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コラム column

2019年8月29日

契約労働法スポーツ

「プロスポーツ界における男女『同一労働・同一賃金』
    ~女子サッカー米国代表選手たちの絶対に負けられない戦い~」

弁護士 小林利明(骨董通り法律事務所 for the Arts)

1 はじめに

東京オリンピック・パラリンピックまであと1年を切りました。 いろいろあった(新)国立競技場も11月には竣工し、活動条件をめぐり議論を呼んだ大会ボランティアの募集も終わり、抽選結果に悲喜こもごもだった観戦チケットも第2弾の販売が開始されるなど、着々と開催に向けて進んでいます。パラリンピックのチケット販売も始まっています。

最近は当然ながらオリンピック・パラリンピック関連報道が多いものの、ワールドカップ(W杯)の方が注目度の高い競技もあります。サッカーなどがそうですが、今年は女子サッカーのW杯も開催されていたことをご記憶でしょうか。日本代表は芳しくない結果に終わった一方で、米国代表は史上最多4度目の優勝を飾りました。しかも同時並行で、彼女たちは、W杯優勝よりも耳目を集める戦いを行っており、その戦いは今なお続いています。

今回のコラムでは、そんな2019年女子サッカーW杯米国代表チームをめぐる「絶対に負けられないもう1つの戦い」を素材に、プロスポーツ界における男女報酬格差の問題を考えてみたいと思います。

2 男女間の同一労働・同一賃金

日本の労働法実務界で、いま最も旬なトピックの1つに、「同一労働・同一賃金」原則が挙げられます。これは主に、正規労働者と非正規労働者との間の待遇差を念頭においた議論であり、男女間の待遇差を直接とりあげるものではありません。

では、同一労働を行う男女間で賃金格差を設けてよいのかというと、それは以前から禁止されています。日本では、憲法14条1項が「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別・・・により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と定めており、また、労働基準法4条は、「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない」と定め、男女同一賃金の原則を謳っています。

3 女子サッカー米国代表選手と「同一労働・同一賃金」裁判

米国でも、TITLE VII(公民権法第7章)が性別に基づく雇用差別の禁止を定め、Equal Pay Act(同一賃金法)が男女間の同一労働・同一賃金を定めていますが、女子プロサッカー選手たちは、かねてから、同じプロサッカー選手でも男女間で不当な待遇差があると考えていました。彼女たちはそれを解消するよう以前から米国サッカー連盟(USSF)に対してアクションを起こしていましたが、合意には至らず、ついに、2019年W杯開幕の約3か月前である本年3月、W杯に出場する女子代表選手全員が原告となり、USSFの行為は公民権法第7章とEqual Pay Actに違反すると主張し、待遇差の解消や損害賠償等を求めてロサンゼルスの連邦地裁に訴訟を起こすに至ったのです。

訴状によれば、試合時間、フィールドやボールのサイズ、試合ルールは男女とも同じであるなど、女子代表は男子代表と同様の環境下で試合を行っており、男女は同様のスキル、努力と責任を求められており、また、女子代表は男子代表より多く稼ぐこともあり、男子より多くの試合数をこなし(2015~2018年の間で19試合多い)、試合の勝率や戦績もよく、試合のテレビ視聴率も高いそうです。実際に、米国女子サッカー代表チームは、提訴時点で過去にW杯で3回優勝し、オリンピックで4つの金メダルを獲得し、提訴時から遡った過去11年のうち10年は世界ランキング1位に君臨しています(なお、本稿執筆時、女子のFIFAランキングは女子が1位、男子が22位)。また、報道によれば、2016年から2018年の間に女子代表は約5080万ドルの収益をUSSFにもたらしたのに対して、男子代表は4990万ドルだったそうです。

にもかかわらず、たとえば年間20試合の親善試合を行い全勝したと仮定すると、女子選手は1試合あたり最大で4950ドルの報酬を得るのに対して、男子選手は平均13166ドルを得る、つまり、同様の「労働」をしても、トップクラスの女子選手でさえ男子選手の38%の報酬しかなかったそうです。さらに、報酬額以外の待遇差も主張されています。たとえば、2014~2017年の間における人工芝での試合率の差(男子2%、女子21%)、2017年におけるチャーター便の用意(男子は少なくとも17便、女子はゼロ)などです。

これに対してUSSFは5月、報酬額に差があることは認めたものの、選手側の主張をいずれも否定しました。待遇差は、現実問題として男子サッカーと女子サッカーのマーケット規模が大きく異なっていること(報道によれば、FIFAが支給する2019年女子ワールドカップの優勝賞金は400万ドルであるのに対して、2018年の男子ワールドカップの優勝賞金は3800万ドル)や、USSFと男子選手会又は女子選手会との間では、異なる内容の労働協約が締結されており、その中で異なる報酬体系が合意されている結果だとして、男女の性差に起因する待遇差ではないなどと反論しました。

双方の主張が鋭く対立する中、2019年6月7日、W杯が開幕します。そして、女子代表チームが順調に勝ち進む中で、両当事者は、W杯終了後に調停の場を設けそこで協議を行うことに同意します。

その後も女子代表チームの快進撃は続きます。その間、中心選手の1名が過去に行った「優勝したとしてもホワイトハウスに表敬訪問にはいかない」という趣旨のツイートが報道され、トランプ大統領から「まずは優勝してから言うべきだ」などと反撃のツイートがされるなど、新たな「場外戦」も繰り広げられました。しかし女子代表チームの集中力は乱されることなく、7月8日、見事にW杯連覇を達成し、史上最多4度目の優勝を果たしました。

W杯優勝という結果を携え、女子代表チームの戦いは、サッカーフィールドから法廷へと移ります。USSFは、7月29日、近年は男子よりも女子に対して多く報酬を支払っているという内容のプレスリリースを出し、具体的数字を挙げて反論しましたが、すぐさま男子選手会から、協会の公表数値は恣意的な統計操作に基づくものだと非難されるなど、流れは女子選手側に向いているようにも思われます。

そして、この8月中旬に女子代表チームとUSSFとの間で調停手続が開催されましたが、完全に決裂してしまいました。

4 スポーツ界でも、男女「同一労働」ならば直ちに「同一賃金」が払われるべきか?

さてこの問題、どのように考えるべきなのでしょうか。換言すれば、プロスポーツにおいて男女「同一労働・同一賃金」を求めることは、様々な観点から、適切なのでしょうか。

プロ選手の報酬は、通常、所属クラブの資産から捻出されます。ですから、市場規模が小さく収益も上がっていないクラブに所属しているのであれば、仮に他クラブの選手と同一労働を行っているとしても、高額報酬を得られなくてもやむを得ないかもしれません。同じポジションの男子選手であっても、資金力があるクラブにいるのとないクラブにいるのとでは、払われる選手報酬に差があるわけですから、女子プロリーグのクラブは男子プロリーグに比べるとどこも資金力が乏しいゆえに男女間で選手報酬に格差が生じているということならば、それは性差を原因とする報酬格差ではないと言えそうです。

しかし、彼女たちが問題としているのは、そういうことではないようにも思われます。 彼女たちは、プロ選手として所属するクラブから受領する選手報酬格差を問題視しているわけではありません。あくまで、ナショナルチームのメンバーとしての待遇格差が問題とされています。訴状で主張されている内容が正しいとすれば、代表選手として同じルールでサッカーの試合をするという「労働」において女子は男子と同一かそれ以上の仕事をしており、「会社」(=USSF)に対する経済的貢献も同等以上であり、さらには女子の方が圧倒的に勝利という結果を獲得していることになります。にもかかわらず、女子選手が男子選手の38%の報酬しかないというこの格差は、何をもって正当化されうるのでしょうか。

こう考えると、女子代表が男子代表と同等以上の経済的貢献をUSSFに行っていると客観的に言えるかどうかは、訴訟の結論を左右する重要な要素となるでしょう。専門的な経済分析を行えば、男女各代表チームがどの程度の経済的貢献をそれぞれ行っているかの計算は可能にも思えます。しかし、男子・女子のナショナルチームの放映権とスポンサー権はセットで販売されるため、どちらがどれだけ貢献しているかを厳密に確定することは困難という指摘もあります。また、年によっても興行収益は大きく上下するでしょう。このようなスポーツビジネスの実態を踏まえると、経済的貢献度の差を正確に示すことは簡単ではなさそうです。

また、プロスポーツはビジネスである以上、収益が少なければ報酬も少ないという説明は一般的には理解しやすいように思います。しかし、ナショナルチームの選手活動についても同様に言ってよいのかという問題はあるでしょう。純粋なプロ活動ではなく、ナショナルチームでの活動は、収益を挙げることが目的のビジネスとは言えない面があるように思われます。だとすれば、ナショナルチームメンバーとして求められる責務に等しく応えて同様の代表活動を行っている者については、経済的貢献度を問わず、同等の報酬が与えられるべきではないでしょうか。

ただ、この問題を契約の観点から見ると、さらに一捻りあることがわかります。それは、男子代表、女子代表はそれぞれにUSSFとの間で異なる内容の労働協約(Collective Bargaining Agreement, CBA)を結んでいるという点です。CBAは、USSFと代表選手が交渉を行い、代表選手たちの労働条件等について合意した内容です。ですから、仮に男女で「同一労働」が行われているとしても、様々な事情を踏まえて締結されたCBAが有効である限りは、それに従った待遇が求められることになります。実際、男子代表は、CBAにおいて、試合出場報酬がなく勝利報酬のみが設定されているそうです。他方で女子代表のCBAでは、女子代表選手の意向に基づき勝敗とは無関係に試合出場報酬が支給されることになっている反面、勝利報酬は男子より低く設定されているそうです。リスクとリターンのバランスからすれば、むしろ今回の女子代表選手の主張は都合がよすぎるという意見も出るかもしれません。

どうです?この紛争、思ったよりも奥が深そうな気がしませんか。
訴訟は今後も続くことが予想され、このまま行けば、陪審員による判断へと進むことが見込まれています。

5 さいごに

話を戻すと、今般の労働法改正による「同一労働・同一賃金」ルールは、2020年施行です。上述のとおり、正規・非正規労働者間の格差をなくすのが今回の法改正の目的であり、男女賃金格差は、目新しい論点ではありません。しかし、「男女同一労働・同一賃金」問題は、元世界ランク1位の女子テニス選手であるセリーナ・ウィリアムスが問題提起し、テニス界でも大論争となっているなど、スポーツの世界においては今、とてもホットな話題です。

実は、今回ご紹介したものの他にも、W杯をめぐっては、様々な法的論点があります。紙幅の都合上、紹介だけに留めますが、報道によれば、来月から日本で開催されるラグビーワールドカップ代表選手選考をめぐって、南アフリカ共和国では、「有色人種枠」の導入の是非を巡り平等権に関する問題が裁判所で争われているようです。

さて、今週末からは歴代最強と言われる日本代表が参加する男子バスケットボールW杯が始まり、日本で開催されるラグビーW杯も、もうすぐです。ふとした瞬間に、今回ご紹介したようなことも頭の片隅において観戦されてみてはどうでしょうか。また違ったスポーツの楽しみ方ができるかもしれません。ただ、試合内容には集中できないかもしれませんが、、、

以上

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