All photos by courtesy of SuperHeadz INa Babylon.

English
English

コラム column

2023年7月27日

税法改正契約国際エンタメスポーツバラエティ

「インボイス制度まもなく開始!その影響と対応策」

弁護士  原口恵 (骨董通り法律事務所 for the Arts)


1. インボイス制度、開始迫る!

(懸念の声も多い)令和5年10月1日から開始する適格請求書等保存方式、いわゆるインボイス制度。先日、私自身も適格請求書発行事業者の登録完了通知書を受領し、いよいよだなと感じています。
本コラムでは、インボイス制度の概要を簡単にご説明したうえで、制度開始に伴う対応にあたって注意すべきポイントをケースごとに検討したいと思います。既に対応済の方も、まだの方も、ご参考になれば幸いです。

2.そもそも、インボイス制度とは?

(1) インボイスとは?

まず、適格請求書(インボイス)とは、この制度では売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段をいいます。様式は法令・通達等で定められておらず、必要な事項が記載されていればその名称も問いません。請求書、納品書、領収書、レシート等が該当します。
インボイス制度によって、現行の「区分記載請求書」に記載が要求される項目(①~⑥)に加えて、登録番号、適用税率及び税率ごとの消費税額等の記載が必要となります。

① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称
② 取引年月日
③ 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
④ 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜又は税込)
⑤ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
⑥ 登録番号 NEW!
⑦ 適用税率 NEW!
⑧ 税率ごとに区分した消費税額等 NEW!

(2) インボイス制度によって何が変わる?

インボイス制度が開始されるとどのような変更点があるのか、売手側と買手側それぞれの立場から考えます。
まず、売手側・受注側は、買手側・発注側である取引相手(課税事業者(詳細は、後述します))の求めに応じて、インボイスを交付することが義務付けられます。また、売手側において、交付したインボイスの写しを保存する必要があります。
他方、買手側は、原則として、取引相手(売手)である登録事業者から交付を受けたインボイスの保存等が「仕入税額控除」の適用を受けるための要件となります。この仕入税額控除がポイントで、簡単に説明すると、以下の計算式で示される、消費税が重複して課税されないための仕組みです。

納税すべき消費税額=課税売上に係る消費税額-課税仕入に係る消費税額

(3) 事業者に与える影響

重要なのは、インボイスを交付することができるのは、登録を受けた適格請求書発行事業者に限られる点です。そして、登録を受けることができるのは、課税事業者のみです。
ここで、課税事業者とは基準期間の課税売上高が1000万円を超える事業者をいい、消費税の納税義務があります。他方、基準期間の課税売上高が1000万円以下の事業者は免税事業者といい、原則として消費税の納税義務はありません。
さて、適格請求書発行事業者の登録を受けるかどうかは事業者の任意です。そのため、課税事業者であっても、登録を受けるかは任意となります。また、免税事業者も課税事業者になることを選択して、登録を受けることができますが、従来免除されてきた消費税の納税義務が生じます
しかしながら、「任意」といいつつも、実質的にはそう簡単ではないのです。なぜなら、登録を受けた適格請求書発行事業者以外の事業者との取引の場合、買手は当該取引に関しては仕入税額控除ができなくなり、その分、税負担が増加するというデメリットがあるためです。買手の立場からは、免税事業者や登録を受けていない課税事業者との取引を控えることにつながりかねません。そのため、インボイス制度は、特に免税事業者であることが多いフリーランスや小規模事業者への影響が大きいといわれています。

3.インボイス制度、どう対応する?

それでは、インボイス制度開始を受けて、どのような対応をすべきかをケースごとに検討します。

 

ケース1 取引対価の引下げ
仕入先である適格請求書発行事業者の登録を受けていない免税事業者等との取引について、インボイス制度開始に伴って、消費税相当額の一部又は全部を減額して支払うことは可能でしょうか。

   買手担当者

インボイス制度開始に伴う買手側たる事業者からのご質問で最も多かったのは、取引条件の見直し、特に取引対価の引下げに関するものでした。取引自由の原則はありますが、取引条件の見直しも完全に自由という訳ではなく、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となるおそれ(下請法の規制対象取引の場合は下請法違反となるおそれ)がありますので、注意が必要です。

免税事業者等はフリーランスや小規模事業者も多いところ、買手の事業者の地位が取引相手に優越し、免税事業者等が今後の取引に与える影響等を懸念して、買手からの要請等を受け入れざるを得ない場合、一方的に著しく低い対価を設定することは、優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となります(独占禁止法2条9項5号ハ)。「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A 」(以下「Q&A」といいます)のQ7の回答などによれば、独占禁止法上問題となるか否かは、(a)取引価格を一方的に決定したか、(b)通常支払われる価格よりも著しく低い価格を設定したか、の観点などから判断されるようです。上記(a)については、取引事業者間で取引価格に関する交渉を行い、両者が合意の上、取引価格を決定する必要があるところ、買手が一方的通知のみで取引価格を決定するような場合が該当します。また、上記(b)については、買い手の都合のみで消費税相当額を減額した結果、免税事業者が仕入れや諸経費の支払いに係り実際に負担していた消費税額をも捻出できないような場合が該当し得ます。上記(a)(b)いずれにも該当する場合や「相手方の仕入価格を下回る発注価格になる場合」などは、優越的地位の濫用として、独禁法上問題となる可能性は高まるでしょう。
加えて、下請法の規制対象取引の場合、下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、一旦決定された下請代金を事後に減額すること(下請法4条1項3号)、発注時の下請代金の額を決定する際に発注した内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価(≒市価)に比べて著しく低い額を不当に定めること(買いたたき。同項5号)は禁止されています。
したがって、免税事業者等に対して消費税相当額の一部又は全部を減額して支払うことは、何ら取引相手と協議等されない場合には、独占禁止法又は下請法上問題となり得る可能性が相対的に高いと考えられます。免税事業者等に対して、「取引対価から消費税相当額を引き下げます」と一方的に通知することも、同様に問題となるおそれがあります。

では、どう対応すべきか。Q&AのQ7の回答をふまえると、「免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担」等を考慮したうえで、両者十分協議の上で価格決定するのであれば、仮に価格が引き下げられたとしても正当化されやすいと考えられます。「十分な協議」は形式的なものでは足りず、買手から取引相手に対して価格引下げの内容(必要に応じてインボイス制度の概要等)について丁寧な説明を行い、その説明をふまえた協議、交渉をしたうえで、価格決定をするという実質的なものとする必要があると考えられます。

なお、Q&AのQ7の回答1の「仕入税額控除が制限される分」の注釈として、「免税事業者からの課税仕入れについては、インボイス制度の実施後3年間(=令和8年9月30日まで)は、仕入税額相当額の8割、その後の3年間(=令和11年9月30日まで)は同5割の控除ができることとされています。」と、経過措置に関する記載があります。同注釈をふまえると、経過措置期間中は免税事業者からの課税仕入れについても一定の仕入税額控除が可能である以上、その範囲内での価格の引下げとすることが無難と考えられます。

この点、公正取引委員会は、令和5年5月にインボイス制度の実施に関連した注意事例を公表しました。公正取引委員会が注意を行ったのは、経過措置があるにもかかわらず、取引先の免税事業者に対し、インボイス制度実施後も課税事業者に転換せず、免税事業者を選択する場合には消費税相当額を取引価格から引き下げる旨を文書で一方的に通告をした発注事業者です。詳細は明らかにされていませんが、注意を受けた事業者の業態及びその取引相手は下表のとおりです。

注意を受けた事業者の業態 取引相手
イラスト制作事業者 イラストレーター
農産物加工品製造販売業者 農家
ハンドメイドショップ運営事業 ハンドメイド作家
人材派遣業者 翻訳者・通訳者
電子漫画配信取次サービス業者 漫画作家

上記注意事例からも、公正取引委員会としては経過措置の適用を受けられる場合は受ける必要があるとの考えが読み取れます。ただし、経過措置の適用を受けるためには、買手において、必要事項を満たした帳簿及び請求書等の保存が必要となり、買手にとってはコストがかかります(「消費税の仕入税額控除制度における 適格請求書等保存方式に関するQ&A」の問110もご参照ください)。

なお、売手側の事業者においては、インボイス制度開始を理由とする取引対価の引下げなどの取引条件の見直しについて、上記の独占禁止法又は下請法上問題となるおそれがあるケースに該当することが疑われる場合は、公正取引委員会の相談窓口への相談もご検討ください。

 

ケース2 課税転換後の価格交渉
今は免税事業者なのですが、買手の事業者から、課税事業者になるよう要請され、要請に応じて課税事業者になりました。しかし、価格交渉に応じてもらえず、価格を据え置かれました。問題はないのでしょうか。

   売手担当者

まず、Q&AのQ7の回答によれば、買手がインボイスに対応するために、取引先の免税事業者に対して課税事業者になるよう要請すること自体は、独占禁止法上問題とはなりにくいでしょう。しかし、かかる課税転換の要請に加えて、取引価格に関する価格交渉に応じず、十分に協議を行わないで、価格を据え置くことは、優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となるおそれがあります(Q&AのQ7の回答1・6、「インボイス制度後の免税事業者との取引に係る下請法等の考え方」の事例3)。また、下請法の規制対象取引の場合には、課税事業者になったにもかかわらず、免税事業者であることを前提に行われた単価からの価格交渉に応じず、一方的に単価を据え置いて発注する行為は、買いたたきとして下請法上問題となるおそれがあります(同事例2)。

なお、免税事業者においては、主要な売上先がインボイスの交付を必要としているかなどを考慮し、現時点における登録の要否を適切にご判断いただければと思います。全国各地の税務署では、登録要否相談会も実施されています。登録に関しては、令和5年9月30日までに登録申請書を提出した場合は同年10月1日から、同月2日以降の日に登録を受ける場合は登録申請書に記載する登録希望日(提出日から15日以降)から、適格請求書発行事業者として登録を受けることが可能です。
また、免税事業者から課税事業者になった場合に利用できる下記の負担軽減措置補助金などもありますので、必要に応じて利用をご検討ください。

●インボイス制度を契機として免税事業者から適格請求書発行事業者として課税事業者になった場合、消費税納税額を売上税額の2割とすることができる(一定の要件あり)。
●小規模事業者向けの持続化補助金について、免税事業者が適格請求書発行事業者に登録した場合、補助上限額が一律50万円加算される。

4.おわりに

インボイス制度開始に伴う対応は、売手の立場としては適格請求書発行事業者の登録をするのか、免税事業者の場合は課税転換をするのか、買手の立場としては取引条件の見直しなどのための売手との協議など、いずれの立場においても何らかの検討が発生し、その影響は大きいものと思います。開始まで残り2ヶ月ほどですが、必要な対応を進める際の一助となれば幸いです。
なお、本コラムで記載を割愛した部分やより詳細な内容については、国税庁の特集サイトをご参照ください。

以上

弁護士 原口恵のコラム一覧

※本サイト上の文章は、すべて一般的な情報提供のために掲載するものであり、
法的若しくは専門的なアドバイスを目的とするものではありません。
※文章内容には適宜訂正や追加がおこなわれることがあります。
ページ上へ