2026年4月30日
「長年の論争に終止符!? 実用品の著作物性」
弁護士 岡本健太郎 (骨董通り法律事務所 for the Arts)
2026年4月24日に、量産実用品の著作物性に関する最高裁判決がありました。実用品などの中でもデザイン性その他の美的要素のあるものは、応用美術とも呼ばれてきました。きのこの山vsたけのこの里、邪馬台国の所在地など、世の中には数多の論争があり、著作権法界隈では、応用美術の著作物性に関する論争がその一つです。今回の最高裁判決は、この長年の論争に終止符を打つものです。
本コラムでは、その概要を纏めつつ、影響を考えてみました。
◆著作物性
今回の最高裁判決は、量産実用品の著作物性、すなわち、量産実用品が著作物になるか否かの判断基準を示しました。
そもそも「著作物」とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術、音楽の範囲に属するものです(著作権法2条1項1号)。言語(小説、脚本、論文等)、音楽(楽曲、歌詞等)、舞踊・無言劇、美術(絵画、彫刻、イラスト等)、建築、地図・図形、映画(劇場用映画、ドラマ、アニメ、ゲーム等)、写真、プログラムなど、様々な創作物が著作物となり得ます(10条1項各号)。
ただ、ひとことで著作物といっても、著作物としての保護のされやすさはジャンル等によっても異なります。例えば、一般的な傾向として、美術、写真、映画などは著作物として認められやすい一方、言語、舞踊のほか、建築、地図・図形、プログラムなどの実用性の伴うものは、相対的に著作物として認められにくい傾向があるように感じます。実用品である応用美術も、一般的な傾向として、著作物として認められにくいものの一例です。
著作物には著作権者の著作権が及びます。著作物性が認められた応用美術も同様です。その結果として、原則として、複製品や類似品の製造販売が制限されるだけでなく、写真撮影、ウェブサイトやSNSへの投稿なども制限されます。
◆量産実用品とは
「量産実用品」とは、日常生活において実用に用いられる量産品です。冒頭のとおり、特にデザイン性その他の美的要素のあるものは、応用美術などと呼ばれてきました。また、著作権法では、美術工芸品は、美術の著作物となりますが(2条2項)、一品制作品のほかは、どこまでが美術工芸品(美術の著作物)として保護されるのか、明確な線引きはありません。
加えて、美的要素のある実用品といっても様々です。これまでの裁判で著作物性の有無が問題となった実用品は多々ありますが、例えば以下のように分類されます。
・類型A:平面的なイラスト・図案
実用品に用いられる平面的なイラスト、図案等です。イラスト、図案等の実用的機能を敢えて挙げるとすると、情報伝達等でしょうか。この類型は、物品そのものではなく、平面的なイラスト、図案等の部分に創作性があれば、著作物性が認められる傾向がありました。
| Tシャツの絵柄 | 便箋、封筒等の絵柄 | ピクトグラム |
・類型B:立体的な彫像・ぬいぐるみ
立体的な人形、ぬいぐるみ、フィギュア等です。遊ぶ、飾るといった実用的機能はありますが、鑑賞的要素がそれなりにあるように思われます。この類型の実用品は、著作物性が類型Aよりやや認められにくい傾向があり、以下の事例では、博多人形のみが著作物とされました。
| 博多人形 | ぬいぐるみ型小物入れ | ファービー人形¹ |
¹ 画像はAmazonのウェブサイト
・類型C:機能的な実用品
デザイン性のある立体的な実用品です。実用品としての機能を備えていますが、時計については時間の表示、滑り台については遊具など、実用品ごとに実用的機能が異なります。
この類型の実用品は、類型Aや類型Bよりも著作物性が認められにくい傾向があり、例えば以下の事例では、照明用シェードのみが著作物とされました。
| 時計原画 | タコの滑り台 | 照明用シェード |
◆応用美術の著作物性についての考え方
ここで、長年、論争の種とされてきた、応用美術の著作物性に関する考え方に触れておきます。応用美術の著作物性に関する考え方には、大きく以下の3つがあります。
| 考え方 | 概要 |
| ①高度の創作性を要求する考え方 | 純粋美術と同視できるもの、高度の創作性を有するものなどに限り、著作物として保護されるといった考え方(例) |
| ②実用的部分を分離して検討する考え方 | 実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えている部分を把握できるものは、著作物として保護されるといった考え方(例) |
| ③他の著作物と基準を区別しない考え方 | 他の著作物と同様の基準に照らし、「思想又は感情による創作的な表現」といえるものは、著作物として保護されるといった考え方(例) |
このコラムでは深くは立ち入りませんが、考え方③(他の著作物と基準を区別しない考え方)は、3つの中で、応用美術が最も著作物として保護されやすい考え方です。ただ、意匠権との棲み分けも問題となります。ちなみに、著作権は、著作物となれば自動的に権利が発生し、原則として著作者の死後70年まで存続します。一方、意匠権は、発生には費用と時間をかけて特許庁への出願や登録を行う必要があり、存続期間は原則として登録出願から25年です。
考え方③では、多くの応用美術が著作権によって保護され得るため、意匠権登録が不要となりやすいなど、意匠権制度の存在意義が薄れます。その反面、著作権で保護される応用美術が巷に溢れることとなり、その応用美術の著作権者以外は、長期に渡る著作権の保護期間中、似たデザインの商品等を展開しづらくなります。こうしたこともあり、昨今の主流は考え方②(実用的部分を分離して検討する考え方)でした。
◆最高裁判決の考え方
さて、ここでようやく最高裁判決の考え方です。最高裁判決は、応用美術ではなく、量産実用品の語句を用いつつ、「量産実用品の全体又は部分における形状等が、観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものである場合には、当該量産実用品の全体又は部分は、著作権法2条1項1号にいう著作物のうち、美術の範囲に属する著作物に当たるというべきである」としました。
| その上で、量産実用品である「子供用椅子」(TRIPP TRAPP)について、(a)両脇にL字型の2本の脚がある、(b)その間に座面と足置の各板が並行に固定されているといった形状に言及しつつ、これらの形状は、美観を基礎づける事情ではあるものの、機能に由来する構成としてしか把握できず、構成とは別個に思想又は感情の創作的な表現とは把握できないなどとして、著作物性を否定しました。 |
今回の最高裁判決は、機能に由来する構成とは別個に創作性の有無を検討する点で、考え方②(実用的部分を分離して検討する考え方)と似ています。
ただ、最高裁判決は、考え方②とは異なり、「美的鑑賞」といった語句は用いていません。最高裁判決の補足意見では、その理由として、(a)「美的鑑賞」の語句を用いた場合には、量産実用品が著作物となるには、高度な創作性や芸術性が必要であるかのような誤解が生じかねないこと、及び、(b)美的鑑賞に値するか否かを裁判所が判断するのは不適当であることを挙げています。
また、今回の最高裁判決は、上記の考え方の前提として、量産実用品に付加された模様や装飾、彫刻等と看取できるものにも言及しています。最高裁判決の考え方は、類型Cのような機能的な実用品だけでなく、類型A(平面的なイラスト・図案を含む実用品)や類型B(立体的な彫像・ぬいぐるみ)のような量産実用品も想定しているように思えます。
| 例 | 著作物性の有無 | |
| 付加部分の形状等が、機能と関連せず、観念上、機能に由来する構成とは別個の絵画や彫刻として把握できるもの | 表面に単なる模様や表面加工を超える装飾が付加されているもの(≒類型A?) | 量産実用品に「美術の著作物」が付加されたものであり、付加部分は著作物として保護される。 |
| 全体又は部分における形状等が、実用品としての機能と関連するものの、観念上、機能に由来する構成とは別個の彫刻等として把握できるもの | 全体として彫刻等とも看取できるもの(≒類型B?) | 著作物として保護される |
| 量産実用品の全体又は部分における形状等が、観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握できるもの | (類型Cを含む量産実用品全般で、左記の要件を満たすもの) | 当該量産実用品の全体又は部分は、著作物として保護される |
◆ 最高裁判決の影響
今回の最高裁判決は、上記のとおり、これまでの主流の考え方②(実用的部分を分離して検討する考え方)に似ていて、過去の裁判例に基づく類型A~Cにも、フィットしやすいものです。こうしたことから、最高裁判決は、量産実用品に関する著作物性の考え方を整理しましたが、量産実用品に関する裁判例の傾向を大きく変えるものではないように思われます。
ただ、今回の最高裁判決は、上記のように、「美的鑑賞」の語句を用いていない上、これまで主流の考え方②と異なり、機能に「係る」構成、「分離」といった語句は用いず、代わりに、「機能に由来する構成」、「別個に」といった語句を用いています。最高裁判決の考え方に従って量産実用品の著作物性を検討した場合、こうした語句の違いにより、量産実用品によっては、著作物性の有無が従来とは異なる結論となり、著作物性が認められる範囲が広がる可能性もあるかもしれません。
また、今回の最高裁判決は、量産実用品の全部又は部分の形状等につき、機能に由来しない創作性がある場合、著作物となるのは「当該量産実用品の全体又は部分」としています。「当該」の対象が「量産実用品」であって、「全体又は部分」でないことを重視するのであれば、量産実用品によっては、著作物として保護されるのは、必ずしも創作性のある部分に限られず、量産実用品全体など、創作性がない部分も著作物として保護される余地があるようにも感じます。
さらには、今回の最高裁判決は、所定の量産実用品の全体又は部分における形状等が、機能に由来する構成とは別個に創作的表現として把握可能であれば、「著作物のうち、美術の範囲に属するものにあたる」としています。著作物の定義の一部(「…美術…の範囲に属するもの」(2条1項1号))は、知的・文化的であることを示すものであって、著作物の例示としての「美術の著作物」(10条1項4号)とは必ずしもイコールではないように思われます。ただ、補足意見は、本件の問題は美術の著作物該当性などとしており、最高裁判決の上記部分が、著作物性のある量産実用品は「美術の著作物」に該当するといった趣旨だとすると、そのような量産実用品にも、著作権法における美術の著作物ならではの規定(例:展示権:25条、所有者による展示:45条1項、屋外設置美術の利用:46条、展示に伴う複製:47条、譲渡の申出等に伴う複製:47条の2)が適用されることとなります。
今回の最高裁判決によって、量産実用品の著作物性の考え方に関して、長年の論争に終止符が打たれました。ただ、この論争は、これで完全に終結したわけではありません。今後は、最高裁判決の考え方に基づき、どういった量産実用品であれば著作物として保護されるのか、どのように保護されるのか等につき、引き続き注目したいと思います。
以上
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