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コラム column

2020年10月29日

裁判

「民事訴訟で弁護士がしている5つのこと
 ~弁護士に訴訟を依頼するときのために~(前編)」

弁護士 松澤邦典(骨董通り法律事務所 for the Arts)

1. はじめに

宮澤賢治は、「雨ニモマケズ」の中で、「北ニケンクヮヤソショウガアレバ/ツマラナイカラヤメロトイヒ」と謡っている。しかし、果たして訴訟とはツマラナイものなのか?
勝訴・敗訴という言葉があるが、単に勝ち負けを争って、用心棒よろしく相手方を打ちのめすのが弁護士の仕事ならば、喧嘩とさほど変わらない。宮澤賢治は、「ケンクヮヤソショウ」と言っているので、喧嘩のような訴訟をツマラナイと言っているのだろう。
しかし、弁護士は用心棒や喧嘩屋とは少し違う。いや、だいぶ違う。民事訴訟では、法廷という土俵があり、原告と被告が四つに組み、裁判官という行司がいる。訴訟の勝敗を決める権力(=司法権)を持った裁判官を前にして、当事者の代理人となった弁護士は何をしているのか。民事訴訟という手続を通じて、弁護士は何を目指しているのか。ひいては、民事訴訟の目的とは何なのか。
結論は後編の最後で述べることとして、初めて弁護士に訴訟を依頼する方や企業の法務担当者のために、民事訴訟で弁護士がしている5つのことについて概説しておきたい。

【目次】
1.はじめに
2.民事訴訟で弁護士がしている5つのこと
 その1、事実を主張する
 その2、争点を整理する
 その3、証拠を提出する
 - - - -〔以上、前編〕- - - -
 その4、証人や当事者本人の尋問をする
 その5、和解の協議をする
3.おわりに ~民事訴訟の目的~

 
2.民事訴訟で弁護士がしている5つのこと

 
【その1、事実を主張する】

 ▶攻撃防御に必要な事実を主張する

弁護士は、依頼者に有利な法律構成を考え、それに必要な事実を主張する。原告の代理人であれば、権利の発生に必要な事実などを主張する。被告の代理人であれば、権利の発生の障害となる事実、権利を消滅させる事実などを主張する。すなわち、各当事者の攻撃防御に必要な事実を主張する。

 ▶ブロック・ダイアグラムで攻撃防御の構造を把握する

権利の発生・障害・消滅等の法律効果を発生させる具体的な事実のことを「要件事実」といい、「ブロック・ダイアグラム」と呼ばれる図に整理することができる。例えば、シンプルな貸金返還請求事件のブロック・ダイアグラムは、次のようなものである。

(司法研修所 編『新問題研究 要件事実 付―民法(債権関係)改正に伴う追補―』52頁)

左側のブロックのかたまりが原告の主張(=請求原因)であり、右側のブロックのかたまりが被告の主張(=抗弁)である。この事案では、原告は貸金返還請求権の発生に必要な事実を主張し、被告は弁済による貸金返還請求権の消滅を主張している。
もう少し複雑な事案になると、抗弁の効果を覆滅する原告の主張(=再抗弁)や再抗弁の効果を覆滅する被告の主張(=再々抗弁)が登場したり、抗弁や再抗弁などが複数登場したりする。次のブロック・ダイアグラムは、抗弁と再抗弁が複数登場する例である。

(村田渉・山野目章夫 編著『要件事実30講〔第4版〕』491頁)

ブロック・ダイアグラムは、言ってみれば、民事訴訟の鳥瞰図である。権利をめぐる攻撃防御の構造を把握するのに大変役に立つ図である。
裁判官と弁護士は、目に見えない権利の存否を、要件事実という共通言語を通じて把握している。ブロック・ダイアグラムは、要件事実の相互関係をブロックと矢印で図式化し、目に見えない権利の存否を可視化するツールである。法律構成が複雑な事案では、ブロック・ダイアグラムを使って代理人と方針を検討しても良いかもしれない。正確なブロック・ダイアグラムはともかく、これを簡略化した図をその場で書くくらいのことは、代理人ならばできる。

 ▶訴訟の進展により攻撃防御の全体像が明確になる

訴訟の初めから攻撃防御の全体像が明確になっているとは限らない。相手方がどのような法律構成で来るのか予想できないこともある。予想していた法律構成が主張されないようなこともある。また、一定の反論・再反論が行われた後でなければ主張されない法律構成というものも存在する。さらに、実際の訴訟では、相手方の反論や裁判官の質問を受けて、事実関係を調査する必要が生じることも少なくない。したがって、訴訟がある程度進展する前の段階では、攻撃防御の全体像を確定できないことも多い。 裁判官の交通整理に従いながら、当事者双方が主張を尽くすことで、攻撃防御の全体像が明確になる。

 

【その2、争点を整理する】

 ▶立証のメインターゲットを確定する

弁護士は、裁判官が指定した期日に出席し、裁判官や相手方との議論を通じて争点を整理する。争点整理の目的は、立証のメインターゲット(勝敗を分けるポイント)を確定することである。

 ▶「○」「×」「△」で争点を整理する

争点整理のために不可欠な作業が、相手方が主張した要件事実に対する認否である。ブロック・ダイアグラムの「○」「×」「△」がそれである。「○」は自白、すなわち事実を認めることを意味する。「×」は否認、すなわち事実を認めないことを意味する。「△」は不知、すなわち事実を知らないことを意味する。なお、「顕」は顕著な事実を意味する。「○」と「顕」は立証が不要な事実である(民事訴訟法179条)。

「○」は、当事者間に争いのない事実であるから、裁判所はそのまま認定しなければならない。認否を通じて「争いのない事実」を確定していく作業は、要件事実(=主要事実)についてだけでなく、これを裏付ける事実(=間接事実)についても行われる。重要な間接事実について争いがあるのに認否を忘れていると、「争いのない事実」と扱われるおそれがあるので注意しなければならない。

一方、「×」と「△」は争点である。立証責任を負う側の当事者が、その事実を立証しなければならない。このように、争点とは、立証のターゲットとなる事実である。もっとも、それがメインターゲットとは限らない。メインターゲットかどうかは、証拠の状況によるのである。

 ▶争点整理は証拠提出とともに進行する

弁護士は、争点整理の進行に合わせて、依頼者に有利な証拠を裁判所に提出していく。すなわち、争点整理は、次に説明する【その3、証拠を提出する】作業と同時並行で進行するのである。
ここでいう証拠には、書証(文書または準文書)が想定されている。書証は、内容が固定されていて、高い証明力を持つものが多い。これに対し、人証(証人や当事者本人)は、記憶が変容したり、虚偽の供述のおそれもあり、内容が流動的である。もっとも、人証は、事案の全体像を把握できる点で、断片的な書証よりも優れている。このような書証と人証の性質の違いを踏まえ、民事訴訟では、書証を先に取り調べた後に、人証の取調べ(=尋問)を行うという順序がとられている。なお、陳述書も書証であるが、紛争化した後に訴訟を意識して作成されるため証明力は乏しく、むしろ人証の準備などの目的で提出する。
こうしたプロセスを経て、書証がほぼ出揃い、立証のメインターゲットが確定すると、争点整理の締めくくりとして、【その4、証人や当事者本人を尋問する】日程と段取りが決められる。

 

【その3、証拠を提出する】

 ▶証拠には直接証拠と間接証拠がある

弁護士は、依頼者に有利な証拠を裁判所に提出する。証拠説明書という一覧表を付けて提出する。証拠説明書に「原本」と記載した証拠については、期日に持参して、裁判官と相手方に確認してもらう。
証拠には2種類ある。争点となる主要事実を直接裏付ける証拠(=直接証拠)と間接事実を裏付ける証拠(=間接証拠)である。重要なのは直接証拠であり、直接証拠があるかないかで立証計画が変わってくる。直接証拠がない場合には、間接証拠を提出し、間接事実を積み上げることによって、主要事実の立証を目指すことになる。

 

 ▶裁判官は2つのステップで心証を形成する

裁判官は、各当事者が提出した証拠を評価し、事実を認定し、争点について心証を形成する。裁判官の心証形成のプロセスについては、司法研修所編『事例で考える民事事実認定』(通称「ジレカン」。対話形式で書かれた100頁ほどの薄い本だが、民事訴訟の基礎的な思考方法を語り尽くした濃密な一冊。)が詳しい。裁判官の心証は、当然ながら単なる印象論ではなく、次のステップを経た合理的な思考により形成される。

<心証形成の2つのステップ>
① 「動かしがたい事実」を抽出する。
② 当事者双方の主張するストーリーが「動かしがたい事実」と整合するかどうかを検討する。

1つ目のステップは、「動かしがたい事実」を抽出することである。「動かしがたい事実」には、前述した「争いのない事実」のほかに、契約書等の類型的に信用性が高い書証(ジレカンにおいて「類型的信用文書」と呼ばれる書証)から認定できる事実がある。類型的信用文書については、その成立の真正に争いがない場合には、特段の事情がない限り、その記載内容に従った事実が認定される(最高裁昭和45年11月26日判決ほか)。

「動かしがたい事実」には、これらの「①争いのない事実」、「②成立の真正が認められ信用性が高い書証に記載された事実」のほかにも、「③当事者双方の供述等が一致する事実」、「④当事者が自認している自己の不利益な事実」があるとされており、この4つの観点から「動かしがたい事実」の抽出が行われる。

2つ目のステップは、当事者双方の主張するストーリーが「動かしがたい事実」と整合するかどうかを検討することである。ストーリーとは、重要な争点をめぐる一定の物語性を持った主張や供述等のことである。各当事者のストーリーは、裁判官の立場から見れば、いずれも「仮説」である。このステップでは、「動かしがたい事実」との整合性という観点から、仮説の検証が行われるのである。

 ▶ストーリーの強さが勝敗を分ける

弁護士は、重要な争点についてストーリーを持って訴訟にのぞむ。そして、相手方のストーリーを崩し、依頼者のストーリーが正しいことを裁判官に認めてもらうべく行動する。もちろん、騙し合いや揚げ足取りのような低次元の攻防ではない。裁判官の仮説検証が正義にかなう結論に至るための攻防である。
強いストーリーというのは、「動かしがたい事実」と矛盾せず、経験則に照らして不自然な点のないストーリーである。それが、依頼者が正義であることを裁判官に理解してもらうための論拠となる。最後は、ストーリーの強さが勝敗を分けることになる。

(後編へ続く)

以上

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