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コラム column

2021年2月25日

著作権名誉・プライバシーIT・インターネット

「発信者情報開示制度は、どう変わるのか ~コンテンツプロバイダの視点を加味して~」

弁護士  北澤尚登 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

 2020年12月、総務省HPにて「発信者情報開示の在り方に関する研究会 最終とりまとめ」が公表されました。

 ネット上での誹謗中傷の書き込みによる被害が深刻化している実態もふまえて、被害の回復や予防のために、被害者が加害者(書き込みをした者など)を突き止めるための「発信者情報開示」制度の実効化が課題となっています。今回公表された「最終とりまとめ」は、その課題解決の方向性を示すものとして注目されます。
 「発信者情報開示」は、プロバイダ責任制限法(正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」)に定められています。権利侵害の被害者(開示請求者)が、権利侵害情報の発信者を特定できる情報(発信者情報)を開示するよう、プロバイダ(ISP等のアクセスプロバイダだけでなく、ネット掲示板の運営者等のコンテンツプロバイダも含まれます)に対して、一定の要件を充たせば請求することができる、というものです。
 開示請求が認められるための要件は、主に「権利が侵害されたことの明白性」および「開示を受ける正当な理由(損害賠償請求等のために必要であることなど)」からなります。
 開示請求の対象となる情報(発信者情報)には、発信者の氏名・住所・メールアドレス・電話番号のほか、(投稿時の)IPアドレス・タイムスタンプ等も含まれます。なお、電話番号は2020年8月の省令改正によって開示対象に追加されました。

 発信者情報開示請求の根拠となる権利侵害は、誹謗中傷(名誉棄損)だけでなく、著作権侵害等も含まれます。よって、画像・動画・音楽等のコンテンツの無断配信によって著作権を侵害された権利者が、プロバイダに対して発信者情報開示請求をすることも可能です。
 開示請求の相手方となるコンテンツプロバイダには、コンテンツの配信事業者も含まれ得ますので、配信事業者は「著作権侵害を理由とする発信者情報開示請求」を受けた場合に備えた対応が求められます。
 しかし、「最終とりまとめ」には、開示請求者および発信者の視点からの検討は充実している一方、プロバイダの視点からの踏み込んだ検討はあまりないようにみえます。そこで本稿では、コンテンツプロバイダの視点を意識しつつ「最終とりまとめ」の要点を分析します。

◆「最終とりまとめ」は、何のために、何を変えようとしているのか

 「最終とりまとめ」によれば、「開示請求者が発信者を特定することの難しさ」を是正するため、発信者情報開示制度における「開示対象の拡大」および「開示手続の改正(新たな裁判手続の創設、特定の通信ログの早期保全)」が検討されたことが読み取れます。

 これらのうち、開示対象の拡大については、「ログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ」(ログイン時情報)を開示対象に含めるべきか否かが検討されていたようです。その結果、「最終とりまとめ」では「発信者情報の開示対象としての「ログイン時情報」については、開示対象となるログイン時情報等の発信者情報の範囲や、請求の相手方(中略)の範囲について見直しを行う観点から、法改正及び省令改正を行うことが適当である」とされました。これにより、ログイン時情報を開示対象に含めるための法改正に向けて、今後の動向が注目されます。

◆開示請求をめぐる裁判手続は、どう変わることが予想されるのか

 開示手続の改正について、「最終とりまとめ」では「現行法上の開示請求権を存置し、これに「加えて」非訟手続を新たに設けることを前提として、非訟手続の具体的な制度設計を検討することが適当である」と述べられています。
 具体的には、裁判所が以下の3種類の命令を発することができる非訟手続(訴訟よりも柔軟・迅速な審理が可能となり得る手続)の創設が想定されているようです。なお、これらの命令に対しては、異議申立てにより訴訟に移行することもあり得るとされています。
・開示命令(コンテンツプロバイダ及びアクセスプロバイダが保有する発信者情報を、被害者に開示させる命令)
・提供命令(コンテンツプロバイダが保有する発信者情報を、被害者には秘密にしたまま、アクセスプロバイダに提供させる命令)
・消去禁止命令(アクセスプロバイダに対して、コンテンツプロバイダから提供された発信者情報をふまえ、権利侵害に関係する発信者情報の消去を禁止する命令)
 それにより、以下のようなメリットが見込まれることになります(最終とりまとめ18頁)。開示請求者からみれば、現行制度の訴訟手続よりも簡易・迅速なプロセスで発信者情報の開示を受けられる可能性が高まるといえます。
・提供命令により、アクセスプロバイダを早期に特定し、アクセスプロバイダとコンテンツプロバイダの審理を(開示命令に至るまで)一本化することが可能になる
・提供命令および消去禁止命令により、アクセスプロバイダが保有する発信者情報(住所、氏名等)を早期に確定し、開示決定まで保全することが可能になる
 また、提供命令及び消去禁止命令については、発令要件を「現在の開示要件よりも一定程度緩やかな基準とすることが適当であると考えられる」とされています(最終とりまとめ21頁)。この点も、開示請求者にメリットがあるといえそうです。

◆コンテンツプロバイダからみて、実質的に何が変わり得るのか

 コンテンツプロバイダの視点から、「上記のような方向性で開示手続が改正された場合、開示請求への対応はどう変わるのか」をみると、主に以下の二つのポイントが挙げられます。

・提供命令が出された場合、コンテンツプロバイダは「アクセスプロバイダに、発信者情報を提供する作業」を行わなければなりませんが、その前提となる「アクセスプロバイダを特定する作業」も、基本的にはコンテンツプロバイダが行う想定とされています(最終とりまとめ20頁)。
 しかし、アクセスプロバイダが多層構造になっていたり、複数のアクセスプロバイダが存在するなどの理由で、コンテンツプロバイダにとってアクセスプロバイダを確実に特定することが困難な場合もあり得ます。
 この点も考慮して、「最終とりまとめ」では「コンテンツプロバイダ・アクセスプロバイダ・有識者・専門性や実務的知見を有する者が協力して発信者の特定手法について支援協力を行える体制やノウハウ共有」を行う場の立ち上げについて、総務省が「事業者団体及び民間事業者等と連携して取り組むことが適当である」と述べられています。これをうけて、特に「コンテンツプロバイダが、アクセスプロバイダを特定する作業」の困難さがどう克服されていくのか、今後の具体的な取り組みが注目されます。

・コンテンツプロバイダが裁判外で発信者情報開示請求を受けた場合、対応の仕方は変わるのでしょうか。

 「最終とりまとめ」によれば、プロバイダ責任制限法に定められている発信者情報開示の要件は、特に変わらない想定のようです。したがって、開示要件(特に「権利が侵害されたことの明白性」)が充たされているか否かの検討や、発信者への意見照会といったプロセスは、これまで同様に必要となるでしょう。具体的なプロセスについては、「プロバイダ責任制限法 発信者情報開示関係ガイドライン」等が参考になります。
 裁判所の非訟手続が導入された場合、コンテンツプロバイダの裁判対応の負担がどう変わるかは、現段階では未知数と言わざるを得ません。審理が簡素化されたとしても、防御のために必要な活動が軽減されるとは限りませんし、迅速化を求められれば至急対応の負担増もあり得るからです。
 ただし、開示請求者が非訟手続という形で裁判に持ち込みやすくなることは、コンテンツプロバイダにとって悪いことばかりではない、とも考えられます。具体的には:

- 裁判所からの命令に基づいて開示を行えば、発信者から開示による法的責任(プライバシー侵害等)を問われるリスクは軽減され、逆に裁判所が開示を認めない判断をした場合には、開示請求者から開示拒絶による法的責任を問われるリスクが軽減され得るといえます。

-「コンテンツプロバイダが裁判外での開示を拒否し、被害者が裁判に持ち込まざるを得なかったせいで、被害者の損害が拡大した」という理由で損害賠償責任が重くなるリスクも、軽減される可能性があります。非訟手続が導入されれば、開示請求者からみた裁判手続の負担は軽減されるであろうからです。その結果、コンテンツプロバイダとしては、開示要件を充たさない(あるいは、充たすと認めるに足りる証拠がない)と考える場合に、開示を拒むことへの心理的抵抗は緩和されるかもしれません。

以上

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