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コラム column

2012年3月22日

その他の知的財産法裁判

「ピンク・レディー事件最高裁判決 ~著名人の写真利用とパブリシティ権を考える」

弁護士 鈴木里佳(骨董通り法律事務所 for the Arts)

今年の2月2日、最高裁で初めてパブリシティ権の意義及び侵害基準を判断した、注目すべき判決がだされました。そうです。報道でも「ピンク・レディー敗訴確定」、「最高裁でパブリシティ権について初判断」などと大きく取り上げられた、いわゆるピンク・レディー事件の最高裁判決(最高裁平成24年2月2日判決)です。

今回のコラムでは、本判決について、概要や意義を中心に詳しく紹介したいと思います。

●事案のあらまし

本件は、「ピンク・レディーdeダイエット」と題する雑誌記事(本件記事)において、ピンク・レディーを被写体とする14枚の写真(本件写真)が無断で掲載されたことが、パブリシティ権を侵害する不法行為になるとして、ピンク・レディーのお二人が掲載雑誌を発行した出版社に対して、計約370万円の損害賠償を求めた事案です。

問題となった本件記事は以下の3頁で、ピンクで囲った部分が、無断で掲載された本件写真です。

ピンク・レディー記事



本件記事は、平成18年秋ころに流行した、ピンク・レディーの楽曲の振付を真似たエクササイズによるダイエット法を解説したもので、「UFO」等計5曲の振付について、一部の動きのアドバイスやダイエット効果等の説明をしています。

本件写真に着目すると、各楽曲につき、その曲の特徴的なポーズをしたピンク・レディーのステージ写真が1枚ずつ掲載されているほか、「本誌秘蔵写真で綴るピンク・レディーの思い出」のコーナーでは、ダイエット法とは直接関係ないように思える複数の写真が掲載されています。
たしかに、これらの写真を見て、「こんなにたくさん写真を載せなくてもいいのではないか?」「無断で写真を使って売上をあげるなんて許せない」と感じられるのも分かるように思います。

しかしながら、本判決は、パブリシティ権は一定の要件のもとで法的に保護されるべきと判示しつつも、本件写真の無断掲載は違法なパブリシティ権侵害にはあたらないとして、上告を棄却しました。これにより、ピンク・レディーのお二人が求めた損害賠償請求が認められないことが確定しました。

●そもそもパブリシティ権とは、そして本件下級審の判断は

日本の法令上、「パブリシティ権」という権利が規定されているわけではありません。しかし、これまで、複数の下級審裁判例において、いわゆるパブリシティ権(著名人がその氏名、肖像について有する顧客吸引力・経済的利益を排他的に支配する権利)が、一定の要件のもと法的に保護されると認められてきました。

もっとも、(1)その法的性質*(人格権に基づく権利か、人格的利益から独立した経済的利益か)、及び(2)侵害の判断基準については、下級審裁判例では判断が分かれていました。

(* もっとも、(1)法的性質については、物のパブリシティ権を否定した平成16年の最高裁判決が、顧客吸引力を有するとしても法令等の根拠もなく物に排他的使用権等を認めることはできないと判示したことから、人のパブリシティ権の法的性質は、自然人が有する人格権に基づくとの見解に親しみやすいと指摘されていました(参考:本件第二審判決を解説した判タ1311号210頁))

本件の第一審第二審も、(1)法的性質については、両判決とも人格権説によりつつ、主に争われた(2)侵害の判断基準については、異なる基準を採用した上で、結論としては、いずれもパブリシティ権侵害を否定しました。

具体的には、第一審は、「使用行為の目的,方法及び態様を全体的かつ客観的に考察して,その使用行為が当該芸能人等の顧客吸引力に着目し,専らその利用を目的とするものであるといえるか否か」との判断基準*により、パブリシティ権侵害を否定しました。

(* 第一審の採用した「専ら基準」は、中田英寿事件・第一審判決や、ブブカスペシャル事件・第一審判決など、過去の複数の地裁判例において見られたものです)

これに対して、第二審は、「著名人が自らの氏名・肖像を排他的に支配する権利と,表現の自由の保障ないしその社会的に著名な存在に至る過程で許容することが予定されていた負担との利益較量の問題として相関関係的にとらえる必要がある」とした上で、「氏名・肖像を使用する目的,方法,態様,肖像写真についてはその入手方法,著名人の属性,その著名性の程度,当該著名人の自らの氏名・肖像に対する使用・管理の態様等を総合的に観察して判断されるべき」という(基準というには、いささか曖昧とも思われる)判断基準により、パブリシティ権侵害を否定しました。

なお、第二審は、第一審の「専ら基準」に対して、出版等につき、そのほとんどの目的が著名人の氏名・肖像による顧客吸引力の利用であるのに、それ以外の目的がわずかでもあれば、「専ら」に当たらないとしてパブリシティ権侵害が否定されるとすれば、かかる基準は一面的すぎると批判的な評価をしました。

●本判決におけるパブリシティ権侵害の判断基準

では、本判決では、いかなる判断がされ、それはいかなる意義をもつのか、具体的に見ていきたいと思います。

まず、本判決は、パブリシティ権の意義に関し、(i)個人は、人格権に由来する権利として、その氏名、肖像等をみだりに利用されない権利を有し、(ii)肖像等が、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合、かかる顧客吸引力を排他的に利用する権利たる「パブリシティ権」も、上記の人格権に由来する権利に含まれる*と判示しました。

(* パブリシティ権の法的性質は人格権に由来するとの上記判示は、法的性質に関連する論点(差止請求、譲渡等による移転の可否等)に、一定の方向性を示すものと考えられますが、本コラムでは詳細は割愛します。法的性質を踏まえての諸論点の検討は、内藤篤・田代貞之著「パブリシティ権概説(第2版)」(木鐸社)が参考になります)


そして、本判決は、顧客吸引力を有する者の肖像等の無断使用であっても、正当な表現行為等として受忍されるべき場合もあると判示した上で、具体的には「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に」違法なパブリシティ権侵害となるとの判断基準を判示しました。

また、「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」として、以下の三類型*が挙げられました。

  ①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合
  ②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合
  ③肖像等を商品等の広告として使用する場合

(* なお、本判決に付された金築裁判官の補足意見では、上記①類型につきブロマイド、グラビア写真が、上記②類型につきキャラクター商品が例示されています。
ちなみに、補足意見とは、合議体の多数意見である最高裁判決に付される、裁判官個人の個別意見のうち、判決に賛成の立場から付されるものです。判決内容そのものではありませんが、その名のとおり、判決を補足する意見であるため、判決内容を理解するうえで参考になります。本判決についても、以下、金築裁判官の補足意見(補足意見)と読み合わせていきたいと思います。)


補足意見では、本判決の判断基準について、以下のような説明がされています。
すなわち、著名人は、社会の正当な関心の対象となりうる存在であり、その人物像、活動状況等の紹介、報道、論評等は不当に制約されるべきではないところ、ほとんどの報道、出版、放送等は商業活動として行われており、その際に著名人の肖像等が掲載されれば顧客吸引効果をもつことは十分ありうる。よって、肖像等の商業的利用一般を侵害とすることは適当ではなく、パブリシティ権侵害となる範囲はできるだけ明確に限定されなければならないと述べられています。

また、補足意見では、本判決が列挙した上記三類型以外のケースについては、三類型に準ずる程度に顧客吸引力を利用する目的が認められる場合に限り、パブリシティ権侵害が認められると示唆されました。

補足意見とあわせて読むと、本判決の判断基準により、肖像等の利用がパブリシティ権侵害を構成するケースは、相当程度限定されるよう理解されます。


この点、商業活動たる報道、出版、放送等において、あえて購買意欲が減退するように著名人の肖像等が利用されるケースなど極めて稀でしょう。むしろ、ほぼ全てのケースで、利用される著名人の肖像等は、多かれ少なかれ顧客吸引効果を持つと考えられます。

商業活動としての報道等全般がパブリシティ権侵害と判断されるべきでないことは当然として、商業活動であるだけでパブリシティ権侵害を肯定する要素として重視されるような、曖昧ないし非限定的な判断基準が採用されては、肖像等の利用を含む表現行為が過度に委縮しかねないように思われます。

本判決の判断基準は、肖像等の利用をともなう表現活動に対して、一定の行為規範を示すものと評価できます。


もっとも、肖像等の主体の立場からは、少々酷な基準のようにも感じられるところです。 この点、補足意見でも示唆されているように、パブリシティ権侵害による経済的な損害とは別に、そもそも本人が撮影を承諾していない写真(パパラッチ写真等)については、名誉毀損やプライバシー侵害に該当するとして、別の救済がされる場合があります。このように別の救済手段もありうることは、パブリシティ権侵害を限定的に認める判断を許容する根拠になると考えられます。

また、著名人が写真の撮影に応じるにあたり、当該写真につき当初の利用以降も広範な商業的利用がされうることを見据えて対価の交渉をする、あるいは、撮影者に対し、当初目的以外の写真の利用や外部への提供を契約上禁止するといった自衛の手段も考えられます(後者により、仮に、後の無断利用につき不法行為責任を問えない場合も、提供者に対する契約責任追及の余地があるでしょう)。このようなプロテクションがありうることも、パブリシティ権侵害を限定的に認める判断を許容する根拠といえるかもしれません。


他方、補足意見では、第二審の「専ら」基準への批判に対し、「例えば肖像写真と記事が同一出版物に掲載されている場合,写真の大きさ,取り扱われ方等と,記事の内容等を比較検討し,記事は添え物で独立した意義を認め難いようなものであったり,記事と関連なく写真が大きく扱われていたりする場合には,「専ら」といってよく,この文言を過度に厳密に解することは相当でない」と述べられています。

第二審が示した、「専ら基準では、ほとんどの目的が顧客吸引力の利用であっても、その他の目的がわずかでも存在すれば、パブリシティ権侵害が否定されてしまうのではないか」との懸念に対して、本判決では、そのようなケースはパブリシティ権侵害と実質的に判断される可能性があると示唆されている点も、実務上参考となると考えられます。

●本件写真の掲載はセーフなのか

パブリシティ権侵害の判断基準に関する説明が少し長くなりましたが、ピンク・レディーの写真に戻りましょう。

本判決は、本件写真におけるピンク・レディーの肖像が、顧客吸引力を有することを認めつつも、(i) 本件記事の内容(ピンク・レディーそのものの紹介ではなく、ピンク・レディーの曲の振付を利用したダイエット法の解説及び解説者のタレントが振付をまねていた思い出を紹介するもの)、(ii)本件写真の使用態様(写真の使用は約200頁の雑誌全体の3頁にすぎないうえ、白黒写真であって、大きさも縦2.8㎝、横3.6㎝ないし縦8㎝、横10㎝程度のもの)などの事情に鑑み、本件写真は、ピンク・レディーの振付を利用したダイエット法の解説及び振付を解説するタレントの思い出等を紹介するため、読者の記憶喚起など、本件記事の内容を補足する目的で使用されたものであり、専らピンク・レディーの肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえないと判示しました。

まず、上記(i)に関しては、雑誌や書籍等における肖像等の利用事例では、記事自体の内容、記事と写真の関連性及び記事との関連で写真の果たす役割が、今後の実質的な判断において、重要な要素となりそうです。具体的には、記事自体が内容に乏しく、実質的には写真集と変わらないようなものはアウトになりやすいでしょう。他方、記事自体に意義があり、かつ、写真が、記事で使われたビジュアルに関する表現を補足して読者のイメージを膨らませる場合や、本件のように読者の記憶を喚起させるために利用される場合はセーフになりやすいのではないでしょうか。

次に、上記(ii)のうち、写真の大きさについては、個人的には、本件記事の紙面に対する本件写真(コラム冒頭記事のピンク囲み部分)の占める割合は、むしろ顧客吸引力の利用目的を肯定する要素となるようにも感じられました。しかし、本判決では、専ら目的を認めるための(少なくとも重要な)判断要素とされていない点は、実務上参考となると考えられます。他方、写真の使用は約200頁の雑誌全体の3頁にすぎないという部分については、写真が雑誌の表紙などでも使われるケースでは異なる判断がされる余地もあるように思われます。

●おわりに

以上のとおり、本判決の判断基準によれば、書籍等のメディアにおける肖像等の掲載利用につき、裁判においてパブリシティ権侵害と判断されるケースは限定的であろうと考えられますが、具体的には、どのようなケースがアウトになるでしょう。

たとえば、「トマト料理のレシピ本」において、トマト好きを公言しているアイドルが食事をしている写真を、多数掲載するケースは、どうでしょうか。

かかるケースでは、ピンク・レディーの件とは異なり、写真と記事内容の関連性が弱いため、「写真の利用は、読者の食欲をそそり、または、レシピを掲載したトマト料理をおいしそうに見せるため」といった別目的が主張されたとしても、写真の利用は、専らアイドルの肖像の顧客吸引力の利用を目的と判断され、アウトとなる可能性が高いように思われます(もちろん、写真の枚数・大きさ・画質等にもよります)。

では、「スカートの丈から解く戦後史」といった書籍において、戦後活躍した、アイドルやファッションアイコンの写真を多数掲載するケースはどうでしょう。

こちらは、レシピ本と異なり、写真と記事内容の関連性はありそうです。また、写真は、読者が各時代を思い返し、あるいはイメージを膨らませるのに役立ちそうです。あとは、やはり、写真の枚数・大きさ・画質や、記事と写真のボリュームの比較により、判断が分かれるように思います。

本判決で挙げられた三類型その他の肖像等の利用行為について、いかなる事情のもと、パブリシティ権侵害となるのか、今後、集積される事例判断に注目したいと思います。


以上

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