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コラム column

2022年3月31日

著作権IT・インターネットアートアニメゲーム出版・漫画

「ファンアートに関する二次創作ガイドラインの在り方を考える
-ネット上におけるファンアートと著作権法の関係を踏まえて-」

弁護士  田島佑規 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

 小学生の頃、とても絵が上手な友人がいた。彼は「とっとこハム太郎」のキャラを愛しており、ハム太郎と仲間たちが行うオリジナル野球漫画を描いては私に読ませてくれた。他にも「ONE PIECE」に出てくるキャラクター「シュシュ」を主人公にしたオリジナル漫画を描いていたこともあった。私は彼の作品をいつも楽しみにしており、新作がでるたび一心不乱に読んだ。青春の一コマである。
 彼のそうした作品づくりは今思えば二次創作と呼べるものだったのかもしれないし、最近よく耳にするフレーズでいえばファンアートとも呼べたのかもしれない。ファンアートとは法律用語ではなく、使われる場面や立場などによって様々な意味やニュアンスで用いられているように思われるが、ひとまずここでは「他人が創作した(あるいは他人がその権利を有する)キャラクターデザインを用いて描いたイラスト・漫画作品」と定義し、以下話を続けたいと思う。
 こうしたファンアートは上記の青春の一コマのように、インターネット登場以前から、多くの人が自分用もしくはごく身近な人に見せる用として描き、楽しんできたように思う。そして、自分用あるいはごく身近な人に見せるためだけにファンアート作品を生み出す行為の多くは、著作権法上も「私的使用のための複製・翻案(著作権法30条、47条の6)」により適法として扱われるといえるだろう。
 しかし、こうした状況はインターネットやSNSの普及により一変する。現代では描いたファンアートは(その多くは匿名で)TwitterやInstagram、pixivなどに投稿されることで拡散されるものも多い(たとえばTwitterでいえば1万フォロワー以上を有しているファンアート投稿アカウントは数多く存在するし、投稿によっては1万以上のいいねやリツイートがされることも珍しくはない。)
 最近ではファンアート界隈が盛り上がることで、原作の知名度や売上を押し上げるといった例も少なくなく、界隈が盛り上げるようなキャラクターであることは原作者や権利者にとってもメリットが大きいという場面もあるだろう。たとえば、昨今でいえば「呪術廻戦」「東京リベンジャーズ」「ウマ娘」などはこうした代表例といえるかもしれないし、2025年万博公式キャラクター(通称“いのちの輝きくん”)も2022年3月22日に発表されるや否や、わずか一日ほどでTwitterを中心に数多くのファンアートが生み出された


2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)公式キャラクター


Googleにて「いのちの輝きくん ファンアート」と画像検索した結果
多種多様な作品が確認できる

 この“いのちの輝きくん”は、そのビジュアルから賛否両論あるが、創作意欲を刺激し界隈が盛り上がるようなキャラクターを目指したというのであれば、少なくとも現状は大成功といえるだろう(興味のある方は「#いのちの輝きくん」で検索してもらいたい。その作品数は日夜増え続けている。)
 と、ここまで読んだ読者は、「ファンアートがSNSを中心に多数投稿され、場合によっては拡散されることは、投稿者側にも原作者や権利者側にもメリットばかりじゃないか。よかったよかった」と思われるかもしれないが、実はそう単純なことではない。
 本コラムにたどり着いたような方の多くは、おそらく次の言葉を聞いたことがあるだろう。「ファンアートや二次創作はグレーである。」

■ファンアートや二次創作がグレーとは?

 まずこの言葉を用いられるときには以下の3パターンが含まれているように思う。

① 著作権侵害かどうか微妙な場合
② 著作権侵害ではあるが、ローカルルールには反していない場合
③ 著作権侵害ではないが、ローカルルールに反している場合
※ なお、この「ローカルルール」は概念自体も相当に曖昧であり、その中には普遍的な広がりを持つもの、規約などで明記されたもの、ごく一部の集団の仁義のようなもの、マナーとして解釈に幅があるものなど実に様々である。ひとまず本コラムでは、このうち界隈において普遍的な広がり持っていると思われるようなものをローカルルールとして想定し以下話を続けたい。

 この「ファンアートや二次創作はグレー」という問題が非常にややこしく、面倒だと思われている理由には、以上の3パターンがきちんと認識されていないこと、そして著作権侵害といういわば法律違反の話をしているのか、それともローカルルール違反の話をしているのかを区別あるいは理解せずに議論がなされていることに一端があると思われる。
 そこで本コラムでは、まず「ファンアートのネット上への投稿が著作権侵害になる場合」の整理を行う。その上で昨今、増えてきている二次創作ガイドラインの意義に触れ、その在り方や内容をどう定めるべきか(実験的に常識ガイドラインなどという概念も提示した上で)思案してみたいと思う。

■ファンアートをネット上に投稿することが著作権侵害になる場合

 結論からいえば、権利者の許諾なく、原作のキャラクターデザインの特徴を踏まえて描いたファンアート作品をインターネット上に投稿することは、その多くが著作権侵害といえるだろう。
 例外としては、著作権が保護するのは具体的な特徴的表現であるため、たとえばキャラクターデザインの根底にあるアイデアや、ありふれた表現の借用に留まる限りは、たとえ特定の作品が連想されるとしても著作権侵害とはならない。もっとも言うまでもなく、どのようなレベルだとアイデアの借用に留まり、どのレベルだと特徴的表現も借りたことになるのか、その境界線はときに曖昧で、著作権侵害となるか微妙なケースというのも存在する(この点、詳しくは福井弁護士によるコラム「有名作からの「記号的借用」と著作権~『ポプテピピック×サイコガン』事件覚書」も参考にしていただきたい。)
 その他にも(ファンアートの場合ほぼ考えにくいが)著作権法上の「引用」が成立するような場合、著作権の保護期間が終了しているキャラクターデザインを用いた場合などは著作権侵害が成立しない。
 ただ実際にSNSなどで見かけるファンアートで、権利者からの許諾がなくとも著作権法上問題がないと思えるものは決して多くはないといえるだろう。
 なお、後述の二次創作ガイドラインの話にも繋がるが、権利者からそうしたファンアートをネット上に投稿することについて許諾がある場合には当然ながら著作権侵害ではない。

 ここでよくある質問や疑問に「非営利であれば問題ないのでは?」というものがあるが、ネット上にアップロード(投稿)するという使い方の場合、それが非営利目的であっても著作権侵害という結論は変わらない。この点、ファンアートや二次創作界のローカルルールにおいて、そのファンアート作品により金銭的対価を得ていなければ問題ない(実費や経費以上の利益を得ていなければよい)といったものが一部存在するようであるが、これはローカルルール上の話であり、著作権侵害かどうかとは関係がない。

■投稿者側の不安定な現状

 上記のとおり著作権侵害となるケースも少なくないにもかかわらず、なぜファンアートをネットやSNS上に投稿することが広く行われているのかという疑問が生じる(なお以下ファンアートを制作し投稿する者のことを「投稿者」という。)
 これはひとえに「非営利目的などによる適正なファン活動の範囲内やローカルルールの範囲内での活動であれば権利者は黙認してくれるであろう」という信頼?が存在するからと説明される(もちろん中には、権利者から著作権侵害の主張を受けても構わないと考えている投稿者もいるだろうが、おそらく少数だろう。)
 ただし、この「権利者が黙認しているかどうかはっきりとはわからない」という現状は投稿者を極めて不安定な立場におくものであることは間違いない。
 すなわち、投稿者側としては、「権利者から著作権侵害の主張をされるかもしれない(場合によっては損害賠償のような事態になるかもしれない)」、また仮に権利者が何も言わなくとも「著作権侵害という指摘を第三者からうけ炎上などするかもしれない」といったリスクが常につきまとう。さらに「権利者が本当に黙認(お目こぼし)しているのか」「たまたま発見されていないだけなのか」「実は禁止したいと思っているがコスト面を考慮し法的措置をとっていないだけなのか」など、権利者側の意向が全くわからずファンアートを投稿するにあたってのリスク評価が困難という側面もある。
 (なお、多くの投稿者は、そもそも原作のファンであるため、もし原作者や権利者側が嫌がっているとわかれば、すぐさま投稿をやめる者も多いだろう。)
 以上のような現状を踏まえ、実際の投稿者やファンアートの投稿を考えている者の中には、可能ならば「版権元」(原作者や権利者)の意向を知りたいと願っている者は相当数存在すると考えられる。
 したがって、権利者側としても、特にファンに楽しんでもらえるのであれば一定の範囲なら問題ないと考えているケースや、ファンアート界隈が盛り上がることで、原作の知名度や売上を押し上げる可能性があるのであれば歓迎と考えているケースであれば、ファンアートを認める内容の意向を示すメリットがあるだろう。

■二次創作ガイドラインの意義

 それではいかにしてこうした権利者側の意向を示すかであるが、もちろんファンアートの投稿を希望する者からそれぞれ許諾申請を受け付けることとし、それを個別に審査、詳細な条件と共に許諾を出していくなどという選択肢もあろうが、何を断って、何を認めるか、その回答が厄介な問題になりやすいといった側面や、コスト面などからおよそ現実的でないことがほとんどであろう。
 そこで出てくる一つのアイデアが、事前に二次創作ガイドラインを策定し公開してしまうという方法である。すなわち、権利者側として二次創作ガイドラインを定め、そのガイドラインで定められた範囲内であれば、ファンアートの投稿をあらかじめ許諾するという形だ。(なお、その他のアイデアとして「同人マーク」といった試みも存在する。)
 これによりガイドラインの範囲内でファンアートをネット上に投稿することは、権利者による事前の許諾があるものとして、著作権侵害ではなくなる(あるいは権利者側が著作権侵害の主張をしないことが保証される)という理屈である。
 (なお、二次創作ガイドラインの役割やガイドラインに違反した場合の法的リスクなどについては弊所橋本弁護士による『ウマ娘の二次創作にガイドライン「暴力や性的描写はダメ」守らなかったらどうなる?』なども参考にしていただきたい。)

■二次創作ガイドライン策定に関する現状と課題

 実際に上記のような状況やニーズをうけ、近年多くの企業において二次創作ガイドラインや著作権に関するガイドラインを公開する例が増えている(「二次創作ガイドライン」などのワードにて検索すると各企業が公開する実に多くのガイドラインを確認できる。)
 しかし、ファンアートや二次創作の対象となるようなコンテンツを有する企業の大多数が、二次創作やファンアートを一定の範囲で認める方向のガイドラインを公開している状況かと問われると、必ずしもそうとはいえないであろう。
 その原因としては、概ね以下のような事情があると推察される。

・企業内において、事前にどの範囲までの二次創作を許容し、どこからを範囲外とするかの線引きを明確に意思決定すること自体が困難
・上記線引きをしようとすると極めて詳細な内容のガイドラインを準備する必要があり、(少なくとも現時点で)そのためのリソースが不足(あるいはリソースを割いてまで、ガイドラインを制定する必要性がないと認識している)
・上記線引きを突き詰めれば、結局のところ極めてあいまいな内容(極端にいえば権利者がオッケーと判断するものはオッケーなど)に行きつき、それならわざわざ公開する意味はないという結論に達している
・一度ガイドラインを出してしまえば、当該ガイドラインで禁止としなかった事項(ガイドラインに書き漏らした事項)は許諾ありと判断され、事後のケースバイケースの対応が不可になってしまうのではないかというリスクを考慮

 上記のような事情が存在することは、たとえば「二次創作やファンアートは非営利目的に限り許容する」といった内容であっても、突き詰めて条件を定義しようとすると、「制作にかかる実費や経費までは得てもいいのか(利益を出さなければいいのか)」「無料であればファンアートをグッズ化して広く配布してもいいのか」「ファンアートそのものから対価を得ていないが、商品の販促目的やクリエイター自身の宣伝目的(たとえばポートフォリオ掲載など)で使用するのはよいか」「商業施設や飲食店においてファンアートを展示するのはどうか」など、ざっと思いつく限りでも多数の論点がでてくることを思えば、決して的外れなものではないと理解いただけるだろう。
 (なお、上記で例としてあげた非営利目的という点については、株式会社ニトロプラスが定める「非営利的な二次創作活動におけるガイドライン」などでは、かなり詳細な条件が定められている。ただ、これだけ詳細な条件を各企業がガイドラインという画一的な形で定め公開することは上記のような事情から困難な場合も多いであろう。)

■曖昧な内容のガイドラインであれば公開する意味はないのか

 ファンのためにはファンアートに関する何らかのガイドラインを公開した方がよいことはわかっているが、上記のような事情から明確に線引きを提示することは困難であり、ひとまず保留しているという企業も多いであろう。
 そんな中、おそらく関係各所に衝撃を与えたと思われるのが(二次創作やファンアートという文脈ではないものの)スタジオジブリ作品の場面写真の提供開始の際に付された文言「常識の範囲でご自由にお使いください。」というものである。
 「こんな曖昧な文言を公開してなんの意味があるのか?」という声が聞こえてきそうであるが、よく考えてみると実はこれまで述べてきた投稿者側の不安定な状況を少しでも拭い去りたいというニーズと、権利者側(企業側)のファンアートなどに関し詳細な線引き(条件)を定めるのは困難であるが、ファンのためにもできることなら何らかの意向は示したいというニーズのバランスを図る上では、一つの解決策となる可能性を秘めているようにも思われる。
 たとえば、「ファンアートに関する投稿は常識の範囲内で行ってください」といったメッセージのみをシンプルに記載したガイドライン(以下「常識ガイドライン」という)を公開すれば、権利者側としては、一定の範囲内でのファンアートの存在を認めることは表明しつつも、今後なされる具体的なファンアートの投稿や利用に対しては引続きケースバイケースの対応が一定程度可能になる(たとえば権利者として望まない内容のファンアートが投稿されたようなケースにおいて著作権侵害の主張をする余地を残すことが可能になる)と考えられる。
 他方、投稿者にとっては、(もちろん常識の範囲とは?という点に曖昧さは残るわけだが)作者や権利者はファンアートを完全に排除しようとしているわけではないという意向がわかり、かつ、少なくとも原作のイメージを損なうような内容や公序良俗に反するような内容ではないファンアートを非営利目的でSNSに投稿する程度であれば問題ないだろうといった予測が立つ(なお、この予測はあくまで私が一個人として考える常識の範囲内であり、弁護士としての法的見解ではないことをご留意いただきたい。)

 どうしてもファンアートや二次創作を一定程度許容する範囲でのガイドラインを策定しようとすると、ある程度緻密に、かつ、一義的・網羅的な内容を定めないといけないと考えがちである。もちろんそうした姿勢は、一般にこうしたガイドラインなどを定める上では極めて重要なものである。しかし、たとえばファン活動を少し後押しする目的で、少なくともファンアートに関する権利者側の最低限の意向(完全に拒絶しているものではないこと)を示し、投稿者側でも多少はリスク評価を可能とし、著作権侵害行為をしているという後ろめたさを軽減させる意味においては、こうした曖昧さの極みともいえる「常識ガイドライン」のような形でもひとまず公開する一定の意味はあるのではないだろうか。

■おわりに

 元々この常識ガイドラインが一定程度有用な場面もあるのではないかという点は、私が運営するデザイナー法務小僧の記事でも2020年9月当時コメントしたところである。当該記事の中で、「常識の範囲でご自由にお使いください」といった常識ガイドラインというスキームは、太古の昔から「和を以って貴しとなす」を得意分野とし、阿吽の呼吸・空気を大切にする日本人にとって、実はとても扱い易いものとすらいえるのかもしれないなどと愚考したが、結局のところ上記スタジオジブリによる公表以降、大して広がっていないように思われる。
 (この点、たとえば「東方Projectの二次創作ガイドライン(更新日:2021年7月8日)」の冒頭では、「個人でのファン活動としての二次創作は、常識の範囲内で基本的に自由です。」との一文が記載されているが、その後に遵守すべき条件が記載されており、まだ本コラム執筆時点においては、ファンアート・二次創作に関して完全な「常識ガイドライン」の存在は確認できていない。仮にその存在を知ってるよ!という方がいれば、ぜひともご教示いただきたい。)
 少なくとも現状においては、常識ガイドラインのようなスキームはあまり浸透していないようであるが、上記「はじめに」でも述べたとおり昨今その存在感を増しているファンアートに関しても、このような常識ガイドラインの考え方が一定程度使える場面があるかもと再度投げかけを行ってみた形である。
 いずれにしても本コラムが多数のローカルルールも存在するファンアート・二次創作界において、著作権法の正しい理解を前提に、作者や権利者とファンとが幸せな関係を築いていける一助となることを願っている。

以上

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