All photos by courtesy of SuperHeadz INa Babylon.

English
English
Loading

コラム column

2019年5月 8日

文化・メディア契約

「イベント・観光地での撮影・録画はどこまで自由か
      ~著作権・施設管理権・契約の守備範囲を考える~」

弁護士 福井健策(骨董通り法律事務所 for the Arts)

史上最長のGWは風と共に去った。現実逃避を兼ねて思い出してほしい。この連休中、イベントでも観光地でも「撮影・録画は禁止です」に始終出くわさなかったか?3つのフェスを行脚した筆者の場合、この間「祝・令和」の次にたくさん見た言葉かもしれない。
特に撮影中にアナウンスで注意されたりすると、「ややそうでありましたか。これは失敬失敬」という感じで何となく恥ずかしそうにカメラやスマホをしまうのが大人の作法というものだが、あれは、根拠はあるのだろうか。どんな場合に根拠があって、その後の写真や映像の利用はどのくらい制限されるものだろう。あまつさえ、コンサート会場などでは「カメラの提出」や「画像の消去」なんて求められたら、応じないとだめなのだろうか?GW中の楽しい画像データを整理しつつ、そんな辺りを今日は中くらいに掘り下げたい。

撮影・録画禁止に法的根拠はあるか?

まずは撮影・録画禁止の法的根拠について。一般には3つ指摘できるだろう。
ひとつは「著作権・肖像権の侵害にあたるから」。場内アナウンスなどでも一番よく使われる理由だ。これは、無論あり得る。舞台作品やコンサート、美術展などはたいてい著作物の固まりである。また出演者にはしばしば「著作隣接権」がある。そのため、下の表の通り、基本的に無断での撮影や録画は出来ない。
ただし、例外がいくつか。例えば、古い名画などはもう著作権が切れているので、当然著作権ははたらかない。また、建築物や屋外・公開の美術作品(いわゆるパブリックアート)は著作権法46条という例外規定があって、基本的には撮影も公開も自由だ。それ以前に、私的複製(30条)という大きな例外規定があるから、個人や家庭内で楽しむための撮影・録画は自由なのである。


撮影・録画に関わる主な権利

対象 脚本・作詞・作曲・美術等 歌唱・演奏・演技・芸能等 人の姿態
行為 働く権利
著作権 著作隣接権 肖像権・パブリシティ権
写真撮影 要許可 許可不要 場合による
録画 要許可 要許可 場合による
ネット公開 要許可 写真:許可不要
録画:要許可
場合による
上記の例外 私的複製は可。建築・パブリックアートは基本利用自由 私的複製は可 明文なし

よって、イベント会場で録画している観客がいて主催者が「著作権侵害だからやめて下さい」と注意すると、「いや個人の思い出のために撮ってるんで自由なのでは?」なんて問い返されるかもしれない。(さすがにあまり聞かないし、また嘘はいけないが。)
他方「肖像権」はどうだろうか。これは撮影すれば必ず侵害というものではなく、判例で認められて来た権利で射程はもう少し曖昧だ。「パブリシティ権」という仲間の権利とあわせて詳細は省くが、例えば屋外の公開イベントで出演中のタレントを個人の楽しみのために撮影したとしても、法的な侵害は必ずしも成立しない場合が多いだろう。他方、一般の方やタレントでもプライベートの姿を無断で大きく写すなんていうのは、肖像権侵害の可能性は上がるし、マナーの問題としても節度は持ちたい。

では、著作権・肖像権の侵害にあたらないケースでは撮影規制に法的根拠はないかというと、第二の候補に「施設管理権」がある。これは建物や敷地の所有者・管理者に法的に認められる権利で、例えば施設内での迷惑行為を禁じたり、そういう利用者には出て行って貰ったりできる権利だ。場内アナウンスで「他のお客様の迷惑になり、また演出の妨げになりますので、フラッシュを用いた撮影はお控えください」なんていうのは、この一例だろう。
イベント・観光地に限らずお店での料理の撮影などにも通じそうなごく身近な問題だが、実は、この方面での文献や裁判例は驚くほど少ない。幾つかある解説ではごくシンプルに「施設管理権があるので撮影禁止の表示があれば撮影は不可!」と記載するものもあるが、恐らく問題はもう少し複雑だろう。
勝手に立ち行ったような人とは違い、多くの来場者は何らかの相互の了解に基づいてそこにいるはずであり、まずはその了解内容が問われるからだ。例えば、遊園地など撮影がかなり当たり前の施設にチケットを買って来た来場者に、後から「施設内での撮影は一切禁止です」とアナウンスすれば、怒る人も多いだろう。

ここで、第三の候補「契約」が浮上する。そもそもイベント等へのチケット販売はいわば「入場契約」だ。よってその「契約の内容」が問題となる。チケットの裏面に「撮影禁止」と書いてある程度で契約と言えるかは疑問だが、例えばオンラインでの購入時に「販売規約」をクリックして明瞭に同意した場合、そこに「無断撮影禁止」と書いてあったら、一般的な内容でもあるし有効の可能性は高いだろう。
入場無料の場合でも、施設の入り口に大きく「撮影禁止」と表示されており、それを見ながら入場したらどうだろう。恐らく、同意した者だけが入場を許されるのだろうから、「撮影しない合意」があるとみなされるケースが多いのだろう。撮影についての有効な合意があれば、それに従った扱いが原則だ(定型約款の扱いについてはこのコラムなど)。

撮影に関する合意が見当たらない場合、はじめて「施設管理権」プロパーの問題になる。そしてこれは恐らく、ケース・バイ・ケースで考えざるを得ない。
公開された観光地や、入場料など対価を払ってそこにいるのか。フラッシュ使用など、撮影による周囲の迷惑。主催側の売上損失。(契約には至らないまでも)撮影禁止の表示がどの程度あったのか。個人的な楽しみのための撮影か、営利目的か。そういった複数のファクターで「撮影禁止」、ひいては「撮影禁止に従わない入場者には出て行って貰う」ことの正当性が決まるのだろう。

いずれにしても、この「著作権・肖像権」「施設管理権」「規約」の3つの組み合わせで、撮影や録画禁止の法的裏付けは形づくられている。

撮影・録画物のその後の利用はどうか?

以上が撮影の規制だった。ではその後のSNS公開などの利用はどうだろうか。
第一の著作権・肖像権は、大いに及ぶ(上記図参照)。SNSでも限られた友人にしか見せないような環境なら、私的複製やその延長上のいわゆる「寛容的利用」として許される場合もあろう。他方、例えばTwitterやブログでの一般公開などだと、これはどう考えても公衆送信なので、法的には厳しい。
第二の施設管理権は、先日問題になった「平等院」問題でも改めて浮上した。これは基本的には所有権に基づく施設自体の管理権限であり、「顔真卿事件」などの最高裁判決に照らしても、写真の後日の利用にまで直接及ぼすのはやや厳しいように思える。
第三の契約・規約は、内容しだいである。無断撮影や、撮影物の後日の利用がはっきり禁止されている場合は、その違反には違いがないので損害賠償の請求対象にはなるのだろう。もっとも、果たしていくらの損害が発生したかの証明には苦労しそうだ。更に、条文の書きぶりが十分明確ならば、「契約の履行請求」として公開の停止などを裁判上求められるケースもあるだろう。

では、会場で撮影者のカメラを預かったり、撮影データの消去を求める行為はどうか?著作権の場合、理論上は「侵害による作成物の廃棄請求権」はある(114条2項)。契約・規約も書きぶりでは行けるケースもあろう。ただ、いずれも実力行使は出来ないので、その場では任意で提出を受けたり、促して消去して貰うという運用にとどまるべきだ。物理的な力の行使は正当化できない。
唯一、入口の手荷物検査を拒否したり禁止しているカメラが発見されたのに無理に入場しようとする観客を押しとどめたり、迷惑行為を繰り返すのに制止してもやめない観客を強制退場させるのは、ある程度までは許される場合があろう。でないと、平穏な施設・イベントの運営は到底難しいからだ。

どこまで規制し、どこまでオープンにするか?

ただし、それらは規制したいと思う行為がある場合の法的根拠の話であって、「すべて規制すべきか」は別問題だ。美術館など、数百年も前の作品ばかり展示しつつ、今でも撮影なんかしようものなら職員の方が2秒で駆け寄って来るケースもあるが、さて常に必要だろうか。
最近では「撮影、SNS拡散OK」といったイベントや美術館も徐々に増えている。他の観客への迷惑行為や行き過ぎた営利行為は困るが、そうでない個人の撮影・発信程度であれば、むしろイベントの盛り上がりが拡散され、動員への悪影響どころか良い影響ばかりだという認識が、主催者側にもだいぶ広がったからだ。権利で守る部分とオープンに開く部分の組み合わせが重要という、「オープン・クローズ戦略」である。フラッシュ・三脚禁止などで鑑賞環境の維持ははかりつつも、体験のシェア・拡散とのバランスも考えて行きたい。

・・・いや、別にGW中に撮影がらみで何かあったとかではなくて、以前からの意見として。

以上

※本サイト上の文章は、すべて一般的な情報提供のために掲載するものであり、
法的若しくは専門的なアドバイスを目的とするものではありません。
※文章内容には適宜訂正や追加がおこなわれることがあります。
ページ上へ