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2019年4月25日

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「今さら聞けない『VTuber』とは! 文化的・法的観点から考える」

弁護士  出井甫 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

近年、バーチャルYouTuber(VTuber)が、一大ブームを巻き起こしている。
VTuberの定義は、人によって異なるが、ここでは、モーションキャプチャーの技術を利用してアバターを動かし、動画をインターネット(基本的にはYouTube)上で配信しているものをいう。本コラムでは、改めてVTuberとは何かを、文化的・法的観点から考察する。

VTuberの略歴

VTuberという語源は、2016年12月頃、キズナアイが、YouTube動画で発言したことによる。キズナアイは、自己紹介の際、「はじめまして!キズナアイです」「普通のYouTuberと違うぞ!と思ったそこのアナタ」「とりあえず、・・バーチャルYouTuberって響き、カッコよくないですか?」と言い、バーチャルYouTuberと自称した。そこから、略語「VTuber」が生まれたとされる。

「【自己紹介】はじめまして!キズナアイですლ(´ڡ`ლ)」(A.I.Channel

彼女の配信コンテンツは、基本的にゲーム実況や、「やってみた!」など、通常のYouTuberと似ている。ただ、見た目が可愛いいこともあってか、その影響力は秀でている。
現在、キズナアイのYouTubeチャンネル登録者数は、250万人を超え、テレビ番組(News ZEROなど)にも出演している。Wikipediaにも掲載され、商品化など活躍の場を広げている。
注目されているVTuberは、キズナアイだけではない。2017年12月頃、バーチャルYouTuber「ミライアカリ」「シロ」「バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん(ねこます)」「輝夜月」が登場し、彼女たちは、キズナアイを筆頭に四天王と呼ばれている(5体なのに、四天王と言われている理由については、皆さんで調べてもらいたい。)。ミライアカリは、大晦日の生配信でカウントダウンイベントを実施し、総額180万円以上の投げ銭が投じられた。ねこますは、見た目が美少女なのに、中身は男性であると告知し、自身のコンビニアルバイトや就活体験など、リアルなトークを展開することで、これまでのバーチャル概念をひっくり返している。
その後、Vtuberは増え続け、今では、7000を超えるVtuberが、日夜、ライブ配信や動画を投稿している。 「バーチャルYouTuberランキング」では、各VTuberの人気度などを見ることができる。

文化的観点から見たVTuberの特徴

VTuberは、これまでのネット文化と何が違うのか。似た特徴を持つものと比較してみる。

◇ YouTuberと比較

まず、言うまでもないがVTuberは、バーチャルである。それ故、自身の姿や、声、生い立ちを、自由に設定することができる。姿については、目や耳、スタイル等を制作過程で変形できる。声については、ボイスチェンジャーで、男性でも可愛い女の子の声にできる。生い立ちについても、例えば、バーチャルおばあちゃんは、ご覧のとおり、クッキーを焼いているのが似合いそうな、おばあちゃんとして活動している(図左)。年齢は80代という設定らしいが、中身はもっと若いのだろう。ピーナッツくんは、奇怪なピーナッツになっており、もはや人間ですらない(図右)。

バーチャルおばあちゃん
バーチャルおばあちゃんねる
ピーナッツくん
ピーナッツくん!オシャレになりたい!

◇ キャラクターと比較

仮想のキャラクターとの違いは、(当然ながら)中に人がいることだ。だからこそ、VTuberは、YouTubeと契約し、自身のアカウントを持つことができている。また、多くは、ツイッターのアカウントを持っており、自身の日常を呟いている。
なお、「中身」を隠しきれていないVTuberもいる。例えば、「月ノ美兎」は、動画配信中に、「すみません、水を飲みますね」と言ったり、彼女の設定は高校2年生であるにもかかわらず、「・・女子高生だった時は」と言い、時空の歪みをもたらしている(それがかえって良い反響を呼んでいたりもする)。

◇ 声優と比較

キャラクターに声を吹き込んでいるのだから、声優ではないか、という考え方もある。
ただ、VTuberが配信しているのは声だけではない。VTuberは、その挙動や、即興的なネタなども売りにしているパフォーマーである。また、声優の場合は、一般に、キャラクター用の台詞や台本が用意されているが、VTuberの場合は必須でなく、多くは即興性を特徴とする。毎日のように、動画を投稿するVTuberにとって、台詞や台本作りに時間を充てる余裕はないだろう。

◇ 着ぐるみと比較

昨今、ふなっしーなどの「ゆるきゃら」が、YouTubeで動画を配信している。VTuberも、デジタルな着ぐるみをまとっているという意味ではこれに近い。ただ、従来の着ぐるみと違うのは、仮想空間に依拠している点である。現実世界で、ふなっしーと握手はできても、VTuberとはできないのだ。会話をするにしても、「あっちの」世界と交信するモニターが必要となる。

以上、VTuberの特徴を並べると、バーチャル、人間、即興性、デジタル着ぐるみ、仮想空間に依拠しているといったところだろうか。

法的観点から見たVTuberの特徴

VTuberは、法的にどのような扱いを受けるか。以下、あてはまりそうなものを挙げてみた。

◇ ネットユーザーであること

VTuberは、バーチャルな存在とはいえども、YouTubeやSNSなどのユーザーである。そのため、活動拠点であるプラットフォームの利用規約に従う必要がある。例えば、YouTubeの利用規約が変更されれば、最新の規約に拘束され(執筆時における利用規約、1条B)、投稿したコンテンツについては、YouTubeに非独占的にライセンスすることになる(同規約6条C)。仮に利用規約に違反すれば、アカウントを終了させられる可能性がある(同規約7条)。
また、通常のYouTuberと同様、ネットで法令に違反するような投稿は禁止される。例えば、他人を誹謗中傷すれば名誉毀損(刑法230条1項)、商品に関して虚偽のレビューをすれば、信用棄損として責任を問われ得る(刑法233条前段)。なお、ゲーム実況についてもグレーなケースもあるが、ここでは触れない。

◇ 準タレントであること

VTuberは、一般のタレントと同様、企業と広告・出演契約を締結し、イベント等に出演して収入を得ることもできる。なお、現在では、VTuberの活動領域がYouTubeにとどまらないことから、このような配信者を、「バーチャルタレント」と呼ぶ人もいる。
「準タレント」としたのは、一般的なタレントと違って、中の人が表に出ないからである。そのため、例えば、イベント中に無断でアバターが撮影・転用されたとしても、中の人が撮影・転用されているわけではないため、肖像権侵害やパブリシティ権侵害を理由に責任追及することは難しいと考えられる。

◇ クリエイターであること

VTuberは、投稿動画を生み出すクリエイターでもある。そのため、前記のように、仮に、アバターが無断利用されている場合、VTuberは、無断利用者に対して、著作権侵害を理由として責任追及する方法が考えられる。
また、クリエイターには、アバターに関する著作者人格権が帰属し得る。そのため、例えば、自作のアバターが、意に反して改変され、同人誌等で販売されている場合、著作者人格権侵害を理由に差止め請求を提起し得る。
ちなみに、キズナアイなど、一部のVTuber公式HPには、二次創作ガイドラインやライセンス条項が掲載されている(例えば、「キズナアイ ライセンス条項」)。無断利用を防止する方法として有益と思われる。

◇ 時に従業者であること

近年、バーチャルYouTuberをサポートする事務所や、VTuberを社員とする企業が登場している。例えば、現在、キズナアイは「upd8」、ミライアカリは「ENTUM」という事務所に所属している。また、ロート製薬は、VTuber「根羽清ココロ」を社員として採用している。仮に、VTuberが、労働者に該当する場合、最低賃金や、労災保険による保護を受けられ得る。
他方、従業者としての制約を受ける。例えば、自身の投稿したコンテンツの権利が、所属先の事業ために創作されている場合、そのコンテンツの権利は、原則として、所属先に帰属する(著作権法15条)。その場合、VTuberは、自由にそのコンテンツを使えなくなる。また、所属先のルール(契約や就業規則など)に従う必要があり、所属先によっては、守秘義務等を徹底するため、ネットに制作した動画を投稿する前に、逐一、その内容を報告することを義務付けている場合もある。

VTuberの悩ましい事情と今後の対応

所属先のメンバーであるからといって、全てに迎合する必要まではない。仮に、不当に安い対価で働かされ、又は非常に過酷な業務を課されている場合は、労基法や下請法、独禁法違反となり得る。
これに関し、近時、VTuberのグループ(ゲーム部プロジェクト)とその運営会社であるUnlimitedとの間でトラブルが起きた。
ゲーム部プロジェクトとは、2018年3月に活動開始したバーチャルYouTuberグループである。メンバーは「夢咲楓」、「道明寺晴翔」、「風見涼」、「桜樹みりあ」の4人で、都内の高校にあるゲーム部に所属しているという設定である。ゲーム部プロジェクトは、ゲーム実況のほかに、ショートドラマや「歌ってみた」など多岐に渡る動画投稿活動を行っていた。
そんな中、2019年4月初旬、キャラクターの中身と目されていた人物4名がTwitterで過酷な労働環境や待遇を暴露した。グループ解散も噂されていたが、その後、事務所は、謝罪し、その改善と活動継続等を発表している(株式会社Unlimited「ゲーム部プロジェクトに関するご報告」)。

昨今、個人の悩みやトラブル内容をネットで告知し、それが炎上につながる事案が見受けられる。世間を味方につけて団体と戦う一方法として時に有用だが、必ずしも告知を見た人々が味方になってくれるかは定かでない。他方、VTuberの中には、身元がバレないように、あまり個人的な事柄を周囲に相談できない方もいる。こういった、VTuber固有の事情を踏まえると、何が正しい解決法なのかを見定めるは難しい。

まだ分析しきれていない部分はある。ただ、VTuberが、仮想と現実をコラボさせた魅力ある文化であることは間違いない。より調査を進め、時に現場の方の声を聞き、VTuber文化の発展の一助になれたら幸いである。

以上

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