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コラム column

2021年10月29日

著作権商標音楽ゲーム

「ゲーム効果音の保護の可能性について考える
         -すぎやまこういち先生を偲びながら」

弁護士  橋本阿友子 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

 ようやく秋らしくなった10月初頭、尊敬してやまないすぎやまこういち先生の訃報を知りました。多くの偉業を遺された先生ですが、東京オリンピック2020の開会式でも利用された序曲をはじめ「ドラゴンクエスト」におさめられた名曲の数々に、何度も感動をもらい、勇気づけられてきました。

 音楽とゲームを愛する者として、私は、ゲーム(以下ビデオゲームやその類似のゲームを指すこととします)において音楽が非常に重要な役割を果たしていると考えています。“この曲といえばあのゲーム”とわかるアイコン的音楽もあるでしょうし、フィールド・街・戦闘や、登場人物(キャラクター)ごとのテーマなど、さながらオペラのように場面や人物ごとに分けて作曲されることもあります。例えば、「ドラゴンクエストIV-導びかれし者たち」ではストーリーが1章~5章にわかれていますが、フィールドの音楽も各章で異なり、章特有の世界観が見事に表現されています。
 これらはれっきとした音楽の著作物であり、JASRACに信託され管理されているものもあれば、音楽出版社や個人が権利を持っているものまで、様々だと思います。作曲家の名前がクレジットされているものもあれば、ゲーム会社がクレジットされているものもあります(後者のケースは、作曲者が社員の場合で、職務著作が成立しているもが多いでしょう)。

 しかし、ゲームの中で重要な音は、これらの音楽だけではありません。実は、“効果音”も、ゲームの進行において、非常に重要な役割を担っています。
 “効果音”はゲーム音楽の作曲者とは別の、サウンドクリエイターと呼ばれる職業の方によって制作されることがほとんどだと思います。例えば、アクションやパズルゲームであれば、攻撃音、消滅音、ステージクリア音、ゲームオーバー音、アイテムゲット音。RPGであればモンスターとのエンカウント音、攻撃音(通常攻撃・攻撃ミス・会心の一撃・物理攻撃or魔法攻撃の別など)、宿屋で寝る音、階段をのぼるorくだる音、レベルアップ音、セーブポイント音。このようにゲームでは様々な音が使用されており、そしてゲーム内で効果的に使用されています。フィールドの音楽から戦闘の音楽に変わる際、エンカウント音をはさむことによって別の音楽への入り方が自然に聞こえます。戦闘音楽が流れるなか、魔法を繰り出すとき絶妙な効果音が鳴ると、士気があがります。音楽と効果音いずれもが、ゲームの世界観を作るのになくてはならない存在のように思えます。
 YouTubeでは、既存の“効果音”を利用した動画がアップされています。効果音まとめのような動画すらあります。放送番組でもゲームの“効果音”が使われることがあるようです。“効果音”が、ゲーム自体、またゲーム音楽からも離れて、独立した地位を獲得している証左ですね。
 このように、“効果音”を他人が利用する場合、誰かの許諾が必要なのでしょうか。
 他人の「著作物」を利用する場合、著作権法上無許諾で許される利用(例えば著作権法32条の「引用」が成立する場合)でなければ、原則として権利者の許諾が必要となります。音楽の著作物については、YouTubeや放送局など音楽を頻繁に使うことが予定されている企業はJASRACと包括契約を結び、使用料を支払って利用しているケースが多いと思います。
 しかし、効果音は、一般的にJASRACによって管理がなされていないようです。JASRACの管理対象は音楽の著作物です。そもそも、“効果音”などの短い音のフレーズは、著作権法上保護される「著作物」なのでしょうか。

-短いフレーズも著作物なのか

 著作権法上、著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものをいう」と定義されています。著作物にあたるかを考えるには、創作的、つまりオリジナリティが表現されていなければならないというのがポイントで、作者のオリジナリティが表現されていると評価できるには、必然的に一定の長さが求められていると考えられます。
 例えば、ニュース記事の見出しの著作物性が問題となった事例では、「一般に、ニュース報道における記事見出しは、報道対象となる出来事等の内容を簡潔な表現で正確に読者に伝えるという性質から導かれる制約があるほか、使用し得る字数にもおのずと限界があることなどにも起因して、表現の選択の幅は広いとはいい難く、創作性を発揮する余地が比較的少ないことは否定し難いところであり、著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないものと考えられる。」と判示されています(知財高判平成17年10月6日 〔ライントピックス事件:控訴審〕)。記事見出しはそもそも短いもので、裁判所も「使用し得る字数にもおのずと限界がある」ことを著作物性否定の一要素としています。
 また、新聞およびウェブサイト広告におけるキャッチフレーズの著作物性が問題になった事件では、「文章表現による作品において、ごく短かく、又は表現に制約があって、他の表現が想定できない場合や、表現が平凡でありふれたものである場合には、作成者の個性が現れていないものとして、創作的に表現したものということはできない。」とし、17字からなる言語のまとまりについて、創作性が否定されています(知財高判平成27年11月10日〔スピードラーニング事件:控訴審〕)。
 これらの裁判例は、短い言語作品について、創作性が否定され得ることを示したものと考えられます。表現の選択の幅が狭く、誰がやっても同じような表現になりやすい、あまりに短い言語のまとまりに著作物性を認めて保護してしまうことで、同じ表現を他人が使えなくなることを避けるといった側面も考慮されているのかもしれません。
 ただ、上の裁判例はいずれも、短い表現であれば直ちに著作物性が否定されるとするものではなく、あくまで創作性が認められるか否かを判断しています。たとえ短くても、表現の幅があり、ありふれたものでないのであれば、創作性が認められる余地は残されるでしょう。実際に、俳句は17文字前後ですが、一般的に著作物だと考えられています(https://www.cric.or.jp/qa/hajime/hajime1.html参照)。 

 ちなみに、JASRACは、「ごく短いフレーズだけの利用、という理由で著作権の手続きが要らなくなる、ということはありません」と記載すると共に、「その作品と特定することが困難なほどにごく短いフレーズについては、ごくありふれた一般的な表現として、著作物性(同法第2条1項1号)を有さず、著作物利用には当たらないケースもあります。」とも明記しています。このように、JASRACも、短すぎるとごくありふれた一般的な表現(つまり創作性がない)なので著作物性が認められない、という認識を前提としているようです(ただし、作品の特定性と創作性は別の観点であると思います)。

-音楽教室裁判で問題となった「2小節以内の演奏」

 ところで、そのJASRACが被告となったいわゆる音楽教室裁判では、音楽教室で行われるレッスンにおける教師や生徒の演奏に、演奏権が及ぶか(レッスンで演奏するのに権利者の許諾(使用料の支払)が必要か)が争われています。その中で、音楽教室側は、レッスンではたったの2小節しか演奏されないことがあるが、そのような短い使用には演奏権は及ばないと主張していました。

ちなみに、小節とは、楽譜に入っている縦線と縦線の間の区切りのことです。区切るのにもルールがあって、3拍子の音楽は、3拍をひとまとまりとするので、3拍で1小節となります。

 原審の東京地裁は、結論としては2小節以内の演奏にも演奏権が及び得るとしましたが、その理由付けにおいて、「レッスン中に当該小節の前後の小節も演奏されるのが通常」、「その一部である2小節以内の演奏のみを切り取り、これを独立したものとして、その著作物性を否定することは相当ではない」、「2小節以内の小節を演奏する生徒は、当該部分が課題曲の一部であると充分に認識し、その楽曲全体の本質的な特徴を感得しつつ、その特徴を表現することを企図して演奏をする」などと、やや言い訳めいた説明をしています。この判決には批判のあるところですが、地裁がわざわざ「前後の小節」や「当該部分が課題曲の一部」、「楽曲全体の本質的な特徴を感得」に言及した背景には、著作物といえるためには2小節は短すぎるのではないか?という問題意識があったのではないでしょうか。
  一方で、控訴審の知財高裁では、「一つの楽曲中から取出した2小節分につきいずれも著作物性がないなどということはおよそ考え難い」としつつ、「音楽教室において、著作物性のない部分のみが繰り返しレッスンされることを想定することはできない」、「課題曲の2小節分が様々な形で連続的・重畳的に演奏されたとしても、それが課題曲の演奏であると認識され、かつ、その楽曲全体の本質的な特徴を感得しつつ、その特徴が表現されている」と判断しています。高裁は、地裁と同様に楽曲全体の本質的特徴に言及してはいるものの、「2小節分につき“いずれも” 著作物性がないなどということはおよそ考え難い」、「著作物性のない部分のみが繰り返しレッスンされることを想定することはできない」との部分からは、2小節分につき著作物性がある場合とない場合がある、という理解を前提にしていることが受け取れます。つまり、裁判所は、2小節という短い部分にも著作物性が認められる場合があり得ると判断したとの解釈できそうです(実際に、2小節以内の演奏にも演奏権が及ぶと判断しています)。
 事実、2小節といっても、曲によって、また取り出す部分によって様々です。以下は、同じショパンのバラード4番(全部で239小節)から取り出した2小節です。左の2小節は単なる和音であり、様々な曲で使用されています。ほぼ間違いなく著作物性は認められないでしょう。他方で、右の2小節では実に多くの音符がならんでいます。音が多くつかわれるほど(つまり言語の著作物でいえば長さが長くなるほど)一般的には表現の幅が広がりますので、著作物性があると考えやすくなるでしょう。

- “フレーズ”は著作物か

 つまるところ、“フレーズ”にすぎない音のまとまりが、著作物たりえるのかという問題は、その音のまとまりに創作性があるのか?という問題に集約されると考えるべきではないでしょうか。
 上で紹介したスピードラーニング控訴審判決では、17文字で著作物性が否定されているのですが、これをそのまま音楽にあてはめ、17音=17文字=短い、と考えるのは、適切ではないように思います。一般的に西洋音楽が12音階から成ることを前提とすると、文字よりも使える対象が限定されていますが、他方で言語のように単語のまとまりはなく、一音一音どの音を選ぶかは自由です。また、初期のテレビゲームでは、ゲームの容量の問題から3和音(高さの異なる複数の音が同時にひびくときにできる音)が限界だったようですが、それでも音楽は和音が作れる分、言語に比べて選択の幅が広いともいえるのではないでしょうか。
 ただ、やはり(単音にして)2、3音に過ぎないものは、音の選択の幅もリズムの選択の幅も狭く、著作物とは言い難いと思います。2、3音程度のフレーズが著作権で保護されてしまうと、同じフレーズを使用した全く別の楽曲が著作権侵害となってしまうリスクが生じてしまい、作曲行為を委縮させることにもなりかねません。
 他方、10音以上のまとまったものになってくると、さらにそれが和音になっていたりすると、著作物だといえる可能性があがってくると思います。裁判所が2小節についても著作物性を認める余地があると言っていることからも、ごく短いものでなければ、“効果音”のようなフレーズについても、音の組み合わせやリズムに創作性があり、著作物性が認められる余地はあるのではないか、と考えています。
 ただ、著作物性が認められる“フレーズ”が“音楽の著作物”と同義なのかについては、別途検討の余地があるかもしれません。

-“効果音”は法的に保護されないのか?

 著作物たりえない“フレーズ”は、基本的に誰でも自由に使えるということになります。しかし、サウンドクリエイターが“効果音”を作り出すのに、相当の知的作業と物理的作業を行うことは想像に難くありません。では保護の方策はないものでしょうか。
 まず考えられるのは、2015年から認められるようになった音の商標です。特許庁のデータベースを確認すると、たった3音からなるものや、1秒ほどのごくごく短いものでも、登録が認められた例があります。ただ、商標制度は、出所を表示することで業務上の信用を守るもので、自己の業務に係る商品・役務について使用しないことが明らかであるときは、原則として登録が認められません。そのため、ゲームの“効果音”が登録できたとしても、ゲームに関する範囲(ゲーム機やゲームソフト等)で、かつ商標としての保護のみ認められるに過ぎないでしょう。任天堂のゲームの中で、マリオがコインを取得する「チャリーン」という音(2音)について、登録申請後に申請が取り下げられているという事実も気になります。
 また、音源自体には音を固定した者の権利=レコード製作者の権利が発生しているので、この音源をそのまま利用することには、レコード製作者が権利主張できる場合があります。ただ、同じ“フレーズ”を他人が自分で演奏したといった場合にはレコード製作者の権利が働きませんので、やはり著作権に比べ権利が狭いといえます。もっとも、“サウンド”自体に意味のある“効果音”において“譜面”を保護することは、音楽の著作物ほどの意味を持ちません。その意味で、音自体を保護するレコード製作者の権利でも充分まもられていると考えられるかもしれません。  

 

-実務ではどう扱われているか

 著作権法も含め保護の可能性を探ってきましたが、実は実務では、“効果音”には著作権はないと認識されているようです。アニメ業界において、“効果音”が音響制作会社によって使いまわされていたという歴史がゲームに引き継がれている背景もあるそうで、事実、既述のとおりJASRAC登録がなされているケースもほぼ見当たりません。
 ゲーム会社にとっては、当然ながらゲームそのものの販売がメインストリームであるという性質上、ゲーム音楽ですら管理自体を行っていない場合もあります。ゲーム音楽はJASRAC登録されていないものが多いと言われているのも事実で、“効果音”であれば猶更でしょう。実際にも、他人が“効果音”を使用しても、よっぽどその“効果音”を保護すべき動機があったり、よっぽど悪質な使われ方をなされたという場合を除き、何らかの対応を行うことも少ないようで、紛争例も把握できておりません。使われ方がネガティブでなければ黙認し、むしろ使われることで宣伝効果を期待するオープン戦略が採用される側面もあるでしょう。
 また、“効果音”はあくまでゲームを構成する素材であり、発注先の音響制作会社からゲーム会社がレコード製作者の権利を明示で買い取っていないケースも珍しくないようです。最近では、ある会社に納品した“効果音”と同一のものを別会社に納品するということは(良識として)あまり行われないようですが、レコード製作者の権利が音響制作会社に留保されていれば、充分あり得る話です。
 2000年初頭ごろからは効果音ライブラリーサイトが現れ、ゲーム会社がサイトから“効果音”をライセンス購入するあるいは音自体を買い取るケースも出てきています。このようなサイトは規約で、“効果音”そのものの転売やそのままでの使用を禁じており、使用の際には他の音と混ぜて使われることも多い由です。もともとデジタルに親和的な“効果音”ですが、更なるデジタル化の潮流の中で、作り方・使われ方も変化しているのかもしれません。

-終わりに

 以上の議論はもちろんゲームに限らず、様々な場面で使われる“効果音”や効果音以外の短いフレーズについても同様に考えられるでしょう。もしかするとゲーム特有かと思われる点として、ドラクエやFFといったシリーズものでは、全シリーズを通して一貫して同じ“効果音”が使われている場合があり(アレンジされているものはあります)、“効果音”がそれを聴けばどのゲームのどの場面かが特定できる程度に識別力を持っていることは、興味深いところです。みなさんも、身の回りにどんな“効果音”があるか、一度注意をはらって聞いてみてください。
 末尾になりましたが、ゲーム音楽の礎を築いてくださったすぎやまこういち先生には、生前の多大なご功績に感謝いたすと共に、ご冥福を心よりお祈り申し上げます。

以上

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