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コラム column

2020年2月28日

IT・インターネットAI・ロボット

「2020年、改めてロボット・AI社会の知的財産制度を考える」

弁護士  出井甫 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

(本コラムは、「法の支配」第197号(2020年4月号)に掲載予定の福井弁護士及び自身による共著論考のエッセンスをお伝えするものです。)

はじめに

2020年、第5世代移動通信システム(5G)が本格的に始動する。5Gは従来の情報通信速度を高速化するもので、Society5.0の基盤となる重要な技術といわれている。
Society5.0とは、2018年に内閣府が提唱した我が国の目指すべき社会像である*1。Society5.0では、膨大なデータ(ビッグデータ)をAIが解析し、その結果を、ロボットなどを通して人間にフィードバックすることで、新たな価値が創造され、社会にもたらされることが予定されている。いわば、ロボット・AI*2による価値創造社会だ。
5Gが導入されたSociety5.0とはどんな社会か。総務省は、以下のようなイメージ動画を公開している。

*1:Society 5.0 - 科学技術政策 - 内閣府 https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html
*2:本稿では「ロボット」を、「感知し、考え、行動するという3要素を有する機械」、「AI」を、「学習、推論、判断等の人間の知的機能を人工的に実現するための技術」として用いる。

自動運転タクシー。高画質多視点映像でサッカーを観戦する少年。果樹園に水を散布する農業ドローン。遠隔医療。無人店舗での自動決済など、便利そうだ。

この社会の実現に重要な役割を果たしているロボット・AIの開発・利用は、一般に①学習の元になるデータ(元データ)の収集、②元データから学習用データへの加工、③AI学習プログラムへの学習用データの入力、④学習済みプログラムの実装、⑤新たな情報の生成というプロセスを辿る(下図)。


AIの開発・利用プロセス

では、前記プロセスにおいて、我が国の知的財産法制度は、Society5.0の実現に向けて十分に対応しているだろうか。以下、ロボット・AI開発・利用に関わる知的財産法の適用状況を概観する。なお、⑤のうち、AI生成物に関しては、福井弁護士によるコラムや自著パテント記事等、ロボットの実演に関しては、前記の論考等もご覧いただきたい。

ロボット・AIの開発・利用に関わるデータ等の法的保護の現状

まず、ロボット・AIの開発の材料となる学習用データ、AIプログラム等に、知的財産法上の保護は及ぶか、仮に保護が及ぶとしてどのように保護され得るか。

1. 元データ
一般に、絵画や音楽など、元データに創作的な表現が含まれる場合、当該データは、著作権によって保護される(著作権法2条1項1号)。一方、例えば、センサーによって取得された気象データ機械稼働データなど、客観的な事実から成るデータは、創作的な表現ではないため、著作権による保護は及ばない。なお、著作権以外でも、人の肖像が含まれる場合は肖像権、氏名・住所などの個人情報が含まれる場合は、個人情報保護法によって保護され得る。

2. ビッグデータ
ビッグデータは、その情報の選択や体系的な構成に創作性が認められる場合、その総体がデータベースの著作物(同法12条の2)として保護され得る。一方、例えば、ビッグデータが、自動的・機械的に蓄積される場合は、「人」の思想又は感情の「創作的」な表現に該当しないことから著作物として保護されない可能性がある。

3. 学習済みモデル
学習済みモデルは、AIのプログラムに学習用データを読み込ませることで生成される。この学習済みモデルは、AIのプログラムと学習済みパラメータで構成されていることから、2つ(AIのプログラムとパラメータの組み合わせ)を一体として、著作権法上の「プログラムの著作物」(同法10条1項9号)や特許法上の「物の発明」(同法2条4項、2条3項1号)として保護し得る余地はある。では、単体の場合はどうか。

(1) プログラム
プログラムは、特許法上の「物の発明」として保護され得る。なお、どのようなプログラムであれば特許登録されるかについては、特許庁「AI関連技術に関する特許審査事例について」が参考になる。もっとも、特許は、一度、出願すると、その技術は外部に公表される。また、登録されるまでには短くとも半年以上、長い場合は数年かかることがある。それ故、特許としての保護を求めず、非公知のまま営業秘密として保護する選択をする企業も多い。
プログラムに創作性が認められる場合は、著作権法上の「プログラム」の著作物として保護され得る。もっとも、学習済みモデルは、オープン・ソース・ソフトウェア(OSS)を利用して生成されることがある。その場合は他人のプログラムを用いていると考えられることから、自身の著作権を主張することは難しい。また、仮に元のプログラムを改良したとしても、当該プログラムのオープンソース・ライセンスによる縛りが伴う可能性はある。

(2) パラメータ
パラメータは、通常、AIのプログラムによって自動的に数列として表現されている。このような数列は、単体では特許法上の「発明」や著作権法上の「著作物」と評価することは難しいと考えられる。

4. 権利以外による法的保護の現状
(1) 営業秘密
著作権や特許権によって保護されない場合でも、①有用性、②非公知性、③秘密管理性の要件を満たす場合は、「営業秘密」として不正競争防止法により保護される可能性がある*(同法2条6項)。

*各要件などの詳細は経済産業省「営業秘密管理指針」3頁以下

営業秘密として保護される場合、これを窃盗、詐欺、脅迫その他の不正の手段により取得することや、不正の利益を得る目的または保有者に損害を与える目的での使用等が禁止される(同法2条1項4号~10号、3条1項)。
ただ、営業秘密による保護にも限界がある。例えば、企業の中には、ビッグデータを商品として提供したいというニーズがある。その場合は、非公知性の要件を満たさない可能性があり、仮に要件を満たせるとしても、営業秘密として管理するための費用や労力が重なり、ビジネスの実体に沿わないケースがある。

(2) 限定提供データ
上記を踏まえ、2018年、不正競争防止法の改正により、事業者等が取引等を通じて第三者に提供するデータを念頭に、「限定提供データ(2条7項)」という定義が設けられ、「限定提供データ」に係る不正取得、使用、開示する行為は、「不正競争」として規制対象となった(同法2条1項11号~16号)。
「限定提供データ」として保護されるためには、①業として特定の者に提供する情報であること(限定提供性)、②電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法)により管理されていること(電磁的管理性)、③相当量蓄積されていること(相当蓄積性)、④技術上又は営業上の情報(秘密として管理されているものを除く。)が要件とされている。
営業秘密と異なり、上記①の要件に関して、経産省の解説によれば、「特定の者」とは、一定の条件の下でデータ提供を受ける者をいい、「特定」されていれば、実際にデータ提供を受けている者の多寡は問わないと説明されている*。

*経済産業省「限定提供データに関する指針

もっとも、各要件を満たす場合でも、同法上、「無償で公衆に利用可能となっている情報と同一の限定提供データ」は保護の対象から除外されている(同法19条1項8号ロ)。前記経産省の解説では、「公衆に利用可能」とは、不特定多数の者が、当該データにアクセスできることをいい、例えば、誰でも自由にホームページ上に掲載された当該データにアクセスできる場合等がこれに当たると説明されている。

(3) アクセスコントロールに関する規制
(ア) 不正競争防止法(技術的制限手段)
不正競争防止法上、信号方式や暗号方式により、影像・音の視聴、プログラムの実行、それらの記録(コピー)を制限する手段(「技術的制限手段」)の効果を妨げる機能を有する装置・プログラムを提供する行為は、「不正競争」行為に該当し(同法2条1項17号・18号)、差止請求や損害賠償請求(同法3条、4条)、刑事罰の対象となる(同法21条2項4号)。
従来、技術的制限手段の保護の対象に、人が視覚・聴覚で感知できないデータに対するプロテクト技術は含まれていなかった。
もっとも、2018年、同法が改正され、技術的制限手段の定義に、「情報(電磁的記録に記録されたものに限る)の記録又は処理」を制限する手段が追加された(同法2条1項17号、2条8項)*。

*経済産業省「不正競争防止法平成30年改正の概要 (限定提供データ、技術的制限手段等)」13頁


技術的制限手段の効果を妨げる行為に対する規律の強化の概要

その結果、AIの学習用データや学習済みパラメータへのアクセスを制限するプロテクト技術も保護されることとなった。なお、同改正により、当該手段の効果を妨げる役務を提供する行為(無効化の代行サービスなど)や、無効化する指令符号の提供(不正なシリアルコードをインターネットに掲載するなど)も規制の対象となった。
ただ、自ら当該技術を無効化する行為(単純回避行為)や自ら当該情報にアクセスする行為は、規制の対象とされていない。それ故、自ら学習用データや学習済みパラメータに対するプロテクト技術を回避し、当該データやパラメータを取得する行為は同法によっても規制されない。なお、同法の適用がなくとも、他の法令(不正アクセス禁止法、電子計算機損壊等業務妨害罪(刑法234条の2)等)によって規制される可能性はある。

(イ) 著作権法(技術的利用制限手段)
2018年12月30日、TPP締結に伴う著作権法改正により、著作物の視聴等を制限する技術的手段を有する保護技術(「技術的利用制限手段」)を権限なく回避する行為が、著作権者等の利益を不当に害しない場合を除き、著作権侵害とみなされるようになった(同法113条3項)*。そのため、例えば、プロテクト技術を回避する装置・プログラム等を用いてネット上の著作物を含むデータを収集すると、当該規定が適用される可能性がある。

*文化庁「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)の発効に伴う著作権法改正の施行について

なお、同法では、前記不正競争防止法と異なり、プロテクト技術を無効化するための指令符号を提供する行為は規制の対象とされていない。

本改正により、AI関連の開発を促進することが期待されるが、どこまで規制を及ぼすべきか、今後も検討していく必要があると思われる。

(4) 不法行為
知的財産権や営業秘密として保護されなくとも、他者によるデータの使用が、不法行為に当たると判断した裁判例が存在する(東京地中間判2001年5月25日判時1774号132頁(翼システム事件))。もっとも、当該裁判例は、個別の事案に対する事例判断であり、汎用性に乏しい。また、その後の裁判例では、著作権等の権利で保護されない情報の利用が不法行為にあたるには特段の事情が必要とされているため(最高裁2011年12月8日判決民集65巻9号3275頁(北朝鮮映画事件))、不法行為による保護の可能性は限定的と考えられる。

(5) 契約
前記のとおり、既存の法制度では、データやプログラム等の保護や救済措置が限定される場合がある。これに対し、契約の場合は、当事者の合意によってより柔軟な対応が期待し得る。 この点に関し、経産省は、合理的な契約交渉・取引の促進を目的として、「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」を公表している。本ガイドラインは、データ編とAI編とから成り、それぞれの取引構造、主な法的論点、条項例などについて説明されている。
本ガイドラインは、有益な情報を提供してくれているが、こちらはあくまで当事者が契約で定めておくべき事項等を参考として示したものである。そのため、実際の契約に当たっては、本ガイドラインを参照しつつ状況の変化と事案に応じた協議検討が期待される。

5. 保護と利用とのバランス(改正著作権法における権利制限規定)
ロボット・AIを開発する際には、元データの収集や学習用データへの加工等が必要となる。その際には、多くの著作物を利用する場面が想定される。ただ、その都度、権利者の許諾を必要としては、ロボット・AIの開発に支障が生じ得る*1。この点も考慮され、2018年、著作権法が改正された*2。

*1 例えば、ネット上の他人の著作物(例:画像、動画等)を学習用データセットとして使用する際、当該著作物をサーバへ蔵置する行為、及びそのデータセットをAI学習プログラムに蔵置する行為が伴う。これらは著作物の「複製」(著作権法21条)に該当し、原則として著作権者の許諾が必要となる。また、学習用データを作成する者とAIに機械学習させる者が異なる場合、学習用データを作成する者は、AIを機械学習させる者に対してこれを提供する必要がある。その場合、当該提供行為が、著作物の「譲渡」(同法26条の2)または「公衆送信」(同法23条)に該当し、その場合にも原則として著作権者の許諾が必要となる。
*2 概要について文化庁「著作権法の一部を改正する法律 概要説明資料」3頁


資料

まず、改正後の著作権法30条の4では、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない場合における、著作物の利用が許容されている。なお、本条の対象となる利用行為には、「いずれの方法によるかを問わず、利用することができる」と規定されていることから、複製に限らず、公衆送信、譲渡、上映、翻案等により創作された二次的著作物の利用等も含まれる。

また、改正後の著作権法47条の5では、所在検索サービス(例えば、「Google Books」のように、ある書籍に関する特定のキーワードを検索し、その検索に応じて、当該書誌の情報や所在に関する情報の提供に付随して、書籍中の当該キーワードを含む文章の一部分を提供するサービス)や、情報解析サービス(例えば、「コピペルナー」のように、情報解析として、大量の論文や書籍等をデジタル化した上で、検証したい論文との文章の一致について解析を行い、他の論文等からの剽窃率に関する情報の提供に付随して、剽窃箇所に対応する論文の本文の一部分を表示するサービス)などに伴う著作物の利用が許容されている。
更に、当該規定では、前記サービスの準備を行う者も、別途、政令で定める基準に従い、著作物を複製、公衆送信を行い又は、複製物を頒布することができる。

その他の検討課題

以上のほかにも、ロボット・AIの開発・利用プロセスにおける検討事項は多い。本コラムでは、知的財産法制度に関する現状の課題(又は将来生じ得る課題)をいくつか挙げておく。

1. AI生成物
近時のAIは、人間による簡単な指示のみによって質の高いAI生成物を生み出している。
AI生成物に関しては、内閣府の知的財産戦略本部に設置された「新たな情報財検討委員会」の報告書において、現行法解釈上、AIが自律的に生成した情報(AI創作物)は、著作権法による保護の対象にならないという見解が示されている*。

*新たな情報財検討委員会「新たな情報財検討委員会 報告書」36-37頁、知的財産戦略本部「知的財産推進計画 2017」13頁も同趣旨

もっとも、現行法上、AI創作物と人間の創作物との線引きは明確でない。また、外観上も、AI創作物と人間の創作物の区別がつかない。そのため、あるAI生成物を使用する際、そのための許諾が必要となるのか、悩まされるケースが生じ得よう。
その他にも、例えば、AI創作物を人間の創作物であると僭称して著作権を主張する者が現れ、著作権が事実上独占され、創作活動への委縮が生じるケースも想定される。
対策は複数考えられるが、今後は、立法等による法的手段のみならず、AIによる問題には、AIで解決することも考えられる。本項目の詳細は、前述したコラムや記事の他、自著パテント記事もご覧いただきたい。

2. ロボットの実演
現在、著作物等の演奏や朗読をはじめとする「実演」をロボットに行わせる事象が見受けられる。例えば、人間の声をサンプリングしたVOCALOID(ボーカロイド*)による歌唱及び、人間の動きをキャプチャーしたロボット俳優が挙げられる。

*ヤマハが開発した音声合成技術、及びその応用製品の総称。これに対応した製品の例としてクリプトン・フューチャー・メディアが発売した「初音ミク」がある。

これらの歌唱や演技を人間が行う場合は、著作権法上、「実演家」の権利としての著作隣接権が生じる(同法2条1項4号、89条以下)。では、ロボットの場合はどうか。
「実演家」には、実演家人格権が生じ、死後もその人格的利益が保護される(同法101条の3)。このように、「実演家」は死亡することが前提とされていることから、現状、「実演家」は自然人に限られると解釈するのが素直なように思われる。そうすると、ロボットを「実演家」と位置付けることは難しい。
なお、ロボットによる歌唱や演技のサンプル(音源・動作の一部)が、「実演」に該当し、歌唱や演技がその「録音録画物」といえるのであれば、サンプルを提供した声優やモデルを「実演家」と位置付ける余地はあり得る。ただ、サンプル自体は、歌声や演技そのものではなく、芸能的な性質を有しているとは言い難い。それ故、このような形で著作隣接権が生じるケースは少ないと思われる。
上記の他、ロボットを操作する人間がいる場合、ロボットを人間の道具(楽器・あやつり人形等)と評価し得るのであれば、同人が「実演」をしているとして、著作隣接権が生じる可能性はある。ただ、今後、人間による指示等がなくとも歌ったり、演技するロボットが誕生してきた場合、異なる結論となり得るだろう。また、本コラムでの検討に関わらず、将来、人格の概念が多様化してロボットにも権利が認められる時代がくるかもしれない。

3. 法制度特例の導入
2018年、AI、IoT、ブロックチェーン等の革新的な技術やビジネスモデルの実用化の可能性を検証し、実証により得られたデータを用いて規制の見直しにつなげる制度(プロジェクト型サンドボックス制度)が導入された(生産性向上特別措置法9条、10条、11条)*。

*新技術等社会実装推進チーム「新技術等実証制度(プロジェクト型サンドボックス)について」参照

当該制度では、現行の法規制により事業者による実証実験が困難なときは、規制の特例措置を設けて実証することが可能とされている。
もっとも、特例措置は、規制を停止・緩和することを想定しており、権利者の許諾を不要とするものではない。今後は、例えば、実証期間中、実証実験に必要な範囲において権利行使を一時的に制限し、実証終了後、当該実験によって得た利益の一部を権利制限された者に分配する特例、といった知的財産制度ならではの制度を検討して良いかもしれない*。

*同趣旨の提案として、柿沼太一「著作権法版サンドボックス制度

4. ロボット・AIによる故人の再現と許容性
2016年12月8日、二松学舎大学の九段キャンパスで、二松学舎大学大学院文学研究科の研究チームが製作したロボット「漱石アンドロイド」の完成発表会が開催された*1。当該ロボットは、夏目漱石の遺体から顔型をかたどって作られている。
2019年12月31日には、「第70回NHK紅白歌合戦」で、「AI美空ひばり」が、秋元康氏が作詞とプロデュースを担当した曲「あれから」を歌った*。「AI美空ひばり」の歌声は、ヤマハ株式会社の歌声合成技術「VOCALOID:AI」を用いて、美空ひばりの生前の音声データや肉声テープを、機械学習することによって生成されている。

*1:二松学舎大学「漱石アンドロイド 特設サイト
*2:NHK「よみがえる 美空ひばり - NHKドキュメンタリー

「漱石アンドロイド」や「AI美空ひばり」が浮き彫りにしたのは、ロボット・AI技術によって、肉声や表情、語彙やクセ、言動の傾向といった「故人の人格じたい」が再現され得る、いわば故人と生者とが交わる社会の可能性である。
現在の法律や裁判例上、遺族の故人に対する敬虔感情や故人の名誉、プライバシーを害する場合を除いて、ロボット・AIで故人を甦らせることを正面から禁止するものは見受けられない。ただ、だからといって、誰でも故人の人格等を再現して良いのか、仮に何らかの許諾を必要とした場合は誰からどのような許諾を得る必要があるのか、仮に許諾を得られたとして、あらゆる再現が許容されるべきか。
今後、ロボット・AIによる故人の再現の在るべきルールについて、真剣に議論していく必要があると考える。この検討課題は、知的財産の分野におさまるとは思えないが、重要なトピックと考えられることから、この場で問題提起させていただいた。

おわりに

以上、ロボット・AI開発・利用に関わる知的財産法制度の適用場面と検討課題について概観してきた。これ以外にも、技術や社会の変化に応じて検討すべき課題は発生し続けるだろう。それでも、我々は、刻々と変化する社会と法制度を理解し、対応し、活用していくことが求められる。さて、皆さんは、ロボット・AIが普及していった先に、どのような社会像を描くか。いや、どのような社会像を描きたいか。本コラムが少しでもロボット・AI社会における知的財産の保護と利活用の在り方を考える一助になれば幸いである。


以上

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