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2023年2月27日

契約アートエンタメファッション

「デザイン分野における契約書作成・交渉のための基礎知識
  -業務委託契約書のひな型を題材に各条項のポイントを解説-」

弁護士  田島佑規 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

 デザイン業界の皆さま!契約書の作成・交渉に自信はありますか!?
 唐突な問いかけから始めてしまいましたが、おそらく多くの方は「正直なところあまり自信はありません…」という回答ではないかと思います。大丈夫です。本コラムはそんな方にこそ届けたい、契約書の扱いを少しでも得意になっていただくための内容です。

(なお、上記問いかけに「はい!私は最強!」と答えた方、その方には本コラムは必要ないかもしれませんが、その自信を確信に変えるためにもぜひご一読いただければと思います。)

 本コラムは、各種デザイン業務の受発注を行う「制作会社」や「デザイン事務所」、「(主に)フリーランスデザイナー」として働いている方が、契約書を扱う上で、最低限知っておくべきと思われる基礎知識につき、具体的な業務委託契約書のひな型を用いて各条項の解説を行うものです。

 以下、はじめに導入として文化芸術分野における契約書をめぐる近年の動向について、少し紹介できればと思います。とにかく早く契約書のひな型解説を読みたいんだ!という方は、この点は飛ばして後半に進んでいただいても構いません。ただ、この契約書をめぐる動向にも、きっと皆さまのお役に立つ情報があろうかと思いますので、ぜひお時間ある際に目を通していただければと思います。

 なお、私自身は2018年6月からデザイン・クリエイティブ業界の皆さまを対象に無料相談窓口等を提供する『デザイナー法務小僧』というWebサイトを運営しています。これまで当該サイトを通じて100名以上のデザイナー・クリエイターの方から契約書や権利関係、取引におけるトラブル対応といったご相談をお受けしてきました。本コラムでは、こうした知見も基に、デザイン業界の現場において役に立つ契約書解説となるよう努めますので、どうぞお付き合いいただければと思います。

■文化芸術分野における契約書をめぐる動向

 まず近年の大きな動きの一つとしては、2021年9月から文化庁において行われた「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議」の開催が上げられるでしょう。こちらの検討会議は全6回の開催を経て、2022年7月に契約書のひな型や解説等を含んだ「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン(検討のまとめ)」が公表されました。
 また上記ガイドラインの実効性確保の観点から、個人で活動する芸術関係者やその発注者になる方が適正な契約関係を構築するための必要な知識を身に付けられるよう、令和4年度は文化芸術分野の全5団体により「芸術家等実務研修会」が文化庁事業として実施されています。この事業に関する詳細はこちらのページをご覧いただければと思いますが、各団体による契約に関するテキストブックや解説動画が公開され、2023年3月までの間に全国各地での研修会が行われる予定となっています(いずれも無料です!)。

 このうち一つ私が関与しているものをご紹介しますと、「関係づくりを学ぶ!現場で使える契約講座」がNPO法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)により実施されています。こちら舞台芸術制作者・プロデューサー対象とされているものの、特にテキストブックの「契約入門編」(17頁~)やeラーニング動画 <①契約入門編>等については、業界を問わずデザイン分野の方であっても契約や契約書の基礎知識を学ぶ上で非常に有益な内容になっているかと思います。この入門編のテキストブックやe-ラーニング動画の内容もチェックいただきつつ、以下の契約書ひな型解説をお読みいただくとより理解が深まるかと思いますので、こちらも併せてご覧ください。
 また法制度に関する動向についても、重要な動きがありますので一つご紹介します。
 現在政府において、フリーランスの取引を適正化し、個人がフリーランスとして安定的に働くことができる環境を整備するための「フリーランスに係る取引適正化のための法制度」の制定が検討されています。実際に2022年9月にはパブリック・コメントの募集がなされ、2023年2月24日には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案(フリーランス・事業者間取引適正化等法案)」として閣議決定がなされ、国会に提出されています(概要、要項、法律案・理由等の詳細につきましては、内閣官房のページをご確認ください。)
 上記法律案によれば、事業者がフリーランスに対して業務委託を行う場合には、業務内容や報酬額等を記載した書面(メールを含む)の交付やその他の遵守事項が求められることになります。

(なおこの点については従来から下請代金支払遅延等防止法(いわゆる下請法)において同様の取決めがあったところですが、下請法が適用されるには発注者の資本金が1,000万円を超えていなければならず、たとえば2020年5月に内閣官房日本経済再生総合事務局により実施された「フリーランス実態調査結果」(15頁)によれば、事業者から業務委託を受けて仕事を行うフリーランスのうち、資本金1000万円以下の企業と取引をしたことがある者は4割以上との結果もでています。加えて下請法は対象取引の限定もあり、下請法における保護だけでは不十分であるとも考えられているところです。)

 このまま上記法律案が成立すれば、たとえば制作会社やデザイン事務所が外部のフリーランスデザイナーに業務を発注する際には、必要事項が記載された契約書や発注書等の書面を取り交わすことが、発注者の資本金の要件とは関係なく義務化されることになります。そうなれば、発注者はもちろん受注者においても、今まで以上に業務委託契約書やそれに準ずる書面の作成やその内容に関し適切な交渉を行うスキルが求められることは確実でしょう。
 そこで本コラムにおいては、こうした上記動向も踏まえ、以下「デザイン業務をフリーランスに委託する際の業務委託契約書」のひな型を用いて、各条項のポイントにつき解説を行うことで、適正な契約書作成・交渉のための基礎知識の習得に役立てていただければと思います。

(なお以下のひな型は、上記にて紹介した「関係づくりを学ぶ!現場で使える契約講座」 テキストブックにおける契約各論編(ひな型例・解説)を踏まえた上で作成しています。こちらのテキストブックでは、「公演委託契約」「スタッフに関する業務委託契約」「出演契約」に関するひな型例と解説が掲載されていますので、こちらも必要に応じて参考にしていただければと思います。)

■デザイン業務に関する業務委託契約書(フリーランスへの業務委託又はフリーランスとして業務を受託する際の契約書)ひな型と各条項解説

※注意事項
 解説用のひな型については比較的一般的と思われる内容を用いていますが、もちろん実際の取引においてこのひな型をそのまま利用すれば問題がないといったものではありません。委託側にとっては十分でも受託側にとっては不十分と思われる条項や、その逆もあるでしょう。これは契約書ひな型一般にいえることですが、委託者・受託者双方にとって100%望ましい契約書というものは存在しません(これが存在するのであれば、社会から契約交渉というものは無くなりますね)。委託側か受託側かという自らの立場や、具体的な委託業務内容等その取引ごとの状況に応じて、記載すべき条文やその内容は変わるものですので、以下のひな型はあくまで契約書に対する理解を深めるための一つの参考としてご確認いただければと思います。

 
ひな型 解説
      業務委託契約書

【委託者】(以下「甲」という)と、【受託者】(以下「乙」という)とは、甲が乙に委託する業務に関し、以下のとおり契約(以下「本契約」という)を締結する。
● 前文
・ここでは当事者の略称は「甲」「乙」にしていますが、立場が分かりやすいよう、「委託者」「受託者」などの略称を使用しても構いませんし、「制作会社」「デザイナー」などの用語を用いても構いません。
・特に「甲」「乙」を用いる場合には、各条項においてどちらが「甲」でどちらが「乙」かを取り違えないよう注意が必要です。
第1条(業務内容)
1 甲は、乙に対し、下記の業務(以下「本件業務」という。)を委託し、乙はこれを受託する。本件業務に基づき乙が制作する制作物等につき以下「本件成果物」という。
         記
 ① 本件業務内容
・〇〇に関する企画提案/〇〇に関するコンセプト立案
・〇〇制作に関するディレクション/〇〇制作に関する進行管理・品質管理
・〇〇のデザイン制作/〇〇のロゴ制作/〇〇のイメージCG制作

 ② 納品日:
 〇〇について:〇年〇月〇日
 〇〇について:〇年〇月〇日
 ・・・

 ③ 納品方法・形式:
 〇〇について:aiデータ
 〇〇について:PDFデータ
 ・・・

2 前項に加えて本件業務の内容及び進行スケジュール等の詳細は、別紙において定める。

3 本件業務に関する事項のうち〇〇の事項は、本契約時点で○○の理由で未定であり、概ね○年○月○日頃までに甲及び乙が協議の上、書面(電磁的書面を含む。以下本契約において同じ。)で合意する。

● 1条1項
・この契約の対象となる業務内容を明らかにします。委託者からすると受託者に依頼したい業務内容につき不足がないか、受託者からするとここで記載された業務内容については、これを行うことが契約上の義務となるため、業務として受託して問題がないか(適切に履行できるか)等確認する必要があります。
・ひな型における本件業務内容の記載は、デザイン業務においていくつか想定される業務内容の一例を記載したものにすぎません。その都度実態にあった業務内容を記載するようにしてください。なお「当然〇〇の作業まで本契約で対応してもらえると思っていたが違うのか」といった委託者・受託者間の認識のズレを防ぐべく、2項の別紙なども駆使しつつ可能な限り各業務に含まれる具体的内容を記載する方が望ましいといえるでしょう。
・成果物の納品が発生する業務の場合には、それぞれの成果物に対して納品日を記載します。また納品方法・形式についても同様に記載しています。納品方法・形式については、たとえばデータであってもどのデータ形式(Illustratorのデータ、aiデータ、PDFデータ等)で納品するか、特に委託者において編集可能なデータ(生データ)を渡すのか、アウトライン化した編集不可能なデータを渡すのか等の点はトラブルになりやすい事項ですので、契約時点で認識に齟齬がないようきちんと確認しておくことが重要です。

● 1条2項
・各業務の内容、スケジュール等の詳細が長くなる場合、別紙(契約書に添付)で定めることもあります。この別紙は見積書などでもよいですが、その内容に双方が合意していることを示すために契約書に添付する必要があります。

● 1条3項
・下請法が適用される場合、親事業者(委託者)から下請事業者(受託者)に、業務内容、代金額、支払期日など所定の事項を記載した書面の交付や、代金支払時期を成果物等の受領から60日以内に定める必要等があります。
・正当な理由によりこれらの内容が定められない場合、当初の書面で、定められない理由や定める予定日を記載し、その後その事項が決まった後に、当該事項を記載した書面を交付する必要があり(下請法3条1項)、この場合の一つの記載例を3項に規定しています。
・下請法が適用されるかは、親事業者(発注者)と下請事業者(受託者)の資本金規模と取引内容によります
第2条(報酬及び支払)
1 甲は、乙に対し、本契約に基づく乙の報酬(本件業務対価及び第5条の対価を含む。以下「本報酬」という)として、金〇円(源泉税込・消費税別途)を支払う。その内訳については下記のとおりとする。
【内訳】
    ・・・
    ・・・
    ・・・

【支払方法/一括払い】
2 甲は、乙から請求書が発行されることを条件に、乙に対し、本件業務の完了日(本件業務に成果物の納品を要する業務が含まれる場合には本件成果物の納品が完了した日)が属する月の翌月末までに、本報酬を乙が別途指定する口座に振り込む方法により支払う。ただし、振込手数料は甲の負担とする。

【支払方法/分割払】
2 本報酬は2回払いとし、甲は、乙から請求書が発行されることを条件に、乙に対し、〇年〇月〇日までに本報酬の50%を、〇年〇月〇日までに残りの50%を、乙が別途指定する口座に振り込む方法により支払う。ただし、振込手数料は甲の負担とする。

3 乙が本件業務を遂行するために要する費用は、別途甲乙間において合意したものを除き乙の負担とする。
● 2条1項
・報酬を定める規定です。第5条の成果物の著作権譲渡や利用許諾の対価もこの報酬に含んでいることを明記しています。特に成果物につき著作権譲渡を行う場合等には、受託者として著作権譲渡の対価も併せてこの報酬金額で問題がないか確認する必要があります。
・消費税額を含むかの認識に齟齬がないよう、消費税について記載しています。なお、2023年10月から始まるインボイス制度では、委託者が消費税の仕入額控除を行うには、支払先事業者(受託者)が「適格請求書発行事業者」の登録を受けている必要があります。例えば、登録事業者か否かを契約時点で表明してもらうこと、登録事業者とならない場合には、受託者自身が外部に支払う消費税額が持ち出しにならない範囲にて支払消費税額を調整すること、なども考えられます。
・報酬額は本来、契約時点で定めておくことが望ましいですが、定められない正当な理由がある場合には、定められない理由、報酬が決定する予定期日などを記載し、報酬が曖昧なままに業務内容を実施することを避けるようにすることも考えられます。
・報酬について内訳がある場合、内訳(ディレクション対価として〇円、ロゴ制作料として〇円、イラスト制作料として〇円等)を記載しておいた方が明確です。項目によっては単価について記載することも考えられます。項目ごとの単価を記載することで、制作途中で業務内容が変更となった際にも、変更後の報酬について協議する上での一定の指針として機能することが考えられます。

● 2条2項
・報酬の支払時期と方法について一括払と分割払の例を一例として記載しています。
・受託者側として、発注者側から適切に報酬が支払われるかどうかの不安がある場合には、「本報酬の50%を乙が本件業務に着手するまでに支払う。当該支払いがない間は、乙は本件業務に着手しないものとし、これにより本件業務の進行が遅れたとしても乙は責任を負わない。」といった条件で交渉することも選択肢としてはあり得ます。
・下請法が適用される場合、報酬の支払期日は、受託者から成果物等を受領した日から60日以内(かつできる限り短い期間内)に定める必要があります(下請法2条の2第1項)。

● 2条3項
・本件業務に必要となる実費に関する取り決めです。ひな型では原則として受託者がその実費を負担する内容にしています。
第3条(納品及び修正)
1 乙は、甲に対し、本契約書又は別途甲乙間の合意により定めた期限及び納品形式に従い、本件成果物を提出する。

2 甲は、前項により提出された本件成果物を検査の上、乙に対し、本件成果物の修正を求める場合は、前項による本件成果物を受領した日から〇営業日以内に、具体的な修正依頼内容と共に書面で通知する。本件成果物の受領日から〇営業日以内に当該通知がなされない場合(具体的な修正依頼内容の通知がなされない場合も含む)には、本件成果物の納品は完了したものとする。

3 前項の規定に従い、本件成果物の修正を行うことになった場合には、当該修正に必要な合理的な期間を考慮の上、甲が新たな提出期限を指定し、乙は当該期限までに修正した本件成果物を甲に提出し、甲は再度前項の検査を行う。

4 委託者による、第2項による修正依頼は本件成果物に関し合計〇回までとし、合計〇回の修正を経て、乙から甲に対し、本件成果物の提出がなされた場合にはそれをもって本件成果物の納品が完了したものとする。ただし、合計〇回を超えた修正作業に関し、別途甲乙間において本報酬とは別に追加費用等の条件を取り決めた場合にはこの限りではない。
● 3条1項
・本件業務に成果物の納品を要する業務が含まれる場合には、3条のような検収の規定を入れることがあります。

● 3条2項
・委託者側に成果物が提出されてから修正がある場合の通知期限と通知方法を定めています。ひな型では期限内に通知がない場合(具体的な修正依頼内容の通知がなされない場合も含む)には納品完了とみなさることになりますので、委託者としては現実的にこうした確認及び通知作業が可能な日数を定める必要があります。なお受託者としては不当に長い期限が設定されていないか注意が必要です。
・また受託者としてはデザインの一からのやり直しなど、不当な内容の修正依頼がなされることがないよう修正内容に関し以下のような規定を設ける場合もあるでしょう。
>「なお、本項により甲から乙に対し行うことができる修正依頼内容は、乙に過分な負担が生じない合理的な範囲の修正に限るものとし、当該範囲を超えた修正を求める場合には本報酬以外に別途費用が発生するものとする。」

● 3条3項
・ひな型では修正が発生した場合の新たな提出期限は最終的に委託者が指定することにしていますが、たとえば「新たな提出期限については当該修正に必要な合理的期間を考慮の上、甲乙間の協議合意により定める」といった内容にすることもあり得るでしょう。

● 3条4項
・受託者としては最初の報酬金額で想定していた以上に、何度も委託者の指示によりデザインの修正作業等をしなければならない事態に陥らないよう修正対応に応じる上限回数を取り決めておくことが考えられます。

第4条(納品後の修正と契約不適合責任の排除)
1 甲は、前条に基づく本件成果物の納品後は、乙に対し修正を求めることはできず、本件成果物に本契約内容との不適合があったとしても、乙はその責任を負わない。

2 本件成果物の納品後に乙に修正を求める場合には、本報酬に加え別途費用が発生することをあらかじめ確認する。
● 4条1項
・ひな型では前条による納品後は受託者に対し修正を求めることはできないとしています。なお、通常のグラフィックデザインのような場合にはおよそ問題になることは少ないと思いますが、Webサイト制作のような場合には、委託者による前条の期限内の検査では発見できない問題が発生する可能性もあり、その場合には以下のような規定を入れることもあります。
>「本件成果物に前条に定める検査では発見できない本契約の内容との不適合がある場合に、納品後〇か月以内に甲がその不適合を発見し、乙に対して通知をしたときは、甲は、乙に対し、修補の請求を行うことができる。」
第5条(権利の帰属)
【著作権譲渡の場合の一例】
(※下記の利用許諾の場合とは両立しませんので、5条については取引内容に応じてどちらかの場合の規定を入れることになります。)

1 本件成果物に関する著作権(著作権法27条及び28条の権利を含む)その他一切の権利については、納品完了時に乙から甲に移転する。

2 乙は、甲又は第三者による本件成果物の利用に対し著作者人格権を行使しない。ただし、甲が乙に対し、第三者に対する著作者人格権の行使を求めた場合にはこの限りではない。

3 本条の規定にかかわらず、乙は自らの実績として、本件成果物につき、印刷物、Webサイトその他媒体を問わず公開することができる。ただし、本件成果物につき一般公開前のものについてはこの限りではない。
【著作権譲渡の場合の一例】
● 5条1項
・成果物に関する著作権については受託者から委託者に移転するとした場合の一例です。移転時期については納品完了時ではなく、報酬の支払時とするパターンもあり得ます。

● 5条2項
・著作者人格権とは公表権(著作権法18条)、氏名表示権(同法19条)、同一性保持権(同法20条)をいいますが(場合によっては名誉声望保持権(同法113条11項)も含む)、ひな型ではこれらの権利を行使しない旨の内容を定めています。受託者として著作者人格権不行使の受入れが難しい場合には、この条項自体を削除する、又は、権利ごとに個別に別段の定めを設けること(たとえば氏名表示であれば「乙は、甲又は第三者が本件成果物を利用する際に、乙の氏名等を乙が指定する態様において表記するよう求めることができる。」など)も考えられます。

● 5条3項
・著作権を譲渡すると本件成果物を制作した受託者であってもこれを自由に利用することができなくなります。そこで本件成果物につき自己の実績としてポートフォリオ等で公開したいと考える場合には、ひな型のような記載を設けておくことが考えられます。

第5条(権利の帰属)
【著作権譲渡を行わない場合
(利用許諾の場合)の一例】
(※上記の著作権譲渡の場合とは両立しませんので、5条については取引内容に応じてどちらかの場合の規定を入れることになります。)

1 本件業務を通じて生じた本件成果物(その中間成果物も含む)の著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。)その他一切の権利は乙に帰属し、甲はこれを下記の範囲において期間の定めなく独占的に利用することができる。
          記
 ・〇〇のデザインとしての利用
 ・〇〇、〇〇への利用
 ・・・
 ・・・

2 甲は前項の利用にあたり必要な限度において、乙の事前の承諾なく、適宜サイズの変更・トリミング等の軽微な変更を行えるものとする。

3 甲が第1項の範囲を超えて本件成果物の利用を希望する場合には、その利用範囲や対価等の条件について別途甲乙協議合意により定める。

  【著作権譲渡を行わない場合
(利用許諾の場合)の一例】
● 5条1項
・成果物に関する著作権については受託者に帰属したままとする場合の一例です。委託者はあくまで受託者が契約書等で指定する範囲において本件成果物を利用できるだけということになります。こちらの場合には、委託者としては自ら使用したいと考えている利用範囲について漏れなく記載がされているか確認する必要があります。
・また今回は「独占的に」利用できる内容にしています(独占的利用許諾などといいます。)これを非独占的にした場合には、受託者は他の第三者においても本件成果物を利用させることができますので、独占的にするか非独占的にするかも交渉ポイントになろうかと思います。
・その他、利用可能期間については、ひな型では「期間の定めなく」としています。場合によっては、「利用可能期間は〇年間とする(それを超えての使用は別途対価が発生する)」などと定めることも考えられます。

● 5条2項
・本来、本件成果物を改変するような場合には、著作権及び著作者人格権を有する受託者の承諾が必要となりますが、軽微な変更を行う場合にも受託者の承諾を要するとなると、本件成果物の利用にあたり不都合になることも考えられますので、ひな型では一例として軽微な変更の場合には委託者が自由に行えるものとしています。この点は軽微な変更であっても都度受託者の承諾が必要とすることもあり得ます。

● 5条3項
・ひな型では5条1項で定めた範囲を超えて委託者が本件成果物を利用したい場合には、その都度追加対価等についても交渉を必要とする内容にしています。

● その他
・ここではデザインデータのみが納品されるようなケースを想定し、その著作権等の知的財産権の取決めを想定していますが、受託者において印刷会社等も手配の上、印刷物等の「物」の納品も併せて行う場合には、たとえば以下のようにその所有権の扱いも決めておくことも考えられます。
>「乙が本契約に従い甲に納品する納品物の所有権は、甲の乙に対する本報酬の支払いと同時に、乙から甲へ移転する。」
第6条(保証)
1 乙は、甲に対し、本件成果物やその利用が第三者の著作権その他の権利を侵害するものでないこと及び乙と第三者との間に本契約の履行を妨げる契約が存在しないことを保証する。

2 前項の保証に反し、甲の本件成果物や本契約に従ったその利用に関して第三者との紛争が生じたときは、乙の費用と責任においてこれを解決する。

● 第6条
・本件成果物につき第三者の権利侵害がないことを受託者が保証する内容です。場合によっては、「乙は自らが知りうる限りにおいて、本件成果物が第三者の著作権その他の権利を侵害するものでないことを保証する。」などとし、受託者の保証内容を軽減する場合もあります。
第7条(業務遂行上の義務等)
1 甲は乙に対し、本件業務遂行に必要な情報、素材、原稿、資料等(以下「必要資料等」という)の開示、貸与等の提供を行う。乙から甲に対し、必要資料等の提供の要請があった場合、甲は速やかにこれに従う。

2 乙は甲から提供された必要資料等を本件業務以外の用途に使用してはならない。

3 甲は乙に対し、必要資料等に関し、第三者の著作権その他権利を侵害するものでないことを保証する。

4 本件業務の遂行に関し、本契約時に甲乙間で合意されなかった事項については、乙が自身の裁量に基づいて行うことができるものとする。
● 7条1項、2項、3項
・業務を行う上で、委託者が受託者に対し、必要な情報や資料等の提供を行う必要がある旨の規定です。2項では、受託者が本件業務以外の目的で委託者から提供をうけた資料等を使用しない旨を記載する内容となっており、3項では、委託者にこうした資料等について第三者の権利侵害がないことを保証してもらう内容となっています。

● 7条4項
・本件業務遂行に関する規定です。このひな型では受託者の裁量が広く認められる内容になっていますが、場合によっては、「乙は甲の指示に従い本件業務を遂行する」といった内容にすることも考えられます。
第8条(本件業務の中途終了時の処理)
1 本件業務又は本契約が解除その他の事由により途中で終了した場合(以下「中途終了」という)であっても、当該中途終了が乙の責めに帰すべき事由によらないときは、第2条に定める本報酬の支払については、本件業務の進捗割合を本報酬に乗じた額の支払を基本としつつ、既に乙が本件業務のために支出した実費がこれを上回る場合はその額を支払う。

2 前項の規定は、甲の都合により本件業務が中途終了となった場合に準用する。

3 本件業務又は本契約が中途終了となった場合の本件成果物の扱いについては、当該成果物の内容、中途終了の時期、本条に基づき委託者が受託者に支払うことになる本報酬金額等を踏まえて、甲乙協議合意によりこれを定める。
● 8条1項
・本件業務や本契約が受託者の責めに帰すべき事由以外の理由により途中で終了となった場合の報酬に関する取り決めです。ひな型では本件業務の進捗割合に応じた額と、既に受託者が支出した実費のより高い方を支払うという内容にしていますが、たとえば中止となった時期に応じて、〇〇提出後の中止については本報酬の30%、あるいは〇年〇月〇日以降の中止については50%など、具体的な進行時期や日付によってキャンセル料を定めるという方法もあります。

● 8条2項
・ひな型では委託者都合にて途中で業務が終了となった場合の報酬支払いも8条1項に準ずるという内容にしています。

● 8条3項
・業務が途中で終了となった場合の成果物の扱いに関する規定です。ひな型では成果物の内容、中途終了の時期や報酬金額等を踏まえて、委託者と受託者との協議により定めることとしていますが、より具体的に記載しておく方法もあります。
第9条(変更)
甲と乙は、本件業務の内容等について必要に応じて協議を行い、業務内容の変更が必要な場合、スケジュールや追加の対価等に関し誠実に協議を行った上で、双方合意によりその内容を決定し、書面(電磁的書面を含む)で確認する。
● 9条
・本件業務内容を変更する場合の規定です。本件業務の円滑な遂行上、変更の最終的な決定権は委託者側にあると定めるケースもあり得ますが、その場合であっても変更により受託者に不当な不利益が生じないよう、スケジュールや追加報酬の有無について配慮が必要です。
第10条(権利義務譲渡の禁止)
甲及び乙は、相手方の事前の書面による承諾がないかぎり、本契約上の地位あるいは本契約から生じる債権債務の全部又は一部を第三者に承継し、譲渡しもしくは引受けさせ又は担保に供してはならない。
● 10条
・一方当事者に無断で契約上の地位や権利・義務が移転されることがないようにするための規定であり、あらゆる契約タイプにおいて比較的一般的な内容といえるでしょう。
第11条(再委託)
乙は、甲の事前の書面による承諾がないかぎり、本件業務の全部又は一部を第三者に再委託できない。なお、承諾の有無にかかわらず、乙は、第三者に本件業務の全部又は一部を再委託し又は補助させる場合には、当該第三者に対し、本契約における乙の義務と同様の義務を遵守させる。
● 11条
・本件業務について再委託を禁止する内容です。ひな型では本件業務の一部の再委託についても委託者の事前の書面による承諾がなければできないことになっています。したがって、契約時点で既に業務の一部の再委託を予定しているような場合には、この点は修正し、もしくは個別の再委託先の具体名を承諾済みとして記載しておくと良いでしょう。
第12条(契約の解除/損害賠償)
1 甲及び乙は、相手方に以下の各号の事由に該当する事由が生じたときは、本契約を解除することができる。
① 本契約に定める義務の履行につき違反があり、催告後、相当期間経過してもなお違反が是正されないとき。
② 支払の停止又は破産、民事再生、会社更生若しくは特別清算その他の倒産処理手続の申立(その準備行為を含む)があったとき。
③ 仮差押・仮処分・強制執行・滞納処分を受けたとき。
④ 解散若しくは廃業、営業停止若しくは廃止したとき。
2 前項による解除の有無にかかわらず、甲及び乙は、相手方による本契約違反、本契約上の義務の不遵守により被った損害につき、損害賠償を請求することができる。
● 12条1項
・契約の解除に関する規定の一例です。どういうときに契約解除がされる可能性があるのかを把握した上で、他に契約を解除したい事由がないかなど検討していただければと思います。
・ひな型の①は他方が契約上の義務に違反し、違反を解消するように要求したが、ある程度の期間が経過しても違反が解消されなかった場合に解除できる、というものです。
・その他、②③については他方の資産状況が悪化したと判断される場合に解除できる旨を、④については他方がその事業等を停止した場合に解除できる旨を定めたものです。

● 12条2項
・契約の解除と生じてしまった損害の賠償請求は両立しますので、その点を確認した規定です。なお損害賠償請求については、場合によっては賠償額の上限を定めることもあります。
第13条(反社会的勢力等の排除)
1 甲及び乙は暴力団、暴力団員、暴力団関係者、総会屋その他の反社会的勢力(以下「反社会的勢力」という。)でなく、反社会的勢力と何らの関係も有していないことを保証する。
2 甲及び乙は、相手方が前項に違反したと認める場合には、通知、催告その他の手続を要しないで、本契約の全部又は一部を解除することができる。この場合、相手方は他方当事者に発生したすべての損害を賠償する。
3 甲及び乙は、前項に基づく解除の場合、解除された相手方に損害が生じても、これを賠償する一切の責任を負わない。
● 13条
・こちらは反社条項などと呼ばれるものです。暴力団排除条例の存在などをうけ、近年では概ねどのような契約にも入っていることが多い内容です。
・たとえば、「東京都暴力団排除条例」では第18条に以下の内容が定められています。

>(事業者の契約時における措置)
第18条 事業者は、その行う事業に係る契約が暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる疑いがあると認める場合には、当該事業に係る契約の相手方、代理又は媒介をする者その他の関係者が暴力団関係者でないことを確認するよう努めるものとする。
2 事業者は、その行う事業に係る契約を書面により締結する場合には、次に掲げる内容の特約を契約書その他の書面に定めるよう努めるものとする。
一 当該事業に係る契約の相手方又は代理若しくは媒介をする者が暴力団関係者であることが判明した場合には、当該事業者は催告することなく当該事業に係る契約を解除することができること。(以下、省略)
第14条(秘密保持)
1 及び乙は、本契約に関連して知得した相手方の営業上及び業務上の秘密につき、秘密として管理し、相手方の事前の承諾なく、第三者(弁護士その他法令上守秘義務を負う専門家を除く)に開示又は漏洩してはならず、本契約遂行以外の目的で使用してはならない。ただし、以下の各号のいずれかに該当する情報は、この限りでない。
① 開示を受ける前より既に適法に保有していた情報
② 正当な手段により、秘密保持義務を負うことなく第三者から開示を受けた情報
③ 開示を受ける前に既に公表されており、一般に入手可能な情報
④ 開示を受けた後、受領者の責めによらない事由により公表され、一般に入手可能となった情報
⑤ 秘密情報によることなく独自の方法により開発した情報
2 本条の規定にかかわらず、乙は自らの実績として第三者に紹介する目的に限り、任意に甲との取引の事実、本件成果物の内容等につき使用・公開することができる。ただし、本件成果物につき一般公開前のものについてはこの限りではない。
● 14条1項
・相手の秘密を漏洩等しないという条文です。秘密保持条項の主なポイントは、秘密情報の対象がなにか、秘密情報に該当しない例外情報はなにか、秘密情報に該当するとしてその扱いはどうすればよいかです。
・ひな型では「相手方の営業上及び業務上の秘密」を対象としていますが、一方から開示された情報は全て秘密情報とみなすという例もあります。基本的には自ら開示する情報が多いと思われる場合には秘密情報の定義は広めに設定しておくことが考えられますし、反対に相手方の情報を受け取ることが多いというときは秘密情報の定義は狭くしておくことなどが考えられます。
・秘密情報の扱いについて、大変厳格な扱いを定めている契約書も存在しますが、そうした扱いが委託者あるいは受託者として現実的に可能かどうかを検討し、困難だと思われる内容については修正するようにしましょう。
● 14条2項
・秘密保持との関係で受託者が当該案件に関与した事実、またその成果物につき第三者に紹介できるかが問題になることがあります。案件の性質等からして、事前に委託者の承諾を得た場合に限り、受託者が当該案件に関与した事実等について公開することを許可したいと考える場合にはその旨記載しておくことが考えられます。また受託者として当該案件につき関与した事実等につき、任意に第三者に紹介できるようにしておきたいと考える場合には、ひな型のような内容を加えることも考えられます。
第15条(準拠法及び合意管轄)
本契約は日本法に準拠し、本契約に関する一切の紛争については、○○地方裁判所を第1審の専属的合意管轄裁判所とする。
● 15条
・準拠法とはどの国の法律で契約を解釈するかの取り決めであり、裁判管轄は仮に契約に関連して紛争となった場合には、どの国・土地の裁判所で訴訟を行うかを事前に取り決めておくものです。
・日本で行う業務についての契約であれば、通常は日本法が準拠法となり、日本の裁判管轄を記載することになるでしょう。東京地方裁判所、大阪地方裁判所など具体的な裁判所名を記載するケースが大半です。裁判の様々なコストを考慮すると、自らの本拠地に近い場所に設定する方が一般的にはベターですが、同時に、同種のケースに慣れた大都市の裁判所を選ぶケースもあるでしょう。
第16条(雑則)
本契約に定めなき事項又は解釈上疑義を生じた事項は、法令に従うほか、双方誠意をもって協議のうえ解決を図る。

以上、本契約成立を証すため、本書2通を作成し、双方記名捺印のうえ各1通を保有する。もしくは、本書を電磁的に作成し、双方にて署名捺印又はこれに代わる電磁的処理を施し、双方保管する。

〇年〇月〇日

甲:

乙:

――――――――――――――――――――
別紙

本件業務内容の詳細及びスケジュールは以下のとおりとする。

・・・
・・・

 
 

 

以上

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