2026年3月25日
「フリーランス法まずはここから「取引条件の明示」と「期日における報酬支払」
-指導・勧告事例を踏まえて-」
弁護士 田島佑規 (骨董通り法律事務所 for the Arts)
・フリーランス法違反による指導・勧告事例
2024年11月1日に施行されたフリーランス法ですが、施行からはや1年以上が経過しました。その違反行為に関し、実際にメディアやエンタメ事業者に対して、公正取引委員会が指導・勧告を行ったという事例が積み重なってきていますので、概要につき簡単にご紹介します。
まず2025年3月28日に、フリーランスとの取引が多い業種であるゲームソフトウェア業やアニメーション制作業等の45の事業者に対して、契約書や発注書の記載、発注方法、支払期日の定め方等の是正を求める指導が行われた旨が公表されました。その後、2025年6月17日、同月25日、同年9月26日、同年12月5日に出版、映像その他のコンテンツ制作企業を中心とする合計6社に対して、その実名と共に勧告が行われた旨が公表されました。
また2025年12月10日には、再び、フリーランスとの取引が多い業種であるゲーム放送業や広告業等の128の事業者に対して、フリーランス法違反行為についての是正を求める指導を行われた旨が公表されました。その後、2026年に入ってからも、2月25日には情報サービス事業者、同月27日には電力会社、3月16日にはテレビ放送事業者と立て続けに勧告事例が公表されています。
(こうした指導・勧告事例の詳細は、公正取引委員会のWebサイト(「報道発表資料」→「フリーランス・事業者間取引適正化等法(違反事件関係)」 )から確認することができます。)
公正取引委員会は、「今後もフリーランス法に違反する疑いのある行為を行っている事業者やその業種について、積極的に情報収集を行い、違反があった場合には、迅速かつ適切に対処する。」と明言しており、今後も積極的な対応が予想されるところです。
これまでの指導・勧告事例で指摘されている違反行為の内容としては、(ⅰ)「取引条件の明示義務違反」と、(ⅱ)「期日における報酬支払義務違反」の2点が目立ちます。
そこで、フリーランスとの取引が多いであろうメディア・エンタメ企業やコンテンツ制作にかかわる方々にとっても参考になるよう、本コラムではこの2点に関し、実際に違反行為として指摘された内容に照らして詳しく解説します。なお、指導・勧告事例の中で示された公正取引委員会による解釈や見解の一部については、筆者として疑問に思う部分もありますが、あくまで公正取引委員会が指導・勧告事例として公表している内容としてご紹介します。
・(ⅰ)取引条件の明示義務
発注者は、フリーランスに対して業務委託をする場合、直ちに書面または電磁的方法(メール、SNSのDM、チャットにおけるメッセージなどのテキストを含み、口頭での明示は不可。)で以下の①から⑧の取引条件を明示する必要があります。この取引条件の明示義務はテキストで明示をしていない時点で違反となりますので、客観的に違反かどうかの判断がしやすく、違反事由として指摘されやすいともいえるかもしれません。
【発注時に取引条件として明示が必要な事項】
①発注事業者・フリーランスの名称、②業務委託をした日、③給付の内容、④給付を受領する/役務の提供を受ける期日、⑤給付を受領する/役務の提供を受ける場所、⑥検査完了期日(検査をする場合のみ)、⑦報酬の額および支払期日、⑧報酬の支払方法に関すること(現金以外の方法で報酬を支払う場合のみ)
※ 上記の明示事項のうち、発注時点において未定事項があった場合には、「当該未定事項の内容が定められない理由」および「未定事項の内容を定めることとなる予定期日」を記載しておく必要があります。また未定事項の内容が定められた後は、直ちに、当該事項を書面または電磁的方法によりフリーランスに明示する必要があります。
例えば、舞台制作において、演出、美術、音響、照明、俳優、カメラマン、ヘアメイク、スタイリスト、舞台監督などを外部のフリーランス(個人事業主)に委託する場合には、原則としてフリーランス法の対象となり上記の取引条件明示義務が課されます。
なお、場合によっては、フリーランスとの間で共通的な取引条件を定めた基本契約書を先に交わしておき、個々の業務発注は個別契約書(発注書など)で行っているというケースもあるかと思います。この場合、基本契約書と個別契約書をあわせて確認することで、上記の取引条件が明確になるのであれば、それでも対応可能ですが、個別契約書においてどの基本契約書を基にするものであるのか(例えば、甲は乙に対して、甲乙間で締結した〇年〇月〇日付で締結した「業務委託基本契約書」に基づき、以下の業務を発注します。」など)を記載しないといけないとされていますので、ご注意ください。
その上で、以下、明示事項のいくつかにつき補足的に説明します。
①の発注事業者・フリーランスの名称は、その業務について誰が発注者となるのかを明確にしましょうということです。こう記載すると当たり前に思われるかもしれませんが、多くの関係者が関わるクリエイティブやコンテンツ制作の現場だと、例えば、「この作品に関する業務であることは間違いないのだが、会議にはいつも複数社の担当者が登場するし、業務のやりとりも複数社の担当者が加わるグループチャットで行われるため、誰が正式な発注者か改めて聞かれるとよくわからない」なんてことは少なくありません。これでは例えば未払いがあった際に一次的には誰が責任を負ってくれるのかわからないなどということもあり、こうしたことがないよう誰がその業務の発注者か発注時点で明確にしておきましょうというものです。
③の給付の内容については、提供されるべき制作物・納品物の内容や、提供されるべき役務の内容を特定することだけではなく、公正取引委員会等が発表している「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」(以下「ガイドライン」といいます)によれば、その権利関係、すなわち、著作権などの知的財産権の譲渡の有無や、使用許諾(ライセンス)を受ける場合の許諾範囲(使用を認める範囲など)を明示することが必要であるとされます。実際の指導対象事例としても、「ラジオ放送業を営むE社は、番組及びCMの制作を特定受託事業者に委託しているが、業務委託をした場合に直ちに明示が必要な事項のうち、給付の内容として知的財産権の譲渡・許諾の範囲を明示しなかった。」といった事例があげられるなど、公正取引委員会においては権利関係の明示も必要であると解釈しているようです。
④の給付を受領する/役務の提供を受ける期日、および、⑤その場所については、何かしらの成果物や制作物が想定される場合には、その納品期日や納品場所(電子的に受領する場合には提出先のメールアドレスなどの納品方法)を記載することになりますし、何かしらの役務(作業やパフォーマンスなど)を依頼する場合には、実際にそれを行ってもらう日時や場所を記載することになると考えられます。(一定の期間継続して行ってもらうものについては、その期間を明示する必要があるといえそうです。)
⑦報酬の額については、具体的な金額の明示をすることが困難なやむを得ない事情がある場合、報酬の具体的な金額を定めるための算定方法を明示することでも対応可能です。ガイドラインによれば、この場合の算定方法は、報酬の額の算定根拠となる事項が確定すれば、具体的な金額が自動的に確定するものである必要があり、また、実際に報酬の具体的な金額を確定した後は、速やかにフリーランスに当該金額を明示する必要があるとされます。
その他、ガイドラインによれば、業務そのものへの報酬に加えて、成果物に関する知的財産権の譲渡や使用許諾が含まれる場合には、その譲渡対価や許諾に関する対価も報酬に加える必要があるとされます。
また、法令上、明示すべきとされているのは「報酬」の額ですが、ガイドラインによれば業務の遂行においてフリーランスが要する費用(例えば材料費、交通費、通信費などの実費)を発注者自身が負担する場合には、純粋な報酬金額に加えて、当該費用等の金額を含めた総額が把握できるように「報酬の額」を明示する必要があるとされています。しかし、筆者としては、この解釈につきやや疑問もあります。前提として、これから制作していくイベントや作品において、具体的な実費の金額を発注者側から事前に明示できるケースは(仮にそれが算定方法の明示で足りるとしても)多くはなく、その要請はあまり現実的でないように思われます。また、業務の遂行に要する実費について、発注者と受注者のどちらが負担するのかが不明確な状態は確かに望ましくないですが、実費の負担方法やその範囲・費目等について発注時に明確にさえなっていえば、必ずしも発注者が負担する実費の具体的な金額(あるいは算定方法)まで明確にしておかなくても受注者保護の観点からは十分ともいえそうです。
ただし、上記のとおりその解釈にやや疑問はあるものの、実際の公正取引委員会による指導対象事例においては、「テレビジョン放送業を営むF社は、番組の演出等を特定受託事業者に委託しているが、業務の遂行のために特定受託事業者が要する費用等をF社自身が負担する場合に、当該費用等の金額を含めた総額が把握できるように報酬の額を明示しなかった。」といった事例が指摘されており、当該事例に関するこれ以上の具体的な事情は不明ですが、あくまで公正取引委員会の解釈としては上記が維持されているようにも思われます。
同じく⑦の支払期日については、公正取引委員会の指導・勧告事例においても指摘されることが極めて多い事項であり特に注意が必要ですが、この点は以下の期日における報酬支払義務と併せて説明します。
・(ⅱ)期日における報酬支払義務
原則として、支払期日は、給付を受領した日もしくは役務の提供を受けた日(役務の提供に日数を要する場合には、一連の役務の提供が終了した日)から起算して60日以内のできる限り短い期間内で定める必要があります。発注時点で支払期日を明示していない時点で、上記の取引条件の明示義務違反になるため注意が必要です。
(なお、元委託者から受けた業務を発注者がフリーランスに再委託をした場合、(a)再委託である旨、(b)元委託者の名称、(c)元委託業務の対価の支払期日の3点を明示した場合には、元委託業務の支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定めることができるという再委託の例外もあります。)
以上を踏まえ、フリーランス法における報酬の支払期日の設定および支払いに関するルールをまとめると次のとおりです。
・報酬の支払期日について、給付を受領した日(役務の提供を受けた日)から起算して60日以内のできる限り短い期間内で具体的な期日を定め、その日までに報酬を支払わなければならない。
・報酬の支払期日を事前に定めていない場合(フリーランスに明示していない場合)、給付を受領した日(役務の提供を受けた日)に報酬を支払わなければならない。
※上記のとおり再委託の場合には、一部例外あり。
例えば、報酬の支払期日を請求書受領日や成果物の使用日(掲載日や公開日など)から60日以内の期日に設定しているといったケースがありますが、この場合に、結果として給付受領日や役務の提供を受けた日から60日以内に報酬を支払わない場合、期日までの報酬支払義務違反となるおそれがある旨が、公正取引委員会の指導事例でも指摘されています。
また一ヶ月の間に何度か納品が行われるケースにおいて、毎月末日締め翌々月10日払い(例えば、3月末日で締めて、5月10日が支払い期日)といった定め方は、月の初めに納品されたもの(例えば上の例で3月5日など)については、報酬の支払期日が60日以内とされていないため違反になるとされています。
さらにこの点は筆者としては疑問があるところですが、公正取引委員会の見解によれば、60日以内であっても「給付受領日が属する月の翌月●日までに支払う」「●月●日までに支払う」といった定め方は、具体的な支払日を特定できず、報酬がいつ支払われるかわからないという不安定な立場に受注者を置くことになるためNGとされ、「給付受領日が属する月の翌月●日に支払う」「●月●日に支払う」などとする必要があるとされます。
しかし「●日までに支払う」という記載でも、少なくとも●日には支払われることは明確ですし、確実に支払われる期日が分かっている時点で、いつ支払われるかわからないという不安定な立場に受注者を置くということもないのではと思うところです。こうした疑問はあるものの、上記の解釈について、公正取引委員会としては、当初の指導事案の公表の際からYouTube動画などでも繰り返し説明しており重要と考えているようです。
なお、フリーランスからの給付内容に、発注時に定めた内容と適合しない部分がある場合にも当該給付受領日から60日以内に報酬を支払う必要があるかどうかですが、ガイドラインによれば、フリーランス側の責めに帰すべき事由により、給付内容に修正などを求める必要がある場合には、修正後の給付を受領した日が支払期日の起算日となるとされています。
・まとめ
以上、フリーランス法が定める義務のうち、これまでの指導・勧告事例で集中して指摘されている、(ⅰ)「取引条件の明示義務」と、(ⅱ)「期日における報酬支払義務」の2点につき取り上げました。フリーランスに業務委託を行う際には、まずこの2点につき確認するところから始めていただけたらと思います。
その他にもフリーランス法には、7つの禁止行為や中途解除等の事前予告・理由開示に関する義務など遵守すべきとされている事項が多数定められております。こうした詳細については、「2025年公正取引委員会フリーランス法特設サイト」や、小山弁護士が執筆したコラム「概説フリーランス新法」にも記載がありますので、併せてチェックしていただければと思います。
以上
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田島佑規(骨董通り法律事務所 for the Arts)
法的若しくは専門的なアドバイスを目的とするものではありません。
※文章内容には適宜訂正や追加がおこなわれることがあります。


