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コラム column

2018年12月 4日

文化・メディアその他の実体法著作権法

「相続法改正と著作権相続の落とし穴 ~登録はお済みですか~」

弁護士 小林利明(骨董通り法律事務所 for the Arts)

ちょうど5年前に本欄で、「著作者を亡くした著作物の行方~愛しの『アンパンマン』に捧ぐ~ 」というコラムを唐津真美弁護士が執筆しました。しかし、それももう5年も前のこと。アンパンマンについては遺族間でトラブルがあったという報道は聞きませんが、その後も、著名作家や音楽家が逝去すると、著作権を含む財産を巡る遺族間の争いが報道されることは珍しくありません。しかも、2019年中には民法(相続法)の改正に伴い著作権法も改正されることになっており、著作権と相続は、再び重要なテーマになりつつあります。そこで今回のコラムでは、法改正の内容にも触れつつ、著作権と相続について取り上げたいと思います。

■著作権と相続

まずは基本の確認から始めましょう。
相続については民法が定めています。そして民法は、相続人は、被相続人の一身に専属する権利を除き、相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定めています(民法896条)。「相続人」とは遺族のことであり、「被相続人」とは死者のことです。そして、ここでいう「一切の権利」には、著作権などの知的財産権も含まれます。

著作権は原則として著作者の死後50年後(ただし映画の著作権は原則として公表から70年)に消滅するので、相続人が相続するのは、そのような「有効期限付き」の著作権ということになります。なお、環太平洋経済連携協定(TPP11)の発効により、本年12月30日には著作権の保護期間が70年間に延長されることになっている点には注意が必要です。

なお、上記は、著作「権」者が亡くなった場合の相続の話です。著作権は、生前に第三者に譲渡することもできます。この場合、相続開始時すなわち死亡時において、著作者は著作権を有しておらず、著作権は相続財産には含まれないため、相続の対象となりません。

※なお、実演家に認められる著作隣接権も相続財産となりますが、本コラムでは割愛します。

■著作者人格権と相続

著作権と違い、著作者人格権(著作者に認められている権利で、氏名表示を求める権利や無断改変を禁止する権利など)は、民法896条にいう「一身に専属する権利」として相続の対象にはなりません。人格権は著作者の死亡と共に消滅するのです。もっとも一定範囲の遺族や遺言で指定された者は、著作者や実演家が生きていたとすればその人格権侵害にあたる行為を禁止できることには注意が必要です(著作権法60条、101条の3、116条)。

■相続人不在の場合のルール

相続人がいる場合、著作権を含む遺産は民法の定めに従い相続されることになります。著作権法は、この場合、民法のルールに従った処理を想定しています。

しかし相続人がいない場合については、著作権法は民法とは違うルールを定めています。相続人がいない場合、著作権はどのように扱われるのでしょうか。

民法の一般原則に従えば、被相続人(=死者)に相続人がいることが明らかでない場合、遺産の管理を行うために、家庭裁判所によって相続財産管理人が選任されます。しかしその後の調査によっても相続人が現れない場合は、遺産の全部又は一部が「特別縁故者」(被相続人と生計を同じくしていた内縁の妻や療養看護に努めた人、その他特別の縁故があった者など)に分与される場合があります。そして、特別縁故者がいないか、あるいは特別縁故者への分与を経ても余った財産は、国に帰属することになっています。

※ちなみに、生前に被相続人とある程度の交際があったとしても、それが親族としての一般的なつきあいの範囲を超えるものでなければ特別縁故者とはいえないと考えられています。また、特別縁故者にあたれば自動的に遺産のすべてを取得できるというわけでもありません。なお、相続法改正(一部改正事項を除き2019年7月1日施行)により、相続人以外の被相続人の親族が、被相続人の療養看護等を行った場合には、一定の要件のもとで、相続人に対して金銭請求をすることができる制度(特別の寄与)が創設されます。

これに対して著作権法は、民法の一般原則に従えば国に帰属することになる場合には、著作権は消滅すると定めています(著作権法62条1項、103条)。つまり、権利は誰のものでもなくなるのです。誰でも使えるみんなのものになる、といってもよいかもしれません。

もし、法定相続人のいない著作権者が著作権を残したいという場合には、遺書で指定することにより、特定の個人や法人に遺贈する方法が考えられます。また、遺言を作成すれば、特定の著作権を特定の相続人に渡すことも可能となりますので、遺言を作成しておくことは重要といえるでしょう。

もっとも、相続法とそれに伴う著作権法改正により、法定相続分を超えて著作権を相続する場合、それを第三者に主張するためには原則として著作権移転登録が必要となることに注意が必要です。著作物の円滑な流通その他の様々な事情により特定の相続人に全著作権を相続させたいという場合がありますが、これまでは登録がなくとも第三者に主張できたことが、改正法施行後に生じた相続に関しては、登録なくしては主張できなくなってしまうのです。

■「姿を変えた著作権」の相続

さて、この先は応用編です。
作曲家が持つ楽曲の著作権も、画家の書いた絵画の著作権も、すべて著作権であって上記のルールに従って相続されます。ただ、「著作権」と一般に理解されているものであっても、法律的には厳密には「著作権」ではない場合があることには注意が必要です。どういうことでしょうか。著作権管理団体である日本音楽著作権協会(JASRAC)に楽曲管理を委ねている作曲家を例にとって話してみましょう。

JASRACに管理を委ねるということを法的に言えば、作曲家は楽曲の著作権をJASRACに譲渡(信託譲渡)してしまい、その代わりに、JASRACが徴収した楽曲著作権使用料を受け取る権利(これを「信託受益権」といいます)を得るということを意味します。つまり、作曲家は自身の楽曲についての著作権を失う代わりに信託受益権を得ることになるため、相続財産となるのも、著作権ではなく、著作権が姿を変えた「信託受益権」なのです。

ここではJASRACに管理委託している作曲家を例として説明しましたが、著作権が信託受益権に姿を変えるのは、音楽に限ったことではありません。日本にある様々な著作権者等の権利を管理する著作権等管理事業者のうち、日本脚本家連盟や日本シナリオ作家協会(映画・放送等の脚本家)などは、自己の著作権や著作隣接権を管理事業者に譲渡する代わりに、信託受益権をもらうという構造になっています。そのため、これらの組織に管理を委ねた方々の相続財産は、法的には、著作権等ではなく信託受益権となっている場合が多いのです。

さらに、これらの組織に権利を委ねない場合でも、著作者が、自らの著作権等を管理するための法人を設立し、そこに著作権等を信託譲渡することも考えられます。これによって著者ないし著作権者の死後の著作物の利用が円滑になることが期待できるわけですが、この場合も、作品の著作権それ自体は当該法人に帰属し、著作者個人が有する権利は信託受益権のみということになります。

■「姿を変えた著作権」と起こりうる複雑な相続

この信託受益権は著作権とは法的に異なる権利です。ですので、上記で説明した著作権法が定める相続に関する特別ルールは適用されず、一般の民法のルールが適用になるとも考えられます。そうだとすれば、法律上の扱いとしては、特別縁故者がいない場合の信託受益権は「国のもの」になりそうです(ちなみに、信託受益権も国の財産となることができます。国有財産法2条1項6号参照)。

著作権管理団体に信託譲渡してもしなくても、「印税」が入ってくるという経済的実態は同じなのに、著作権を預けなかった場合は著作権者の死亡により権利が「みんなもの」となり、預けた場合は信託受益権者(元々は著作権者)の死亡により権利が国に帰属することになってしまうという帰結が異なるのは、少し不思議な気もしますよね。

さらに複雑なのは、作曲家は、著作権のうち一部の使用態様に対応する権利だけをJASRACに管理委託しないこともできる点です。たとえば「ある作曲家が、著作権のうちネット配信に関する権利だけはJASRACに管理委託せず自己管理している中で死亡し、相続人も特別縁故者もいない」という場合、著作権のうち自己管理しているネット配信に関する権利は著作者死亡により消滅し(信託対象外なので作曲家は著作権を有している)、信託部分についての信託受益権は国に帰属するということが、法律上は起こりうるわけです。ここまでくると、権利関係が複雑すぎてそれを整理するだけでも一苦労でしょう。

JASRACは、相続人がいる場合の手続について、所定の書類をJASRACに提出することで以後は著作権使用料が相続人に振り込まれると説明しています。これに対して、相続人も特別縁故者もいない場合の扱いは明らかではありません。理屈からすれば、選任された相続財産管理人が信託受益権を国庫に帰属させる手続をとり、以後はJASRACが国に著作権使用料を支払うということになりそうですが、果たしてそうなるのでしょうか?国が著名な曲の著作権者となり、著作権収入が国に払われるというのは違和感もあるでしょう。

いくつかの対応方法が考えられるところですが、このような面倒な事態を回避し、死後も安心して作品が利用され、しかるべき人がその経済的価値を享受できるよう、遺言作成も含め、生前の段階から個別事情に応じた十分な検討が必要でしょう。

■さいごに

音楽著作権のみならず、著作権の相続に関しては、上記の他にも、相続税法上の評価額をどのように算定するかという難しい問題があります。今回はその点は割愛しましたが、それでも本コラムの内容は十分にマニアックなテーマとなってしまったかもしれません。

しかし、広く皆に使ってもらうことこそが多くの著作者の意向であり、またそれによって死後の権利の価値が大きく左右されるという特徴を持つのが著作権です。そして、そのためには、通常の財産と比べ、特定人にまとめて権利を承継させるニーズが高いともいえます。相続について著作権法のルールを把握し、来年中に施行される改正法の内容も理解しておく必要は高いでしょう。

多額の金銭的価値を生む著作権が相続財産に含まれているという悩みは多くの人からすれば贅沢な悩みでしょうし、格好のワイドショーのネタかもしれません。しかし、見る側、聞く側としては、「争続」に巻き込まれた作品の円滑な利用が妨げられてしまうという事態だけは避けてほしいと願うばかりです。

以上

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