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コラム column

2022年8月30日

著作権IT・インターネット出版・漫画

「文化存続のために。タスクフォース以降の海賊版対策を俯瞰する」

弁護士  出井甫 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

〇はじめに

2018年10月、知的財産戦略本部が主催した「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議(タスクフォース)」(以下、TF)では、サイトブロッキング(特定のウェブサイトへの接続を強制的に遮断すること)の導入の賛否を巡って議論が紛糾し、TFの内容はまとまらずに、会議は無期限延期となりました(当時の状況については、福井弁護士のコラムもご参照ください)。

あれから4年が経過しようとしています。この間、海賊版はどういう状況にあり、対策はどのように実施されてきたのでしょうか。また、今後はどのような対策が求められるでしょうか。
2018年当時、私はTFを傍聴していた身ですが、ご縁もあり、現在は知的財産戦略推進事務局の職員を兼務し、本件に従事しています。

そこで、以下、自身の経験も踏まえながら、TF以降のインターネット上の海賊版対策の取組状況について官民双方の観点から俯瞰します。
なお、本コラムに含まれる見解は私個人のものです。また、こちらは海賊版対策の一部を紹介するものです。詳細は本コラムに掲載するリンク先の記事や関連資料などもご覧ください*。

* 2022年7月、総務省は、「インターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会 現状とりまとめ(案)」を公表しました。完成版ではありませんが、こちらにも有益な情報が整理されています。

〇政府による取組み

2019年10月、日本政府は、インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニューを作成しました。同メニューには、各府省庁が取組むべき海賊版対策の内容が記載されています。もっとも、コロナ禍の巣ごもり需要などの影響により海賊版サイトへのアクセス数が増加したことなどを踏まえ、同メニューは2021年4月に改訂されました(下図、緑字)。現在は第2段階まで実施されています*。
それと併行して、知的財産戦略本部は毎年、知的財産推進計画を作成しており、同計画にも海賊版対策について言及されています。本年版は2022年6月3日に公表されました。

*リーチサイト対策及びダウンロード違法化等のための著作権法改正については橋本弁護士のコラムを、発信者情報開示制度の法整備に関しては北澤弁護士のコラムをご参照ください。

改訂された総合対策メニュー及び今年の知的財産推進計画では、特に国際連携・国際執行の強化が重視されています。その背景には、海外発の海賊版サイトが増えており、その運営者を摘発するには海外当局等との連携が求められること、また海賊版サイトの運営者が、海外に拠点を置くホスティング事業者やCDN事業者などのサービスを利用しており、その身元を特定するには当該事業者の保有する情報開示が必要になることが挙げられます。

内閣府、警察庁、総務省、法務省、外務省、文部科学省、経済産業省「インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー及び工程表について」2頁


この国際連携・国際執行の強化として進行しているものの1つに、ベトナムの海賊版対策があります。2017年以降、ベトナム発の海賊版サイトが猛威を振るっていることから*、関係府省庁はベトナムへの対策に特に注力しているのです(下図参照)。

*一般社団法人ABJ(以下、ABJ)の調査によれば、2021 年12 月のアクセス数上位 10 サイトのうち、運営者がベトナムに拠点を置くと推測される海賊版サイトのアクセス数の合計は約 3.1 億とされています。その後、2022 年4月には約5千万に減少しましたが、再び急増する可能性もあり、予断を許さぬ状況です。

内閣府知的財産戦略推進事務局「インターネット上の海賊版への対策について」3頁(第21期文化審議会著作権分科会国際小委員会(第4回))


例えば、警察庁においては、2021年7月、棚橋国家公安委員長を通じてトーラム公安大臣に対し、海賊版サイト運営者の特定・取締りを要請されました(国家公安委員会「国家公安委員会委員長・委員の動き(令和3年7月14日参照)」。また、外務省の協力により、2021年11月開催の日越首脳会談では、両国が連携して海賊版対策に取り組むことを認識共有されました(外務省「日・ベトナム首脳会談」2021年11月24日)。その内容はファクトシートとして以下のように明記されています。

Countermeasures against Copyright Infringements in Cyberspace:
Japan and Viet Nam share the recognition that comprehensive countermeasures against copyright infringements in cyberspace such as pirated copies of Japanese manga websites are necessary from the perspective of advancing sound economic growth in the intellectual property field. Japan and Viet Nam continue to work together toward the effective implementation of such countermeasures against illegal copyright infringements in cyberspace.

外務省「ファクトシート」4頁

〇民間による取組み

一方、民間では業界を超えた取組みがなされています。例えば、2018年12月からは、出版社及び通信・IT事業者が自発的に参加し、海賊版サイトへのアクセスを抑止するための連携施策を検討する、「海賊版対策実務者意見交換会」が定期開催されています。その施策の1つとして、海賊版サイト情報共有スキームがあります。これは、同じく出版社及び通信・IT事業者が参画するABJが認定した海賊版サイトに関する情報を、フィルタリング・セキュリティ事業者に提供し、各社が製品・サービスにこの情報を活用することで、サービスに同意したユーザーが海賊版サイトにアクセスすることを抑制するものです。

他にも、2021年2月からABJは、「STOP海賊版キャンペーン」と題して人気作家による漫画や動画を通じた普及啓発活動を行っています(下図参照)。漫画や動画は一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(以下、CODA)のサイトで視聴することができます。
2022年3月には、出版社及びアニメ関連企業が参加する「マンガ・アニメ海賊版対策協議会」により、「STOP!海賊版 ケロロ軍曹x NO MORE映画泥棒」の啓発動画が全国映画館で公開されました。動画は、CODAのYouTubeチャンネルでも視聴することができます。

ABJ 「第6弾「STOP! 海賊版」キャンペーン」キービジュアル

普及啓発をしてもなお、ネットユーザーの中には海賊版サイトにアクセスしようと、「海賊版 漫画」「(作品名) 無料」などと検索して、検索結果の上位に表示されるサイトにアクセスしようとする者も存在します。そのため、検索エンジンは、ネットユーザーを海賊版サイトに流入する一翼を担っているとも言えます*。そこで、検索事業者であるYahoo Japanは、一定の要件のもと、悪質な海賊版サイトを検索結果の上位に表示させない枠組みを構築しました(Yahoo Japan「検索結果とプライバシーに関する有識者会議」と新たな検討課題に関する有識者会議の報告書について」)。更に、Yahooの検索エンジンでは、「海賊版」と入力して検索すると、前記STOP海賊版キャンペーンの1つである「転載はバカボン」のサイトが上位に表示される仕様になっています。

*詳細は、前述の実務意見交換会などのメンバーでもある、平井佑希、丸田 憲和、丸橋透、宍戸常寿の論考「検索エンジンがマンガ海賊版サイトへの流入に与える影響の抑制について」をご覧ください。

その他、海賊版サイトに寄与する行為に対して権利者自らが法的措置を講じることもは、当然ながら対策の大きな柱です。
例えば、現在、参議院議員として活動されている漫画家赤松健さんは、自身の作品が無断で掲載されていた「漫画村」の運営者に広告料を支払っていた広告事業者を被告とし、著作権侵害の幇助を理由とする損害賠償請求訴訟を提起しました。判決では請求額の1100万円が全額認容されています(東京地裁令和3年12月21日・令和3年(ワ)1333号)。この判決の中で裁判所は、広告代理店において、広告出稿先の著作物が、許諾を得て掲載されているものであるかを確認すべき義務があったと述べています。本判決は、広告代理店に対して広告出稿先を慎重に選定するよう警鐘を鳴らす効果をもつでしょう。ただし、残念ながら現在、海賊版サイトへの広告出稿者の中心は海外のアダルト系などアウトサイダー的な事業者に移ったと言われます(前述総務省・現状とりまとめ(案)21頁参照)。

また、この間、海賊版サイトへの直接的な法執行を担ってきたのは出版4社(小学館・集英社・講談社・KADOKAWA)と弁護団による出版4社海賊版対策会議です。4社は、2022年2月には海賊版サイトにCDNサービス*を提供するクラウドフレア社を被告として4億6千万円の損害賠償(合計約56億円の一部)を請求する訴訟を提起しました(2022年2月17日朝日新聞参照。私も原告代理人として加わっています)。初回期日は今後となりますが、判決に注目が集まります。

* CDNサービスとは、サイト運営者が管理するサーバに蔵置されたコンテンツを世界中に配置された代理サーバー(キャッシュサーバー)にキャッシュさせて、ユーザーのアクセスを分散させるサービスです。海賊版サイトの運営者は、このサービスを使用により、自身のサーバにアクセスが集中して制御不能になる事態を防ぎつつ、大量のアクセス数を稼いでいます。クラウドフレア社に関しては、丸田 憲和、山下 健一、平井佑希、丸橋透、宍戸常寿の論考「クラウドフレアのマンガ海賊版サイトに 対する寄与に関する検証」をご覧ください。

なお、権利行使に関して、文化庁は2022年6月1日に「海賊版対策情報ポータルサイト」を開設されました。同サイトには権利者が海賊版を対処する上での必要なノウハウが集約されています。 また、同年8月30日には、海賊版に関する相談窓口を開設されました。同ポータルサイトや窓口の利活用により、更なる権利行使が促されることも期待されます。

〇止まらぬ海賊版サイトへのアクセス

上記対策の甲斐もあり、現在、海賊版サイトのアクセス数は最悪の状況は脱しています。もっとも、許容できる数字とは思えません。
以下は、日本政府がコロナ禍による緊急事態宣言を発令した2020年4月前後から2022年4月までを対象とする、日本国内からアクセスの多い海賊版サイト上位10サイトの合計アクセス数の月別推移です(下図)。かつて史上最悪といわれた巨大海賊版サイト「漫画村」が閉鎖した2018年4月以降もアクセス数が右肩上がりに伸びていることが分かります。

集英社・ABJ 伊東敦「巨大海賊版サイト閉鎖後の最新状況」1頁(インターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会(第8回)配布資料3)

2021年10月には、上位10サイトの合計アクセス数が4億を超え、「漫画村」最盛期の規模となりました。なお、2021年11月、前述の出版4社海賊版対策会議の活動を通じて、大量のアクセス数を集めていた海賊版サイト「漫画BANK」が閉鎖したため*、アクセス数は減少しましたが、ご覧の通り、すぐ元に戻っています。これは、サイトが閉鎖した後、ユーザーが、他の海賊版サイトに利用を切り替えるスピードが上がったことが一因と考えられます。そのため、海賊版サイトによる被害を根本的に解決するには、ユーザーの協力も不可欠といえそうです。なお、ABJによれば、海賊版サイトによってタダ読みされた金額は、2020年の間に約2100億円相当、2021年の間に1兆19億円相当と推計されています。

その後、2022年4月には、海賊版対策会議と政府連携を通じて他の2つ巨大サイトが閉鎖したことで、約1億8000万アクセスまで減少しました。それでも1アクセスにつき複数の漫画が読まれていることを思えば、その被害額が決して小さい数字ではないことは明らかでしょう。その上、以降も後述するようなドメインホッピングを駆使した後継サイト乱立している状況です。

*2022年6月15日、中国の重慶市文化市場総合執法総隊は、「漫画 BANK」と複数の後継サイトの運営者である重慶市在住の男性 1 名に対し、犯罪収益没収及び罰金の行政処罰を下しました。同処分は7月14日に確定しています(CODAのリリース参照)。このサイトは、中国国内から海賊版を閲覧できないようにされており、中国国内においては被害実態がない状態でした。それでも、CODAは中国当局に対し、日本における甚大な被害状況及びその可罰性や摘発の重要性をまとめて行政処罰申立てを行い、これが受理されました。日本人向けの漫画海賊版サイトの運営者が、海外で処罰されたのは初めてあり、画期的な事例です。

〇海賊版サイトの巧妙化と国際化

被害の拡大を防ぐために早く運営者を摘発すればよいではないか、とも思いますが、そう簡単ではありません。

近時の海賊版サイトは、追及を逃れるために巧妙化しています。
2022年以降、先行する大規模サイトと類似のドメインを取得した後継サイトやデザインを模したサイトが、複数誕生しています。それらはアクセス数が上昇してきたかと思うと、他の海賊版サイトにリダイレクト(あるサイトを閲覧しようとすると、自動的に他のサイトに転送)されるようになります。このような状況から、運営者は、1つのサイトにアクセス数を集中させて広告収益を稼ぐよりも、複数のサイトにアクセス数を分散させて目立たないようにすることで、摘発リスクを下げようとしているようにも思えます。

他方、運営者の情報を得るためには、米国での訴訟提起とサピーナ (米国裁判所において証拠収集の一環として発出される召喚状)を用いるなどの海外の手続きを伴います。仮に、上記サービスを提供する事業者が情報開示請求に応じたとしても、偽名やフリーアドレスで契約を締結している場合には空振りに終わります。また、裁判所を通じて上記事業者に対してコンテンツの削除命令を求めたとしても、運営者がサイトのドメインを変更(ドメインホッピング)すると、請求対象が消滅するため無力と化します*。

*総務省は、ドメイン名や IPアドレスなどの管理・調整を行う組織「ICANN」に対して、海賊版サイト運営者によるドメインホッピングなどの事例を紹介しつつ、それを野放しにしているレジストリ・レジストラへの「ICANN」との契約遵守を徹底するための方策や、ICANN 内の他組織と連携した対応策の検討などを提案しています。

更に、近時の海賊版サイトは国際化しています。
海外に拠点を置き、海外の読者向けに日本の作品を翻訳して閲覧させている海賊版サイトが増えているのです。その数は、ABJが把握しているものだけでも800サイト以上あり、海賊版サイトの8割を占めているといわれています。こうしたサイトでは、日本など、特定の地域からのアクセスを遮断する「ジオ・ブロッキング」という手法がとられています。
このタイプ(海外発→外国人向け)の海賊版サイトに対しては日本の法律を適用することが一般には困難で*、現地の法律如何によって摘発の可否が左右されることになります。

*日本の刑法は、「日本国内において罪を犯した者」に適用されます(1条)。この文言は犯罪行為又は結果が国内で生じていることと解されています。そのため、海賊版サイトの運営及び閲覧が国外に限定されている場合、この文言には該当しないとも考えられます。

〇求められる4つの連携

海賊版サイトの運営者は、今後も摘発を逃れる手法を考案し、サイト及びそのアクセスの増殖を試みることが予想されます。では、どう対処すべきでしょうか。
着眼点として、4つの連携を取り上げます。

1つ目は民民の連携です。この点は既述の通り、出版社や通信・IT事業者による共同の取組みを更に充実させていくことが重要になると思います。それに加えて、今後は技術者と法律家の連携も必要と考えます。海賊版サイトの運営者を特定するには、海賊版サイトを分析する必要があり、その際に技術的な知見が求められるからです。
そうした事情もあり、2022年7月、前記「海賊版対策実務者意見交換会」内に「マンガ海賊版対策の技術検証チーム」が組成されました。同チームは、エンジニアなどによって構成されており、活動内容等については同月に開催されたJANOG50で発表が参考になります。

2つ目は官民の連携です。政府による個別の権利行使のための支援や、既存の法制度で対応できない課題を法改正に反映させることなど、連携の仕方はいくつか考えられます。
海賊版対策においていえば、政府が脱法的な民間事業者を適正に指導し、時に取締まる ことも時には必要と考えます。例えば、海賊版対策そのものではありませんが、2022年7月、法務省は、日本で事業を行う海外IT企業のうち、登記の申請要請に応じなかった7社について会社法違反により過料を科するよう裁判所に行ったと発表しました。外国会社の国内登記が進めば、海外事業者を相手とする裁判が必要になったとしても、送達手続がよりスムーズになることが期待されています。

3つ目は官官の連携です。当面は前記総合対策メニューを順次進めていくことになりそうですが、昨年のように変更が必要になることもあると思います。それ故、定期的に実施している対策メニューの効果検証を続け、適宜、見直しを図っていくことが重要と考えます。

4つ目は海外当局・国際機関との連携です。この連携は海外在住のサイト運営者を摘発するには必須となります。そして、連携の方法は迅速に実施できるものであるべきです。現在の海賊版サイトは変遷速度が著しく速いため、対象サイトに関する有力な情報を得たとしても、その時には既に運営者が動向を察知して逃亡していることが大いに予想されるからです。今後は、日本政府のみならず、民間事業者が直接海外当局・国際機関と情報交換し得るスキームを構築することも必要と考えます。

〇文化存続のために

上記の通り、2018年以降に実施されている海賊版対策は多岐に渡ります。また、4つの連携に見られるように、多くのステークホルダーが関わります。全員が足並みを揃えるのは容易ではないかもしれません。

それでも、皆に共通している原動力は、日本の作品が生みだす素晴らしい文化への思いではないでしょうか。
漫画に関していえば、そこからアニメやゲーム、イベントなど様々な派生作品が生み出されています。関わる作家、アニメーター、演者などには活躍の場を提供し、享受する人々には喜びと感動を与えています。
なお、今月、漫画「ONE PIECE」のコミックス全世界累計発行部数がギネス記録を更新したことが報道されました。海外では60の国と地域で流通し、その累計発行部数は1億部以上です。日本の作品は、世界の文化形成にも寄与しているといえるでしょう。

他方、海賊版サイトはどうでしょうか。上記作家などへ還元される対価を奪っています。その被害は、社会全体における創作活動のインセンティブを失わせ、果ては私たちが多様な作品に触れることができなくなる事態を招くことにもなりかねません。

まさに文化クライシスです。

文化存続のため、皆様とともに、海賊版対策を更に進めていければと存じます。
この続きは、また折を見てご報告させていただこうと思います。

以上

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