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コラム column

2020年11月26日

著作権IT・インターネット出版・漫画

「漫画ネタバレサイトは違法?適法?
   -ネット上における漫画ネタバレと著作権法の関係-」

弁護士  田島佑規 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

■はじめに

 学生の頃、学校に最新ジャンプを持ってくる友人は皆のヒーローであった。休み時間にこっそり皆で回し読みをする。少しでも早く続きが読みたい友人たちにとって、回ってくる順番は死活問題だ。嬉々としてネタバレを話そうとする友人を制止し、自分の番を待つが、下手を打った友人が先生に見つかり没収され悔し涙を流す。青春の一コマである。
 そうした筆者の青春時代とは異なり、今では電子出版が広がり、ジャンプはスマホで読める。新規作品はもちろん、過去の作品もそのほとんどがスマホで読める。やはり漫画は紙でなくちゃという根強い意見もあるが、スマホ一つでどこでも気軽に漫画が読めるというのはやはり便利である。

 だが、こうした便利な漫画ライフの到来とともに、今、我々の前には「ネット上における漫画ネタバレ」という問題が出現している。
   一口に漫画ネタバレといっても、最新話の全てをYouTube等の動画サイトにアップするものや、重要な一シーンをSNS上に掲載するもの、一コマ画像と共に感想を述べるもの、画像は掲載せず最新話のストーリー展開や描写を詳述するもの(いわゆる文字バレ)等、ネット上における漫画ネタバレの類型は実に様々である。
 実際にこうしたネタバレ問題に頭を悩ませている作者や出版社は多く、先日、キン肉マン作者と週プレNEWS編集部により、「SNSやブログ等、ネット上における『キン肉マン』の画像利用についてのお願い」も掲載された。前半の作者による熱い思いに胸打たれ、その後に続く、編集部からの「著作権侵害」や「損害賠償請求」等の厳しい記載に冷んやりする内容は、ネット上でも様々な議論を呼んだ。

 そもそもネタバレという行為自体、読者の楽しみを大きく奪うものであり、こうした読者に配慮のない形で行われる無神経なネタバレ行為がマナーとして許されるものでないことは言うまでもない。
 その上で、果たしてネット上でのネタバレ行為は、著作権法上も違法な行為(著作権侵害に該当する行為)といえるのか。以下、まずは簡単にではあるが、こうした検討にあたっての著作権法上の基本的な知識を確認した上で、ネタバレ類型ごとに検討を行いたい。
(なお、ネタバレ行為に関しては、著作権以外に一般不法行為などの議論もあるが、ひとまず本コラムでは著作権法上の問題に絞って検討を行うこととする。)

■著作権法の基本的な考え方

 他人の「著作物」をSNSやブログなど不特定多数が見られるインターネット上に無許可で掲載する行為は、著作権(複製権、公衆送信権)侵害となり原則許されない。なお、この点については営利目的でなければ問題ないのではないか等の意見も散見されるところであるが、ネット上に他人の著作物を掲載することによる著作権侵害の成否は営利目的か否かにより結論が変わるものではない。
 したがって、ネット上におけるネタバレ行為が著作権侵害となるかを検討する上では、まずはそのネタバレにおいて掲載されている情報が「著作物」に該当するかを検討することが出発点となる。

■漫画における著作物とはなにか

 ここでいう著作物とは、著作権法にはやや長い定義が存在するが、端的にいうとすれば「創作的な表現」をいう。これを漫画に関する情報に当てはめていえば、以下のように整理できるであろう。

 ・漫画とは、小説と挿絵のような関係とは異なり「絵と文字が一体となって一定の物語を表現したもの」であるとすれば、その表現全体として著作物に該当する。
 ・また、漫画で表現されている絵単独部分(たとえばある漫画の一コマや、あるキャラクターデザイン部分)のみを抜き出したものであったとしても、それは絵という漫画内の創作的表現部分を抜き出したものといえ、著作物に該当する。
 ・さらに、漫画といえば、ついその絵の部分に注目が集まるが、漫画により表現されている物語部分(ストーリー展開や登場人物のセリフ等)についても、漫画における創作的表現部分であり著作物に該当し得る。これは、漫画の内容に沿った映画等を制作する場合には、仮に漫画内のビジュアル的要素を用いなくとも、物語の原作者として漫画家や出版社の許可が必要であろうことに照らせば、理解しやすい結論であるといえるだろう。
(ただし、後述のとおり、物語の着想や大まかなあらすじ、ごく短いセリフ等は著作物といえない場合もある。)

 以上のとおり、漫画全体のみならず、漫画の絵や、漫画の物語部分も著作物に該当し得るといえ、著作物に該当する情報を抜き出し、SNSやブログなどのネット上に無許可で掲載する行為は、原則として著作権侵害になるものといえる。
(なお、著作物に該当する情報であっても、古い作品については著作権の保護期間が終了し自由利用が可能となっているケースも存在する。こうした著作権の保護期間の検討にあたってはこちらのコラム等を参考にしていただきたい。)

■著作物に該当しない場合

 上記で著作物とは創作的な表現をいうと記載したが、創作的な表現でない例(著作物に該当しない例)をあげるとすれば、「ありふれた・定石的な表現」や「題名・名称といったごく短いフレーズ」、「アイデア・着想」などがあげられる(これらは著作物に該当しない以上、許可なくネット上に掲載しても著作権侵害の問題は生じない)。
 たとえば、漫画に関する情報でいえば、「キングダム」や「あひるの空」、「星飛雄馬」や「江戸川コナン」など、こうした題名や名称そのものは著作物とはいえない。
 また「強ければ生き、弱ければ死ぬ」「がんばれカカロット…お前がナンバー1だ」「大和圭介、応答せよ」といったごく短いセリフについても、著作物ということは難しいといえるだろう。漫画好きの方々であれば、こうしたセリフを聞けばすぐさま特定のキャラクターやシーンが想起されるだろうが、特定の作品が想起されることと、著作物となるかは直接関係ない。したがって、仮にこうしたごく短いセリフをまとめた「漫画名セリフ紹介サイト」などを作成したとしても、おそらく著作権侵害とはいえないだろう。
 さらに、「双子の弟に代わって甲子園を目指す物語」や「利き腕である右腕を故障した主人公が左投げで復活を遂げ、中学・高校野球やメジャーリーグで活躍する物語」、「家族を鬼に殺された少年が、鬼となった妹を人間に戻す方法を探るため、鬼たちと戦う姿を描く物語」など、漫画のアイデアや着想、作品の設定や大まかなあらすじ等についても、同様に著作物であるとはいえない。したがって、仮に作品の設定や大まかなあらすじをネット上に掲載したとしても著作権侵害とはならないだろう。
 (ただし、どこまでの範囲なら著作物でなく、どこからが著作物と判断されるのかについては、時には微妙な判断を要するため、安易に決めてしまうのは危険である。以下の引用についても同様であるが、著作物該当性や引用の成否につき微妙なケースでは専門家の判断を仰ぐことをお勧めする。)

■引用とはなにか

 著作物でない情報をネット上に掲載したとしても著作権侵害にならないことは上記のとおりであるが、仮に他人の著作物を無許可でネットに掲載した場合であっても、当該行為が著作権法で定める一定の例外に該当する場合には、著作権侵害とはならない。

 この例外規定は複数存在するが、漫画ネタバレにおいて、最も問題となり得るのは「引用」(著作権法32条)であると考えられる。実際にネット上における漫画ネタバレの可否の議論においては、この「引用」という言葉が頻繁に登場する。
 引用を定めた著作権法の規定はかなり抽象的な文言が使用されており、引用は「公表された著作物」を用いるものであり、かつ、「公正な慣行に合致し」「引用の目的上正当な範囲内」でなければならないとされている。
 この解釈には幅があるが、概ね引用が認められるためには、①公表作品であること、②引用する部分と自分の作品部分が明瞭に区別されていること(明瞭区別)、③自分の作品が主であり、引用する部分は従であること(主従関係)、④自分の作品の内容に照らして、当該作品を引用するだけの「関連性」「必然性」があること、⑤出典を明示していること等が留意点としてあげられ、引用の成否はこうした観点などから判断される。(この点については、こちらの記事等も参考にしていただきたい)
 たとえば、漫画でいえば、まずネタバレ部分として掲載するものは公表後の情報であることが必要であり、感想や批評のような掲載者本人が作成した文章部分が主として構成され、こうした感想や批評をする上で必要な情報のみが、出典を明示した上で掲載されているようなものでなければ、引用には該当しにくいだろう。
 また仮に、あるブログのうちネタバレ部分はほんの一部(たとえばある一コマのみ)であり、その大部分は掲載者本人が作成した文章であったとしても、必ずしもその一コマを掲載する必要がなく、その一コマが公開されることで作品の権利者に与える不利益が大きいような場合には、「公正な慣行に合致しない」又は「引用の目的上正当な範囲内」ではないとして、引用が成立しない可能性もあるだろう。
 したがって、結論においては、いわゆる「漫画ネタバレ」などと謳っているサイト等につき、引用が成立するケースはかなり限定されると考えられる。

■ネタバレ類型ごとの検討

 以上ごく簡単にではあったが、ネット上における漫画ネタバレが著作権法上許されるかを検討するにあたり必要と思われる知識を紹介した。ここからは具体的なネタバレ類型ごとにその適否を検討したい。

(1) 一話完全掲載型

 週刊漫画雑誌等の最新話の画像全てをそのままネット上に掲載するようなネタバレ類型である。正式な発売日前にYouTube等の動画サイトにアップされているようなものも多い。
 こうした行為はいわゆる海賊版サイト等にも通ずるものであるが、漫画という著作物全体につき、権利者に無許可で掲載するものであるから、当然著作権侵害に該当する。
 なお、こうしたネタバレサイトを公開したとして運営者が逮捕されている例も存在する。

(2) 一部分のみ掲載型
 SNSやブログなどに、最新話の一ページや一コマをスクリーンショットした画像を掲載するネタバレ類型である。これはそうした画像のみを単独で掲載する例のほかに、自分自身の感想などと共に掲載する例や、以下の文字バレと共に掲載する例も存在する。
 漫画で表現されている絵については、その絵単独でも著作物に該当することは前述のとおりである。したがって、最新話のうち一ページや一コマ部分が掲載されているのみであり、仮にそこから最新話の物語やストーリーを読み取ることができなかったとしても、著作権侵害には該当し得る。なお、繰り返しになるが、不特定多数が見られるインターネット上に著作物を無許可でアップする行為は、非営利目的であったとしても著作権侵害との結論に影響を与えるものではない。
 ではこうした画像を、感想など自分自身の文章と共に掲載するような場合はどうか。これは自分自身の文章に、最新話の漫画画像を引用して用いているとも考えられるため、著作権法上の引用を検討する余地はある。
 もっとも、前述のとおり、引用の成立には厳しい要件をクリアする必要がある。漫画の画像部分に比して掲載者が作成した感想部分が少ない場合や、感想等との関係で必ずしも画像そのものを掲載する必然性や関連性がない場合等には、「引用の目的上正当な範囲内」でないとして引用には該当しない可能性が高まるだろう。たとえば、最新話の一部のコマやページを掲載し、単に「今週の〇〇の展開やばすぎ!」などとつぶやく行為は、恐らく引用には該当せず、著作権侵害となり得るため注意が必要である。
 (なお、ネタバレとは関係なく、ある公表済み漫画の一コマにつき、その作画の分析や評論をする目的で、当該一コマの画像を出典とともに掲載し、十分な分量をもって、その作画の分析や評論を行ったような場合には引用が成立する余地は大いにあろう。)

(3) 文字バレ型(画像掲載なし)
 SNSやブログに、最新話のストーリー展開を、セリフなどと共に詳述する類型である。漫画の画像そのものを掲載することについては、さすがに著作権的に問題であるという認識があるためか、現存するネタバレサイトの多くはこうした文字バレ型であるといえる。
 前述のとおり、漫画により表現されている物語部分、すなわちストーリー展開や登場人物のセリフ等についても、漫画内の創作的表現部分であり著作物に該当し得る。したがって、ある漫画の最新話に関し、そのストーリー展開を詳述するような文字バレサイトについては、(もちろん具体的な記述次第ではあるものの)著作権侵害と評価される可能性は高いといえるであろう。
 仮に詳述した文字バレ部分の前後に自己の感想を併せて記載していたような場合には、上記同様、引用につき検討の余地はあるが、自己の感想を記載する上で、ストーリー展開を詳述する必然性・関連性はあるか、その主従関係はどうかといった観点から、こうした文字バレサイト多くについて引用が成立するかは疑問である。

 ただし、同じ文字バレであっても、その一話のあらすじを端的に紹介するようなもの、たとえば「ついに悟空がスーパーサイヤ人に!強すぎ!」のようなものであれば、これはストーリー展開の具体的表現(創作的な表現部分)を掲載したといえず、著作権侵害とはならない可能性も十分にある。また同じく「クリリンのことかー!というセリフに泣いた」のように、一部の短いセリフを掲載するような場合であっても、著作物を掲載したとはいえず、著作権侵害とはならないといえるだろう。
(ただし、こうした物語の核心に触れる部分や、重要なセリフを不特定多数が見られる場所に掲載する行為につき、マナー上の問題が生じることはもちろんある。また、著作権侵害とならなくとも、一般不法行為が成立するのではないかという議論もあるが、それはまた別機会に。)
 なお、ストーリー展開や登場人物の具体的なセリフ等を詳述することなく(著作物に該当する部分を用いることなく)、漫画の感想を掲載する行為についてはもちろん何ら問題ない。

■検討順序に関するまとめ

 参考までにネット上における漫画ネタバレ行為につき、著作権侵害が成立するか否かを検討する上での順序を以下にまとめた。本コラムでは①の「著作物」に該当するか、②「引用」に該当するかを主に検討したことになる。なお、これまでネタバレ情報をネット上に掲載するような場合を念頭においてきたが、近時YouTube等で増えている漫画ネタバレ解説動画などにおいても同様の検討手法が妥当する。

①ネタバレしている情報は「著作物」に該当するか NO ⇒著作権侵害ではない
↓YES
②「引用」等の著作物利用を許す例外規定に該当するか YES ⇒著作権侵害ではない
↓NO
③当該ネタバレ(著作物)に関する権利は存続中か NO ⇒ 著作権侵害ではない
↓YES
④ネタバレ掲載につき権利者の許可があるか YES ⇒ 著作権侵害ではない
↓NO
著作権侵害の可能性が高い

■おわりに

 以上、簡単にではあるが、ネット上における漫画ネタバレについて著作権法の観点から整理を行った。
 なお、こうしたネット上の行為の中には、法的には著作権侵害が成立するが、諸般の事情から権利者が事実上黙認している思われる例も存在する(作品のファンがファン活動の一環として行っているようなケースや、非営利目的であるケースなどでは黙認されやすいといえるかもしれないが、もちろん何かの保証があるような話ではない)。また、著作権侵害ではなくても、マナー的に許されるべきではないネタバレ行為(ネタバレになり得る行為)があるのもまた事実である。
 ネット上における漫画ネタバレ問題が議論される際には、こうした「権利者が黙認するようなものか否か」、「マナーとして許されるべきものか否か」、そして「著作権侵害が成立するようなものか否か」が、区別されることなく議論されているものも散見される。その結果、本来著作権法上は問題なく、作品を盛り上げるためにも重要ともいえる感想を述べる行為さえ、過度に委縮しかねないような空気も存在する。また逆に、この程度なら大丈夫だろうと著作権侵害に該当するようなネタバレ行為が公然と行われているようなものも存在する。
 今回のコラムでもまだまだ掘り下げが不十分な点はあると思うが、ネット上における漫画ネタバレと著作権法の関係についての正しい理解が少しでも広がり、日本の漫画文化の健全な発展の一助となれることを願っている。

以上

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