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コラム column

2022年10月27日

著作権裁判IT・インターネット映画出版・漫画

「ファスト映画
 ~引用・二次創作・ネタバレについて寄せられた疑問等~」

弁護士  小山紘一 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

1.ファスト映画とは

皆さんは、ファスト映画という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

映画を無断で短く編集した動画(キャプチャ画像を相当数用いたスライドショー動画のようなものもあります)のことです。正式な定義があるわけではありませんが、映画の内容全体を10分程度にまとめたYouTube投稿動画を指してファスト映画(ファストシネマとも)と呼ばれるようになりました。
視聴回数を増やして広告収入を稼ぐため、単に映画を短くまとめるだけでなく、字幕やナレーションといった元の映画にはない表現が追加され、映画の内容全体を分かりやすく説明する工夫が凝らされたりもしています。

ファスト映画の「ファスト」とは、時間の短さや手軽さを意味する「fast」のことです。注文してからの待ち時間が少なく、手早く食べられる食料品を指すファストフード(fast food)や、流行の最先端をいち早く取り入れ、短いサイクルで生産・販売される低価格の衣料品を指すファストファッション(fast fashion)になぞらえて、短時間で手軽に映画の内容を知ることができる動画がファスト映画と呼ばれています。

このようなファスト映画は、一部の人たちに非常に好意的に受け止められ、かなりの回数視聴されました。しかし、ファストフードやファストファッションは「違法なもの」といった意味を含みませんが、他人の映画を無断で編集したり多数のキャプチャ画像を借用しているようなファスト映画は、基本的には「違法なもの」ですので注意が必要です。

2.ファスト映画の違法性

ファスト映画は、2021年6月23日に初の逮捕者が出たことでその違法性が広く知れ渡るようになりました。刑事事件になったようなファスト映画は、他人の著作物である映画を無断で編集したうえで字幕やナレーションを付け加えたものであるため、その作成は翻案権(27条)の侵害、YouTube等への投稿は原著作権者の公衆送信権(28条、23条1項)の侵害に該当します。仮に、ファスト映画の作成に新たな創作的表現の付加が認められない場合には、複製権(21条)の侵害と公衆送信権(23条1項)の侵害に該当することになります。

他人の著作物への全面的なフリーライドであるファスト映画については、引用(32条)その他の権利制限規定に該当するケースはほとんど考えられず、基本的には著作権法に違反するものとして違法です。

以上は、財産権である著作権に対する侵害についてですが、ファスト映画の作成は、人格権である著作者人格権(同一性保持権)に対する侵害も問題となります。映画の著作権は映画製作者に帰属しますが(29条1項)、映画の著作者は監督やプロデューサー等の「映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」であり(16条)、映画の著作者人格権はこれらの者に帰属します(17条)。詳細は割愛しますが、映画製作者への著作権侵害とは別に、監督やプロデューサー等への著作者人格権侵害も問題となることに注意が必要です。

3.ファスト映画の被害

刑事事件になったようなファスト映画は、2020年春頃からYouTubeへの投稿が目立つようになりました。ファスト映画を専門的に扱うチャンネルが開設され、組織的に反復継続してファスト映画が作成・公開されるようになったのです。初期段階の2020年春時点では、ファスト映画の専門チャンネルは10ほどでしたが、コロナ禍による巣ごもり需要の増加や効率よくコンテンツの情報を得たいといった消費者心理の拡大ともあいまって、それから1年で専門チャンネルの数も作成・公開されるファスト映画の数も急増しました。

このような事態を受け、映画やアニメといったコンテンツ企業などでつくるCODA(コンテンツ海外流通促進機構)が実態調査を行いました。そうしたところ、2021年6月時点では、55もの専門チャンネル、4億7700万回超の累計再生回数が確認されました。これらをもとに著作権法の規定(114条3項)により算出された損害額は、950億円超というものでした。

合計8000万回以上再生されているチャンネルもあり、侵害コンテンツによって、多額の広告収入を稼いでいる人物がいることも分かりました。このような状況を野放しにしていては、映画業界への損害が拡大し、映画文化へも深刻な影響が及んでしまうという危機感から、映画会社等が対応に乗り出すことになりました。

4.ファスト映画に対する刑事手続

まず、映画会社は、特に悪質なファスト映画専門チャンネルの運営者を刑事告訴しました。

それを受けて、2021年6月23日、宮城県警が、映画の映像を無断で短く編集した「ファスト映画」をネット上に投稿したとして、3名を著作権法違反の疑いで逮捕。3名とも仙台地方裁判所に起訴されました。

2021年11月16日、仙台地方裁判所は、この3名に対して、有罪判決を言い渡しました。 具体的な宣告刑は以下のとおりです。
被告人A 懲役2年(執行猶予4年)及び罰金200万円
被告人B 懲役1年6月(執行猶予3年)及び罰金100万円
被告人C 懲役1年6月(執行猶予3年)及び罰金50万円
3名とも控訴せず、仙台地方裁判所の判決が確定しています。

また、この3名以外にも、別の1名が、2022年2月15日に逮捕されており、第1審で懲役2年(執行猶予4年)及び罰金200万円の有罪判決が言い渡されています。

5.ファスト映画に対する民事手続

2021年11月16日に仙台地方裁判所が3名に下した有罪判決は決して軽いものではありません。しかし、この3名は少なくとも700万円の広告収入を得ていたのに対して、罰金の合計額は350万円でしかありません。そして、3名とも、前科がないこと等の事情が斟酌されて、懲役刑については実刑を免れています。

そのため、この刑事判決だけでは、侵害者の手元に他人の著作権を侵害して得た収入が残る形になってしまい、実刑にならない初犯の著作権侵害は「やり得」といったことにもなりかねず、将来の著作権侵害につながるおそれがありました。

また、この3名が運営していたファスト映画専門チャンネルでの被害作品の総再生回数は1000万回以上であり、算定額20億円以上の損害についても対処が必要でした。

そこで、被害を受けた各映画会社は、共同原告となり、これらの3名に対して、著作権侵害に基づき約20億円の損害賠償の一部請求として5億円の支払いを求める民事訴訟を提起しました。

当該民事訴訟については、筆者も、前田哲男弁護士(染井・前田・中川法律事務所)、中島博之弁護士(東京フレックス法律事務所)とともに原告代理人を務めています。

6.ファスト映画に関して寄せられた疑問

⑴ 許諾のない引用は全部ダメなのか?

ファスト映画の民事訴訟の原告代理人を務めていることもあり、筆者のもとにはファスト映画に関するさまざまな疑問が寄せられました。その中の主なものについて、紹介します。

ファスト映画については、一部において「引用」(32条)として許されるのではないかとの見解が示されていました(2022日2月15日に逮捕された1名も、当初「引用の範囲内で、違法ではないと思う」と容疑を否認していました)。しかし、ファスト映画に対して刑事罰が科されたことで、権利者の許諾のない引用は全部ダメなのかといった疑問の声が寄せられました。

「引用」とは、「公正な慣行に合致すること、引用の目的上、正当な範囲内で行われることを条件とし、自分の著作物に他人の著作物を引用して利用することができる」というものであり、認められるためには一定の要件を満たさなければなりません。他人の著作物への全面的なフリーライドであるファスト映画の場合は、到底「正当な範囲内」とは言えず、そもそも「引用」として認められません。仙台地方裁判所も「引用」に当たるかを論じることなく、2022年11月16日の有罪判決を言い渡しています。ファスト映画に刑事罰が科されたことは、権利者の許諾のない引用がダメかということとは無関係です。

そもそも「引用」は許諾がなくても著作物を利用できる場合の話であり、著作権法上の要件を満たした「引用」の場合は、許諾がなくとも適法ですのでご安心ください。なお、「引用」の詳細については、本コラムでは割愛させていただきますが、福井弁護士のコラムをご参照ください。

⑵ 二次創作は全部ダメなのか?

ファスト映画の典型的なものは、元の映画を翻案した二次的著作物です。ファスト映画に対して刑事罰が科されたことで、二次創作は全部ダメなのかといった疑問の声も聞こえてきました。

結論から言えば、二次創作が全部ダメということではありません。二次創作という用語は法律用語ではなく極めて多義的ですが、非常におおざっぱに言えば既存の作品をもとにして新規の作品を創作することです。その中で、既存の作品の創作的な表現に依拠して類似の作品を創作するものについては、複製権(21条)の侵害や翻案権(27条)の侵害に該当し(新たな創作的表現の付加がない場合が複製権侵害、ある場合が翻案権侵害)、無許諾で行った場合は基本的に著作権法違反となります。しかし、既存の作品をもとにはしているが、創作的な表現に依拠していない場合、依拠はしているが類似していない場合(既存の作品の創作的な表現の本質的特徴が直接感得できないようになっている場合)等については、著作権法違反とはなりません。

この点については、知財高裁2020年10月6日判決が参考となります。この判決は、大量の同人誌を無許諾でサイト上に掲載していた会社に対して、同人誌の作家が、公衆送信権侵害を理由に、損害賠償を請求したという民事事件についてなされたものです。問題となった同人誌は二次創作作品でしたが、知財高裁は、判決の中で、原著作物の主人公等の名前や場面設定等を流用したにすぎない同人誌には、著作権侵害(複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵害)が成立しないという判断を行っています。

ひとくちに同人誌と言っても、オリジナル作品もあれば、二次創作作品もあります。そして、二次創作同人誌のなかにも、原著作物の創作的な表現について依拠性・類似性が認められ複製権侵害や翻案権侵害が問題となりうるものもあれば、原著作物の名前や場面設定等を流用したにすぎず著作権侵害が問題とならないものもあります。同人誌は法律上グレーゾーンといった言われ方をする場合がありますが、完全にホワイトなものも多いということをきちんと理解しておくべきです。二次創作が著作権法上問題となるかは、他人の著作物の創作的な表現への依拠性・類似性が認められるかという基準で判断されるということを覚えておいてください。

また、日本では、オリジナル作者の黙認のもとで数多くのファンアートが生み出されており、豊かな二次創作文化が発展してきたということも知っておく必要があります。二次創作出身のオリジナル作者も少なくなく、またオリジナル作品と共存可能な二次創作も多いため、広く寛容的利用が認められてきたと言えます。しかし、そのような日本においても、権利者が受け取るべき対価を不当に奪う海賊版が認められることはありません。

刑事事件になったファスト映画が許されなかったのは、「映画の著作権者が正当な対価を収受する機会を失わせ、映画の収益構造を破壊し、ひいては映画文化の発展を阻害しかねないもの」(仙台地方裁判所2021年11月16日判決)であり、実質において海賊版に近いものだったというのが一つの大きなポイントと言えます。

⑶ ネタバレは全部ダメなのか?

ファスト映画は、映画の内容全体を10分程度で分かるようにした動画であるため、ネタバレ(作品の内容や結末が露見すること)の一種です。ファスト映画に対して刑事罰が科されたことで、ネタバレは全部ダメなのかといった疑問・不安もあったようです。

その疑問に対する答えは、「全てのネタバレがダメ(違法)というわけではなく、ダメなケースとダメでないケースがある」です。二次創作と同様、ネタバレがダメ(違法)かダメでない(適法)かは、著作権法上は、ネタバレをしているコンテンツ(動画や画像、文章等)が、他人の著作物の創作的な表現への依拠性・類似性が認められるかという基準で判断されることになります。

刑事事件になったようなファスト映画は、他人の著作物の創作的な表現への依拠性・類似性が認められますので、著作権法上ダメ(違法)です。

また、インターネット上では、コマ部分(絵と台詞)を利用した漫画のネタバレもよくみかけますが、他人の著作物の創作的な表現への依拠性・類似性が認められますので、著作権法上ダメ(違法)です。ただし、漫画のコマを利用したネタバレについては、ネタバレをしているコンテンツ全体に占めるコマ部分の割合等によっては「引用」の要件を満たす場合も考えられますので、そのような場合には適法です。

漫画のネタバレについては、コマ部分を利用しておらず、台詞だけを抜き出したもの(絵がないネタバレ)も存在します。しかし、台詞だけであっても言語の著作物(10条1項1号)として著作権法上保護されていますので、台詞をそのまま利用すれば複製権侵害になります。ただし、これについても、「引用」の要件を満たす場合が考えられ、そのような場合には適法です。

著作権法は、創作的な表現を保護するものですので、他人の作品の創作的な表現を用いずに、自分の言葉等で作品の内容や結末を情報発信する場合は、著作権法違反にはなりません。「犯人はAだった」や「Bは何話目で死ぬ」といった情報発信は著作権上は問題ないと言えます。

しかし、著作権法上の問題がなくとも、作品の公開前のネタバレについては、営業秘密にかかる不正行為として不正競争防止法上の問題が生じる可能性が指摘されているので気を付ける必要があります。また、作品の作成や流通に関与した者が行うネタバレについては、守秘義務違反等の契約上の問題もあり得ます。

また、法律上の問題がなくとも、ネタバレをしてしまったことで、マナー上の問題を指摘されたり、人間関係上の深刻な問題に発展するケースもあるので、細心の注意が必要です。

漫画のネタバレについては、田島弁護士のコラムもご参照ください。

7.終わりに

⑴ 著作権侵害をしないために

ファスト映画の刑事事件及び民事事件を受けて、著作物等の利用者から、「著作権侵害をしてしまっていないか心配である」といった相談が数多く寄せられました。著作権侵害にならないかどうかは、基本的には、以下のような判断フローになります。

 ① 対象が「著作物」である
 ② 著作権の及ぶ「利用」である
 ③ その利用が権利制限されていない
 ④ 権利が存続中である

上記①~④の1つでもNOの場合(ちょっと分かりにくいですが「③がNO」というのは「権利制限されている」ということです)、著作権的には、無許諾で他人の作品を用いることができます。他方、上記①~④の全部がYESの場合、無許諾で他人の作品を用いることはできません。必ずしも判断が容易ではありませんが、著作権侵害を心配されている方は、上記の判断フローを頭の片隅に置いておいていただけるとよいかと思います。なかなかスパッと判断はできませんが、①~④の全部がYESになりそうな場合は、専門の弁護士等への相談をおすすめします。

⑵ 著作権侵害をされないために

利用者からだけでなく、著作物の権利者からも、「著作権侵害をされないためにはどうしたらよいのか」といった相談が数多く寄せられました。

なかなか難しい相談ですが、著作権侵害をされないためには、侵害された場合に決して放置しないということが大切です。ファスト映画に関しては、捜査の中で、「著作権侵害申告を行った映画会社をリストアップし、それらの会社を避けて投稿作品を選定していた」との供述がなされています。この供述は、「著作権侵害を放置していると被害を拡大させてしまう」ということを端的に示すものであり、迅速かつ適切に対処することがいかに重要であるかを痛感させるものです。

著作権侵害をされた場合の具体的なアクションについては、文化庁の「海賊版対策情報ポータルサイト」が非常に参考になります。海賊版被害に限らず、著作権侵害の被害全般に関して参考になるポータルサイトです。削除要請の詳細やその他の手段・方法を知ることができますし、相談窓口(相談受付フォームに入力すると、原則として、10日以内にメールで回答が得られます)もありますので、是非ご覧ください。

ある程度の対処であれば情報収集しながら自分で可能ですが、やはり専門の弁護士等に相談するというのが最も効率的で効果的です。日本の権利者は、レピュテーションを気にして訴訟や表立った権利行使を避けることが多くありますが、そういったレピュテーションリスクを踏まえた対処も可能です。状況に応じて、専門の弁護士等への相談もご検討ください。

著作権侵害をされた場合、権利行使が費用倒れになる可能性があるのは否定できません。しかし、何もしなければ被害を拡大させてしまいます。著作権侵害への対処は、過去の損害の回復という観点のみにとらわれず、将来の被害の防止という観点からも検討を行うことが重要であるということをご理解いただければと思います。

以上

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