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コラム column

2023年4月25日

著作権商標肖像権・パブリシティ権名誉・プライバシー個人情報IT・インターネット

「仮想空間の権利とルール
 政府『メタバース官民連携会議』は何を話しあったか」

弁護士  福井健策 (骨董通り法律事務所 for the Arts)


ご存知の方も多いでしょうが昨年11月、内閣府の知財戦略本部にメタバース官民連携会議という物々しい名前の会議立ち上がりました(中村伊知哉座長、上野達弘副座長)。
筆者はそのうちアバター部門の分科会長を務めていますが、会議では代表的なメタバース系企業や知財系の研究者・実務家、果てはVR住民が集い、成長を続けるメタバースをめぐる実に多様な知財ほかの論点と、官民での対応方向を整理しています。まさに課題の百貨店状態で、現時点ではこの分野でのかなり包括的な検討と言えるでしょう。
ついにそのパブコメが開始されましたので、そろそろまたAIの話も飽きたなという夜などに、この仮想空間のルールのまとめを読んでコメントなどいただければと思います(5/8締切)。
もっとも、ちょっと長いのでポイントだけごくさっくりと紹介しますね。
なお、この分野では結構先駆的だった出井甫弁護士のコラムはこちら


第1分科会:仮想空間・仮想オブジェクトの知的財産権(論点整理(素案)p8~)

まずは第1分科会(田村善之分科会長)の報告ですが、ここでは仮想空間・デジタルアイテムの権利問題を話し合いました。

まず1-1「現実空間での洋服や商品などのデザインをメタバースで借用すること」はできるのか(p8~)。
第一に著作権が問題になります。実用品では著作物性は認められにくいということはよく知られていますね。ひとつには機能性という制約を受けるため、表現の選択の幅が狭いと考えられているからです。そのため現実世界のデザインを借りてデジタルアイテムを作っても、元が実用品の場合は著作権の問題は少ないかと思われます。
では、だったらもともとボーンデジタルの、実用品的な仮想オブジェクトの「パクリ」はどうでしょうか。例えばメタバースのために作られたシューズのデザインなどを無断で借用した場合、果たして借用されたメタ・シューズは実用品だから著作権はないのか。仮想空間で使うんだからどんなデザインでも自由なはずで、機能性の制約は受けていないから著作物じゃないか、という議論もあります。
次いで、デザインが登録意匠だった場合、無断借用は意匠権の侵害ではないのか。仮想空間で似たデザインのオブジェクトを作っても、つまりはプログラムですから「類似の意匠を実施した」ということにはならないんじゃないか。侵害にはならないのではという意見が強いところでした。
では現行法では、現実世界のデザインはメタバースで借用自由なのかというと、不正競争防止法の問題はあります。他人の商品の形態を、その販売から3年以内に模倣することは禁止されています。もっとも、これはほぼデッドコピーだけの禁止なうえ、ネットワーク上で似たデザインを提供することは不競法の形態模倣禁止の対象外ではないかという指摘も多い。産業構造審議会ではこれも禁止対象にすべきだという報告書を公表しています。現在、禁止対象とする法改正が国会でも審議中ですが、我々の連携会議でも同様の意見が強いところでした。


知財戦略本部「論点整理」素案・末尾資料より


次いで1-2「現実空間のロゴや商品名・会社名などのマークの借用」はどうか(p12~)。
こちらはまず、商標権が問題になります。おさらいすればこれは、登録したのと類似の商品やサービスにて、登録したのと類似の商標を利用することが禁止されるルールですね。無論、例えばもともと「動画や画像の提供」を対象として商標登録をしていれば、メタバースでの活動のため類似のマークを誰かがトレードマーク的に利用することには商標権が及ぶでしょう。
ですが例えば、リアルな靴を対象にある商品名を商標登録していても、仮想空間での「靴」は靴のように見えても実はコンピュータプログラムです。誰かがデジタルシューズに似た商品名を使っても、登録された「靴」という商品と類似じゃないんじゃないか。つまり商標権の侵害にはあたらない場合も多いという見解が強いところです。
ではこれも自由かと言うと、やはり不正競争防止法が関わってくる。周知又は著名なロゴや商品名などをメタバースで無断で利用すれば違反の可能性はあるところです。


続いては、1-3「現実空間の建物や看板などの外観の利用」ですね(p14~)。
まさに街並みを借用することはどうなんだというと、当然街並みには著作物も含まれますから著作権の侵害が問題になるわけです。けれども著作権法には46条(建築物等の利用)という重要な例外規定があって、建物や、公開の(または公衆から見やすい)屋外の場所に恒常設置されている美術の原作品は、広く第三者も利用できるのですね。そのため、建物などのメタバースでの再現は許されそうです。
他方、ポスターなどもメタバースで再現して良いか。ポスターは美術かもしれませんが、たいていは原画があって、個別のポスターはその複製物なんですね。原作品ではないわけです。そうすると「恒常設置されている美術の原作品」とは言えないので無断利用はできない。まして写真などはそもそも美術でないので46条の対象外で、自由には利用できないだろうと言われます。
ところがもう一つ、30条の2(付随的利用)という例外規定もあって、街並みなどを複製しようという時にそこへの付随物の軽微な映り込みは可能とされています。よって、46条ではダメでも、ポスター等の街中の著作物は映り込みとしてメタバースで再現していいのではないか。とはいえ、こうしたメタバース上の再現物はアバターで接近すれば大写しになりますね。すると「軽微」じゃないからダメなんじゃないか。これに対しては、いや、空間全体との割合では軽微ととらえてやはり使えるのではないか、という指摘があるところです。
更に、メタバースで現実の外観を再現する時にデフォルメを伴うのはどうか。これは「翻案」で、翻案は30条の2は認めてないからダメなんじゃないかという論点もありました。
商標権も大きな問題です。商標登録されている名称やロゴのメタバースでの利用はどうか。この点、背景的な利用の場合は、いわゆる商標的使用とは言えないので商標権の問題は少ないと指摘されます。
以上への今後の対応としては、考え方の整理やガイドライン等の啓発が重要でしょう。同時に商標制度については、特に運用面の整備を行っていくべきだという指摘がされています。


次は著作権処理の問題です。2-1「メタバースでイベント等をおこなう時に楽曲など既存の著作物を利用する場合」はどうなのか(p19~)。
例えば、無料のライブや仲間内のカラオケ大会ですね。これがリアルな世界だったら、非営利の演奏として著作権法の例外規定で許されます(38条1項)。しかしメタバースだと、同じような非営利の演奏に見えても法的には「演奏」ではなく「公衆送信」です。すると例外規定はない。ただ問題は、JASRACなどで許諾を得る際の従来のライセンス条件は、必ずしもメタバースを想定していないので使いづらい・非現実的な場合がないか、ですね。
この点、JASRACが昨年12月に公表したメタバースの利用申請ガイダンスはこちら。いかがでしょう。


2-2「仮想空間での膨大なユーザーの創作・発信(いわゆるUGC)の扱い」はどうか(p21~)。
一般の投稿サイトやSNSでは、ユーザーが投稿した作品に対する二次創作は自由だよという規約があったり、あるいはクリエイティブコモンズのようにユーザーが自らの作品について「この条件を満たしてくれれば自由に使っていいよ」といった条件を発信しやすくしているケースもあります。さてメタバースでも、二次創作ほかのUGCの利用ルールは今後整備されていくか。
なお、クリエイティブコモンズについての一般的な解説や近時の動向などは、橋本弁護士のこのコラムなど参照。


さらに2-3「NFTなどの仮想オブジェクトの取引」にも課題があります(p23~)。
デジタルアイテムのような仮想オブジェクトは物理的な物と違い、所有権の対象ではありません。ですから「保有する」といってもその根拠は、著作権やプラットフォームの規約に基づく権限(債権)であることは多いわけですね。それだけに利用や保有は特定プラットフォームに紐付いている場合が多いのが限界です。ただし「オープンメタバース」と言って、メタバースをまたがった仮想オブジェクトの取引を認めていこうという動きもあります。

以上を踏まえた対応の方向性としては、作品利用についてのプラットフォームと権利者団体の包括契約や利用規約など、望ましい対応を整理し、また個人間の契約やクリエイターによる自由な利用条件の設定についてガイドライン等を作成していくことが挙げられています。また、膨大になるであろう権利処理を円滑にするため、権利情報のデータベースや政府で議論が進む「簡素で一元的な権利処理」の制度改正後の活用も提言されています。
そしてここまででお気づきの通り、今回の「論点整理」は文字通りまずは学説の確認や課題の整理であって、今後の対応策となるとまだ相当に抽象的です。それだけに、パブコメで皆さんから具体策を、例えば「権利者団体とプラットフォームがどういう包括契約を結べばメタバースは生き生きと発展していくか」といった提案を頂くことは、重要だろうと思います。


第2分科会:アバターの肖像権等(論点整理p27~)

メンバーは超強力ながら分科会長(→筆者)に不安を抱える第2分科会は、アバターの肖像権等を話し合いました。

まず1-1「実在の人物がメタバースの背景などに写り込んでいる場合など」は許されるのか(p27~)。
無論、肖像権が問題になりますね。この肖像権ですが最高裁は、例えば写された人物の社会的地位などの諸要素の総合考慮によって、「一般的な受忍限度を超えるような撮影・公表は肖像権の侵害になる」という基準を打ち立てています。「受忍限度論」といって、つまり、社会生活を送っている以上、ある程度は受容すべき撮影・公表もある。また、誰が写っているか識別できないような場合には侵害に当たらないという考えが一般的です。
この狭い意味の肖像権だけではなく、実在の人物が取り込まれた時にはパブリシティ権も問題になりますね。これは肖像の商用利用のコントロール権と呼べるものですが、やっぱり使われればいつでも侵害というわけではなくて、最高裁は「もっぱら氏名・肖像等の顧客吸引力の利用が目的である場合にパブリシティ権の侵害だ」と言っています。よって単なる写り込みはパブリシティ権の侵害には当たらない傾向が強い。写り込みは、比較的わかりやすいですね。


では、1-2「実在の人物を模したアバターを作ること」は可能なのか(p29~)。
まず肖像権ですが、実在の人物を模したアバターなどの場合、それがフォトリアルであるほど肖像権侵害の可能性は上がっていきます。特にアバターの場合、モブキャラなどのNPC(ノンプレイヤーキャラクター)と比べると中の人の操作によってどのようにも使用され得るという性格を持っています。そのため受忍しがたい、つまり肖像権侵害にあたる場合は少なくないと整理しました。

リアルめのアバターを作ったらゴールデンカムイのやばいキャラクターのような目つきになっている筆者(左)と、出井弁護士(VRChatにて)


他方、著名人のパロディ的利用・NPC的利用などの場合は果たして肖像権侵害にあたるのか、議論の余地があります。
同様にパブリシティ権についても、もっぱら取り込まれた実在の人物の顧客吸引力を利用する目的ならば侵害の可能性が上がるでしょうし、そうでなければ可能性は低い。
そして不正競争防止法ですね。周知・著名な他人の氏名や肖像をトレードマーク的にアバターとして取り込んで、商品や役務と関連付けて使ってしまうと、不競法に違反する可能性があるでしょう。


まだあります。2-1「創作されたアバターのデザインの盗用や無断撮影」も大きな問題です(p34~)。
まずは肖像権。これまでの裁判例は、生身の人間の容姿などにのみ、肖像権の保護を認めてきました。すると創作アバターには肖像権はないのか。しかし創作アバターといえども、中の人の人格と結びついている場合は肖像権の保護の対象になるんじゃないか、という指摘もあります。一般には肖像権侵害のハードルは高いだろうという意見が優勢でしたが、特に中の人とアバターの結びつきが一対一の場合など侵害に当たりやすいかもしれず、まだ議論が必要です。
同様にパブリシティ権についても、過去の裁判例は実在の生身の肖像等が無断で使われた場合をパブリシティ権侵害としてきています。しかし、例えばマスクドプロレスラーなどは、マスク姿に対してもパブリシティ権を主張できる余地があるでしょう。まだ議論が必要なところです。
他方、明らかに保護されるのは著作権で、創作されたアバターのデザインは著作権の保護を受ける可能性が高いでしょう。もっとも、特注品などは格別、そうでない場合はアバターデザインの著作権はデザイナーから中の人に譲渡はされないのが通常です。そうすると現実には、中の人はアバターの無断利用に対して著作権行使できないんじゃないかという問題が出てきます。が、例えば中の人がデザイナーから独占的ライセンスを受けていれば、デザイン盗用した人に対して不法行為に基づく損害賠償請求をしたり、デザイナー(著作権者)の差止請求権を代位行使できるなどの可能性はあるでしょう。
(※例えば、上に登場した筆者のアバターはらまんださん作で、著作権は筆者です。)


更に、2-2「他社のアバターに対してなりすまし・のっとりをする場合」も起きています(p40~)。
なりすましは前述の「アバターのデザイン盗用」を通常伴うので、著作権や肖像権侵害などの論点があります。その他、なりすましによって他者への詐欺や電磁的不正作出等の罪に該当したり、なりすまされてしまった人に対する名誉毀損が成立するなどがあり得ます。
のっとりは他人のアバターを何らかの手段で直接自分が操作してしまう場合で、これは不正アクセス禁止法の違反などの可能性があるでしょう。


2-3「アバターに対する誹謗中傷」も重要な問題です(p42~)。
まず名誉棄損。例えば中の人が誰なのか明らかにされていない場合、いくらアバターに対して誹謗中傷をしても中の人の社会的な評価は低下しないので、名誉毀損は成立しないのではないか。ただしVTuber のケースで、アバターの行為に対する誹謗中傷が、操作者に対する名誉毀損であると認めた裁判例もあります。
では名誉感情の侵害(侮辱)はどうか。これも同様にキャラクターとしての活動は操作者の人格の反映であり、よってキャラクターを侮辱することは中の人に対する侮辱、名誉感情の侵害だと認めた裁判例もあります。こんな風に、アバターへの誹謗中傷から中の人が守られる余地はあり得るのですが、どういう場合に守られるかはなお不明確です。課題ですね。


アバター系の最後は、3「アバターの実演」です(p45~)。
前提として、相手方の端末でアバターがなぜ動いて見えるかというと、まず相手の端末にアバターのプログラムデータが送信されて一時保存される。そしてそこにこちらで操作している中の人の動きのデータ(点群データと言います)が送り込まれて重なり合い、アバターの映像が生まれる仕組みとされます。
その際の操作者の動き(モーション)、これは著作物を演じていたり、芸能的性質があれば実演として著作隣接権が生まれるでしょう(この辺り、岡本弁護士のコラムを参照)。またモーションキャプチャーではなくプログラミングによってアバターの動きを生成する時も、そこに実演的要素があればやはり著作隣接権の保護が受けられると思います。
その結果、モーションデータは無断利用に対して一定程度守られます。一点、モーションデータ自体が無断コピーされた時に「録画」と言えて著作隣接権の侵害になるかは、議論になりました。詳しくは論点整理本文を。
他方、生成されたアバターの映像自体は何にあたるかというと、恐らく「映画の著作物」にあたるだろうと結論しています。

こうした、アバターをめぐるあらたな知財の問題に対してどう対応するかといえば、やはり考え方の整理と、ガイドラインなどで周知していくことがまずは重要としています。特にデザイナーから操作者にアバターのライセンスを行う際のひな形で、盗用に対応できるような条件設定をおこなえる支援や、プラットフォームの利用規約で問題のある盗用・無断撮影などを抑え込むといった対応が重要だろうとされました。


第3分科会:メタバース上での様々な行為のルール形成や規制(論点整理p48~)

さあ、最後の第3分科会(中馬和彦分科会長)です。以上のような各要素を含め、メタバース上でのユーザーの行為のルール形成や規制などについて話し合いました。

まずメタバース上での問題事案としてどんなことが挙げられたか(p48~)。
最初に現実空間と同様の問題としては、わいせつ、差別表現、誹謗中傷、脅迫、騒音などが挙げられました。これらは現実空間と同様に、犯罪あるいは民事の不法行為などに該当することが多いでしょう。ただし前述のように名誉毀損や脅迫などにはあたらないケースもありそうです。
次いで、メタバース上での痴漢、つきまとい、のぞき、暴力行為などの問題行為もあり得ます。メタバース上では本当の物理的接触はないので、これらはかなり形が異なるのですが、ユーザーの没入感によって被害感が増幅されるわけですね(ファントムセンスの問題)。更に、現実空間にはない新たな問題として、例えばアバターを巨大化して人々の視界を遮ってしまうなどということがあり得ます。
この後者の問題行為は、物理的接触はないなどの理由でメタバースには現実空間の規制は及ばない、あるいはそもそも現実空間には規制がないといったケースも多く、課題です。


ではこれらにどんな対応があり得るか。四つの柱でまとめられています(p55~)。
第1に、メタバース空間の自由とそこでのユーザーの安全安心の両立を図っていくこと、です。例えば、メタバースごとの利用規約だけではなく、ワールドごとにローカルルールを設定し表示をすることで、未成年者の保護に特に注意するなどです。
2番目で、プラットフォームによる適切なルール形成と実効性の確保です。例えば問題行動に対する段階的な制裁やアカウント凍結、などが当然あがるでしょう。加えて利用契約だけではなくてコミュニティ基準などを分かりやすく表示してあげること、さらに新規参入事業者のためにノウハウを共有していくことなどの対応が考えられます。
3番目に、ユーザー自身による対抗措置や法的請求をいかに支援するかも重要です。例えばミュート、ブロック、ワープやセキュリティゾーンなどの活用を可能にする。それから迷惑行為を行った者に対する発信者情報開示の運用をより明確にしていく。更に海外プラットフォーマーへの外国会社登記の徹底、国内代表などの明確化をおこなうことがあげられました。
最後に国際的動向への対応ですね。情報収集を続け、国際的なフォーラムへの参画などのコミットメントを行うことが重要とされています。

以上、全く概略をサクッとご紹介しましたがそれでもこの長さです。本稿執筆時のメタバースには、ビッグテックたちが部門を縮小するなど一部踊り場感もあります。それでも長期的には今後も確実に進化を続けていくと思われるメタバースについて、官民が状況を注視し議論を共有していく場ができたことが、まずは重要ではないかと思います。とりあえずは、ここまで。


以上

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