様も、建築物の意匠の構成要素となるようです。

(2) 著作権等との比較

 従来から、建築物は、著作権法上「建物の著作物」として保護の対象であり(10条1項5号)、住宅、ビル、教会、神社仏閣、橋梁、墳墓、庭園なども含まれます。ただ、一般住宅について、著作物性が認められるには、独立して美的鑑賞の対象となり、文化的精神性を感得できるような造形芸術としての美術性が必要であるとするなど、ある程度高い芸術性を要求した裁判例もあります(大阪高判2004年9月29日東京地判2014年10月17日)。一方、意匠法上は、新規性、創作非容易性などで足り、芸術性までは要求していませんので、建築物については、著作権よりも意匠権の方が保護のハードルが低そうです。また、裁判を経ることなく、権利の有無や範囲を予め確定できる点も、意匠権の利点といえるでしょう。
 なお、過去には、(a)建物と庭園や、(b)植栽、樹木、池等からなる庭園と関連施設について一体的に著作物性を認めた裁判例もあります(東京地決2003年6月11日大阪地決2013年9月6日)。一定の場合に自然物のデザインも権利の一部となり得る点では、保護範囲について、著作権と意匠権に大きな違いはないのかもしれません。

4. 保護対象の拡充(3):内装

(1) 概要

 店舗等の内装には、テーブル、椅子、什器等の様々な物品のほか、壁、天井等の建築物の一部が含まれます。このため、内装は、意匠法の原則である「一意匠一出願」になじまず、「物品」から構成されるとも言い難いことから、従来は意匠登録の対象外でした。ただ、今回の改正により、「内装全体として統一的な美観を起こさせる」内装は、意匠登録の対象とされました。
 店舗や事務所の内装だけでなく、キャンピングカー、客船、旅客車両、旅客機、乗用車等の動産の内装も意匠登録の対象となり得ます。キッチン、バスルームなど、建築物の一部も同様です。

 意匠登録の要件の1つである「内装全体として統一的な美観を起こさせるもの」は、やや分かりにくい概念ですが、以下のように、ある程度は幅広いものが対象となりそうです。

①構成物に共通の形状等の処理がある ②構成物が1つの形状・模様を示している
例:椅子、テーブル等の角を斜面状とした喫茶店

例:木目調で統一し、上部から見て什器を花のように配置した図書室

③構成物に観念上の共通性がある ④構成物を統一的秩序で配置している

例:太陽系の惑星の大きさの比率を再現した博物館の一部

例:個人のユニットを六角形・ハチの巣状に配置したオフィス

⑤統一的な創作思想に基づいており、全体の形状に1つの美感としてまとまりがある
例:コメダ珈琲店

例:武雄市図書館

(2) 著作権等との比較

 これまでも、店舗デザインの保護手段として、①立体商標、②著作権、③不正競争防止法などがありました。ただ、①立体商標は、店舗の外観デザインが中心になりそうですし、実例も多くはありません。また、店舗デザインは、様々な要素の複合体であり、実用性のあるデザインですので、②著作権による保護になじまない部分があります(中川隆太郎:「店舗の外観デザインは守られるのか―法的保護のハードル―」もご参照)。
 こうしたことから、店舗デザインの保護手段は、③不正競争防止法が中心でした。といっても、同法によって店舗デザインの保護を認めた事案は、コメダ珈琲(東京地決2016年12月19日)に限られます。その上、この事案でも、店舗の外観(店舗の外装、店内構造及び内装)が保護されるには、(a)他の同種店舗の外観と異なる「顕著な特徴」と、(b)出所表示としての需要者の「広い認識」が必要とされた上、広い認識(上記(b))を得るには、当該外観の継続的・独占的な使用や宣伝が必要である旨が示唆されています。
 こうしたこともあり、同法で保護される店舗デザインは限定的ですし、特に多店舗展開や宣伝を行っていない新規店舗のデザインは保護され難いでしょう。今回の改正後、意匠権は、店舗デザインの保護を図るための有力な手段となりそうです。

5.  おわりに

 以上、今回の意匠法改正について、画像、建築物及び内装の取扱いを中心に、駆け足で触れてきました。改正意匠法が施行された本年4月1日には、早速、同日開業のMICE施設「奈良県コンベンションセンター」のテナント「蔦屋書店」の内装について、意匠出願がされたようです。
 今後、様々な分野における意匠権の利用が期待されますが、新規のデザインであっても、公開後は、原則として意匠登録の対象外となります(1年間の新規性喪失の例外あり)。こうした特性も理解しつつ、デザインの保護を図ってみてはいかがでしょうか。

参考:
特許庁「意匠登録出願の基礎(建築物・内装)
特許庁「意匠審査基準」(画像を含む意匠建築物の意匠内装の意匠

以上

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