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コラム column

2020年9月29日

著作権改正IT・インターネット

「令和2年著作権法改正を俯瞰する-施行を目前に控えて」

弁護士  橋本阿友子 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

はじめに

 令和2年6月、「著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、公布されました。
今回は、その一部につき10月1日から施行される改正法の全体像を説明したいと思います。なお、施行日は、改正点ごとに異なりますので、ご留意ください。

【改正事項】※下線部は施行日

1. インターネット上の海賊版対策の強化
(1) リーチサイト規制:令和2年10月1日
(2) ダウンロード違法化:令和3年1月1日
2. 著作物の円滑な利用を図るための措置:令和2年10月1日
(1) 写り込みに係る権利制限規定の対象範囲の拡大
(2) 行政手続に係る権利制限規定の整備
(3) 著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の導入
3. 著作権の適切な保護を図るための措置:令和3年1月1日
(1) 著作権侵害訴訟における証拠収集手続の強化
(2) アクセスコントロールに関する保護の強化
4. プログラムの著作物に係る登録制度の整備
(1) 指定登録機関への登録証明の請求の制度:令和2年6月12日から1年を超えない範囲で政令で定める日
(2) 国及び独立行政法人に係る登録手数料の免除規定の廃止:令和3年1月1日

1.インターネット上の海賊版対策の強化

 インターネット上でコンテンツが違法にアップロードされている海賊版サイトの存在が、大きな社会問題となったことは、記憶に新しいと思います。
海賊版サイトには、侵害コンテンツがアップロードされたサイトのリンク先をまとめた「リーチサイト」や「リーチアプリ」、サイトにアクセスするとストリーミングで作品が読めるサービスを提供する「オンラインリーディングサイト」、YouTubeなどにコンテンツを投稿する「動画投稿サイト」など様々な種類があり、権利者に巨額の被害をもたらしました。
 2016年には日本最大級のリーチサイト「はるか夢の址」が登場し、公開から摘発までの1年間で、約731憶円の被害が生じたと言われています。オンラインリーディングサイトの中でも圧倒的な閲覧者数を誇った「漫画村」は、その存在によって、約3,000億円の出版物がタダ読みされ、漫画家・出版社の収入・売上は20%減となったとも試算されています。このように、海賊版サイトの存在は、クリエイター・コンテンツ産業に多大な被害をもたらしました。
「はるか夢の址」や「漫画村」は今では閉鎖されていますが、依然として多数の海賊版サイトが存在し、相当数のアクセスが確認されています。漫画や雑誌のほか、写真集・文芸書・専門書、ビジネスソフト、ゲーム、学術論文、新聞など、様々な種類の著作物において被害が発生し、事態は看過できない状況となり、喫緊の対応が求められました。令和2年著作権法改正は、こうした海賊版サイトへの対策を講じるべく、規制を強化したものです。

(1)リーチサイト対策令和2年10月1日施行

 権利者の許諾なく著作物をスキャンし又はアップロードする行為は、改正前から違法です(複製権又は公衆送信権侵害)。今回の改正は、それらの行為に加え、リーチサイト等を運営等する行為を刑事罰の対象とし、さらにリーチサイト等において侵害コンテンツへのリンクを掲載する行為等を著作権等を侵害する行為とみなして、民事上・刑事上の責任を問えるようにしたものです。
 規制の対象となるウェブサイトやアプリは、「公衆を侵害著作物等に殊更に誘導する」ウェブサイトやアプリ、「主として公衆による侵害著作物等の利用のために用いられる」ウェブサイトやアプリと定義され、限定されています。他方、自ら直接的にサイト運営やアプリ提供を行っていない「プラットフォーム・サービス提供者」には、基本的に改正後の規制が及ばないことが、今回の改正において条文上明記されました。
 もっとも、このようにインターネットの利用行為を規制することによって、国民の日常的なインターネット利用が萎縮するとの懸念が拡大することが懸念されました。このような事情から、特に委縮効果の強い刑事罰の運用については、インターネットを利用して行う行為が不当に制限されることのないよう配慮しなければならないことが、附則で明記されています(附則4条)。

【対象】
 ・公衆を侵害著作物等に殊更に誘導するウェブサイトやアプリ
 ・主として公衆による侵害著作物等の利用のために用いられるウェブサイトやアプリ

【改正のポイント】

リンク提供者 ・差止請求・損害賠償請求の対象となる(113条2項)(※リンク先が侵害コンテンツであることにつき故意・過失がある場合に限る)
・刑事罰(3年以下の懲役・300万円以下の罰金(併科も可)
・親告罪
サイト運営者
アプリ提供者
・刑事罰(5年以下の懲役・500万円以下の罰金(併科も可)
・親告罪
(※侵害コンテンツへのリンク提供等を認識しつつ放置する等の場合、個々のリンク提供等につき差止請求の対象となる)

※「親告罪」とは、被害者による告訴がなければ起訴することができない罪をいいます。

(2)ダウンロード違法化令和3年1月1日施行
 著作権法は、私的に使用する目的で複製する行為を適法としていますが(30条1項)、改正前より、音楽・映像については違法にアップロードされた著作物のダウンロードが規制されていました(私的使用目的であっても違法とされ、刑事罰の対象となっていました(119条3項))。改正法は、海賊版対策の強化の趣旨で、ダウンロードの規制対象を音楽・映像から著作物全般(漫画・書籍・論文・コンピュータプログラムなど)に拡大するものです(30条1項4号、同2項、119条第3項2号・同5項)。
 規制拡大にあたり、海賊版対策としての実効性確保と国民の正当な情報収集等の萎縮防止のバランスを図る観点から、法は規規制の対象を違法にアップロードされたことを知りながらダウンロードする場合に限定すると共に、①軽微なもの、②二次創作・パロディ、③著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合のダウンロードを規制対象から除外しました(30条の2)。また、民事上の責任としてダウンロードが違法とされるのは、違法にアップロードされたことを知りながらダウンロードする場合に限られます。「知らなかった」ことにつきユーザーに重大な過失があったとしても、違法とはならないことが明記されました(30条2項)。
 このほかにも、改正法は、国民のインターネット上の行動を委縮させないように、以下のような措置を講じています。

【行動の自由に対する配慮規定等】

●普及啓発・教育をはじめとした運用上の配慮規定
・国民への普及啓発・教育の充実(附則2条)
・関係事業者による適法サイトへのマーク付与の推進(附則3条)※「ABJマーク
・リーチサイト規制と同様の刑事罰の運用に当たっての配慮等(附則5条)
・施行後1年を目途としたフォローアップ(附則6条)
・違法アップロード対策の充実(国際連携・国際執行・民間との協働など。附則7条)
●スクリーンショットを行う際に、違法にアップロードされた画像が写り込むことなどを除外 (法第30条の2)
●除外規定(①軽微、②二次創作・パロディ、③特別な事情)

 刑事罰については、特に悪質な行為に限定する観点から、①正規版が有償で提供されている著作物に対象を限定し、②反復・継続してダウンロードを行うことを要件としています。民事責任(差止・損害賠償)よりも要件が厳しく定められています。

【改正のポイント】

差止・損害賠償請求 刑事罰

【対象】
違法にアップロードされた著作物全般(音楽、映像を含む著作物すべて。右に同じ)

【対象】
違法にアップロードされた著作物全般で、正規版が有償で提供されているもの

【対象外】
①「軽微なもの」
例:数十ページで構成される漫画の数コマ、長文の論文の数行など
②二次創作・パロディ
③「著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合」
※判断基準:(ア)著作物の種類・経済的価値などを踏まえた保護の必要性の程度

    (イ)ダウンロードの目的・必要性などを含めた態様

違法にアップロードされたことを知りながらダウンロードする場合

継続的に又は反復して行う場合

・2年以下の懲役
・200万円以下の罰金(併科も可)
・親告罪

2.著作物の円滑な利用を図るための措置令和2年10月1日施行

(1)写り込みに係る権利制限規定の対象範囲の拡大(30条の2)
 現行法では、複製権侵害行為となり得る「写真撮影」・「録音」・「録画」を行う際の写り込みに限り、権利制限規定において違法とはならないものとされています。この現行法は当時において立法の必要性が特に高かったものに限定した改正によるもので、権利制限の対象が限定されていました。改正法は、スマートフォンやタブレット端末等の急速な普及や、動画投稿・配信プラットフォームの発達などにみられる社会情勢の変化に対応するため、スクリーンショットやインターネットによる生配信などを行う際の写り込みも幅広く認めることとしました。
 これにより、侵害コンテンツのダウンロード違法化による萎縮を防止しつつも、動画投稿・配信プラットフォームを活用した生配信や、ドローンで撮影した映像をリアルタイムで遠隔地に配信するサービス・ゲーム制作に当たっての風景のCG化等のビジネスの要請にも、対応することが可能になると考えられています。

【改正のポイント】

対象行為 複製・複製以外の伝達行為全般(スクショ・CG化等)
行為による限定 無制限
※改正前は、著作物の創作に限られていたが、改正後は、固定カメラでの撮影やスクショなどの創作性のない行為に伴う写り込みも含む
分離困難性 メインの被写体に付随する著作物であれば分離困難でないものも対象に
ただし、正当な範囲に限る
※改正前は、分離困難性要件あり

(2)行政手続に係る権利制限規定の整備(42条2項)

 特許審査手続等においては、迅速・的確な審査等に資するよう、権利者に許諾なく必要な文献等の複製等ができることとなっています。改正法では、これに加え、(ⅰ)地理的表示法(GI法)に基づく地理的表示の登録、

(ⅱ)種苗法に基づく植物の品種登録についても同様に、権利者の許諾なき文献の複製等ができるように整理しました。
(3)著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の導入(63条の2)

 現行法の下では、著作権者から許諾を受けて著作物を利用しているライセンシーは、著作権が譲渡されてしまうと、著作権の譲受人などに対して著作物を利用する権利(利用権)を対抗できず、利用を継続できないおそれがありました。改正法は、著作権者から著作物の利用を許諾された権利を「利用権」と定義し、利用権を有する者は、「著作権を取得した者その他の第三者」(譲受人・相続人・破産管財人・差押債権者など)に対して、利用権を対抗すること(利用の継続を求めること)を可能としました。特許法の通常実施権と同様、対抗にあたり、登録等の要件の具備は不要です。

3.著作権の適切な保護を図るための措置令和3年1月1日施行

(1)著作権侵害訴訟における証拠収集手続の強化(114条の3)
 著作権侵害訴訟における書類提出命令をより実効的なものとする観点から、平成30年特許法等の改正と同様の証拠収集手続の強化を行うものです。 
(i) 裁判所が予め実際の書類を閲覧した上で提出命令の要否を判断できるようにすること、(ⅱ)専門性の高い書類等については専門委員(大学教授など)のサポートを受けられるようにすることが規定されました。
(2)アクセスコントロールに関する保護の強化(2条第1項第20号・21号、113条7項、120条の2第4号等)
 コンテンツの不正利用防止関して、シリアルコードを利用したライセンス認証など最新の技術に対応できるよう、平成30年不正競争防止法の改正と同様のアクセスコントロール保護を規定するものです。
 アクセスコントロールに関して(i)ライセンス認証など最新の技術が保護対象に含まれることを明確にし、(ii)ライセンス認証などを回避するための不正なシリアルコードの提供等を著作権侵害行為とみなし、差止請求及び損害賠償請求の対象とし、故意犯を刑事罰の対象と定めました。

4.プログラムの著作物に係る登録制度の整備

1)指定登録機関(一般財団法人ソフトウェア情報センター)への登録証明の請求の制度化令和2年6月12日(公布日)から1年を超えない範囲で政令で定める日から施行
 著作権者等が自ら保有するプログラムの著作物(訴訟等で係争中のもの)と事前に登録をしたプログラムの著作物が同一であることの証明を請求できる制度を導入しました。これにより、登録による事実関係(例:創作年月日)の推定が及び、訴訟等での立証が容易になることが期待されます。

(2)国及び独立行政法人に係る登録手数料の免除規定の廃止令和3年1月1日施行
プログラムの著作物に係る登録制度に関して、国及び独立行政法人が登録を行う場合の手数料免除規定を廃止しました。

おわりに
 今回の改正の目玉は、やはり海賊版サイトの規制強化だと思います。実際の条文は少し読みにくいのですが、リーチサイト運営者・アプリ提供者の責任が規定され、これまで音楽や映像に限られていたダウンロード違法化が、著作物全般に拡大したというのがポイントです。リーチサイト規制・ダウンロード違法化いずれについても、“海賊版対策としての実効性確保”と“国民の正当な情報収集等の萎縮防止”のバランスがはかられた内容となっている点にも注目です。リーチサイト規制等はもうすぐ施行されますので、施行前に改正のポイントをご参照いただければ幸いです。
 

以上

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