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コラム column

2018年2月16日

文化・メディア契約その他の知的財産法

「Pepper君に肖像権はあるか
       ―― AIネットワーク社会で広がる「約款」の影響」

弁護士 二関辰郎(骨董通り法律事務所 for the Arts)

◆ 肖像権はあるか

「肖像権は人じゃないとダメなのでは」、「AIBOはイヌだけどPepper君はヒトだから良いかも」など、いろいろな意見が出そうです(出ないか?)。

肖像権は、法律の明文で認められた権利ではなく、判例上認められてきた権利です。最高裁は、「人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する」と言っています(いわゆる和歌山カレー事件最高裁判決、最高裁2005(H17)年11月10日第一小法廷判決・民集 59巻9号2428頁)。ここで示されているように、肖像権は人格的利益と位置づけられており、本来は人だけに認められます。それゆえ、「ヒト型とはいえロボットには認められない、ピリオド」 これだけで片が付く問題のように思えます。

ところが、ヒト型ロボットPepper君を販売しているソフトバンクロボティクス株式会社(「ソフトバンク」)では、「商標・著作物・Pepperキャラクターに関するガイドライン」という文書を公表しており、このガイドラインには、次の記述があります。


「ソフトバンクロボティクス株式会社は、同社が設計したキャラクターについては一定の肖像権に準ずる権利を有しているとの立場に立ち、Pepperのキャラクターに関する権利を管理しています。」

そのうえで、ソフトバンクは、Pepper君の取扱いについて、次のようなルールを規定しています。


・Pepperキャラクターの利用は、ソフトバンクの許諾がある場合を除いて禁止

・メディアにタレント的に、あるいは広告目的でPepperを登場させたい場合には、次の点をすべて満たしたうえでソフトバンクに事前申請すること

― Pepperキャラクターや利用者の名誉声望を毀損しないこと

― Pepperキャラクターを使用しない場合でもPepper本体をメディアに掲載したり、公共の場に設置したりする場合には、ソフトバンクのPepperを活用し、独自に実施(開発)している旨を明示すること

これによると、一定の利用方法は禁止されていますし、メディアに登場させる場合には(すべての場合ではないようですが)ソフトバンクに事前に申請することが要求されています。こういったルールには、従わないといけないのでしょうか。

◆ パブリシティ権はあるか

ソフトバンクのガイドラインに目を戻してみましょう。ソフトバンクは、単に「肖像権」とは言わず、「肖像権に準ずる権利」という言葉を使っています。これは、肖像権に類する概念であるパブリシティ権を示唆しているのでしょうか。パブリシティ権とは、「人の氏名、肖像等が商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり,そのような顧客吸引力を排他的に利用する権利」を言います(いわゆるピンク・レディー事件最高裁判決、最高裁2012(H24)年2月2日第一小法廷判決・民集 66巻2号89頁参照)。この判決については、以前、当事務所の鈴木里佳弁護士がとりあげたコラムがあります。それゆえ詳細はそちらに譲りますが、一言でいえば、最高裁はパブリシティという権利を一般的には認めたものの、ピンク・レディーの振付の写真を掲載した週刊誌については、パブリシティ権の侵害成立を否定しました。

では、パブリシティ権は、人以外にも認められるでしょうか。「ペッパー警部のピンク・レディーでも無理だったらPepper君も無理じゃない」的な意見が出そうです(出ないか?)。ただ、パブリシティ権は、肖像権とは異なり、商品販売等を促進するといった経済的側面を有するため、人以外でも認められる可能性が出てきます。この点に関して、想起される最高裁判決があります。いわゆるギャロップレーサー事件最高裁判決です(最高裁2004(平成16)年 2月13日第二小法廷判決・民集58巻2号311頁)。

この事件は、競走馬の所有者が、競走馬の名称等を承諾なく利用した「ギャロップレーサー」などのゲームソフトを製作・販売した業者に対し、いわゆる「物のパブリシティ権」の侵害を理由として、ゲームソフトの製作・販売等の差止と不法行為に基づく損害賠償を請求したものです。一審の名古屋地裁と二審の名古屋高裁が「物のパブリシティ権」が認められることを前提に損害賠償請求を一部認容したこともあって、当時話題になりました。

しかし、最高裁は、次のように述べて「物のパブリシティ権」を明確に否定しています。

  現行法上、物の名称の使用など、物の無体物としての面の利用に関しては、商標法、著作権法、不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が、一定の範囲の者に対し、一定の要件の下に排他的な使用権を付与し、その権利の保護を図っているが、その反面として、その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため、各法律は、それぞれの知的財産権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定め、その排他的な使用権の及ぶ範囲、限界を明確にしている。
  上記各法律の趣旨、目的にかんがみると、競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても、物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき、法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく、また、競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為の成否については、違法とされる行為の範囲、態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において、これを肯定することはできないものというべきである。したがって、本件において、差止め又は不法行為の成立を肯定することはできない。

つまり、最高裁判決によれば、Pepper君にはパブリシティ権も認められないことになります。

◆ 法律や判例にない「権利」を定めたルールは有効か

では、上記のようなソフトバンクの定めるガイドラインは、法律や判例で認められていない権利を創設しようとするものとして、効力を否定されるでしょうか。この点についても、ギャロップレーサー事件最高裁判決にヒントがあります。同最高裁判決には次の記述があります。

  なお、原判決が説示するような競走馬の名称等の使用料の支払を内容とする契約が締結された実例があるとしても、それらの契約締結は、紛争をあらかじめ回避して円滑に事業を遂行するためなど、様々な目的で行われることがあり得るのであり、上記のような契約締結の実例があることを理由として、競走馬の所有者が競走馬の名称等が有する経済的価値を独占的に利用することができることを承認する社会的慣習又は慣習法が存在するとまでいうことはできない。

ここに記載されているように、最高裁は、「競走馬の名称等の使用料の支払を内容とする契約が締結された実例」を認識したうえで、そういった契約の実例について、「紛争をあらかじめ回避して円滑に事業を遂行するためなど、様々な目的で行われることがあり得る」と評しています。つまり、その効用の積極面を指摘しているように読め、これからすると、最高裁は、そういった契約を「法律上存在しない権利を前提とするもので無効」とまでは考えていないようにも思えます。そうなると、ソフトバンクのガイドラインも、「物のパブリシティ権」を前提にしているかのようにも取れますが、それゆえ直ちに無効となるわけではなさそうです。

◆ ルールは誰に適用されるか

では、このガイドラインのルールは誰に適用されるでしょうか。

Pepper君の購入者は、その購入手続において、上記「商標・著作物・Pepperキャラクターに関するガイドライン」を含んだ規約(約款)に同意する必要があります。それゆえ、約款への同意を根拠として、自らルールに拘束されることに同意した者と位置づけられるでしょう。よって、購入者にはルールが及ぶことになりそうです。

しかし、ソフトバンクによれば、上記ルールは、「Pepperの購入者及び利用者」のみならず、「テレビ、新聞、雑誌、ラジオ、チラシ、ウェブサイト、映画、プロモーションビデオやこれらに準ずるもの(以下、メディアという)にPepperを登場させたり、Pepper商標及び著作物の使用をする方」にも適用されることになっています(「本ガイドラインの対象者」参照)。

ソフトバンクの言うように、メディアなどの第三者にもルールは適用されるのでしょうか。

契約の一般的ルールとして、「契約は、契約の当事者のみを拘束する」のが大原則です。この大原則からすれば、約款(契約)の当事者ではない第三者にルールの適用を主張することなどできない、ピリオド。これだけで片が付く問題のように思えます。

では、約款に同意したわけではないメディア等の第三者は、上記ルールを守らなくてよいでしょうか。これまで見てきたとおり、契約(約款)への同意を拘束力の根拠にできず、「物のパブリシティ権」は認められないので、知的財産権のように契約なしで第三者に主張できる権利がソフトバンクにあるわけでもありません。それゆえ、原則は、上記ルールを守らなくて良いとなりそうです。しかし、話はここで終わらず、少し考えておいた方が良いことがあります。

メディアがPepper君を撮影するためには、自分でPepper君を購入するか、あるいはPepper君購入者の協力を得る必要がある場合が多いでしょう(なお、街角にあるPepper君を少し映すくらいなら購入者の協力が不要な場合もあるでしょうが、Pepper君の音声や動作、性格など、ソフトバンクが「Pepperキャラクター」と名付けているところを利用する場合には協力が必要な場合が多いでしょう。)。前者の場合には、メディア自身が約款に同意することになりますので、それによりルールの適用を受けるでしょう。後者の場合には、メディア自身にはルールの適用はありません。しかし、ルールを無視した使い方をすると、協力してくれるPepper君の購入者に約款違反をしてもらうことになりかねません。

「買い切り」で終わる商品であれば、購入者の立場から約款違反になることを、メディアの立場からそれほど気にしないという選択肢はあるかもしれません。しかし、Pepper君の場合、AIがかかわる商品ゆえ、「買い切り」で終わりではありません。本体を買ったうえで、継続プランに加入することが必要です(この点はAIBOも同じ)。ソフトバンクのウエブサイトに記載があるとおり、「Pepper 本体だけでは、空っぽのパソコンのように何もアプリケーションが入っていません。(中略)Pepperとの日常生活を楽しむにはPepper 基本プランへのご加入が必要」とされています。

そうすると、仮にPepper君の顧客がルールに違反した場合、プランの継続をソフトバンクから拒否される可能性が出てくるなど、顧客が迷惑を被る可能性があります。メディアとしては、協力者(取材源)にそのような迷惑をかけることは躊躇してしまうのではないでしょうか。そのように考えると、結果的に、メディア等の第三者としても、ルールを尊重しないのはなかなか難しいということになりそうです。

◆ 一般論として

ここからは、やや一般論として考えてみましょう。メディア等が、ある企業の商品やサービスを撮影のために利用したい場合に、企業に対する事前の申請をして承諾を得ることが必須であるとします。自社製品やサービスが批判的にとりあげられることが予測される場合など、企業の意に反する取り扱いになりそうな場合、企業としては利用を承諾したくないのではないでしょうか。メディアがそれに従わざるをえず、従わない場合には利用できないとなると、そういった商品やサービスは、企業自身に都合のよい場合しかメディア等に登場しないことになりかねません。メディア側からすれば、表現の自由が過度に制約される可能性が出てきます。

Pepper君のような趣味的な製品の場合、そもそも批判的にとりあげられる場面はそれほどないかもしれません。しかし、AIの発展にともなって、単なる「買い切り」でなく購入後も継続的にサービス提供を受けるべきビジネスモデルは今後増えてくるでしょう。そうすると、約款を通じたコントロールの及ぶ領域が事実上広がっていく可能性がありそうです。そのこと自体は良い状況を招く場合もあるでしょうが、他方で、上記のように知る権利に応える報道等が減ってしまう危険性もあるように思います。このように約款の影響力が強まる状況は、ここでとりあげた報道等の場面のみならず、AIネットワーク社会のさまざまな側面に今後少なからぬ影響を与えるのかもしれません。

以上

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