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コラム column

2017年5月25日

契約

「忘れていませんか、暴排条項 ~『反社リスク』マネジメントの入門編~」

弁護士  北澤尚登 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

全国の各都道府県における暴力団排除条例の制定・施行(東京都条例は2011年10月1日施行)から、5年余りが経ちました。都条例の概要については、施行直前の同年9月のコラムでも解説しましたが、注目したいポイントとして、事業者に「契約書等に暴力団排除条項を設ける」よう努力する義務が課せられています。

暴力団排除条項(以下「暴排条項」と略します)は、都条例の規定に即していえば「契約の相手方または代理者・媒介者が暴力団関係者であることが判明した場合には、当該契約を無催告で解除できる」旨を定める契約条項を指します。なお、「暴力団関係者」は都条例において「暴力団員または暴力団・暴力団員と密接な関係を有する者」と定義されており、いわゆる共生者やフロント企業なども該当し得ます(具体的内容については、上記2011年9月のコラムをご参照ください)。

暴排条例の施行に合わせて、契約書のひな型を改訂して暴排条項を追加した企業も多いと思いますが、改訂のタイミングを逸したり、ひな型が元々整備されていないなど、現在でも暴排条項を入れずに契約書を締結しているケースもあるのではないでしょうか。そのような場合、今からでも可能なかぎり暴排条項を整備することがやはりベターといえます。暴排条項を用いた契約解除は、企業にとって望ましくない相手方との取引関係を遮断する上で有力な手段となり得ますし(逆に、暴排条項がない場合、他の解除事由に該当せず関係遮断が困難となるリスクもあります)、日本政府の犯罪対策閣僚会議が2007年に発表した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」において、「取引を含めた一切の関係遮断」が基本原則の一つとして掲げられていることなどに鑑みれば、コンプライアンスの観点からも重要といえるからです。

もちろん、暴排条項の現実的必要性は取引や相手方の個性によって異なる面もあるでしょう。特に、信頼関係や継続的な付き合いをベースにしている取引においては、新たに暴排条項を入れることは抵抗感があるかもしれません。しかし、そもそも契約書の主要な目的・機能がリスクヘッジであるならば、たとえケースによっては適用可能性が低くとも、万一のリスクに備えた暴排条項を設けることは決して無駄なことではなく、相手方に対する失礼にもあたらないのではないでしょうか(例えば「当社の方針として、契約書には暴排条例に則って一律に暴排条項を入れています」という旨を丁寧に説明すれば、相手方が暴排条項それ自体を拒否する理由は見出し難いように思います)。
また、相対(あいたい)で締結される契約書だけでなく、オンラインサービスなどの利用規約においても、暴力団関係者によるサービス利用を放置することはレピュテーション・リスクや(ソーシャル・サービスなど、種類や内容によっては)他のユーザーへの迷惑行為を誘発するリスクもあり得るため、やはり暴排条項を設けることが必要かつ有用といえましょう。

もっとも、具体的にどのような内容の暴排条項を設けるかは、業種や取引内容に応じたバリエーションがあり得ます。業界単位で暴排条項のひな型が整備されている業種(銀行・証券・建設・不動産等)においては、当該ひな型をベースにするのが早道ですが、業種を問わず一般的に用いることのできる条項例としては、(公財)暴力団追放運動推進都民センターの「暴力団対応ガイド」に掲載されている文例などが参考になりましょう。

都条例との関係では、暴排条項に盛り込むべき最低限の内容は「契約の相手方(または代理者・媒介者)が暴力団関係者であることが判明した場合には、当該契約を無催告で解除できる」というものですが、近年では暴力団対策法等による規制を免れるために暴力団が(偽装脱退者や周辺者の利用などにより)資金獲得活動を非公然化している傾向も見受けられるため、「暴力団関係者」の具体例として「暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者」「暴力団(員)が経営を支配し、または経営に実質的に関与している企業」等を明記したり、より広く「反社会的勢力」への該当を解除事由とするなど、暴排条項の明確化・拡張を図ることも考えられます。ただし、あまり抽象的・曖昧すぎる文言は相手方の抵抗感を必要以上に増す可能性もありますし、相互的な(両当事者に対等に適用される)条項の場合には相手方だけでなく自らにとっても過剰適用のおそれが生じますので、どこまで具体的ないし広汎な暴排条項を定めるかは、ケース・バイ・ケースで検討する余地を残しておくのが現実的かもしれません。

契約の相手方が上記のような契約解除要件(暴力団関係者・反社会的勢力といった属性...いわゆる「属性要件」)に該当するか否かの判断は、警察や暴追センターへの照会、あるいは報道記事検索に基づいて行うことが多いでしょう。しかし、前述のような暴力団活動の非公然化傾向も相まって、属性該当の有無の判断が難しいケースもあり得ます(また、現役暴力団員以外の場合においては、警察機関が回答に慎重な姿勢を示す可能性もないとはいえません)。
そのため、属性該当の場合だけでなく、相手方の行為に着目した契約解除事由(例えば「暴行・脅迫・業務妨害等の違法行為や不当要求行為を行った場合」など...いわゆる「行為要件」)も、なるべく暴排条項に加えておくことが望ましいでしょう。そうすることで、相手方の属性が確実に認定し難い場合でも、相手方の不当要求行為や違法行為を記録化(書面・電話録音・面談録画など)しておけば、証拠に基づいて契約解除を行うことが容易になり得るからです。

上記のポイントをふまえて、暴排条項に入れておきたいエッセンスを以下に掲げました。あくまでも一般的な一案ですので(さらなる具体化や拡張など)適宜カスタマイズの上、契約書における整備・活用の一助としていただければ幸いです。


《暴排条項のエッセンス(1項は属性要件、2項は行為要件)》


1.本契約の一方当事者が以下各号のいずれかに該当することが判明した場合、相手方当事者は何らの催告を要することなく本契約を直ちに解除することができる。

(1) 暴力団または暴力団員

(2) 暴力団員でなくなってから5年を経過しない者

(3) 暴力団または暴力団員が経営を支配し、または経営に実質的に関与している者

(4) 暴力団または暴力団員と密接な関係(資金提供、利益供与及び密接交際を含む)を有する者


2.本契約の一方当事者が以下各号のいずれかに該当する行為をことが判明した場合、相手方当事者は何らの催告を要することなく本契約を直ちに解除することができる。

(1) 暴力的要求行為(暴力団対策法第9条各号に定める行為をいう。)

(2) 暴行・脅迫・強要・業務妨害行為、及びその他の違法行為

(3) 前号のほか、不当な要求行為


3.前各項の規定に基づき本契約を解除した当事者は、当該解除により生ずる損害について、相手方当事者に対し賠償の責めを負わない。


以上

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