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コラム column

2023年9月28日

著作権国際IT・インターネットエンタメ映画

「コンテンツ制作の国際契約を戦略的に考える
 ~配信向け映像作品の「開発+制作」委託を題材に~」

弁護士  北澤尚登 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

 エンタテインメントの契約法務に携わる中で、近年は特に「日本企業が、海外の大手プラットフォームから配信向け映像作品の制作等を受託する」ケースが増えていると感じます。これは日本のクリエイターやコンテンツ産業の実力が評価されている証ともいえますが、このチャンスを国際的な競争力やプレゼンスのさらなる向上に結び付けるためには、受託の際に契約面でいかなる条件を獲得すべきか、具体的・実践的な吟味が望まれます。「知的財産推進計画2023」においても「プラットフォーマーからの製作受託についても、その契約条件について留意すべき点が少なくないと指摘される」と言及されています(資料の71頁)。

 受託する業務が「開発(企画)+制作」の二段階に分かれているケースでは、より戦略的な検討が必要となります。受託側は企画段階から(脚本やキャスト案の作成・提出など)主体的な関与や貢献を求められる反面、開発業務の完成後に映像制作の委託へと進むかどうかは委託側であるプラットフォームの選択(オプション)に委ねられていることが多いため、受託側にとっては、開発段階での支出や創作がきちんと報われるための仕組みが重要といえるからです。
 本稿では、そうした観点から、主に開発段階で確保すべき契約条件をいくつかピックアップします。その際、開発~制作の各段階で想定される展開に即して、以下のように分析的に考えるのがわかりやすいでしょう。

 

 (1)「開発業務の完了まで」を想定した契約条件
この段階では、業務完了のハードルが高すぎたり、不明確にならないための条件が重要と考えられます。具体的には、例えば以下のようなポイントが挙げられます。

・開発成果物を特定すること
…委託側から提示される契約書案では、「開発成果物を委託側が指定・追加できる」と読めるものもみられます。しかし、これでは委託側からみて業務範囲が明確でなく、際限がなくなってしまうリスクもあります。そこで、開発成果物を(脚本やキャスト案など)個別的・具体的に特定することが望ましいでしょう。

・承認プロセスを明確にすること
…契約書案には「納品された開発成果物を承認するかどうかは委託側の裁量に委ねられる」と読めるものも少なくないようです。しかし、このような条件では委託側からみて承認される(=業務完了となる)かどうかの予測可能性がなく、不利な立場に置かれてしまうおそれもあります。そこで、承認基準をできるだけ明記することが望ましいですが、それが難しい場合は、例えば承認プロセスを段階的にする(完成前の中間成果物について委託側の承認を受け、そこで承認済みの内容については委託側が後から覆せないようにする)などの代替案を工夫すべきこととなりましょう。

 

(2) 「開発段階のみで終了する(委託側がオプションを行使せず、制作受託には進まない)場合」を想定した契約条件
この段階では、開発段階での受託側の支出や創作成果を無にしないための条件が重要と考えられます。具体的には、例えば以下のようなポイントが挙げられます。

・開発業務の対価を明確化すること
…開発段階だけでも「元が取れる」ように、開発業務への報酬や開発成果物の権利対価を明確に定めておくことが望まれます。

・委託側によるオプションの行使期間を限定すること
…委託側から提示される契約書案では、「委託側は開発業務完了後の一定期間、制作委託に進むオプション(選択権)を行使できる」といった条項がよくみられます。この「一定期間」(オプションの行使期間)の具体的な長さはケースバイケースではありますが、長すぎる場合は受託側が不安定な地位に置かれるリスクもあるので、なるべく短めの期間を明記しておくことが望ましいでしょう。

・開発成果の買戻し条件を明確化すること
…契約書案には「委託側が所定期間内に制作委託のオプションを行使しなかった場合、受託側が一定額を支払うことにより開発成果物の権利を買い戻すことができる」旨の条項もみられます。ただし、その場合でも買戻し条件が「受託側は委託側に(開発対価を返金するだけでなく)委託側が別途支出した額も支払わなければならない」「委託側の標準的な書式による買戻契約書の締結を要する」など、受託側にとって不利ないし不明確になっている場合もあるので要注意です。
そのような場合、例えば「買戻しに際して受託側が支払うべき金額(の上限)を明記する」「買戻契約書の書式をあらかじめ開示させる」などの対案が望まれます。

 

(3) 「制作段階に進んだ場合」を想定した契約条件
この段階では、制作についての条件が折り合わずに頓挫しないようにするため、開発段階であらかじめ主要条件を定めておくことが重要と考えられます。具体的なポイントは多岐にわたりますが、ここでは特に以下の例を挙げます。

・成果物の権利を確保すること
…委託側から提示される契約書案では、開発および制作の成果物について「委託側が著作権など全ての知的財産権を取得する」「受託側は著作者人格権を行使しない」と定められているものが多いようです。これを押し返すことは容易でないかもしれませんが、そのまま受け入れた場合は(権利処理の負担もさることながら)①委託側の利用による追加対価を得られない、②委託側が他の作品に利用することを防げない、③受託側が他の作品に利用することは制限される、といった点が要注意となりましょう。そこで、例えば①への対案として追加対価の規定を設ける、②への対案として委託側に取得させる権利の範囲を(「当該作品における配信その他の利用」などに)できるだけ限定する、といった交渉も検討に値するように思います。

・クレジットやプレスリリースにおいて、名前を出せるようにしておくこと
…契約書案では、完成した映像作品のエンドタイトルなどにおけるクレジット表記について定める条項もみられます。ここでは、受託側へのクレジットを(なるべく目立つ態様で)確保できるような条件提案が望ましいでしょう。
また、受託側がプレスリリースや自社サイトにおいて、当該作品の開発・制作実績を対外的に公表できるようにすることも、プレゼンスの向上などのために重要と考えられます。しかし、委託側から提示される契約書案では、これらの公表に際して委託側の事前承認が必要とされている例もあるので、その場合は押し返しなどの対応が望まれます。

以上

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