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コラム column

2026年10月28日

エンタメ映画音楽アニメゲーム出版・漫画

エンタメ政策5原則
~第3原則「作品の中身に口を出さない。」の妙~

弁護士  小山紘一 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

1.はじめに

2025年10月21日に高市内閣が発足してから一年が経過した。高市内閣発足直後の同年11月4日、日本成長戦略本部(第1回)が開催され、17の“「危機管理投資」、「成長投資」の戦略分野”が示されたが、エンタメ業界にとって特に重要なのは、17の戦略分野の一つに「コンテンツ」が入ったことである。マンガ・アニメ・ゲーム等は長らくサブカルチャーと言われてきたが、今やメインカルチャーとなり、政府の重点投資対象となったのである。

2.コンテンツ政策のターニングポイント

マンガ・アニメ・ゲーム等のコンテンツに関する政策のターニングポイントは、2024年6月4日に知的財産戦略本部が決定した『新たなクールジャパン戦略』に、「コンテンツ産業を基幹産業と位置付け」、「日本発のコンテンツの海外市場規模を、2033年までに20兆円とすることを目標値として設定する」と明記されたことである。高市内閣でも、この数値目標が重要な指標となっており、それを実現するために政策の検討が進められてきた。

3.コンテンツに対する財政支援の急拡大

コンテンツに対する財政支援は、『新たなクールジャパン戦略』が決定された2024年から2026年にかけて急増しており、2025年から2026年にかけては、252億円から556.3億円へと倍以上に拡大している。これらの予算は、いずれも、産業として今後さらなる成長が期待できるマンガ、アニメ、ゲーム、実写、音楽の5つのコンテンツ分野を主な支援対象とする予算を積み上げたものである。
252億円の内訳は、令和6年度補正予算217億円、令和7年度当初予算35億円となっている。他方、556.3億円の内訳は、令和7年度補正予算となっており、経済産業省の「コンテンツ産業成長投資支援事業」(IP360補助金)350億円と文化庁の「クリエイター等育成⽀援 マンガ等コンテンツの次世代のデジタル配信プラットフォームの構築に向けたコンソーシアム創出等」175億円が2本柱である。
しかし、556.3億円という予算でも、米国・中国・フランス・韓国の財政支援よりは規模が小さい。
そのような中、高市内閣発足後初となる概算要求(2027年度予算概算要求)では、総額2500億円以上のコンテンツ振興関係予算が計上された。この大胆な予算措置には、成長投資分野としてのコンテンツに対する政府の真剣さを感じる。

出典:第1回コンテンツ産業官民協議会 資料3 経済産業省提出資料

出典:第8回エンタメ・クリエイティブ産業政策研究会(事務局資料)
※こちらは2025年10月23日時点の資料であり、日本の予算規模は2025年のものとなっている点に注意

4.財政支援の拡大がもたらすコンテンツ表現の危機

ただ、コンテンツに対する財政支援の拡大を手放しで喜ぶのは、楽観的に過ぎる。
日本のコンテンツの強さは、表現の自由が保障され、表現内容に口を出されないという環境が守られてきたことによるところが大きい。しかし、コンテンツが、公金による多額の財政支援を受けるようになってくると、そのような環境を守ることが難しくなるおそれ、ひいてはコンテンツ表現の自由の危機を招くおそれが強まる。
「公金その他の公の財産は、…公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」と定める憲法89条後段に関して、自主性確保説と言われる学説が前提とするように、公権力は金を出せば口も出すものであり、公金の支援を受けるということは公権力からコントロールを受ける危険があるためである。
米国では、世界的な写真家であるロバート・メープルソープの回顧展が、芸術文化への公的助成を担うNEA(全米芸術基金)の助成を得て行われようとした際、ホモセクシャリティやサディズムの色彩の強い作品群を理由に、「こんな不道徳な作品に税金を?」と議会や一部会場で問題視された(福井健策「著しく不完全な『表現の自由』論争史~公開中止・会場使用許可・公金支出を中心に」参照)。また、現在では、多様性・公平性・包摂性(DEI)推進策を批判するトランプ大統領が、NEAの廃止や、DEI関連のプログラムに取り組む芸術団体への助成金の撤回や打ち切りを進めるといった動きがある。
日本では、最高裁判決によって当該不交付決定の違法が確定しているものの、文化庁所管の独立行政法人である日本芸術文化振興会が、映画「宮本から君へ」に対する1000万円の助成金交付を内定後、出演者の麻薬取締法違反罪での有罪判決を理由に「公益性の観点から適当ではない」として不交付の決定を行うということがあった。(福井健策「不祥事=作品封印の是非 ~犯罪・スキャンダルと公開中止を考える」【追記あり】」参照)。
公権力がコンテンツの中身に過度に口を出せば、そのコンテンツの魅力は大きく損なわれる。しかし、日本において、そのようなことが当たり前になってしまえば、コンテンツの海外売上は惨憺たるものとなり、財政支援を行った目的を達成できなくなるおそれが大きい。

5.コンテンツ政策所管省庁の閣議決定文書による布石

上記のような懸念については、コンテンツ政策を所管する府省庁も重々承知であったと思われる。
コンテンツ政策の重要性が高まり、財政支援の急拡大が始まるタイミングで、コンテンツ政策を所管する経済産業省や知的財産戦略推進事務局は、重要な布石を打っていた。表現の自由を最重要政策として掲げ当選した議員らの主張にも沿った形で、2024年6月21日に閣議決定された『新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版』に、コンテンツ政策に関して、「官は環境整備を図るが、民のコンテンツ制作には口を出さないという、官民の健全なパートナーシップを築くことを目指す」との一文を盛り込んだのである。なお、この一文の直接の根拠となったのは、同年4月17日の新しい資本主義実現会議(第26回)において、是枝監督が「アームズ・レングス・ルール」(政治が芸術に対して過度な影響を与えることは避けるべきというルール)の重要性を提言したことであると思われる(参考「資料3 是枝監督提出資料」)。
閣議決定文書の内容は、公式な政府全体の統一方針となる。また、新たな閣議決定により前の閣議決定に必要な変更等を行うことは可能であるが、そのような変更等がなされない限りその後の内閣にも及ぶという取扱いとなっている。
公金によるコンテンツ支援が急拡大する最初期にこの一文が閣議決定文書に入ったことで、コンテンツ政策を所管する省庁がコンテンツ制作には口を出さないことはもちろんのこと、公金によって支援されたコンテンツが物議を醸すような内容であったために他省庁や政治家、国民からコンテンツ政策を所管する府省庁に苦情等が寄せられた際も、“コンテンツ制作には口を出さないというのが閣議決定に基づく政府の統一方針である”といった毅然とした対応をとることができるようになった。

6.エンタメ政策5原則の第3原則

経済産業省は、2025年10月23日、第8回エンタメ・クリエイティブ産業政策研究会で、上記の方針を明確化したものを含む、エンタメ政策5原則を発表した。いずれも重要な原則であるが、このタイミングで、その第3原則において、「作品の中身に口を出さない。」と定め、エンタメ政策は「作品の中身に影響を与えず、クリエイターの表現の自由を保障する。」と明記したのは絶妙である。
「アームズ・レングス・ルール」の精神をストレートに表すとともに、クリエイターの表現の自由を真正面から保障しており、本気でコンテンツ産業を支援しようとする意気込みを感じる。

出典:第8回エンタメ・クリエイティブ産業政策研究会 資料3 事務局資料

なお、このエンタメ政策5原則は、経済産業省が2026年8月19日に決定した『エンタメ・クリエイティブ産業戦略 2026』にもそのまま掲載されている。

7.おわりに

昨今、日本コンテンツの海外売上は右肩上がりとなっており、コンテンツを基幹産業として育成するという政府の政策には、大きな期待が寄せられている。
しかし、日本コンテンツの中核をなすマンガ・アニメ・ゲーム等については、しばしばその内容が物議を醸したり、海外の基準に引っかかって規制されるといったことが起きており、そういった作品に対しては苛烈なバッシングが行われることも少なくない。そして、それらの作品に政府や自治体が支援を行っていたとなれば、行政の責任を問う激しい声もあがる。
ただ、誰にとっても不快ではない・無害であるといったコンテンツなどそもそも存在しないはずであるし、日本中がそのような作品を目指すようになったら、日本のコンテンツ産業に未来はない。
“クリエイターの表現の自由が保障された環境を守ることこそが、日本のコンテンツ産業の勝ち筋である”、そのことをコンテンツ政策を所管する経済産業省がしっかりと認識し、「作品の中身に口を出さない」という自らを縛るルールを策定したこと、その裏付けとして公式な政府全体の統一方針となる閣議決定文書が存在することの意義は極めて大きい。
「金は出すが口は出さない」という当たり前のようで非常に難しいことをここまで明確に示しているエンタメ政策5原則の第3原則は、コンテンツ政策のみならず、今後の日本の公金支出にとっても、エポックメイキングなものになると感じる。よくぞここまで書いてくれた、しみじみそう思っている。

以上

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