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コラム column

2016年4月27日

映画アニメ

「アメリカからみる『クールジャパン』」

弁護士  諏訪公一(骨董通り法律事務所 for the Arts)

1.はじめに

どうも。諏訪公一です。私は、エンタテインメント関連法規の知識を深めるため、現在カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)School of Law に留学しています。UCLAは、エンタテインメント法業界で影響力のある法律家を輩出する全米トップのロースクールとしてランキングされている大学です(Hollywood Report)。大学では、copyright lawやentertainment lawといった基本的なエンタテインメント科目のほか、日本でも業務を行っていた音楽法関係の授業(music industry law)やハリウッドを擁する同大学ならではの業界団体(ギルド団体など)に関する授業などを受講しています。

UCLAのシンボル Bruin Bear
(UCLAのシンボル Bruin Bear)

留学前より、日本のコンテンツがアメリカでどう展開されているのかには興味を持っていました。そこで、大学の授業に加え、アメリカで行われる様々な日本のエンタテインメント関連イベントに足を運ぶようにしています。今回のコラムは、それらのイベントの一部の紹介と、イベントを通じた「クールジャパン」戦略に対する雑感をお話ししたいと思います。なお、下記の通り「クールジャパン」は広く日本文化を指すものですが、本稿では特にコンテンツを念頭に置いています。


2.「クールジャパン」のおさらい

日本のコンテンツに携わる者で知らない人はいない、日本の国策として進められている「クールジャパン」。クールジャパンという言葉が初めて知的財産推進計画に明記されたのは2010年のことです。そこでは、「外国人にとってクール(かっこいい)と捉えられる日本の製品、コンテンツ、文化群を総称して使用される言葉。」と説明されています(知的財産推進計画2010 参考資料 1.用語集1ページ)。その後、2010年6月に経産省にクールジャパン室が設置され、一般に使用されるようになりました。昨年7月に発表された知的財産推進計画2015をみると、16回も「クールジャパン」という言葉が使用されています。
では、「クールジャパン戦略」とはどのようなものでしょうか。経産省は、以下のような説明をしています。



アジア各国の富裕層や中間層は、「エンターティンメント」「おしゃれ」「やすらぎ」「健康」「豊かな住空間」「感動のある生活」などを価値と考え始めており、我が国のファッション、コンテンツ、デザイン、伝統工芸品など"クール・ジャパン"への評価が高まっている。こうした中で、"クール・ジャパン"の魅力を産業化し、世界、特に、アジアへ売り込み、アジアから観光客を呼び込むことで、我が国は、新たな成長エンジンを獲得し、雇用を創出する大きなチャンスを持っている。

経済産業省『通商白書2012』より)

要は、「クールジャパン」は、日本のコンテンツが「国外で人気が上がっている」ことを前提に、そのようなコンテンツが必ずしも収益に結びつけられていないことから、海外マーケットを獲得していこうとする戦略です。実際に、現在に至るまで海外向けのコンテンツネット販売事業やローカライゼーション事業に様々な投資が行われています(経済産業省商務情報政策局 生活文化創造産業課「クールジャパン政策について」2016年4月)。


3.「クールな日本コンテンツ」の浸透度合い

「クールジャパン」戦略の前提として、そもそも日本国外の人たちはどの程度日本のアニメ・アートなどのコンテンツをクールと思っているのでしょうか。
ロサンゼルスは日本人が多く住み(2011年で約7万人。在ロサンゼルス日本国総領事館調査結果)、日本の食材も簡単に手に入る街ですが、そんなロサンゼルスに住んでいても、実際に日本のコンテンツに触れることは多くありません。日本に住んでいると、「日本のコンテンツ、特にアニメなどは国外からクールと思われていて、みんな興味あるのではないか」と錯覚することもあり、現にそうした報道や書籍も少なくありません。ですが、こちらでは日本のコンテンツをTVで見ることはあまりなく(私が契約するTime Warner Cableの基本プランで視聴できる番組の中に日本アニメの番組はありません)、日本文化に触れる機会も、日本人街に行かない限りありません。アメリカから見れば日本はアジアにある国の中の一つであり、そもそも異文化への関心が薄いとされるこの国では当然と言えば当然なのですが、少なくともここでの実情は「クールジャパン」という言葉の印象とはやや違うようです。
なぜ日本のコンテンツはこの国ではあまり人気があるように見えないのだろうという疑問が高まったころに、ある示唆を与えてくれたのは、2015年9月のLA Eiga Festのパネルディスカッションでした。
LA Eiga Festは、NPO法人ジャパン・フィルム・ソサエティーにより運営される日本映画を紹介するための映画祭で、2011年から開催されています(LA Eiga Festサイト)。2015年のイベント初日は「るろうに剣心 伝説の最期編」のプレミア上映会が行われ、3日間で短編を含む27本の日本映画が上映されています。

LA Eiga Fest

2日目のパネルディスカッション(ANIPLEXアメリカの後藤氏、電通エンターテインメントUSAの木野下氏、Bang Zoom! EntertainmentのVP Jonathan Sherman氏、モデレーターは三石氏)では、アメリカで日本コンテンツを展開する際の問題が取り上げられました。コンテンツは日本で制作されていることから、当然に日本の生活・文化が色濃く反映され、そのままでは特に子供番組の売り込みが難しいこと、他方でローカライゼーション・改変に対する権利者側の警戒感に加え、委員会方式による同意取得の困難性などについて議論されていました。委員会方式が同意取得の障害になっている点の問題意識は以前からあったものの、今後の契約をどのようにしていくべきか、考えさせられるところが多くありました(同様の問題意識は、近時マーベルのバイスプレジデントであるC.B.セブルスキー氏のインタビュー記事でも指摘されています(記事)。
その後、2015年10月17日には、南カリフォルニア大学(USC)で行われたシンポジウム Institute on Entertainment Law and Businessにも足を運びました。同シンポジウムはアジアにフォーカスしたイベントではないものの、「ハリウッドの中国への投資」というテーマでのディスカッションがあり、どのように中国への投資に取り組むべきか活発に議論されていました。ハリウッドはアメリカでの制作・消費にこだわっていると考えていたこともあり、正直驚きました。特に印象的だったのは、「中国はハリウッドの技術、お金、そしてスタジオ等を欲しがっているはずだ」という発言です。ハリウッドのそれはまだわかるのですが、「クールジャパン」をめぐる言説にも、どこかで「国外では日本のコンテンツを欲しているはずだ」という甘えがないか、気になりました。

シンポジウムの会場の一つであるUSCのBovard Auditorium
(同シンポジウムの会場の一つであるUSCのBovard Auditorium)

上記シンポジウムでハリウッドが本気で中国映画へ投資しようとする姿勢を見せつけられ、なぜ(日本ではなく)中国がそこまでハリウッドを惹き付けるのだろう、中国映画が持つ「魅力」について何かの糸口をつかめればと思い、2015年11月3日にハリウッドにあるパラマウントピクチャーで行われた中国映画サミット(第11回Chinese American Film FestivalのUS China Co-Production Film Summit)に参加しました。

中国映画サミット(第11回Chinese American Film FestivalのUS China Co-Production Film Summit)

大学の授業があったため午前中のみの参加でしたが、中国とアメリカの映画配給についての突っ込んだディスカッション等、中国映画界の勢いを肌で感じました。
ディスカッション後、アメリカ在住の関係者とハリウッドが中国に注目する理由について少し話をする時間があったのですが、中国に巨大マーケットがあることに加え、映画制作時に香港のために英訳を行うため、アメリカ上陸がスムーズに行えることも一因に挙げられていました。また、UCLA の中国の友人からは、中国のエンタメ法制は未発達でこれから市場は急激に伸びていくだろうとの予測も聞きました。
中国の勢いばかりを聞く度、ある不安が頭をよぎるようになりました。「日本はクールであるかどうかという前に、アメリカにおいては全く相手されていないのではないだろうか」。

しかし、日本もまだまだ負けていないと感じたのが、日本アニメの大規模ファンイベントであるANIME MATSURIです。同イベントは2016年2月26日から3日間、テキサス州ヒューストンのGeorge R. Brown Convention Centerで行われました。
ANIME MATSURIでは、会場外でコミケのように多くの方がコスプレを楽しんでいました。様々なコスプレを見かけましたが、ドラゴンボール、ナルト、ワンピースやセーラームーンなどが比較的多かったように思われます。

会場外でのコスプレイヤーの様子
(会場外でのコスプレイヤーの様子)

また、会場内では日本のアニメグッズが販売されていました。日本のコミケのように同人誌も販売されていましたが、ANIME MATSURIではキャラクターグッズ等が主だった印象です。

キャラクターグッズ販売
(キャラクターグッズ販売)

コスプレグッズ販売
(コスプレグッズ販売)

同人誌販売
(同人誌販売)

その他、いわゆる「痛車」の展示や、太鼓の達人などのアーケードゲーム会場も用意されていました。さらに、日本のアーティストのコンサートなども開催されていたようです。

ゲームゾーン
(ゲームゾーン)

痛車の展示
(痛車の展示)


この他、私は足を運ぶことはできなかったのですが、2016年3月25日から27日まで、ボストンで日本のアニメ中心のAnime Boston 2016が開催されました。このイベントでは、2015年の数字ですが2万7000人を集めています(なお、日本の2015冬コミケは3日間で52万人)。
今後開かれる大きなアニメ・コミックイベントとして、代表格のComic-conがあります。このイベントは日本コンテンツが中心のものではなく、主にアメリカのものを紹介するイベントに日本のものも含まれるといったものですが、2016年7月21日から24日までサインディエゴで開催されます。サンディエゴのコミコン参加者は約13万人で(記事)、アメコミのコスプレを楽しむ人も多数みられるようです。また、同イベントはニューヨークでも行われます(New York Comic Con。2016年は10月6日から9日まで)。2015年のNYイベントでは16万7000人を集めました(記事)。


4.今後の課題~まずは日本コンテンツの接触率の向上

クールジャパンといえばアニメを思い浮かべる人も多いと思います。ここでアメリカにおける日本のアニメ視聴方法を考えると、従来は特定チャンネルでの放送枠(Toonamiなど)でのテレビでの視聴が一般的でしたが、現在この放送枠での日本のアニメ放映は終了しているように、放映時間は減少傾向にあります。現在では、インターネットでの視聴が主流のようです。たとえば、hulu plusでは多くの日本アニメが視聴できます。また、ANIPLEX USAは2013年からANIPLEX CHANNEL で動画配信サービスを行っています。Netflixの求人を見ると、日本のアニメコンテンツの取得を計画しているように見え、今後もインターネットでの視聴がさらに広がっていくように思われます。
とはいえ、実感としては、やはりまだまだアメリカで日本のコンテンツが「クール」として広く受け入れられているわけではないように思います。だからといって、クールジャパン戦略が全く成功していない、とも考えません。クールジャパンで政府が掲げるねらい(海外需要の獲得と関連産業の雇用創出)の他、海外での日本のプレゼンスを高めるためにも、戦略の更なる進化や広がりが大切でしょう。もとより、日本コンテンツに海外の方が全く興味がないわけではなく、LA Eiga FesやComi-conなどのイベントで、これらを楽しむ人が確実にいます。今必要なことは、その裾野を広げていくことだと考えます。
そのためには、まずは広く「日本のコンテンツ」を知ってもらう必要があります。特にアメリカでは、その文化の違いやローカライゼーションの困難性等から、比較的日本と文化の似たアジア圏とは異なる情報発信と展開をしなければならないように思われます。そして、アメリカではまだまだ日本コンテンツの「情報発信」が足りないのではないかと考えています。
この情報発信の一つの方策として、上記ANIPLEX USAはアニメの無料放送を行い、接触率の向上を図っているのでしょうし、LA Eiga Festなどの民間イベントも重要でしょう。

政府も、平成23年のクールジャパン推進に関するアクションプランで、「クールジャパンをグローバルに広めるためには、戦略的な情報発信が不可欠である。その際には、対象国のニーズに即した展開戦略を構築することが重要である」と述べてます。また、「クールジャパン機構」(株式会社海外需要開拓支援機構)を設立し、日本文化の日本国外への発信に対する資金援助を行っています(「クールジャパン機構」に関する経産省のホームページ)。さらに、今後もロサンゼルス、サンパウロおよびロンドンに「ジャパン・ハウス(仮称)」を創設し、日本の文化発信を行う拠点を設けようとしています(外務省ホームページ)。ジャパン・ハウスに関してはどのようなコンテンツが発信されるかは現時点で不明ではあるものの、日本文化との接触率が向上することが期待されます。

「クールジャパン」は失敗だといわれることも多く、確かに現時点ではすべてが成功しているわけではないと思われます。しかし、まだまだ始まったばかりです。各国での戦略をどうすべきかについて簡単に答えが出せるものではありませんが、留学を通じ、今後、自分が日本コンテンツについてどのような支援ができるのか、いっそう意識するようになりました。
日本で生まれたコンテンツが、「クール」なものとして広く国外で楽しまれるようにするためにはどうしたらいいのか。その答えをさらに探しながら、残りの留学生活を大切に過ごしていきたいと思います。

以上

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