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コラム column

2012年8月28日

著作権契約IT・インターネットエンタメゲーム

「RMT(リアルマネートレード)対策の羅針盤」

弁護士  北澤尚登 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

近年、ソーシャルゲーム市場は飛躍的な成長を遂げていますが、それに伴う社会的影響の増大もあってか、さまざまな問題点が論じられています。消費者庁から景表法違反を指摘された「コンプガチャ」は、その代表的な例ですが(松島恵美弁護士のコラム「コンプガチャは、なぜ違法?~景品表示法・景品規制の基礎知識」参照)、本稿では、もう一つの重要問題である、RMT(リアルマネートレード)について概観します。


1. RMT問題とは?

RMTとは、ごくシンプルに定義すれば、「ゲーム内の財貨(マネーやアイテム)を、現実の金銭で売買すること」です。

レアなアイテムが高値で取引されること自体は、ソーシャルゲーム以外の世界でも行われていることであり、個々の売買行為をとってみれば問題ないようにも思えます。しかし、ソーシャルゲームの市場規模に比例するかのようにRMTの取引規模も拡大し、専門業者も登場するなど「RMT市場」が活況を呈している状況では、個別の売買行為にとどまらない問題が生じてきます。特に懸念されるのは、「RMTが、ゲームを楽しむという本来の目的から外れて、もっぱら(現実世界における)経済的利益の獲得手段として、いわば投機的に利用される」という問題です。

具体的には、人海戦術(大量のプレーヤーの組織的投入)やBOT(自動プログラム)、ひいては不正アクセスによる、転売目的での大量のアイテム取得が行われているようですが、これは、ゲームが"荒れる"などゲーム事業者や他のプレーヤーにとって有害なだけでなく、反社会的勢力の資金源やマネーロンダリングの手段として利用される危険性もあり、対策の必要性が指摘されています。


2. 法規制の可能性と限界

RMTにおける、個々の(マネーやアイテムの)売買行為それ自体は、規約違反の点はともかく、法律上は原則として自由な経済取引ともいえますので、それを一律に違法とみることはやはり難しいでしょう。

では、人海戦術やBOTによるマネーやアイテムの大量取得行為を、違法と捉えることは可能でしょうか。著作権法との関連で考えられるのは、これがゲームの「改変」、すなわち著作者人格権の一つである同一性保持権侵害(著作権法20条)といえるかどうか、という点です。

裁判例では、有名な恋愛シミュレーションゲーム『ときめきメモリアル』の、プレーヤー(=ゲームの主人公)のパラメータを書き換えるメモリーカードが販売されていた事案において、主人公の人物設定およびストーリーが「改変」されたとして、著作者人格権の一つである「同一性保持権」侵害を認めたものがあります(最高裁平成13年2月13日判決、大阪高裁平成11年4月27日判決)。しかし、マネーやアイテムの大量取得それ自体は、データの書き換えを伴っておらず、設定やストーリーを「改変」する行為とは言いがたいので、同様の結論を導くことは難しいように思います。

また、大量取得によってゲームバランスの崩壊を招いたとしても、前記の大阪高裁判決で述べられたような「ゲームバランスはアイディアに過ぎず、著作権法上の保護対象となる「思想または感情の創作的表現」にはあたらない」との理由で、同一性保持権侵害は否定される可能性が高いものと思われます。


なお、マネーやアイテムの取得に際して不正アクセス(ID・パスワードの冒用など)があれば、不正アクセス禁止法違反として取り締まることができます。しかし、人海戦術やBOTの使用といった行為は、それ自体では同法違反にならないため、RMT全般に対する抑止手段としては、これだけではやはり不十分と言わざるをえません。


3. 対策の現状と方向性

以上からみるかぎり、RMT全般に対する実効的な法規制は、現状では容易でないものといえましょう。したがって、少なくとも当面の対策としては、ゲーム業界による自主的な規制が期待されるところです。

そもそも、RMTによってゲームそのものを純粋に楽しむことが難しくなり、ユーザーが離れてしまえば、損をするのはゲーム会社であって、ゲーム業界には自主規制のインセンティブがあるのではないでしょうか。また、ゲーム会社は、利用規約でRMTを禁止したり、その実効性を確保するための技術的な措置を講じることができる立場にあるのですから、その意味でも、RMT規制の第一次的責任は、ゲーム業界が担うのが適任といえましょう。


折しも、GREEやDeNAを含む6社からなる「ソーシャルゲームプラットフォーム連絡協議会」は、2012年6月22日付けで「リアルマネートレード対策ガイドライン」を公表しました。

このガイドラインは、10か条からなる簡潔なものですが、対策の方向性ないしメニューを示す指針として、一定の意義があると思われます。特に興味深い内容としては、第6条において、RMT制限のための手法として、以下のような技術的対策が提案されています。

(1)トレード相手の制限(ゲーム上で「友人」になってから一定時間経過した相手としか、トレードができないようにする)

(2)匿名トレード方式(トレードの際に、相手方を特定できないようにする)

(3)アイテム・トレーサビリティ・システム(アイテムにIDを付して追跡可能にする)

(4)行動分析(RMTをしていそうなユーザーの行動履歴を分析・検知する)

(5)BOTおよびチートツールの検知システム

(6)ユーザー認証を強化するシステム


上記のうち、(1)(2)はRMT自体をできなくする、いわば「直接的」かつ「事前」の防止策といえましょう。他方、(3)(4)は、追跡や検知によってRMT行為およびその主体を特定し、警告、利用停止、法的措置などの手段を講じることを可能にするもので、「間接的」かつ「事後的」な防止策とみることが可能です。また、(5)(6)は、不適正な手段によるマネーやアイテムの取得を防止することで、RMTを予防する意味があり、「間接的」かつ「事前」の防止策と理解できます。このように多様な手法の組合せによって、業界全体で対策が採られれば、RMTが事実上難しくなるという抑止効果が得られるかもしれません。


ガイドラインには法的拘束力がないとはいえ、ソーシャルゲームの市場規模やユーザー数からすれば、ゲーム業界は大きな社会的責任を負っているというべきですから、新たな立法による規制を待つことなく、ガイドラインのさらなる具体化や実施を推進していくことが期待されます。


※本稿の執筆に際しては、当事務所インターン生の金光美奈さん(慶應義塾大学法科大学院)にご協力いただきました。御礼申し上げます。なお、文責は北澤のみにあります。

以上

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