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コラム column

2022年4月22日

バラエティ

「メディア・エンタテインメント ローヤーってどんな仕事をしているんですか?
 ―新学期によせてー」

弁護士  小林利明 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

1 はじめに

弊所では月1回のメルマガ発行に合わせて所属メンバーがコラムを執筆していますが、私が4月発行のメルマガに合わせて執筆を担当するのは4年ぶりです。4年前の4月のコラムではやや専門的な話を取り上げたので、今回はそれと正反対なものにしようと思いテーマを考えることにしました。

4月といえば新年度です。筆者が非常勤講師を務める大学でも、本稿執筆時点で、学生の履修科目登録が行われています。新社会人も誕生し、異動や転職した方もいるでしょう。新しい出会いも増えます。そんな中で、オン/オフの場を問わずしばしば質問を受けることがあるのは、「エンタメローヤー(メディア・エンタテインメント業界の法務を中心的業務として扱う弁護士)って普段はどんな仕事をしているんですか?」という質問です。本コラムの読者には、将来エンタメローヤーになることに興味がある学生や司法修習生もいると思います。夏には毎年、数名のロースクール生が弊所にインターンにきてくださいます(現在今年度のインターン生募集中です)。彼らも同じような疑問を持っているのではと思います。

そこで今回のコラムでは、新学期によせて、主にエンタメ業界の法曹志望の学生を主要読者層として念頭において、メディア・エンタテインメントローヤー(以下では単に「エンタメローヤー」と書きます)が普段どんな仕事をしているのかをご紹介したいと思います。まだまだ経験不足の私が偉そうに語るのはおこがましいのですが、そこは学生向けということでご容赦いただければと思います。

2 メディア・エンタテインメント業務と弁護士の関わり方・期待される役割

(1)勤務形態からみた関わり方

弁護士一般についても言えることですが、エンタメローヤーも、勤務形態から分類すると、アウトサイド・カウンセル(特定の企業組織には属さず、通常イメージされる法律事務所の弁護士)と、インハウス・カウンセル(企業内弁護士)とに分けられます。今やインハウス・カウンセルという言葉は学生の間でも市民権を得ていると思いますが、メディア・エンタメ業界の企業でインハウス・カウンセルを複数抱える組織は今や少なくありません。これらの中間形態として、法律事務所からの「出向」として、外部法律事務所の弁護士がパートタイムのインハウス・カウンセルとして働く場合もあります。

(2)外部弁護士(アウトサイド・カウンセル)

エンタメローヤーとしてキャリア数十年という弁護士は、ほぼ外部弁護士(アウトサイド・カウンセル)でしょう。外部弁護士には、メディア・エンタテインメント業務のブティック事務所に所属する弁護士もいれば、事務所のカラーとは無関係に個人的にメディア・エンタテインメント業界のクライアントを抱える弁護士もいます。メディア・エンタテインメント業界の企業での社員としての勤務を経て、現在は外部弁護士として活躍している方もいます。

依頼企業において社内に著作権・契約管理部署の人員がある程度充実している場合、日常的に生じる案件は社内部員で処理することが多く、外部弁護士には、イレギュラー案件や会社としての経験値が少ない案件に関する相談、紛争案件、新規ビジネスに関する相談対応などが期待されることが多いと思います。他方、依頼企業の社内リソースが限られている場合、外部弁護士にはその会社のエンタメ業務の大半の契約書に目を通すことが期待される場合もあるでしょう。

(3)社内弁護士(インハウス・カウンセル)

社内弁護士(インハウス・カウンセル)には、司法修習終了後に新卒で入社する場合もあれば、業界を問わず外部で様々な法律実務経験を積み、ご縁のあったメディア・エンタテインメント企業に入社する弁護士もいます。もともとその会社の社員として勤務していた方が法曹資格取得後も引き続き弁護士資格ある社員として勤務する場合もあります。特にこのような社内弁護士は、その会社の文化・人事や、表沙汰にならない諸々のトラブルの裏側まで知り尽くしており、通常の外部弁護士よりも踏み込んだ関与が可能でしょう。なお、たとえば1年などの有期でフルタイムの社内弁護士として勤務する例もあります。

(4)パートタイム・インハウス・カウンセル

依頼者企業内で社内弁護士として月/週に〇日だけ働く、というパターンです。週3日午後だけ出勤するといった場合もあるでしょう。このような弁護士に求められる役割は上記(2)と(3)の中間的なもの、あるいはその双方となるのが一般的だと思います。社内の各案件担当者が随時抱える大小さまざまな相談に対応し、部門の業務が全体としてスムーズに回るような体制にしたいというニーズなどがある場合は、このようなパターンで「出向」することもあります。

(5)社内法務・契約部門の担当者

忘れてならないのは、この業界においても、現場担当者か法務契約部門担当者かを問わず、そして、法曹資格の有無とは関係なく、長い業界歴に裏打ちされた経験・知識が豊富な方がいることです。表にはできない話や様々な実務ノウハウ・対応例、特定の企業と付き合う上での不文律など、決して本には書かれない内容を一番持っているのは、実は彼らだと思います。もっとも、同じ業界の中でも、会社により「常識」はそれなりに異なる場合がある点には要注意です。



こうしてみると、弁護士としてのメディア・エンタテインメント業界への関わり方は様々であることがわかると思います。

3 メディア・エンタテインメントローヤーはどんな仕事をしているのか?

思い返せば、私自身も、実際に日々行っている仕事の内容・進め方、必要な知見などについて詳細なイメージを持ったうえで今の仕事を始めたわけではありませんでした。では、エンタメローヤーはどんな仕事をしているのでしょう。

(1)契約書作成・チェック

おそらく、どのエンタメローヤーも、契約書作成とチェックが仕事の一定割合を占めているでしょう。依頼内容は極めて多岐にわたりますが、各分野ごく一例を挙げれば、このような感じです。

【映画・映像】

・放送局・出版社・アニメスタジオなどが当事者となる映画の製作委員会契約
・原作権者と映像配信会社との間のコンテンツ配信許諾契約
・日本のコンテンツを米国で映画化するにあたり、日本の権利者を代理して交渉・締結する映画化オプション契約や、現地プロデューサーや脚本家を雇うための契約、投資のための契約

【音楽】

・音楽プロダクションとレコード会社との間の、原盤譲渡契約/原盤供給契約
・コンサート出演に関する契約、編曲者との間の編曲業務委託契約
・音楽配信事業者との間の音源配信許諾契約

【出版・マンガ】

・作家と出版社との間の出版契約、作家または出版社と海外出版社との間の翻訳出版契約
・マンガ原画の貸出展示契約
・マンガキャラクターを利用した商品化許諾契約

【ライブイベント】

・海外ミュージカルの来日公演の招へいに関する契約
・日本の人気舞台作品の海外リメイク上演に関する契約
・「2.5次元ミュージカル」への原作舞台化にあたっての契約

【美術・写真】

・美術作品をモチーフにした商品化契約
・美術品制作委託契約
・展覧会契約

【スポーツ】

・選手やスタッフとのチームとの所属契約
・選手やスタッフのサイドビジネスに関する契約
・スポンサーシップに関する契約

【その他】

・広告主や広告代理店との間の広告物制作に関する契約
・芸能事務所とタレントとの間の専属契約
・映画や番組への出演契約

(2)エンタメ業界の依頼者から依頼される、(1)以外の案件

相談は契約書作成・チェックに関するものだけにとどまりません。

たとえば、海外の法律事務所をアレンジすることも含めた外国進出方法に関する相談もあります。出版社の依頼で、出版前の本の原稿を読み著作権その他の権利侵害リスクについての検討をすることや、広告代理店/制作会社の依頼で、ある広告物デザイン案やパロディ広告についての権利侵害リスクについて検討することもあります。舞台製作者の依頼で税務当局と源泉税徴収の対象かどうかの事前折衝をすることやエンタメ現場の労務対応相談もあります。海賊版・模倣品対策、タレントの移籍・独立をめぐるトラブル対応、商標取得に関するアドバイスも日常的にあります。デジタル・アーカイブ化のための権利処理のサポートや、コロナ禍でのコンテンツ配信のサポートといったプロジェクトものもあります。

(3)エンタメ業界ではない依頼者からの知的財産・エンタメ関連相談

エンタメローヤーが日常的に仕事をする依頼者はやはりエンタメ業界の依頼者が多いわけですが、それにとどまりません。たとえば、自社の商品が作品中で使用されること(プロダクト・プレースメント)についての契約や、自社ウェブサイト上での第三者作成の素材の掲載の可否の検討などは業界を問わず問題となり得ます。また、企業規模の大小を問わず、日常のビジネスの場面における著作権、商標権や肖像権などに関する相談は多くあります。

規模の大きい企業ともなれば複数の顧問弁護士を使い分けているはずですが、弁護士が皆、著作権やパブリシティ権などに明るいわけではないので、そういった分野についての専門性を有する弁護士への相談ニーズがあるということなのでしょう。

(4)裁判等の紛争代理

紛争案件の相談や代理も日常的に行っています。パクった・トレースしたといった著作権侵害事案、著作権が誰に帰属するかが争われる事案、海外からの突然の著作権/著作隣接権侵害を主張する警告状への対応、海外で訴訟提起された場合のサポートなども業務の一部です。法的争点が知的財産法の特定の論点でないものでも、エンタメ事案に絡んだ通常民事紛争(業務委託料の請求事案など)もあります。

少なくとも日本においては、エンタテインメント業界では裁判沙汰にすることなく紛争を解決したいというニーズが特に現場サイドから強く、同じ依頼企業内でも法務部としては「言いがかりには毅然と対応するべき」というスタンスでも、現場担当者からは「たとえ言いがかりでも世間に知れて作品に傷がついたら負け」という発想でビジネスジャッジがなされることも珍しくないように思われます。また、経済合理性の観点からは説明が困難であるのに「気持ちの問題」が主な原因で話し合いによる解決ができず訴訟・判決に至るという事案も少なからずあります。なお、訴訟となった場合に裁判所にこの業界の常識や業界用語の使われ方を正しく説明するのも代理人弁護士の役目です。

(5)その他

その他にも弁護士の活躍の場はあります。たとえば、上述した企業の(パートタイム)社内弁護士としての出向です。また、法律業務ではないものの、大学の非常勤講師や各種講演・研修講師として著作権その他の知的財産権などに関する講義を行うことや、法律雑誌や業界雑誌への寄稿の場も多くあります。

4 エンタメローヤーには、どのような知識・能力が期待されるのか?

エンタメローヤーには、どのような能力が期待されるのでしょう。

(1)法律知識

法律家である以上は、法律知識を持っていることが期待されます。特に著作権法、商標法、不正競争防止法その他の知的財産法は頻出であり、必須知識です。肖像権・パブリシティ権の詳しい理解も欠かせません。

ただ、頻繁になされる法改正に常にキャッチアップし、一読しただけでは頭に入ってこない複雑な条文(特に著作隣接権に関するものなど)を理解しておくだけでも一苦労です。さらに、著作権法は、著作物性(著作権で保護される創作的表現であるかどうか)の有無、翻案権侵害(似ている・似ていない)の判断といった、著作権法における基本的な検討ポイントについても、同じ事件について地裁と高裁とで判断が180度違ったりすることもある難儀な法律です。パブリシティ権に至っては、それが譲渡可能であるのか、相続財産となるのかといった基本的性質についてさえも、現在の判例・学説上、確立した見解はありません。

しかし、このような不確実性の中でもメディア・エンタテインメントの在り方は常に進化します。そしてユーザーは新しい形態のエンタテインメントを楽しみ、新たなサービスを利用します。通常のユーザーは、そのサービスの仕様に従い使用することが違法行為となるなどとは考えないでしょう。しかしたとえば、他人のツイートした写真をリツイートしたりプロフィール写真に設定したところ、ツイッターの仕様で一部がトリミング表示されたことで著作者人格権侵害と判断されたり、スクショを添付して引用ツイートをした場合は適法な「引用」にあたらないと判断されたりするわけです(いずれも2020年から2022年の間に判決が出されています。)。知的財産法を扱う弁護士としては、日ごろから関連分野の社会動向に気を配り、最新の文献や裁判例もキャッチアップしながら、検討時点における技術常識・社会常識を踏まえて、いかに(ゼロ・リスクは困難であっても)リスク・コントロールをするかという視点での検討とアドバイスが求められます。それは簡単なことではなく、常に悩みながらの検討にはなりますが、法改正や新たな裁判例が出てくるのを待っている時間はありません。

メディア・エンタメ業界においては、知的財産法の知識は当然のこととして、労働法や独占禁止法の理解が、近時、これまで以上に重要になってきています。周知のとおり、エンタメ界のパワハラ・セクハラに関する報道は、社会の大きな注目を集めています。パワハラについては、中小企業の猶予特例期間が終了し、2022年4月からは、いわゆるパワハラ防止法が企業規模を問わず全企業に適用されるようになりました。2021年4月からは労災制度も拡張され、芸能実演家やスタッフのみならず、アニメーターも労災保険に特別加入することができるようになっています。これまで、労働法と独占禁止法は、お互いに「自分とは関係ない分野」と認識し、その学際的な研究も十分にはなされてきませんでした。平成30年に公正取引委員会が公表した「人材と競争政策に関する検討会報告書」の影響は大きく、少なくともこの報告書で触れられている範囲においては、エンタメローヤーとして独禁法の基本的な理解は不可欠といってよいでしょう(筆者の4年前の4月のコラムはこれを取り上げたものでした)。

金融商品取引法や資金決済法の理解も必要です。前者は、製作委員会契約や共同事業契約との関係で頻出です。条文のみならず、金融庁が公表するQ&Aやパブリックコメントにまで検討する必要があります。資金決済法については「投げ銭」との関係でしばしば検討が必要となります。

破産法の基本的理解も必要です。製作委員会のメンバーの一社が破産するということは、実はそれほど珍しいことではありません。組合契約の原則と、その契約による修正が、破産実務との関係でどの程度のリスクを含むものなのかについては、現時点では十分な研究がされているとは言えません。

税法の知識も欠かせません。特に源泉所得税に関する租税条約の適用、消費税のリバースチャージなどのほか、著作権の相続に関する相続税に関する知識なども必要です。

さらには、外国法に関する頻出の基本知識も必要です。日本法上の概念ではないけれども、日本国内での著作物の利用にあたり権利処理をしなければならないものもあります。映像業界では「シンクロ権」といわれるものがそれであり、舞台業界では「グランド・ライツ」と呼ばれるものがそれです。

これらすべてを学生時代に学んでおくことは、相当の勉強家でないと難しいでしょうし、期待されてもいないと思います。しかし実務に出ればすべて必要となり、最初は勉強しながら目の前の相談事案に対応していかなければなりません。上記のトピックについて詳細を知りたい方は、ぜひ弊所の過去のコラムもご覧になってみてください(こちらから探せます)。また、宣伝となり恐縮ですが、弊所編の「エンタテインメント法実務」(弘文堂、2021)はそれぞれの業界で実務上よく問題となる点を盛り込んだものですので、よろしければ手に取ってご覧いただければと思います。

(2)業界構造や業界のプレイヤーについての知識

次に必要なのは、業界構造や業界のプレイヤーについての知識でしょう。
たとえば、音楽業界では、次のような業界構造が見られます。

 (骨董通り法律事務所編「エンタテインメント法実務」115頁から抜粋)

こういった業界構造が頭に入っていないと、誰と誰の関係における何の権利の話をしているのかがパッとわからず、依頼者との会議にもついていけません。特に、実演家ないし著作隣接権に関連しては、様々な団体が存在し、通常、略称で呼ばれます。これらの団体の性質が頭に入っていないと、やはり何の権利を問題としているのかが頭に入ってきません。既存のエンタメビジネス構造や業界プレイヤーについての知識を持っておくことに加え、新しいエンタメビジネスについても、一通りの理解を常に持っておくことが望ましいといえます。

(3)業界常識・業界相場の把握と柔軟な対応力

業界常識・業界相場の把握も重要です。いわゆる規制業種ではないエンタメ業界は「官」のルールよりも「契約」が支配する世界であるうえ、他の業界と比べても相対的に不文律あるいは業界相場というものが通用しています(少なくとも、大学の法学部で使う法律の教科書にはほとんど書かれていない知識が業界では当然のように使われます)。法律の原理原則を理解することは前提として重要ですが、だからといって業界スタンダードを逸脱したスタンスに弁護士の視点で固執しては、進むべき案件も進まなくなり、案件を前に進めたい依頼者に迷惑がかかるだけです。そのためには、原理原則を踏まえたうえで、柔軟な対応力も重要になってきます。

5 さいごにーエンタメローヤーを志しているかもしれないあなたにー

エンタメローヤーの仕事の中心は、いうまでもなく、メディア・エンタテインメント業界関連業務です。もっとも、メディア・エンタメ業界の裾野は、時代とともに常に広がり続けています。今では当たり前となった映像配信プラットフォームも、10年前は普及していなかったと思います。YouTuber、VTuberと呼ばれる人達やNFT、メタバースといったビジネス(の種)も、わずか10年前には、今のようなかたちでは存在すらしていません。次から次へと現れる新しい技術とそれを背景に生まれる新しいエンタテインメントビジネスは、これまで検討されたこともなかった法的課題を常に含んでいます。それらの多くについて、成文法や裁判例は追い付いていません。エンタメローヤーが習得すべき知識や積むべき経験は早いスピードで変化します。

もっとも、これはエンタメ業界だけのことではないでしょう。特にコロナ禍は多くの業界・法分野でこれまでの実務慣習を大きく変えました。ただ、確実に言えるのは、どんな分野についてであっても、これまで培った議論の延長線上に、新しい議論があるということです。そして新しい議論をするときこそ、学生の皆さんも学んでいる法解釈手法である「法の趣旨からの解釈」をするわけです。その意味で、説教臭いことを承知で、学生の皆さんには、学問に王道なし、継続は力なり、とお伝えしたいと思います。そして、もし我こそはエンタメローヤーの道に進みたいという方がいるならば、ぜひその希望を実現してもらいたいと思います。その願いが実現される頃にはきっと、新しいエンタメビジネスが生まれており、あなたを必要とする新たなエンタメローヤーの仕事があるはずです。

以上

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