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コラム column

2026年9月25日

著作権国際エンタメライブ

グランドライツってなに?
 ―外国曲の「演劇的演奏」と、日本のグランドライツ管理の課題―

弁護士  寺内康介 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

1.グランドライツってなに?

「グランドスラム」、「グランドピアノ」、「グランド・ブダペスト・ホテル」…世の中にはいろんな「グランド」がありますが、著作権の世界にも「グランドライツ(grand rights)」と呼ばれるものがあります。これは、オペラ、ミュージカル、バレエといった、ストーリーと一体となる「演劇的な音楽著作物」に深く関わるものですが、それ以外の楽曲(ポップソングなど)も利用方法によっては関係します。ところが、こんなに壮大な響きを持つ「グランドライツ」という言葉は、実は日本の著作権法にも、欧米主要国の著作権法にも直接登場しません。グランドライツとはいったい何なのか。その謎を紐解くとともに、日本のグランドライツ管理の現状が抱える課題を考えていきたいと思います。

グランドライツは、「音楽を演劇的に演奏する権利」などと説明されます。もともとオペラを「グランドオペラ」、大がかりな音楽劇を「グランドミュージカルプレイ」と呼んだことに由来するようです。ミュージカル楽曲などは、単に背景音楽として演奏されるのではなく、その楽曲が劇のストーリーを進めます。それゆえ「演劇的音楽著作物(Dramatico-Musical Works)」などと呼ばれます。

グランドライツは、「複製権」などのように、著作権を構成する一つの権利として実体法上位置づけられているわけではなく、音楽著作権の管理において、集中管理団体には預けられていない権利部分(権利者が自ら管理している権利部分)として論じられてきました。

すなわち、日本も欧米主要国も、音楽作品を管理する集中管理団体が存在し(日本ではJASRAC及びNexTone)、楽曲の利用を簡便にしていますが、欧米主要国の権利者(作詞・作曲者や音楽出版社)は、歴史的に、集中管理団体に対して演奏権を預ける場合も、「演劇的に演奏する権利(グランドライツ)」は預けてきませんでした。これは、演劇的に用いられる楽曲は使われ方によってその価値が大きく変わるところ、集中管理団体の使用料算定方法ではその価値が適切に反映されにくいため、権利者自身が自ら管理するようになった、などと説明されます。同じ楽曲を使ったミュージカルが同時期に同一地域で開催されないよう独占ライセンスの要請があるといったこともあるでしょう。なお、集中管理団体が管理していない「グランドライツ」に対し、集中管理団体が管理をしている通常の演奏利用に関する権利を「スモールライツ」と呼ぶこともあります(なお、国によっては、演奏権の集中管理団体と録音権の集中管理団体が別であることがありますが、本コラムに関係するのはPRO(Performing Rights Organizationの略)と呼ばれる、演奏権を集中管理する団体です。以下で「集中管理団体」というときは、音楽の演奏権を管理している集中管理団体という意味で使っています)。

その結果、欧米主要国の集中管理団体は楽曲のグランドライツ利用に対して許諾を出せず、グランドライツ利用をしようとする利用者は、権利者との直接交渉が必要になります。

日本国内からこうした外国曲を利用する場合も同様です。JASRACは、海外の集中管理団体との相互管理契約(各国の集中管理団体同士が、互いのレパートリーを相手国内で管理し合う契約)により、外国曲の日本国内での利用について許諾を出すことができます。ところが、海外の集中管理団体がそもそも預かっていないグランドライツについては、相互管理契約を通じて JASRAC が許諾を出すことはできないのです(下図のとおり)。

 

※なお、外国の音楽出版社が日本の音楽出版社に楽曲の管理権限を与え、日本の音楽出版社から日本の集中管理団体に楽曲を預けることもあるが、この場合も欧米主要国の音楽出版社は日本の音楽出版社にグランドライツの管理権限は与えないのが通常でしょう。

これに対し、JASRACは、「国内作品」については、ミュージカルやオペラを含む演劇的な演奏も「上演形式による演奏」として許諾を出すことができるとしています(使用料は、JASRAC使用料規程第2章第1節1の「上演形式による演奏」に規定)。つまり、日本の利用者は、「国内作品」についてはJASRACへの利用申請によって演劇的な演奏をできる一方で、多くの「外国作品」についてはJASRACへの利用申請によってこれをできず、権利者から直接許諾をもらう必要があるわけです(ただし、国内楽曲について本当にJASRACへの申請だけで足りるかは本コラム末尾で言及しています)。

(JASRACウェブサイトより。「ミュージカル・オペラ」→「国内作品」を選ぶと利用申請をするよう案内されるのに対し、「外国作品」を選ぶと「権利者にご確認ください」との説明が表示される。)

このように、グランドライツはなにも「欧米主要国で特別に認められている権利であって日本では認められてないもの」というわけでなく、「欧米主要国では集中管理団体が管理していない部分だが、日本では集中管理団体(JASRAC/NexTone)が管理をしている、楽曲の演劇的演奏利用部分」といえます。

2.外国曲のグランドライツ利用(演劇的利用)が問題になる場面

では、どういう場合にグランドライツ利用(演劇的利用)とされるでしょうか。ここまで見たことからわかるように、これは第一に、当該楽曲が預けられた海外の集中管理団体にどこまでの権利が預けられているかによります。

各国の集中管理団体に統一的な基準があるわけではありませんが、検討を進めるために、米国の主要な演奏権の集中管理団体の一つであるASCAPの説明をみてみましょう。ASCAPは、「演劇的演奏であるか否かは著作権法に定義されておらず、その境界線はしばしば曖昧である」としたうえ、一般的に「演劇的な演奏は、楽曲を用いてストーリーを語ったり、楽曲をストーリーやプロット(筋書き)の一部として使用したりすることを指す」としています。さらに、「演劇的な演奏」の例として、以下を上げています。

米国ASCAPが挙げる「演劇的な演奏」の例

(i) 「演劇的音楽著作物」(ミュージカル・オペラ・音楽劇・バレエ等の作品)の全部の上演
(ii) 「演劇的音楽著作物」から1つ以上の曲を、原作のセリフ・パントマイム・ダンス・演技若しくは視覚表現とともに演奏すること
(iii)  (「演劇的音楽著作物」か否かにかかわらず)1つ以上の曲を、物語やプロットの一部として演奏すること
(iv) 「演劇的音楽著作物」のコンサート版の演奏(上演)

(ASCAPの各License Agreementより)

(i)、(ii)、(iv)はミュージカルなどの「演劇的音楽著作物」を使う場合です。こうした「演劇的音楽著作物」の全編上演のほか、一部の楽曲を原作のセリフや演技、視覚表現などを伴って演奏すること、(原作のセリフや演技、視覚表現などを伴わなくとも)コンサート版として演奏(上演)することが、演劇的演奏と整理されています。

さらに、上記(iii)は、ミュージカル用に作られた楽曲に限らず、ポップソングなどであっても、その楽曲を物語やプロットの一部として演奏することを演劇的利用としています。

このASCAPの整理も参考に、「演劇的音楽著作物」を利用する場合と、それ以外(ポップソングなど)を含む楽曲が演劇的に利用される場合に分けて、もう少し詳しくみていきましょう。

なお、以下は米国、英国を中心に検討していますが、例えば韓国の集中管理団体であるKOMCAはミュージカル・オペラ等の上演利用についても許諾を出せるようであり、究極的には相手国ごとの確認となる点に留意が必要です。
(KOMCA Collection Rules, Chapter 2. Article 6 (Concerts, etc.)より)

(1) 演劇的音楽著作物(ミュージカルなど)を全編上演する場合

ミュージカル・オペラ・バレエといった作品を、その音楽とともに全編上演する場合です。これは最も典型的なグランドライツ利用の場面で、グランドライツを預かっていないのであればこうした利用を許諾できないでしょう。

なお、ミュージカル楽曲のグランドライツ部分(集中管理団体に預けられていない部分)は、MTI(Music Theatre International)や Concord Theatricalsといった、ミュージカル作品の上演許諾を代理する専門の会社に管理委託されていることがあります。ミュージカルの上演希望者が、このような代理店から、脚本・楽曲などを一体としたミュージカル作品全体の上演ライセンスを受ければ、楽曲のグランドライツ利用の許諾は中核としてここに含まれることになります(ただし、通常これにより音楽のあらゆる利用が認められるわけでなく、上演利用以外の、公演(音楽)の録音・録画、配信、DVD・サントラ販売、歌詞の掲載などは別途、集中管理団体への利用申請や、権利者からのシンクロ利用の許諾が必要になり得ますので、個別に確認が必要です)。

(2) 演劇的音楽著作物(ミュージカルなど)の楽曲を、レビューショーやコンサートなどで歌う場合

ミュージカルをそのまま上演せず、その一部楽曲を抜粋して歌唱する場合はどうでしょうか。

この点の米国裁判例として、ナイトクラブにおけるショーの一幕で、原作を想起させない範囲でミュージカル「The Student Prince」の中から数曲のメドレーを歌ったケースで、ASCAPライセンスの範囲内(非演劇的演奏である)とされたものがあります。
(April Productions Inc. v. Strand Enterprises Inc., 221 F.2d 292(2d Cir. 1955))

他方、キリストの生涯最後の7日間を描いたロックオペラ「ジーザス・クライスト・スーパースター」における楽曲全23曲のうち20曲を、ほぼ原曲順に演奏したケースでは、当該公演によって、キリストの生涯最後の7日間が「ジーザス・クライスト・スーパースター」とほぼ同じように描かれている、曲間にセリフがなくても物語を伝えることができる、公演に舞台装置や衣装がないからといって、それが演劇的でないことにはならない、といった理由から、ASCAPライセンスの範囲外として、裁判所は差し止めを認めました。なお、同判決では、主催者が原曲順に演奏したことは原曲のストーリーを再現するためだろうといった判示もされています。
(Robert Stigwood Group v. Sperber, 457 F.2d 50(2d Cir. 1972))

もっとも、上記裁判例はいずれも、当時のASCAPと作家との契約によってASCAPにどこまでの権利が預けられているか(当該利用が、作家がASCAPに預けた利用方法の範囲内か)を判断したものであって、「グランドライツ利用とはこのような利用である」といった一般的な解釈を示したものではないように解されます。そのため、これから利用するに当たっては、集中管理団体と作家との契約でどこまでの権利が預けられているかを見る必要があるでしょう。

先ほど見たとおり、現在ASCAPでは、以下の利用も演劇的演奏と整理しています。

(ii) 「演劇的音楽著作物」から1つ以上の曲を、原作のセリフ・パントマイム・ダンス・演技若しくは視覚表現とともに演奏すること
(iv) 「演劇的音楽著作物」のコンサート版の演奏(上演)

(ii)は原作ミュージカルと似た衣装を着たり、原作のダンスを踊りながら歌唱するというものです。なお、ASCAPは原作ミュージカルとは異なるセリフ・演技・視覚表現などを伴った演奏は、(3)で後述する「(iii)(「演劇的音楽著作物」か否かにかかわらず)1つ以上の曲を、物語やプロットの一部として演奏」する場合に当たり、やはり演劇的演奏であるとしています。

(ASCAPウェブサイト「FAQs」>「Common Licensing Terms Defined>「Dramatic (or "Grand") and Nondramatic Performances/Rights」より。なお、以下で演劇的演奏に関するASCAPの説明を記載する場合も同じ参照先。)

次に、(iv)「コンサート版」について、ASCAPは、例えばミュージカル「オクラホマ」のために書かれたすべての楽曲を、衣装・舞台装置・小道具・台詞などを一切用いずに演奏することは、演劇的演奏に該当するとしています。これは、ミュージカルは曲自体にストーリーが組み込まれており、「ジーザス・クライスト・スーパースター」事件の判示にあったように、曲間にセリフがなくても曲を歌唱することで物語を伝えることができるといった考えによるものと思われます。

他方で、セリフ・演技・視覚表現などを伴わない1曲だけの歌唱をグランドライツであるという人はおそらくいないでしょう。

それでは、(セリフ・ダンス・視覚表現等を伴わずに)数曲歌う場合はどうでしょうか。ASCAPは演劇的演奏に当たる例示として、「複数のミュージカル作品から3曲をメドレー形式で演奏し、原作のミュージカルに似た衣装や小道具を用い、場合によってはセリフも交える」場合は挙げていますが、「衣装や小道具、セリフなく」3曲を演奏した場合にどう解されるかまでは立場を明らかにしていないように思われます。

これに対し、先ほども登場した、「集中管理団体に預けられていないグランドライツ部分のライセンスを権利者から任されている側」であるMTI(Music Theatre International)は、レビューショーがグランドライツ利用にあたらない条件をもう少し明確に示しています。

MTIが示す、ミュージカル楽曲のレビューショーがグランドライツ利用にあたらない条件

・セリフは使わない。
・オリジナルのショーを連想させるセット、衣装、振り付けの使用はしない。
・目安として、1つの作品または1人の作曲家からの楽曲使用は3曲以内に留める。
・1人の作曲家だけの作品でショーを構成しない。
・作曲家の名前をプログラムのタイトルの一部として使用しない。
・グランドライツ利用のためにMTIが提供した素材を使い回さない。

(MTIウェブサイト 「Help/FAQs」→「SPECIAL PERMISSIONS」→「Permission To Use a Song」より)

これはASCAPやBMIのような集中管理団体が示しているものではありませんし、権利者からグランドライツの管理を任されているMTIのガイドラインであって、グランドライツを広く解釈しようとしている可能性は大いにあります(※)。ただし、MTIに委託されているミュージカル作品の楽曲については、上記ガイドラインを超えない歌唱・演奏について、MTIや権利者から「グランドライツ利用である」として権利行使をされることは一般に考えにくい、とはいえるでしょう。

※例えばMTIは、1人の作曲家だけのミュージカル楽曲でショーを構成すればグランドライツ利用であるとしますが、ASCAPは、一人の作曲家・作曲チームだけの作品でショーを作ることは、「おそらく演劇的な演奏である(likely dramatic)」として断定はせず、慎重な説明をしています。

英国についてもみてみましょう。英国の集中管理団体である PRS for Music は、利用する曲数の指定はないものの、具体的な時間数として同一プログラム(ショー)内で1つの作品からの抜粋が合計25分を超えない、といったグランドライツ利用に当たらない基準を示しています。

英国PRSが示す、ミュージカル楽曲等の演奏がグランドライツに当たらない場合

・1つのプログラムで、1つのミュージカル等から最大25分間の素材を「非演劇的」な目的で使用する場合。ただし、元の作品のプロットを凝縮した短縮版や、作品全編の使用でないこと。
・演奏が「非演劇的」と言えるのは、例えば衣装、人物描写、小道具などを通じて、元の作品を視覚的に参照していない場合に限られる。

(PRSウェブサイト「Theatre royalties」より。なお、テレビやラジオでのミュージカル楽曲等の使用については別の基準が示されています。)

このように各国の集中管理団体(あるいはグランドライツを管理している団体)の示す基準は類似する部分はあるものの、必ずしも一致しているわけではありません。

※他にも、例えばオーストラリアの集中管理団体であるAPRA AMCOS は、「ミュージカル等の演劇的音楽作品から3曲以上、または2曲以上が連続して演奏される場合」や、「20分を超える利用」は演劇的演奏に当たり許諾を出せないとしています。連続して演奏する場合は2曲でも演劇的演奏として管理外としているのは、連続した演奏はストーリーの再現性が上がるといった考慮からと思われます。

(APRA AMCOSウェブサイト「Guide to music in a Dramatic Context」より)

そのため、ミュージカル楽曲を歌唱、演奏する場合、その楽曲が預けられた集中管理団体がしている説明や、加えて当該ミュージカル作品のライセンスを行っている団体(MTI、Concord Theatricalsなど)があれば、そこが示す基準を確認しておくのがよいでしょう。

(3)その他の音楽作品を、演劇的に用いる場合

ASCAPは、「演劇的音楽著作物」つまりオペラやミュージカルのために書かれた楽曲に限らず、その他の楽曲(ポップスなど)も演劇的演奏に当たる利用方法(ASCAPが許諾を出せない利用方法)があるとしています。

(iii)  (「演劇的音楽著作物」か否かにかかわらず)1つ以上の曲を、物語やプロットの一部として演奏すること

ジュークボックスミュージカルと呼ばれる、既存曲をミュージカルに組み込むことはこれに当たるでしょう。特定のミュージシャン(グループ)の楽曲を使い当該ミュージシャンのストーリーを描くもの(例としてロックグループ「フォーシーズンズ」のストーリーを描いた「ジャージー・ボーイズ」)、同じく一つのミュージシャン(グループ)の楽曲を使いつつ当該ミュージシャンとは関連しないストーリーを描くもの(例として全曲ABBAの既存曲を使った「マンマ・ミーア!」)、さらには、複数の異なるアーティストの楽曲を使ってミュージカルを構成するもの(例として「ムーラン・ルージュ!」)などがあります。

さらに、上記ASCAPの基準からは、ミュージカルに楽曲を組み込む場合でなくとも演劇的演奏に当たる場合はあるでしょう。ただし、この「物語やプロットの一部として演奏する」がなにを意味するかは判断が難しいところです。

この点、ASCAPは、作詞作曲家とのメンバーシップ契約における、「テレビ放送での公の実演権」に関する規定の中で、「演劇的演奏」とは「楽曲の演奏がプロット(筋)やこれに伴う行動に織り込まれ、それを前へ進めていること(woven into and carries forward the plot and its accompanying action)」と説明しています。なお、米国の音楽著作権を詳細に扱った実務書である「Kohn on Music Licensing」は、「物語やプロットの一部として演奏する(as part of a story or plot)」との基準では広く解釈されてしまうおそれがあるため、この「woven into and carries forward the plot」という基準が演劇的演奏の説明としてふさわしいとし、例として、カーチェイスの場面での背景音楽は、アクションを前へ進める(carries forward)助けにはなるかもしれないが、他のアクション音楽でも差し替えが効くため、「筋に織り込まれていない」と述べています。おそらくこれは、音楽を変えればプロットも変わってしまう場合、といった趣旨に思われます。

(Al Kohn & Bob Kohn, Kohn on Music Licensing, 4th ed. (Aspen Publishers, 2010) pp.1318-1321, 1328.)

ASCAPが同様の解釈をとっているかは分からないものの、音楽を変えれば筋も変わってしまうか、といった視点は参考になるように思われます。

これに対し、英国の集中管理団体であるPRS for musicは、ミュージカル等のために作曲されたものでない音楽はPRSによって許諾を出せるものの、そうした音楽を演劇で使う場合、「interpolated music(挿入音楽・劇中音楽)」と「incidental music(付随音楽・劇伴)」に区別され、前者は権利者への個別の許諾申請が必要と説明しています。両者の区別は、「演劇の登場人物が劇中でその音楽を認識しているか否か」によるとし、例として、登場人物はカーチェイスの場面でのドラマチックな追跡の音楽を聴くことはできないが(incidental musicだが)、車のラジオから音楽が流れていれば、それを聴くことはできる(interpolated musicになる)、としています。

なお、このPRSの説明は、「interpolated musicとしての利用はグランドライツ利用である」とまで述べているわけでは、要するに、「PRSの管理上、こうした利用は権利者に別途確認を要する類型」と整理しているようです。権利者への確認により同利用につきPRSが許諾を出せると確認された場合、その使用料はPRSの料金表によるようです。

なお、外国曲のグランドライツ利用について日本で争われたのが、「ビートル・フィーバー事件」と呼ばれる事件です(東京地裁昭和54(1979)年8月31日決定)。これは、ビートルズに扮したメンバーが舞台上でビートルズの楽曲を演奏し、舞台中央のスクリーンにもビートルズやその活躍した時代の映像が流れるという公演について、英国の音楽出版社が差止めを求めたものです。公演主催者は、楽曲がJASRACに信託譲渡されているから音楽出版社に差止を求める権利はないと主張しましたが、裁判所は、この公演は「ビートルズそのものを描く音楽劇」であり、こうした演劇的な楽曲利用の権利はJASRACに預けられていないとして、公演差止仮処分を認めました。

※なお、本件は、英国の音楽出版社(OP:オリジナルパブリッシャー)が日本の音楽出版社(SP:サブパブリッシャー)に楽曲の管理権を付与し、日本の音楽出版社がJASRACに楽曲を預けていましたが、英国の音楽出版社が日本の音楽出版社に楽曲の管理権を付与する際に、本件楽曲を演劇上演において使用することの管理権は外されていた、という事案でした。

以上のように、「グランドライツ利用であるか」という問いは、究極的には「各国の集中管理団体が許諾を出せる利用であるか」を考えていくことといえます。

なお、本コラムでは触れませんが、グランドライツは放送にも及び得ます。グランドライツに関する国内の解説は数少ないものの、放送への言及を含め、国内の解説としては、福井弁護士の講演録「ライブ・エンタテインメントと著作権」(コピライトNo.534、2005年)や、福井建策・二関辰郎著『ライブイベント・ビジネスの著作権〔第2版〕』(CRIC、2023年、p.192–197)が詳しく論じています。

3.日本で作品を預けると、グランドライツだけを外せない―その不都合と解消の難しさ

(1) グランドライツだけを外して預けることの可否

外国ではグランドライツを除く演奏利用部分が集中管理団体に預けられていましたが、日本でもこのようなことは可能でしょうか。

JASRAC やNexToneの管理は、現在利用形態に応じた13の区分に分かれており、権利者はこの区分ごとに預けるか否かを選べます。逆に言うと、「この区分のうち細分化したここは預けたくない」ということには対応していません。

そして、13区分のうち「①演奏権等」には、グランドライツ利用に該当するものも含まれているため、楽曲をJASRACに預ける場合「①演奏権等」からグランドライツ部分だけを除外することはできません。NexToneも同じ13の区分に分けており、「①演奏権等」からグランドライツのみ除外できないことは同様です。

※例えば、JASRACの使用料規程第2章第1節1には、「上演形式による演奏」として「オペラ、ミュージカル、バレエなど演劇的音楽著作物等を上演形式により演奏する場合」の使用料規程も定められています。なお、これは国内曲など、JASRACが管理している場合についてです。

(JASRACが管理する13区分。JASRAC管理委託契約約款別表第1を参考に作成)

「①演奏権等」ごと信託範囲から外せばグランドライツを預けないことはできますが、この場合は当然、通常の演奏利用まで管理から外れてしまいます。そうすると、イベントで当該楽曲を流そうとする利用者はJASRACやNexToneへの申請ではできず、権利者の個別許諾が必要になり、結果として楽曲利用が広がらないおそれがあり、これは楽曲権利者にとって大きな不利益です。また、誰かが無断で演奏利用をしている場合もJASRACはこれを取り締まりも徴収もしないため、自ら権利行使をしていく必要があります。このように考えると、グランドライツを外したいから「①演奏権等」ごと外すという判断には踏み切りにくいのが実情と思われます。

(2) グランドライツだけを外せないことによる不都合
外国の作家にオリジナルミュージカル楽曲等を作ってもらう場合

こうした日本の管理を前提とした際の不都合がいくつか生じています。まず、海外の作家にミュージカル楽曲を作ってもらい、それを日本の音楽出版社で管理したい、という場合です。このとき海外の作家側から、「グランドライツは(欧米流に)管理団体には預けず、自分たちで直接管理したい」と要望されることがあります。ところが、JASRAC や NexTone の管理上、「①演奏権等」ごと外さない限り、グランドライツだけを切り出して外すことができません。

日本の音楽出版社はグランドライツをJASRAC/NexToneに預けたいわけではないものの、他の演奏利用について預ける以上はグランドライツも預けざるを得ない、しかしそれを説明しても外国の作家に難色を示されてしまう、となってしまうのです。外国の作家から、「それならば日本の音楽出版社には預けず、外国の音楽出版社に預ける」と言われることにつながってしまい、その交渉は大きな課題です。

海外主催団体にライセンスする場合

また、グランドライツを別管理とできないことは、制作したミュージカル作品を他の主催団体、特に海外の団体にライセンスする場面でも不都合が生じ得ます。

国際契約においてミュージカルをライセンスする場合、通常は楽曲を含むミュージカルの上演利用を許諾しますが、この際にライセンシーから「ライセンサーがライセンスする権利を有していること、上演利用について第三者から別途支払を求められないこと」の保証を求められることがあります。ライセンシーからすれば当然の要望といえるでしょう。

ところが、JASRAC/NexToneにグランドライツ利用を含む①演奏権等を預けている場合、日本の主催団体に楽曲の上演許諾を出す権利があるのか、さらに、仮に許諾を出しても、理屈上、JASRAC/NexToneとの契約に基づき海外の集中管理団体が上演利用に対して使用料を要求する可能性があるのでないか、といった問題が生じます。

かといって、ミュージカルのライセンスにおいて楽曲の上演利用をライセンス対象から外すことはあり得ませんし、そもそもライセンス対象から外して「グランドライツは日本では集中管理団体に預けられている、そのため、あなたの国の演奏権の集中管理団体を通じてミュージカル上演の利用料を支払ってください」といっても、上演国の集中管理団体が普段グランドライツを管理していなければ、そこにミュージカル上演の許諾申請をする窓口すらないでしょう。ライセンシーに対し「楽曲の上演利用は本契約の許諾対象から外し、別途権利処理もしなくてよいが、おそらく集中管理団体からの徴収はないから安心してください」などと説得するのも容易ではありません。

このように、現状ではJASRACやNexToneの管理方法と合致したライセンス実務をとることが大きな課題です。

なお、JASRACには、ミュージカル等の楽曲制作を委嘱した際、その依頼者(委嘱者)は「依頼の目的として掲げられた一定の範囲内で」当該楽曲の使用料免除を受けられるという仕組みがあります(JASRAC 管理委託契約約款17条2項(6)。いわゆる「委嘱免除」とも言われる制度)。

※なお、免除される範囲は公表資料で明記されていないようですが、JASRACに問い合わせたところ、演劇的音楽著作物の委嘱の場合、使用料免除の期間に上限はなく、初演・再演を問わず、依頼者と著作者との間で合意した期間の免除が可能なようです。

もっとも、あくまで「使用料の免除」であって、グランドライツ利用がJASRAC の管理から外れたわけではありません。使用料を免除されるのは依頼者(委嘱者)自身の使用と解され、本件のように委嘱者(日本の主催者)が第三者(海外の上演団体等)に楽曲の上演利用を許諾するとして、その第三者の使用が免除されるものではないようです。そのため、現状の本制度によっては、第三者にミュージカル作品をライセンスする際の不都合を完全に解消することはなお困難です。

現状、(JASRAC/NexToneの運用と解釈を合わせつつ)こういった不都合を解消する完全な方法は、筆者らが検討した限りでは見当たっていません。他方で、日本のミュージカルが海外で上演される(ライセンスを含む)例は、マンガ・アニメを原作とする2.5次元ミュージカルなどを中心に増えつつあります。現状の不都合は、こうした国際的な展開に影響を与える可能性もあります。

もし、JASRACやNexToneにおいて、少なくとも「ミュージカル・オペラ等の音楽的演劇著作物について、グランドライツ利用を(実質的に)管理から除外できる」といった選択肢があれば、この点の不都合は解消されるように思われます。もちろん、利用者にとってのわかりやすさ(※)など検討すべき点はあるとしても、日本のコンテンツの海外展開が声高に叫ばれる中、こうした管理方法について検討される機会も必要に思われます。

※なお、国内ミュージカル楽曲のグランドライツがJASRAC/NexToneに預けられていることは、一見、利用者にとって使いやすい制度ですが、そうとも言い切れないように思われます。例えば、あるミュージカルの全曲をそのままの順番で歌うことはJASRAC/NexToneへの利用申請だけで可能でしょうか。ストーリーが楽曲とともに進行するミュージカルでは、同じ楽曲をすべて同じ順序で使えば、結局は元のミュージカルと類似したストーリー展開になり、脚本の(無断)利用とならないか検討を要します。上述の「ジーザス・クライスト・スーパースター」事件では、米国の裁判所は、23曲中20曲を(ほぼ)原曲通りに演じれば、衣装や舞台装置を伴っていなくとも原作オペラを実質的に再現したことになる、としていました。もし脚本も利用していると考えた場合、「利用者がJASRAC/NexToneから演奏の許諾をもらい、その許諾の範囲で演奏したのに権利侵害となる」となり得ます。集中管理団体からもらった許諾の範囲で演奏したのに権利侵害になるとすれば、これはかえって利用者にわかりにくい制度であるのかもしれません。


以上

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