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2023年2月24日

国際バラエティ

「マックスプランク留学日記-第1話:ファッシングとサラダの定義」

弁護士  橋本阿友子 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

本年より、今後注目の音楽における著作権管理の研究を行うため、Max-Planck-Institut für Innovation und Wettbewerb-マックスプランク知的財産研究所にて客員研究員として、ドイツはミュンヘンに約1年間滞在することになりました。それに伴い、今後数回にわたって、ミュンヘンから何らかの情報を発信していくコーナーの、今回は第一回です。

マックスプランク知的財産研究所は、マックスプランク協会が運営する、知的財産に関する最高峰の研究所です。これまで著作権業界では、斉藤博先生、中山信弘先生、上野達弘先生をはじめとする錚々たる学者の先生方が、客員研究員としてご所属されてきました。

研究機関については、研究内容と共に次回以降に追って詳しくお伝えするとして、初回は、ミュンヘンの魅力を存分に伝える回・・・のつもりでしたが、到着早々コロナに罹患し、しばらく外出がままならないという不遇に見舞われました。そうでなくとも、海外で暮らすというのは、それ自体が受難の日々です。

私はほとんどの荷物を航空便で送る前提で、身軽なままこの地に到着していたのですが、待てど暮らせど荷物が届かず、不便を強いられていました。二週間後にようやく、荷物が税関にまわされていたことが発覚、自宅には荷物の代わりに通知だけが届いていました。そこには、”Bitte beachten Sie: das o.g. Zollamt ist am Faschingsdienstag, den 21.02.23 nur bis 12:00 Uhr geöffnet!”と、ご丁寧にビックリマーク付かつピンクハイライトで書いてあります。Diesntagはドイツ語で火曜日を意味するのですが、はて、12時までしか開いていないFaschingsdienstagとは?

Fasching-ファッシングは、復活祭前の40日間にわたる断食期間に先立つ期間に行われるキリスト教のお祭り(謝肉祭、カーニバル)です。灰の水曜日(Aschermittwoch)からイースターまでの期間が断食期間となるわけですが、その前の6日間は、ドイツでは「狂騒の日々」と呼ばれ、この期間中に、ファッシングのお祭りがあるそうです。最初の日は木曜日で、女性が男性のネクタイを切るという風習があります。そういえば、昔フランクフルトに住んでいたときに、何も知らなかった父が、ネクタイを切られて帰ってきたことがありました。これは、女性が主導権を握ることの象徴的行為だそうです。

肝心の「ファッシングの火曜日」は、ミュンヘンではお店はもちろん税関すら(研究所も!)閉まる、公のお祭りの日。市庁舎があるマリエン広場に行ってみると、それはもう身動きが難しいほどの人だかり。ステージではダンスが披露され、クリスマスでもないのに屋台が立ち並び、仮装した人たちが集まり、太鼓を鳴らしていました。太鼓の音には、邪悪な霊を追い払うという意味があるそうです。

少年が上から何かをまいています。 マリオは世界中にいることが判明。

また、断食期間に備えて、乳製品や卵を食べ納めるべく、クラップフェンという揚げドーナツ様のお菓子が並ぶのも、この時期の特徴です。私は最初、あちこちのベーカリーがドーナツを売っているので、ミュンヘンの人はドーナツ好きなのか~と思っていましたが、これには意味があったのですね。

屋台が並ぶファッシング。  色とりどりのクラップフェン。

そんなファッシングの最中に、早速にも弟子(?)の様子が気になったのか、著作権業界の重鎮でいらっしゃる上野達弘先生が、ミュンヘンまで駆けつけてくださりました。歌劇場近くの素敵なお店にお連れいただき、鴨やら豚やらオンパレードのお肉のプレートを注文することに。お肉ばかりでは野菜不足になる、という懸念はあるわけですが、果たしてサラダを頼むことで野菜不足は解消されるのか?

ドイツではポテトサラダを頼むと、本気で野菜が入っていない茹でたポテトだけが出てくることがあるそうです。そう言われてみると、サラダって何?サラダ油、サラダ味などは、いったいどこからきているのか?考えると謎が深まるばかり。一説によると、サラダ=野菜、というのは誤りで、実はsal(ラテン語で、塩)が入っているかがメルクマールなんだとか。Sal + addでsaladなのだそう。つまり、サラダ味は塩味を指していることになる。しかし、塩が入っていればなんでもサラダになるならば、フライドポテトだってサラダじゃないか!

・・・という話をしたかしていないかはともかく、サラダを定義する、というのは難問なのです。一見、誰でも説明できそうなことでも、実はそうではない。外国で暮らすと、常識を疑うことが多く出てきます。意味がないことにも意味があるかもしれない。サラダの定義はともかく、異国にとどまるということは、「自己の客観化、常識の相対化」であるということを教わった夜でした。

上野先生とドイツで奮闘する教え子たち。

私の留学はまだ始まったばかり。今後も、もう少し法律的なトピックを含めつつ、バイエルンの香りをお届けできれば嬉しいです。

以上

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