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コラム column

2018年3月19日

著作権裁判国際IT・インターネットIT法

「今後変わる? リンクについての著作権法上の考え方」

弁護士  岡本健太郎 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

インターネットを利用する上で、リンクは便利な機能です。日本では、一般的に、リンクの設定は著作権侵害にはならないと考えられていますが、2016年のEU司法裁判所の判断に続き、今年の2月には米国の連邦地方裁判所が、一定の場合に、リンクの設定が著作権侵害になると判断しています。本コラムでは、日本の著作権法におけるリンクの考え方をおさらいしつつ、EUや米国の判例を検討してみたいと思います。

1. リンクとは

リンク自体の説明は不要と思われますが、リンクには、例えば以下のような方式があるとされています(経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」141頁)。

① リンク先の階層による区分(「サーフェスリンク」と「ディープリンク」)

多くのウェブサイトは、トップページを作成した上、その下層に複数のウェブページを紐づけしています。リンク先として、他のウェブサイトのトップページを設定する場合を「サーフェスリンク」といい、下層のページを設定する場合を「ディープリンク」といいます。
当事務所のウェブサイトでいえば、リンク先としてトップページを設定する場合がサーフェスリンクで、コラムのページ等を設定する場合がディープリンクです。
なお、他のウェブページにおける特定の画像に設定されたリンクは、「イメージリンク」といわれます。

② リンク先の表示方法による区分(「通常の方式によるリンク」と「インラインリンク」)

リンク先のコンテンツを表示する際に、ユーザーが、リンク元のテキストや画像をクリックする必要がある場合があり、これは「通常の方式によるリンク」といわれます。
これに対して、リンク元のウェブページが表示された際に、ユーザーの操作を介することなく、リンク先のコンテンツが自動的に表示されるように設定されたリンクがあり、「インラインリンク」といわれます。後述のツイッターのリツイート機能も、インラインリンクの一つです。

2.日本での考え方

上記のように、リンクにはいくつかの方式がありますが、日本の著作権法上、一般的に、「リンクの設定は、著作権侵害にはならない」と考えられています。
あるコンテンツ(リンク先)へのリンクを設定する場合には、そのURLをリンク元のウェブページ(htmlファイル)に書込みます。「通常の方式によるリンク」の場合には、ユーザーは、リンク元のウェブページ上で、リンク先のURLが設定されたテキストや画像をクリックして、リンク先のコンテンツを表示しますが、この際、「リンク先のコンテンツ」のデータは、ユーザーのコンピュータに直接送信されます。リンク元が、リンク先のコンテンツを自ら送信したり、複製したりしているわけではありません。
また、インラインリンクの場合には、リンク元のウェブページが表示された際に、「リンク先のコンテンツ」が自動的に表示されますが、「通常の方式によるリンク」と同様に、そのデータはユーザーのコンピュータに直接送信され、リンク元のサーバーへの送信や蓄積は行われません。

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第三者のコンテンツを自身のサーバーに蓄積したり、自身のサーバーを経由して送信したりした場合には、複製権や公衆送信権の侵害となり得ます。ただ、リンクの設定については、こうしたサーバーへの蓄積や送信がないことから、複製権や公衆送信権の侵害とはならないと考えられているのです。
リンクの設定による著作権侵害の有無が争われた事例として、以下があります。

① 大阪地判2013年6月20日(ロケットニュース24事件

本件は、「違法コンテンツへのリンクの設定が、著作権侵害となるか」が問題となった事案です。 原告が、上半身裸の状態でマクドナルドに入店する様子を動画として撮影し、「ニコニコ生放送」にライブストリーミング配信をしたところ、第三者が無断でその動画を録画するなどして、「ニコニコ動画」にアップロードしました。被告は、自身のウェブサイト(ロケットニュース24)上で関連記事を掲載するとともに、「ニコニコ動画」の動画に対してリンクを設定したという事案です。
原告は、被告による公衆送信権侵害等を主張しましたが、裁判所は、(a)被告は、自身のウェブサイト上で、引用タグ又はURLを入力して本件動画へのリンクを設定したにとどまり、(b)本件動画のデータは、被告ウェブサイトのサーバーには保存されておらず、また、(c)被告ウェブサイトのユーザーが再生ボタンをクリックしたとしても、本件動画のデータは、被告ウェブサイトのサーバーを介さず、「ニコニコ動画」からユーザーに直接送信されるなどとして、被告の行為は公衆送信権侵害にはあたらないとしました。

② 東京地判2016年9月15日(リツイート事件

ツイッターの機能に「リツイート」がありますが、これは、自分のツイート画面(タイムライン)に第三者のコメントや画像を表示する機能です。例えば、あるユーザー1が自身のツイート画面に写真をアップロードし、別のユーザー2がそれをリツイートした場合、ユーザー2のツイート画面にその写真が表示されますが、これはユーザー2のタイムラインにその写真へのインラインリンクが自動的に設定され、他のユーザーのパソコン等にその写真のデータが直接送信されているためです。本件では、リツイート行為、すなわち「インラインリンクの設定が、著作権侵害となるか」が問題となりました。

本件の事案は、原告のプロカメラマンが、自己の写真をウェブサイトに掲載していたところ、氏名不詳者Aが原告写真を含むツイートを無断で行い、その後、別の氏名不詳者Bらが氏名不詳者Aのツイートをリツイートしたというものです。原告は、発信者情報開示請求を行って、ツイッター社に対してこれらの氏名不詳者の氏名、住所等の情報開示を求めました。

裁判所は、リツイートによって、(a)氏名不詳者Bらのタイムラインに原告写真のデータは一切送信されず、また、(b)氏名不詳者Bらのタイムラインからユーザー端末に原告写真のデータは送信されないことから、リツイート行為は公衆送信には当たらないなどとして、氏名不詳者Bらによる公衆送信権侵害を否定しました。また、リツイートの仕組上、リツイート行為によって原告写真のデータの複製は行われないなどとして、氏名不詳者Bらによる複製権侵害も否定しています。
なお、原告は、リツイートを行った氏名不詳者Bらが実質的に公衆送信の主体であるなどとも主張しましたが、裁判所はこの主張も退けています。

このように、日本の判例上は、リンクの設定は、一般的には著作権侵害にはならないと考えられています。ただ、ロケットニュース24事件でも示唆がありましたが、違法コンテンツに対してリンクを設定する行為は、著作権侵害行為を助長(幇助)しているなどとして、違法と判断される可能性はあります。

3.海外の事例

① EUの事例(GS Media事件

これは、EUの最高裁判所にあたるEU司法裁判所の事件です。上記のロケットニュース24事件と同様に、「違法コンテンツへのリンクの設定が、著作権侵害となるか」が問題とされました。
原告Sanoma社は、あるヌード写真をPlayboy誌(オランダ版)に掲載予定でしたが、雑誌発売前に第三者によって無断でファイル共有サイトにアップロードされました。被告GS Media社は、これを記事にしてアップロード先へのリンクを設定した上、Sanoma社らの削除要請にもかかわらず、リンクを掲載し続けました。
原告Sanoma社が、被告GS Media社に対して、公衆送信権(right to communication to the public)侵害を理由に訴えを提起したところ、EU司法裁判所は、被告GS Media社による公衆送信権侵害を認めました。その判断の要旨は、「権利者の許諾なく違法に公開された侵害コンテンツと認識しながら又は認識すべきであるにも拘らず、公開された著作物にリンクを設定する行為は、公衆送信権の侵害にあたる」というものです。EU司法裁判所は更に、営利目的でリンクを設定する者に、対象コンテンツについての調査義務を課すような判断を行うなど、営利目的でのリンクの設定に厳しい判断をしています。
なお、この事件の詳細や考え方については、福井弁護士中川弁護士の各解説が参考になります。

② 米国の事例(Goldman対Breitbart事件

本件は、ニューヨーク連邦地方裁判所での事件です。上記のリツイート事件と同様に、「インラインリンクの設定が、著作権侵害となるか」が問題とされました。
原告が、人気アメフト選手Tom Brady等のスナップ写真を撮影し、Snapchatにアップロードしたところ、本件写真が複数のユーザーによってツイッターにアップロードされました。その後、複数のオンライン・メディアが、本件写真の画像を埋込み表示した記事を掲載したことから、原告が、各オンライン・メディアに対して、展示権(Public Display Right)侵害を理由に訴えを提起しました。なお、米国の著作権法上、公衆送信権という名称の権利はなく、インターネット上での著作物の表示は展示権等の問題となります。

事案に話を戻すと、米国では、第三者の著作物をウェブサイトに掲載した場合に、掲載者が著作権の直接侵害となるか否かにつき、(a)当該画像が掲載者のウェブサーバーに保存されていたときは、著作権侵害となる一方、(b)当該画像が第三者のサーバーからの埋込みやリンクの設定に留まるときは、著作権侵害とならないとする考え方(サーバーテスト)があるようです。日本におけるリンクの基本的な考え方も、これと類似しているように思われます。被告オンライン・メディアは、このサーバーテストに従って、「自身は本件写真の画像は保有しておらず、本件写真の画像を保有しているツイッター社のサイトに誘導しているに過ぎない」などとして、展示権侵害にはならないと主張しました。
これに対して、裁判所は、(a)サーバーテストが展示権侵害の判断に適用された事例は限定的である、(b)米国著作権法の条文上、展示権侵害の要件として「画像の保有」は要求されていないなどとしてサーバーテストの適用を否定した上、(c)被告オンライン・メディアは、ツイッターの画面に埋め込まれた本件写真の画像を自身のウェブサイト上で掲載した以上、本件写真の画像が第三者であるツイッターのサーバーに存在していたとしても、展示権侵害となると判断しています。

なお、上記の判断は、Summary Judgementの申立(陪審による事実審理であるTrial前の手続)に対するものです。今後の裁判手続でオンライン・メディアの責任等が具体的に検討される中で、フェアユースが適用される可能性もあります。ただ、最終的にオンライン・メディアによる展示権侵害が認められれば、リンクの設定方法に少なからぬ影響が生じそうです。

4.まとめ

上記の事例の他にも各国でリンクに関する判断がなされているなど、国や地域で権利の詳細、判断等は異なりますが、上記4つの事例を以下のように(若干強引に)整理してみました。

侵害コンテンツへのリンクは著作権侵害となるか インラインリンクは著作権侵害となるか
日本 ならない(ロケットニュース24事件) ならない(リツイート事件)
EU/米国 なる(EUのGS Media事件) なる(米国Goldman事件のSummary Judgement)

この表からすると、現状では、リンクの設定につき、日本よりもEUや米国の方が厳格な態度を示しているように思われます。ただ、EUや米国における上記の各判断は、ここ数年のことです。最近では、日本でも、違法アップロードされた漫画、書籍等へのリンクを集めた「リーチサイト」の弊害が認識されており、リンクの設定についてほぼ一律に著作権侵害を否定する考え方にも限界がきているのかもしれません。また、「インラインリンクの形で画像にリンクを設定しておけば、第三者の画像を利用しても著作権侵害にはならない」といった認識が、一昨年のキュレーションメディア問題の一因とも思われます。
第三者のウェブページ上の画像を自己のウェブページ上で表示する場合、その画像を貼付ける方法や、その画像のインラインリンクを設定する方法があります。両者は、「クリックによってその画像がリンク先として表示されるか否か」といった違いはあるものの、ウェブページの見た目に大きな違いはありません。Goldman事件の判断の背景には、見た目に大きな違いがないにも拘らず、前者は著作権侵害になる一方、後者が著作権侵害とならないことへの違和感があるのかもしれません。
Goldman事件の上記判断はSummary Judgementのものですが、今後、日本においても、一定の類型について、リンクの設定に関する著作権法上の考え方が変わっていく可能性も否定できません。他方で、リンクは広く利用されている機能であり、例えば仮にインラインリンクが一律違法とされると、その影響が大きくなる懸念もあります。上記のリツイート事件は知財高裁に控訴されたといわれています。本コラム作成時点では、まだ知財高裁の判断は出されていないようですが、知財高裁がどのような判断を行うのか、また、その判断により日本においてもリンク先のコンテンツ、リンクの方式等によってリンクの一部が著作権侵害とされるのか、引き続き注目していきたいと思います。


追記:その後の知財高裁判例(知財高判2018年4月25日)では、リツイートに伴う写真のトリミングが著作者人格権侵害に該当する旨の判断がなされました。知財高裁判例の概要については、こちらもご参照ください。

追記2:その後の最高裁(最判2020年7月21日)では、リツイートに伴って写真上の氏名表示が非表示となったことにつき、著作者人格権(氏名表示権)侵害に該当する旨の判断がなされました。最高裁判決の概要については、こちらのコラムもご参照ください。

以上

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