2026年7月29日
芸術祭の知財法務を概観する
~企画段階からのリスク予防のために~
弁護士 北澤尚登 (骨董通り法律事務所 for the Arts)
近年、演劇祭・ビエンナーレ/トリエンナーレなど芸術祭の開催が各地で盛んになっており、国際的な文化発信や地域振興への貢献も期待されているように感じます。これらの芸術祭を成功に導くためには、アートマネジメントの一環として法務面のケアも重要です。このコラムでは、芸術祭を企画する際に法務的観点から押さえておきたいポイントを、主に著作権などの知的財産権にフォーカスして概説します。なお、やはり近年特に盛んな音楽フェスにおいても、いくつかのポイントが参考になろうかと思います。
1. 参加作品
芸術祭に参加する舞台作品(演劇・ダンスなど)は、主催者からカンパニーなどの制作者への委嘱(海外作品であれば招聘)に基づいて上演される例が多くみられます。
また、芸術祭で展示・上映等される作品(美術作品・映像作品など)については、主催者からアーティスト・クリエイターなどの制作者に対する委嘱のほか、主催者に対する貸与や展示・上映の許諾などを伴うことが想定されます。
その際、主催者側による作品の利用に際して必要となる知的財産権の許諾などについて、例えば以下の点を委嘱等の契約において明確に定めておくことが望まれます。
➢ 舞台作品の場合、芸術祭での上演自体は(上記の例でいえば)カンパニーによる委嘱業務の遂行として行われることとなりますが、その前提として「上演に必要な権利処理はカンパニー側が行うこと」を委嘱契約に明記しておくのがよいでしょう。なお、特に海外招聘作品では、JASRACやNexToneといった国内管理団体との音楽著作権(演奏権)処理などは、特に主催者側で行う場合もあるようです。
他方で、芸術祭での上演以外の利用については、主催者側・カンパニー側それぞれの利用範囲を明確にするため、例えば以下の点を契約に定めておくことが考えられます。
・(コロナ禍のように)有観客での上演が困難となった場合における、延期あるいは「無観客上演+配信」などの代替措置
・「芸術祭の期間中およびその前後の一定期間において、カンパニー側が同じ作品を他で上演すること」への制限
・主催者側による二次利用の権利(「上演の収録映像を、将来に向けた広報やアーカイブの目的で収録・配信・上映できる」など)
➢ 美術作品や映像作品については、展示・上映の許諾を受ける場合はそれに加えて、芸術祭の広報(ウェブサイトやSNSへの掲載など)・二次利用(商品化やアーカイブ上映を含む)をカバーする許諾であること、などを契約上明記するのがよいでしょう。
2. ロゴ・キービジュアル
個々の参加作品以外に、芸術祭全体に共通するロゴや(ポスター・ウェブサイトなどに用いられる)キービジュアルなどが新規に制作される際、それらの知的財産権についても、例えば以下の点を制作委託契約等で定めておくことが望まれます。
➢ これらのビジュアルについては、(もっぱら芸術祭のために制作される場合は特に)主催者側が著作権譲渡を受けることも現実的な選択肢となり得ましょう。その場合、二次利用も想定するならば、「著作権法第27条及び第28条に規定する権利」が譲渡対象に含まれる旨を契約上明記すること(著作権法61条の「特掲」)が求められます。なお、参加作品(上記1.)について著作権譲渡を受けるケースは少ないかもしれませんが、その場合も同様のことがいえます。
➢ 著作権の譲渡でなく利用許諾を受ける場合は、独占的許諾であること(および独占対象地域)、芸術祭の実施・広報・二次利用をカバーする許諾であること、などが明記の対象となり得ます。
➢ 過去に東京五輪のロゴが著作権侵害訴訟の対象となったように、権利侵害クレームのリスクも無視できません。そのため、類似ビジュアルの調査に加え、契約において制作者や許諾元の表明保証(「制作・許諾するビジュアルが第三者の著作権等を侵害するものでないことを保証する」)を得ておくなどのリスクヘッジが望ましいでしょう。
3. タイトル
芸術祭自体のタイトル(名称)を付ける際、名称使用に支障がないように、商標登録を得ておくことが考えられます。上記2.のロゴやキービジュアルについても同様のことがいえます。その場合、事前に既存の類似商標の有無等を調査しておくことが前提となりましょう。その結果、例えば標準文字商標での登録が難しい場合は、ロゴなどでの登録を目指すことも考えられます。
登録(出願)時の指定商品・指定役務は、芸術祭の実施自体のほか、グッズの制作・販売も予定されている場合はそれらもカバーできるように選択する必要があります。他方で、指定商品・役務の区分数が増えれば出願・登録費用は高額化し得るので、予算との兼ね合いも考慮して出願計画を立てることが望ましいでしょう。
さらに、ウェブサイトの開設・運営に備えたドメインネームの取得、SNSアカウントの開設なども(先に押さえられてしまわないためには)芸術祭の名称決定と連動して早期に行っておくことが望まれます。
以上
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