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コラム column

2018年7月 4日

文化・メディアその他の実体法

「ついに実現か、チケット高額転売規制法」

弁護士 福井健策(骨董通り法律事務所 for the Arts)

さて、日本中を寝不足に追い込んだW杯でのサムライたちの挑戦はついに終わり、いよいよ2020年に向けて2年間のカウントダウンが始まった日本。その行方を占う上で注目の法案が、どうやら国会終盤に登場しそうである。
何かと言えば、チケット高額転売の規制法だ。チケットキャンプの経営陣逮捕以後もいっこうに減らないチケットの買占めと高額転売。もはや人気のコンサートや舞台・スポーツのチケットが一般購入者の手には入らず、発売と同時に買い占められて転売サイトやSNS上で大量転売される姿は日常茶飯事である。最近でも、YOSHIKIのディナーショーのチケットが30万円以上で高額転売され、本人が「またコンサート、考えるから・・・みんな転売で買うのはやめましょう」とたしなめたことが大きな話題となった。チケットキャンプ自体は、「転売禁止のチケットを転売目的で購入する、という詐欺を幇助した」という些か大胆な理由で元社長が検挙され(その後起訴猶予)、チケット転売市場からの撤退し、またチケット流通センター・チケットストリートなど3業者も警察から転売チケットの扱い停止を求められている。しかし今でも、定価1万円以下のチケットが最高10倍以上の価格で転売サイトで大量に売り出される姿は、全く珍しくない。

これには、アーティスト側も様々な対策や呼びかけを行っているが、その中でももっとも直接的な規制と言えるのが今回の不正転売禁止法である。正式名称を、「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律案」という。
ものものしい。1行に収まらないほどのものものしさだ。
条文は未公表(恐らく未確定)だが、ライブ・エンタテインメント議連などで議論されている内容は以下のようなものだ。
まず対象は「特定興行入場券」と言い、次の条件を全て満たすものとなりそうである。

①日時及び座席の指定券であること

②興行主の同意なき有償譲渡を禁ずる旨、販売時及び券面に明示があること

③販売時に購入者の氏名と連絡先を確認のうえ、券面にその旨を明記していること

こんなイメージだろう。

この条件を満たせば、QRコードのような電子チケットも対象になるという。
そして、この特定興行入場券について、「業」としておこなう、「興行主の同意なき定価を超える価格での譲渡」及び「その目的での譲り受け」が、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金の対象になるという。
このように、チケットの中でも日時指定のないものや、座席指定のない自由席券は対象外だ。
「業」とは何か。これはさまざまな法律に規定のある言葉だが、多くのケースでは「反復継続して(あるいは反復継続の意思をもって)おこなう行為」(出資法ほか)であるなどと解説される。ここに、「公衆を対象にして」とか、「社会通念上『事業の遂行』とみられる程度であること」といった条件が加わることもある。つまり、少なくとも何度も繰り返して定価以上での転売をおこなうか、そういう意思でおこなうことは条件になりそうなので、たまたま不要になったチケットを人に売る行為は対象外だろう。無論、定価やそれ以下での転売もそもそも対象外だ。

これが報道された際、一般の反応では「やっとか」といった賛成の論調が多かったように思う。次いで多かったのは「ただこれはザルでは」という反応で、理由は対象が「業としての転売等」であって「たまたま不要になったから」と言えば逃れられそうだから。懸念はわかるが、古物営業法であれ特商法であれ、いわゆる規制法の多くには「業として」という条件が付いているので、理論上はどれも「たまたま今回だけ」という者は処罰対象にはならない。ただ、その抜け道があるから各法律は機能していないかと言えば、そんなに簡単に嘘など突き通せるものではないので、恐らくある程度の実効性は期待できるだろう。最後に、「転売は自由であるべきだ」という意見も一部で見られたが、これには今回の法案の対象を「チケットにとどまらない一般物品」と誤解してのものも含まれていたように思う。

このように、法案は(通れば)恐らく現在の異常なチケット買占め・転売の蔓延への抑止力になるだろう。事によると、劇的に効く。筆者も導入に異論はないが、対策はそれだけにはとどまらない。本丸と言えるのは、第一には「電子チケットの普及」である。各自のスマホなどの端末と紐づいた電子チケットが普及すれば、その第三者への不正譲渡は困難になろう。それですらスマホごと貸し出すといった事件が発生することはあるが、それでも紙のチケットよりはやはり格段に難しくなるだろう。本稿執筆中にも、LINEが電子チケットサービス「LINEチケット」への参入を表明するなど、先進国の中でも電子チケットの普及率が低く「紙チケット信仰」とも言われる日本が変化できるかは注目だ。
第二には、「チケット価格の多様化」であり、こうした意見は根強い。いわく、「なぜ転売商売が成り立つかと言えば、チケットの市場実勢価格より低く売り出すからであり、最初から実勢価格に近い価格に設定すれば良いだけの話だ」。つまり市場原理に委ねろ、ということだろう。確かに、ジャンルによっては「良席」と「そうではない席」で価格に10倍近い差が付くジャンルなどはそう珍しくない。オペラ、バレエ、格闘技などもそうか。外国タレントの来日コンサートなども急速に価格の差別化が進む。それが究極まで行くと「ダイナミック・プライシング」となる。ビッグデータ解析を駆使してその時点での実勢価格に限りなく近づくよう、販売価格が自動的に調整されて行く。あるいは、チケット売出をそもそも「ネットオークション型」にして購入者の自由競争で購入させる、という選択肢もあるだろう。
筆者も、もうここまで来ればある程度価格の多様化には舵を切るべきだと思い、そう発言して来た。ただ、これまで一律価格にこだわって来た主催者側が悪い、とは全く思わない。イベントのチケットは、一般商品とは性格が異なるからである。ポップス系のコンサートなどは典型的だが、観客たちはイベントを共に作り上げる参加者であり「共演者」である。1曲目のイントロから反応でき、サビ(や時には振り)が頭に入っており、共にライブの熱気と高揚を作り上げて行けるコアなファンが中心にいてくれるかどうかはコンサートの成否を左右する。
コンサートの成功はアーティストの最大の喜びであるだけでなく、その商品価値にもシビアに直結する。大満足な夜にしなければ次がない、真剣勝負なのだ。だからコアなファン層が年齢的・収入的に手の届く価格でチケットを売り出そうとするのは単なる平等主義だけでなく、アーティストにとって真剣なビジネス戦略だろう。そのために、多くの主催者はファンクラブ第一次先行抽選予約から一般発売に至るまで、涙ぐましい努力で7800円といった「時に市場価格からかけ離れた価格」であえてチケットを売ろうとして来た。そこには少なくとも、アーティスト側の正当な動機がある。単に技術的に買占めを防止出来ていない、というだけだ。
第三には、たまたま事情で行けなくなった人のための「不要チケット対策」はしっかりやらなければならない。この点はチケトレなど(改善の余地はあるが)既に正規版サービスの公表が続いているし、また今回の法案にも恐らくそういった対策も含めた「興行入場券の適正な流通の確保」という主催者の努力義務の規定がある。
第四に、「転売サイト側の努力」だ。転売サイトは主催者側の通知にいまだに、「悪質な買占め対策は既に十分行っているが、定価を超える全ての転売が悪ではない」といった木で鼻をくくったような回答を寄越す。だが、本当に十分な対策が取られているなら、なぜいまだに明らかな買占めチケットが高額で大量出品され続けているのか。仮にももう逮捕者も出ているのである。転売サイトは買占めの温床となっている高額転売に本当の実効策をもって臨むべきだ。

このままではオリンピックの人気競技のチケットが軒並み、転売サイトに超高額で並ぶ姿も現実味を帯びる。一律チケット価格の維持はもう限界だとしても、普通の人が普通の方法でチケットを買え、その収益が(お世辞にも安定した生活とはいえない)アーティストやスタッフたち、あるいはファンサービスに還元される国に向けて、今が正念場に思える。

以上

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