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コラム column

2023年11月27日

著作権エンタメ音楽出版・漫画

「マックスプランク留学日記ー第4話:
ドイツで出版社の権利を考える―楽譜の模倣が争われたケースを契機に」

弁護士  橋本阿友子 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

私が上野学園大学で非常勤講師をしていた当時、授業のために楽譜をコピーして配ることが違法なのではないかと懸念されている教職員の方を複数見かけました。そのため、授業で使う楽譜は、学生が自ら図書館でコピーしてください、という指示がなされることも多かったようです。

しかし、多くの場合、先生が授業で必要な範囲で楽譜をコピーして配っても問題ありません。まず、授業で扱う楽譜の曲はほとんどがパブリックドメインだったはずです。加えて、大学は非営利の教育機関なので35条の適用により著作物の利用行為が無許諾で認められる場面も多くありますし、そもそも楽譜は音楽の著作物(楽曲)の複製物と捉えられており、採譜(楽譜を書き起こすこと)自体に著作権は発生しないと考えられているからです。採譜は、一定のルールに従って行われ、誰が行ってもその結果として出来上がる楽譜は同じものになるはずで、採譜には著作権法が保護する創作とは真逆の、忠実な再現行為が求められるわけですから、採譜行為に著作物として保護されるために必要な創作性(オリジナリティ)が認められないことが理由です。
そのため、誰かが、第三者が採譜した楽譜に依拠し、同一又は類似の楽譜を作成して販売したとしても、当該第三者は著作権法上の権利を有するわけではないので、同人に対する著作権侵害にはならないと考えられています。

そうなると、当該第三者が模倣行為によって損害を被ったと考えて、何らかの請求をするためには、模倣行為自体を違法だと主張する方法を模索することになります。法的には、一般の(著作権法上ではない民法上の)不法行為に基づく損害賠償というロジックが考えられます(民法709条)。しかし、裁判所は、この不法行為の成立をそう簡単には認めない傾向にあるといえます。

比較的最近も、他者による採譜を無断で模倣(デッド・コピー)してサイトで公開した行為について、不法行為の成立を認めなかった判決が出ています(東京地判令和3年9月28日(平30(ワ)19860号・平30(ワ)33090号。以下「本件」といいます)。本件で原告は、バンドミュージックのスコアが著作権法6条各号所定の著作物に該当しないことを前提に、被告が原告のバンドスコアを模倣して無料公開する行為が、「同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害する」(北朝鮮事件・最高裁平成23年12月8日第一小法廷判決・民集65巻9号3275頁(以下「北朝鮮事件最高裁判決」)参照)から、不法行為が成立すると主張しましたが、裁判所は、本件では模倣が認められないことを理由に1 、不法行為の成立を否定しました。

ここで原告が引用している北朝鮮事件最高裁判決は、著作権法による明文の規律がない未承認国の著作物利用行為について、「ある著作物が同条(※筆者注:著作権法第6条)各号所定の著作物に該当しないものである場合、当該著作物を独占的に利用する権利は、法的保護の対象とはならないものと解される。したがって、同条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為は、同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。」と判断したもので、著作物ではないの模倣行為が不法行為上違法と評価されるかが争点となった場合の、リーディングケースとなっている判決です。北朝鮮事件最高裁判決以後の裁判例の傾向をみると、著作権法で保護されない物の利用行為については、「特段の事情」がある例外的場合を除いて、原則は不法行為の成立を認めないというスタンスのように読めます(この点に関連して、北朝鮮事件最高裁判決自体は、著作権法第6条「各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為」について述べたものであり、著作権法で保護されない(著作)物の利用行為全てについて述べたわけではない、と捉える考え方もあります2。(もっとも、本件の判決は、この北朝鮮事件最高裁判決を引用しないまま、模倣の有無の判断をしています。判決では、「模様」と認められた場合に不法行為に該当するかについては明言を避けており、この模倣の有無が、北朝鮮事件判決のいう「特段の事情」該当性の判断に依るのか、「特段の事情」とは別のロジックに依るものかは明らかではないようです3)。

ところで、同様のケースがもしドイツで争われていたら、どうなっていたでしょうか。ここで、ドイツ著作権法の規定を一つご紹介したいと思います。

第70条 学術的刊行物4
(1) 著作権の保護を受けない作品(※5)又は文書の刊行物は、それが学術的な整理の成果を示し、かつ、当該著作物又は文書に係る従前知られた刊行物と実質的に区別されるときは、第1章の規定を準用することによって保護を受ける。
(2) この権利は、刊行物の作成者に帰属する。
(3) この権利は、刊行物の発行後25年をもって消滅する。ただし、刊行物がこの期間内に発行されないときは、その製作後25年をもってすでに消滅する。この期間は、第69条に基づいて計算するものとする。

自ら文書を書くのではなく、学術的に他人の文書を編纂する人は、できる限りオリジナルに忠実な版を作成することが使命であり、著作権で保護される作品の著作者とはなりません。もっとも、この学術的に編集する行為は、多くの場合、多大な労力と費用を伴い、結果として重要な学術的成果となることから、70条は、その成果物である刊行物を保護しています(著作隣接権と位置付けられます6)。この編纂作業にあたっては、一般に、深い歴史的知識と専門的知識や方法の正確な習得を必要とするわけですが、自らが著作物を創作しているわけではないので、対象は、編集の過程でなされた加筆、注釈、コメント等にとどまります。もっとも、保護の内容は、保護期間を除き著作物に対する保護と同一で、著作権の制限に関する規定も適用されます7。ただし、この70条に関しては、裁判例が少なく、実際にどのような場面が「学術的な整理の成果を示」すのかを知るのは、現時点において難しいようです。
このように、ドイツ著作権法では、著作権の保護を受けない作品や文書の刊行物についても、刊行物の作成者に権利を認めていることから、先の事例において、原告は、一般の不法行為によらずとも、この70条の権利に基づいた請求ができる可能性があります。そのため、日本法のような、いかなる場合に著作権法を離れて違法と評価できるか、といった議論をすることは、必ずしも必要とされないかもしれません8

翻って、日本では、このような隣接権が設定されていないので、著作権の侵害を伴わない出版物の模倣のケースにおいて出版者は、一般的な不法行為に基づく請求を検討せざるを得ないことになります。しかし、前述のとおり、裁判所は、このような場合の不法行為の成立を認めない傾向にあり、北朝鮮事件最高裁判決以降、デッド・コピーがなされた事案について、不法行為を認めた事例は見当たっておりません。
その背景には、少し乱暴なまとめ方で恐縮ですが、知的財産法制で保護されるものは同法で保護すべきであり、そこから漏れたものについてたやすく違法とされるべきではない、という考え方があるようです。知的財産法制が一般法である民法の特別法として位置づけられる以上、その指摘は真っ当ではあるものの、漏れたものの例外をあまりに狭く考えれば、デッド・コピーといった明らかに他人の労力に依存しフリーライドした者に、第一作成者の損害の裏で利益を帰属させる結果となり、公平性に欠ける不合理な結果とならないかと、筆者などは懸念してしまいます。
また、知的財産法上の保護がないことと、不法行為法上の保護を受けることは、論理的にも両立可能です。著作権は、著作物の創作時に自然発生し、他人の利用行為を禁止する(差し止める)という強い権利を持っている一方で、保護期間の制約があり、保護範囲も限定されています。他方、不法行為法上の請求は、基本的に損害賠償であり、差止めといった強い効果は期待できません(ちなみに、ドイツでは不法行為による差止が認められています)。ロジック上いずれの請求を行うことも可能と考えられる以上、デッド・コピーは、明らかに他人の労力に依存しフリーライドする行為であり、著作権のように差止までは認められなくとも、損害が発生しており行為と損害の間に因果関係がある限りで、もう少し広く損害賠償を認めてもよいのではないか、そしてそれをあまりに厳しく解する必要はないのではないか、とも考えられないでしょうか9。具体的に、筆者は、保護期間が経過した著作物の利用は不法行為の成立が否定されますが、創作性がないことを理由に著作物性が否定される、データや事実から成るテキストなど(ルポルタージュなどの一定の長さのあるもの)のデッド・コピーについては、不法行為が成立する余地があるのではないかと考えています。

上述のとおり、北朝鮮事件最高裁判決以降、著作権法で保護されない物のデッド・コピーについて、現時点では違法性を認めた判決が見当たっておりませんが、ドイツのような編纂作業に権利を付与する規律がない日本の著作権法の下で、著作権法で保護されていないから原則としては不法行為でも保護しない(保護される余地はあるが、例外的である)という方向性は、いささか権利保護に薄すぎるのではないかとも思われ、(隣接権に関する立法論も含め)見直されてもよいのではないかと考えています。
裁判所においては、同様の事例において、今後もう少し踏み込んだ議論を期待したいところです。

以上


1 裁判所は、通常一致することがあり得ないような部分において一致があることを認めながらも、相違部分があること等を理由に「模倣」を認めなかったのですが、原告側から被告の採譜方法を具体的に知ることは困難であり、通常あり得ない一致がみられる以上、「模倣」があったと推定すべきではなかったかという点は、疑問が残ります(鮑妙堃・ジュリ1589号138頁は、「証明責任を転換して、被告側から具体的な採譜過程を示す事実を示さない限り、(※原告スコア及び被告スコアの演奏内容が一致している部分があるとされた)当該96曲については独自に採譜していないと認定すべきである」と指摘なさっています。(※括弧内は本稿筆者による追記))。
2 上野達弘「著作権法による自由」法学教室426号40頁参照。
3 前掲ジュリ141頁では、「裁判所は、『模倣』があれば不法行為に該当する余地があることを前提としていると理解するのが素直な読み方といえようか。」と指摘されています。 4 前回までのコラムと同様、ここではCRICが公表しているドイツ著作権法の和訳(https://www.cric.or.jp/db/world/germany/germany_c1a.html#1)を参考にしています。
5 70条1項の原文は、“Ausgaben urheberrechtlich nicht geschützter Werke oder Texte werden in entsprechender Anwendung der Vorschriften des Teils 1 geschützt, wenn sie das Ergebnis wissenschaftlich sichtender Tätigkeit darstellen und sich wesentlich von den bisher bekannten Ausgaben der Werke oder Texte unterscheiden. “と規定されています。この“Werke”について、CRICの和訳では「著作物」と訳されていますが、ここでいう「著作物」は著作権の保護を受ける「著作物」と保護を受けない「著作物」の両方を含む概念と考え得ることから、70条のみをご紹介する本コラムでは、便宜上「作品」と訳すことにしました。
6 ドイツ著作権法第70条は、第2章に含まれますが、この第2章は英訳版で“Related rights”の章に位置付けられています。https://www.gesetze-im-internet.de/englisch_urhg/englisch_urhg.html#p0648
7 Schricker/Loewenheim/Loewenheim UrhG § 70 Rn. 9, 10/Dr. Alexander Peukert, Urheberrecht: und verwandte Schutzrechte (Juristische Kurzlehrbücher) 2018, S. 221,222
8 ドイツでは、出版者の権利は、この著作隣接権(70条や、著作権が消滅した未発行の著作物に関する権利を定めた71条など)のほか、出版法(出版契約)が規律しています。
9 この点に関し、上野達弘教授は、知的財産法によって与えられる保護のあり方と、不法行為法のみによるそれとは、差止請求権の有無、保護範囲の明確性、保護期間等の点において実質的に異なる上、不法行為による保護を認めることによって、損害賠償請求のみによる救済をはかることができる。したがって、知的財産法上の保護を受けない情報に不法行為法上の保護を与えることには、何らの支障もなく、これを認めないとする理由はないと指摘されています(上野達弘『著作権法による自由』法学教室426号40頁参照)。また、上野達弘『「知的財産法と不法行為法」の現在地』 日本工業所有権法学会年報/日本工業所有権法学会編 45号190-212頁も参照。



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